代理戦争編

「跳ね馬ディーノ!!」

突如として乱入してきた跳ね馬。
オレは苦虫を噛み潰したような顔になる。
古里の時にしろ、今回にしろ、どうしてこう、いい感じのところで邪魔が入るんだ……!
普段の行いのせいか!?

「今頃何しに来たの?」
「いやあ、学校の仕事が終わんなくてな……。師匠として助けに来たぜって言ったら、嫌だよなお前」
「嫌だ。あなたに師匠面されたくない」
「ハハハッ、やっぱりそう来るか。思った通りだ」

こちらとしても、勝手に師匠面した奴に水を刺されるのは迷惑だ。
つかこいつ、並中で仕事ってまさか教師?
絶対に、こいつには教わりたくねーな……。
何しでかすかわからねーし、見ててハラハラする。

「んじゃ、こう言っとくぜ。うちのチームのアルコバレーノの意向だ」
「リボーンの!?」
「風チームとマーモンチームが戦っていて、どちらにつくべきか聞くと、もし恭弥がやられそうなら助けてやれってさ。『まだヒバリには、負けてもらっては困るからな』ってな」

リボーンの意向?
負けてもらっては困る?
一体何を企んでいやがる、リボーンの野郎。
ヒバリに恩を売る、というわけでも無さそうだ……。
恩を売るなら、『負けてもらっては困る』って言い方はしっくりこねぇしな。
なら、一体なぜ?
……考えてもわからねぇが、リボーンの動きはチェッカーフェイスほど注意することはないだろう。
今は、保留としておくか。

「マーモン、とりあえずお前は呪解を止めて元に戻ってろ」
「な……なぜ!?僕とボスのコンビならすぐに片が着く……」
「敵はコイツらだけじゃねぇ。余計なことに戦力を消費するな」
「でも、」
「るせぇ、ケガ人はすっこんでろ」
「……プレゼントストップ」

逸る気持ちはわからんでもないが、怪我人がでしゃばって、ザンザスの足を引っ張ることになれば元も子もない。
何よりザンザスは連携なんかにゃ向いてねぇ。
一人で戦うのが一番力を発揮できるはずだ。
そして、どうやら雲雀も、一人で戦いたいらしい。
跳ね馬が邪魔してこないのなら、オレもザンザスの戦いに手を出すつもりはねぇ。
元の赤ん坊サイズに戻ったマーモンを連れて1歩さがり、そこから何やら揉める風チーム+αに目を向けた。

「あなたが思う以上にXANXUSは強い」
「君までおせっかいだよ。僕は誰の力も借りずに勝てる」

雲雀が一人で戦おうとするのを、他の二人が止めようとしているらしかった。
退かない二人に、雲雀がイラついているようだが、なかなか来ない敵に、XANXUSも苛立ち始めてる。
戦闘時間もそろそろ尽きそうだ。
早く掛かってきてくれねぇと困るんだがな。

「よしわかった、やってみろ。オレが手っ取り早く、XANXUSを本気にさせてやる」
『?』

そこで跳ね馬が軽く咳払いをしてから口を開いた。
嫌な予感がする。
あの野郎、一体何をする気なんだ……?

「XANXUSが超強いってのはオレの思い過ごしかもな!!ツナに負けてたしな!!」

…………。
……………………。
………………………………!?
目の前のザンザスから、どわっと怒りのオーラが立ち上る。
沢田の話は禁句だっつぅのに!!
本気で怒ったザンザスを止めるなんて、オレだって無理だぞ!?
雲雀が死んでも知らねぇからな!?
ああっ!!ザンザスの全身に零地点突破の古傷が……!
本気の本気で、怒っている……!!

「てめーら、かっ消す!!!ベスター!!」

リングからもう一度ベスターを呼び出したザンザスは、ベスターにだけ搭載されたヴァリアーリングの新機能を使う。

「形態変化(カンビオ・フォルマ)!!」
「形態変化だと!?」
「タルボのじじいが、新生ヴァリアーリングに付けた新機能だぁ!!」

名を、獣帝銃(ピストラ・インペラトーレ・アニマーレ)。
使うのはコレが初めてだが、コレまでの2丁拳銃より更に攻撃力が上がっているはずだ。

「かっ散れ!!」

拳銃一丁だけで撃った炎が、一瞬で雲雀の武器、球針態を風化させる。
雲雀は上手く避けたようだが、それが更にザンザスの怒りを買った。

「とっととかっ消えろ!!」

両手で拳銃を構えて、ありったけの炎を集める。
やべぇ、逃げねぇとこのフロアごと塵にされるぞ!!

「ベル!!」
「しし、わかってるって!!」

ベルがルッスとレヴィを抱えて避難する。
マーモンが部屋の窓から外に抜け出たのを見届けた。
残ってんのは風と跳ね馬、雲雀か……!!

「風、逃げるぞぉ!!」
「!はい、肩を借ります」
「跳ね馬……!!」
「オレは平気だ!先に逃げてろ!!」
「はあ!?」

平気って、お前雲雀とザンザスを倒す気でいるのか!?
絶対に無理……だが、クソッ。
こっちも、ちんたらしてたら消し飛ぶ!!

