代理戦争編
……雲雀恭弥との戦いが始まった。
例え、10代目守護者最強の男だろうと、ヴァリアーの幹部4人に対して一人きりというのは辛いだろう。
始めのうちは余裕そうにしていたその顔が、少しずつ切迫したモノへと変わってくる。
ルッスーリアの連続打撃技によってできた隙を目掛けて、オレが剣を降り下ろそうとしたときだった。
「もらったぁ!!」
「……それは、どうでしょう」
「!?」
何者かの攻撃が剣の腹に当たり、軌道が逸れる。
続けざまに襲い掛かる攻撃を紙一重で避け、一気に数メートルを後退させられた。
「軟弱だなスクアーロ!!見ていろ、オレが……!」
「待てレヴィ!!」
オレを下がらせた奴に向けて、背後からレヴィがパラボラで襲い掛かる。
が、次の瞬間にはその人物がレヴィの背後をとり、その横腹に重い蹴りをぶち込んだ。
そして雲雀と戦っていたルッスーリアのメタルニーを受け止め、その鳩尾に掌底を叩き込む。
ベルが有りったけのナイフを投げるも、全て弾き返される。
しかも弾き返されたナイフは全て、オレ達に向けて真っ直ぐに飛んできた。
器用なことをする。
舌を巻きながらも、苦々しげな表情は隠せなかった。
「っひょ~!とことん規格外っ!」
自分のナイフの反撃をギリギリで躱したベルの言葉に舌打ちを返した。
「無事だろうなぁ、ベルフェゴール」
「ったりめーじゃん。アホのレヴィやカマのルッスとは出来と育ちが違うし、だってオレ、王子だもん」
その言葉に安心しかけたが、
「時計は壊されちったけど……」
「ゔお゙ぉい!!」
その腕に付けられている時計がボロボロになっているのを見て、いつもの倍の声量でツッコンだ。
「終わってんじゃねーか!!カス王子が!!だからいつまでもペーペーなんだ!!」
「そーゆーけど、相手はあの化物だし、しょーがなくね?」
ベルの言う化物……呪解し、成人の姿に戻った風に視線を移し、やる気満々に構えを取るそいつに、また舌打ちをした。
「ちっ!一瞬にしてウチの幹部を3人片付けるとは、確かに想像以上だぁ。ただルールなく戦えるってんなら、ソレこそ血が騒ぐほどに嬉しい相手ではあるなぁ」
だが、ベルのバカにアホとカマがやられちまったら、後はオレしか残らねえ。
ザンザスがくれば何とかなるだろうが……、あまり期待は出来ねえよな……。
何やら揉めている風と雲雀を注意深く観察しながら、ジリジリと距離を取る。
ザンザスが来ることは期待できない……。
ならオレがザンザスの所まで行けば良いのだ。
「ちょっと、何逃げようとしてるのさ」
「……うるせぇぞ。雲雀、てめぇ一人ならともかく、アルコバレーノまで倒せると思い上がるほど傲慢じゃねぇんだよオレは」
「なるほど、正しい選択ではありますね。ですが、我々がそう簡単に逃がすとでも?」
「逃がさねーとでも?」
折り目正しくにこやかに、慇懃とも言えるほど丁寧に話す風に、こちらも負けじと口角を上げる。
緊迫した空気が流れるその空間に、突然ドスの効いたバリトンボイスが割って入ってきた。
「黙ってろカスザメ」
その声と殺気に振り向くと、目の前に白い物体が迫ってきていた。
緩く剣を降り、はたき落とそうとする。
だがそれは剣にベタリとくっついたまま、床に落ちることはなかった。
「なっ!?モチかよゔお゙ぉい!!」
白い物体……もとい、餅は、毎日欠かさず手入れをしているオレの愛刀の刃にくっつき、ベタベタに汚していた。
なんてこった……!
