代理戦争編

「この奥義は強力な分、対象者を絞れないんだ。このフロアにいる人間全てに、術はかかったはず」

予想通りだったその事実に、げんなりとした。
やはりあのコキンという音が、幻術のサインだったらしい。

「えっ、それって時計壊されて戦う資格のないオレまで?」
「ゔお゙ぉい!!つーことは味方であるザンザスやオレにまでかぁ!?」
「うん、味方どころか、僕自身にまで、バイパー・ミラージュ・Rはかかってるんだ。だけど『勝利を疑う』という"縛り"は正解だったと思うよ。ボスの勝利への自信が揺らぐわけないからね。ね、ボス」
「勝利への自信なら、雲雀恭弥も負けてませんよ」

ザンザスが、雲雀に負けるとは思えねえ。
だが雲雀の力も白蘭との戦い、シモンとの戦いを経て、大きく進化している。
どこまで食らい付いてくるのか、見物だな。
そしてやはり、一番のキーとなるのは間違いなく、――アルコバレーノ同士の戦い!!
幾つか言葉を交わした二人の姿が、突然、砂像が風にさらわれて崩れていくように、消えた。

「消えた?」
「オレ達は全員が、マーモンの幻術を見せられてんのさ。奴らは誰の邪魔も赦されない幻術世界で、一対一の勝負をおっ始める気だ」

そして二人が消えたその横で、ザンザスと雲雀が睨み合う。

「僕らもやろう、ボスザル」
「散れ、ドカス」

その様子を一歩引いて眺めるオレに、ベルが不思議そうに聞いた。

「スクアーロまだ時計壊れてねーんだろ?行かねーの?」
「ザンザスは一人で思う存分暴れてーんだろ。下手に邪魔して、雲雀と心中させられんなぁ御免だぁ」
「しし、確かにそーだな」

ザンザス達の激しい戦いを避けるように部屋の隅に移動し、今のうちにと、倒れたレヴィとルッスーリアを介抱する。
どちらも急所を突かれているせいで、未だ意識は失ったままである。

「あーあ、綺麗に気絶してやがんな」
「流石はアルコバレーノ……ってことか。全く、恐ろしい程の実力だな」
「戦ってみてーよなー」

それに関しては同感……。
コクッと頷き、先程まで風がいた辺りを眺める。
幻術は確かに強力ではあるが……、あいつ何だかんだで六道骸に負けてたし、ちょっと心配だよなぁ。
そして奴らが消えたその場所を眺めていると、不意に景色が不自然に歪んだ。

「!!」
「幻覚が……!」

幻覚が解けている!!
風が負けたから解いたってんなら良いが、血を流すマーモンを見るに、どうやら負けそうになっているらしい。

「考えることをやめなさいマーモン!考える程多く血を流します!」
「あっ!」

『勝利を疑う者は自爆する』そのルールがマーモン自身に作用しているのだ。
考えることを止めなければ、マーモンは死んでしまう……!

「今気を失わせて楽にしてあげます!!」

風がマーモンの意識を奪おうと、飛び掛かる。
だがマーモンに届くよりも早く、その体が風船が萎んでいくように、縮んで赤ん坊サイズに戻る。

「しまった……、私としたことが!!」
『風の呪解、タイムオーバー』

無機質な声がアルコバレーノ用の腕時計から流れ、それを見たマーモンは勝ち誇り声を上げる。

「ざまみろ風!!勝負に負けても代理戦争で勝つのは僕だ!!」
「ぐっ!」

負けることを意識したのだろう、風がダメージを受け吐血する。

「風はもう戦闘資格を失った!!あとはお前だけだ雲雀恭弥!!ボスウォッチはもらった!!」

マーモンが手を伸ばした先にいた雲雀の足元から、氷が覆い始める。
その腕までが凍って、雲雀の動きが封じられる。

「さあボス!!ボスウォッチを壊して!!」
「ああ、飽きた。死ねカス」

憤怒の炎が、銃に溜まり始める。
その攻撃が発射される瞬間、マーモンの腕に紐状の黒いモノが巻き付いた。
そのせいでマーモンの術が破れ、雲雀が解放された。
避けた雲雀の、その間近を憤怒の炎が通り過ぎ、その向こうの壁が撃ち抜かれる。

「誰だ!?邪魔したのは!!」

マーモンの腕に巻き付いたモノ……黒光りするムチを見て、オレはそのムチを握る人物に確信を持って、殺気を向けた。
良いところで邪魔しやがって……!!

「並中の生徒に手ぇだすな」

跳ね馬ディーノ!!
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