「どうなっても知らねぇぞゔお゙ぉい!!」

膨らんでいく憤怒の炎から逃げるように、窓枠を乗り越えて脱出し、壁面に頑丈なナイフを突き刺してぶら下がった。
炎自体は、ここからでは見ることが叶わなかったが、炎の発する禍々しいほどの赤い光が、壊れた窓から漏れ出している。
肩の上で、風が息を飲む音が鮮明に聞こえた。
あんなバカでかい炎を真っ正面から受けたりしたら、どんな豪傑だって消し飛ばされるぞ!!
ハラハラしながらも、オレには更に強くなる光を見ることしか出来ない。
そろそろ、撃つ……!!
そう思った瞬間、最上階の壁が爆音と共に吹き飛んだ。
祈るように目を閉じる。
頭に降ってくるのは小さな破片のみで、壁のほとんどの部分が風化してしまったことが容易く推測できた。
粉塵が収まってから、ゆっくりと目を開ける。

「どうなったんだぁ……!?ザンザスは……雲雀は死んだか?」
「案外、XANXUSのボスウォッチが壊されてるかもしんねーぜ」
「!!跳ね馬!!」

予想していなかった返答に、驚いて横を見る。
そこには、ムチで瓦礫の端からぶら下がっている跳ね馬がいた。
無事に銃撃からは逃れたらしい。
胸を撫で下ろすと共に、戦いの行方が無性に気になり出した。
風を肩に乗せたまま、もう一本ナイフを取りだし、交互に壁に突き立てて上までよじ登っていく。
そして見る影もなくなったスイートルームに辿り着いたオレの目に映ったのは、予想外の光景だった。

「雲雀が無事だとぉ!!」
「時計も無事!?」
「XANXUSは自分の時計を守るために、弾の軌道を変えざるを得なかった」
「にしてもXANXUSの奴、よくとっさに右手で時計を守ったぜ」

ザンザスも雲雀も、お互いに膝をつき、怪我をしてはいたが、時計も併せて無事な様子だった。

―― ティリリ!!
『戦闘終了です』
「あっ、もうか」

時計が戦闘終了の合図を告げる。
結局今回もまた、時計は壊せずか……。

「引き分けです」
「ムッ」
「雲雀の奴、やりやがった……」

ザンザス相手に、まさか引き分けまで持ってくるとはな。
本人は満足してないようだが、ガキにしては十分以上の結果じゃあないだろうか。

「納得できない。決着つけないと、おさまらない」
『それはダメですよ!!ホホホ』
「尾道って奴だ!!」

案の定不満げに言って立ち上がった雲雀を止めたのは、腕時計から聞こえてきた尾道の声だった。

『代理戦争中の代理同士の戦闘時間以外の戦闘は固く禁じられております!!戦ってしまったチームは両方負けとなります、フフッ』
「うるさいよ」
『え……、うるさいとかの問題ではなく……、代理戦争のルールですので……へへ』

仏頂面をした雲雀には尾道の言葉は届かない。
奴はそのまま武器を振り上げて……、

―― バキッ

自分の腕時計を、ボスウォッチを叩き壊した。

「いちぬけた」
「ボ……ボスウォッチを……!!お前何したのかわかってるのか?」
「あり……え、ない……。今までの戦いは、一体なんだったんだ……」

マーモンの言う通りだ!!
戦えないからってまさかボスウォッチを壊すだなんて……どうかしてる!!

「優勝したら私と戦う、という約束はよかったんですか?」
「僕は、戦いたい時に戦う」

我が道を爆走する雲の守護者、雲雀らしい答えだった。
そしてその言葉に共感したものがいた。

「ダハッ、同感!!こんなもの!」

ザンザスが笑い声をあげた時点で、既にオレは動いていた。
必死に駆け寄り、腕時計を壊そうとするザンザスの腕に飛び付いた。

「ボォス!!それはダメ!!!」

後からルッスーリアとベルも飛び掛かってザンザスを止める。
そうだよな、そうだろうな!!
我が儘で我が道を行くことなら、雲雀にだって引けを取らないザンザスなのだ。
まだ戦うと言うことなんて、火を見るよりも明らかだった。

「はなせカス共!!」
「時計は壊さないで!!マーモンの一生のお願いなのよ!!」
「ゔお゙ぉい跳ね馬ぁ!!早く雲雀をつまみ出せぇ!!」

目の前に敵がいるまんまじゃ、間違いなく止めきれねぇ!
マーモンが全財産を懸けた頼みがパーになっちまう!!

「え……。」

突然矛先を向けられた跳ね馬は、間の抜けた顔をしている。
雲雀の殺気が、今度は跳ね馬に向かった。

「じゃあ先に、あなたから倒す」
「そーくるよな~」

雲雀が跳ね馬と共にホテルを後にしてからも、暫くの間、ザンザスは暴れ続け、オレたちが余計な怪我を負うことになったのは、言うまでもない。
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