マーモンがザンザスに向けて、必要のない忠告……というか愚痴を叩いている間に、隊服の袖を使って餅の除去を試みる。
……見た目は取れたように見えるが、触るとベッタベタしてやがる。
最悪だ……。
「では、始めましょうか」
風の言葉に、仕方なくベタついたままの剣を構え直し、向き直った。
どうせ誰かを切れば血や脂でベタベタになるのだ。
それでも収まらないこのイラつきは、全て風と雲雀にぶつければいい!
「行くぜぇ……!!」
オレの言葉を合図に、4人全員が、ほぼ同時に地面を蹴った。
ザンザスが雲雀の攻撃を銃身で受ける。
オレは目の前に迫った風の手刀を避け、剣を横凪ぎにした。
上に避けるしかなくなった風に、ザンザスが銃口を向ける。
ザンザスに攻撃を弾かれた雲雀に、雨の炎を纏わせた針を投げる。
次の瞬間、ザンザスの憤怒の炎の銃撃で、このフロアの窓の半分が吹き飛ばされた。
爆風に押されるようにして、オレ達は四方に散り、嵐のような攻防は一旦収まった。
雲雀の様子を見て、オレの攻撃が服を掠めただけと知る。
だがその横の風は、ザンザスの銃撃で肩を負傷したようだった。
と、いっても、ほんのかすり傷程度のモノであったのだが。
「君、口ほどじゃないね。大丈夫なの?」
「はい。今の攻防で、この体のサイズの勘を取り戻しました」
風の言葉に、その傷を納得する。
赤子から大人へ。
その変化は、想像する以上に大きいはず。
とくに武闘家として己の肉体を武器とする風に、その変化はダイレクトに響いてくるのだろう。
つまり、ここから先はこれまで以上に強くなる……!!
「次はミクロン単位で動けそうです」
「ミクロンだぁ!?笑えねえ冗談だなぁ!!」
「冗談ではありません」
そう言って上着を脱ぎ、鋼のような身体をさらけ出した風は、独特の構えを見せる。
……こんな時に考えることではないのだろうが、格闘家ってのは戦うときに上半身裸になる義務でもあるのだろうか。
風しかり、笹川しかり。
ウチのルッスはタンクトップ率高ぇし。
裸は絶対他人に見せないことを信条としてきたオレだから、わからないのだろうか……。
まあ、なんにしろ、戦いの場で考えることでは、ない。
リングからアーロを出し、オレは気持ちを切り替えた。
「いきましょう」
風の言葉を合図に、再びバトルが始まる。
先程の言葉通り、ザンザスの連撃も、オレとアーロの攻撃も避けきった風。
ザンザスとオレでも、歯が立たねぇってのか!?
ザンザスの炎を避けた風が、宙高く飛び上がる。
その体が炎を纏う様子を見て、嫌な予感が頭を過った。
咄嗟に剣を盾にし、雨の炎で壁を作る。
―― 爆龍炎舞!!!
風の纏った炎が、龍の形に変化する。
何つう量の炎……!!
アーロが地面に叩き付けられるのが視界の端に映る。
雨の炎を削るように迫り寄る炎が、オレの体に届くより先に、その圧力に負けたオレは、壁に向けて吹っ飛ばされた。
空中で何とか体勢を立て直して、壁に垂直に着地する。
「い゙っ……!!」
ジーンと痺れる脚を叱咤し、オレと同じく炎の龍に巻き込まれたであろうザンザスの姿を探す。
だが、その姿を見付けるより早く、脳に響くコキンという音が鳴り、どういうわけか、風が全身から血を噴き出して、地面に落ちた。
「ぐっ……。危、ない……所、でした……」
「これでわかったろ?武術より幻術の方が優れてる」
「…………、そうでした……。幻術とは、脳に直接作用し、相手より優位に立つ技術。今放った奥義は、脳に特定の"縛り"をつくり、その"縛り"が破られたら、肉体にダメージとなって返ってくる、バイパー・ミラージュ・R」
「ああ、そうさ。特別に今回はその"縛り"を教えてやるよ。勝利を疑った者は、自爆する」
そこにいたのは、フードを被った小柄な人物……疑いようもない、呪解したマーモンだ。
しかし格好良く技の説明をしてくれているところ悪いが、まさかその技、オレ達にも掛かってるんじゃあないだろうな……?
頼もしさ半分、怖さ半分で、オレは呪解したマーモンを見詰めたのだった。
例え、10代目守護者最強の男だろうと、ヴァリアーの幹部4人に対して一人きりというのは辛いだろう。
始めのうちは余裕そうにしていたその顔が、少しずつ切迫したモノへと変わってくる。
ルッスーリアの連続打撃技によってできた隙を目掛けて、オレが剣を降り下ろそうとしたときだった。
「もらったぁ!!」
「……それは、どうでしょう」
「!?」
何者かの攻撃が剣の腹に当たり、軌道が逸れる。
続けざまに襲い掛かる攻撃を紙一重で避け、一気に数メートルを後退させられた。
「軟弱だなスクアーロ!!見ていろ、オレが……!」
「待てレヴィ!!」
オレを下がらせた奴に向けて、背後からレヴィがパラボラで襲い掛かる。
が、次の瞬間にはその人物がレヴィの背後をとり、その横腹に重い蹴りをぶち込んだ。
そして雲雀と戦っていたルッスーリアのメタルニーを受け止め、その鳩尾に掌底を叩き込む。
ベルが有りったけのナイフを投げるも、全て弾き返される。
しかも弾き返されたナイフは全て、オレ達に向けて真っ直ぐに飛んできた。
器用なことをする。
舌を巻きながらも、苦々しげな表情は隠せなかった。
「っひょ~!とことん規格外っ!」
自分のナイフの反撃をギリギリで躱したベルの言葉に舌打ちを返した。
「無事だろうなぁ、ベルフェゴール」
「ったりめーじゃん。アホのレヴィやカマのルッスとは出来と育ちが違うし、だってオレ、王子だもん」
その言葉に安心しかけたが、
「時計は壊されちったけど……」
「ゔお゙ぉい!!」
その腕に付けられている時計がボロボロになっているのを見て、いつもの倍の声量でツッコンだ。
「終わってんじゃねーか!!カス王子が!!だからいつまでもペーペーなんだ!!」
「そーゆーけど、相手はあの化物だし、しょーがなくね?」
ベルの言う化物……呪解し、成人の姿に戻った風に視線を移し、やる気満々に構えを取るそいつに、また舌打ちをした。
「ちっ!一瞬にしてウチの幹部を3人片付けるとは、確かに想像以上だぁ。ただルールなく戦えるってんなら、ソレこそ血が騒ぐほどに嬉しい相手ではあるなぁ」
だが、ベルのバカにアホとカマがやられちまったら、後はオレしか残らねえ。
ザンザスがくれば何とかなるだろうが……、あまり期待は出来ねえよな……。
何やら揉めている風と雲雀を注意深く観察しながら、ジリジリと距離を取る。
ザンザスが来ることは期待できない……。
ならオレがザンザスの所まで行けば良いのだ。
「ちょっと、何逃げようとしてるのさ」
「……うるせぇぞ。雲雀、てめぇ一人ならともかく、アルコバレーノまで倒せると思い上がるほど傲慢じゃねぇんだよオレは」
「なるほど、正しい選択ではありますね。ですが、我々がそう簡単に逃がすとでも?」
「逃がさねーとでも?」
折り目正しくにこやかに、慇懃とも言えるほど丁寧に話す風に、こちらも負けじと口角を上げる。
緊迫した空気が流れるその空間に、突然ドスの効いたバリトンボイスが割って入ってきた。
「黙ってろカスザメ」
その声と殺気に振り向くと、目の前に白い物体が迫ってきていた。
緩く剣を降り、はたき落とそうとする。
だがそれは剣にベタリとくっついたまま、床に落ちることはなかった。
「なっ!?モチかよゔお゙ぉい!!」
白い物体……もとい、餅は、毎日欠かさず手入れをしているオレの愛刀の刃にくっつき、ベタベタに汚していた。
なんてこった……!
マーモンがザンザスに向けて、必要のない忠告……というか愚痴を叩いている間に、隊服の袖を使って餅の除去を試みる。
……見た目は取れたように見えるが、触るとベッタベタしてやがる。
最悪だ……。
「では、始めましょうか」
風の言葉に、仕方なくベタついたままの剣を構え直し、向き直った。
どうせ誰かを切れば血や脂でベタベタになるのだ。
それでも収まらないこのイラつきは、全て風と雲雀にぶつければいい!
「行くぜぇ……!!」
オレの言葉を合図に、4人全員が、ほぼ同時に地面を蹴った。
ザンザスが雲雀の攻撃を銃身で受ける。
オレは目の前に迫った風の手刀を避け、剣を横凪ぎにした。
上に避けるしかなくなった風に、ザンザスが銃口を向ける。
ザンザスに攻撃を弾かれた雲雀に、雨の炎を纏わせた針を投げる。
次の瞬間、ザンザスの憤怒の炎の銃撃で、このフロアの窓の半分が吹き飛ばされた。
爆風に押されるようにして、オレ達は四方に散り、嵐のような攻防は一旦収まった。
雲雀の様子を見て、オレの攻撃が服を掠めただけと知る。
だがその横の風は、ザンザスの銃撃で肩を負傷したようだった。
と、いっても、ほんのかすり傷程度のモノであったのだが。
「君、口ほどじゃないね。大丈夫なの?」
「はい。今の攻防で、この体のサイズの勘を取り戻しました」
風の言葉に、その傷を納得する。
赤子から大人へ。
その変化は、想像する以上に大きいはず。
とくに武闘家として己の肉体を武器とする風に、その変化はダイレクトに響いてくるのだろう。
つまり、ここから先はこれまで以上に強くなる……!!
「次はミクロン単位で動けそうです」
「ミクロンだぁ!?笑えねえ冗談だなぁ!!」
「冗談ではありません」
そう言って上着を脱ぎ、鋼のような身体をさらけ出した風は、独特の構えを見せる。
……こんな時に考えることではないのだろうが、格闘家ってのは戦うときに上半身裸になる義務でもあるのだろうか。
風しかり、笹川しかり。
ウチのルッスはタンクトップ率高ぇし。
裸は絶対他人に見せないことを信条としてきたオレだから、わからないのだろうか……。
まあ、なんにしろ、戦いの場で考えることでは、ない。
リングからアーロを出し、オレは気持ちを切り替えた。
「いきましょう」
風の言葉を合図に、再びバトルが始まる。
先程の言葉通り、ザンザスの連撃も、オレとアーロの攻撃も避けきった風。
ザンザスとオレでも、歯が立たねぇってのか!?
ザンザスの炎を避けた風が、宙高く飛び上がる。
その体が炎を纏う様子を見て、嫌な予感が頭を過った。
咄嗟に剣を盾にし、雨の炎で壁を作る。
―― 爆龍炎舞!!!
風の纏った炎が、龍の形に変化する。
何つう量の炎……!!
アーロが地面に叩き付けられるのが視界の端に映る。
雨の炎を削るように迫り寄る炎が、オレの体に届くより先に、その圧力に負けたオレは、壁に向けて吹っ飛ばされた。
空中で何とか体勢を立て直して、壁に垂直に着地する。
「い゙っ……!!」
ジーンと痺れる脚を叱咤し、オレと同じく炎の龍に巻き込まれたであろうザンザスの姿を探す。
だが、その姿を見付けるより早く、脳に響くコキンという音が鳴り、どういうわけか、風が全身から血を噴き出して、地面に落ちた。
「ぐっ……。危、ない……所、でした……」
「これでわかったろ?武術より幻術の方が優れてる」
「…………、そうでした……。幻術とは、脳に直接作用し、相手より優位に立つ技術。今放った奥義は、脳に特定の"縛り"をつくり、その"縛り"が破られたら、肉体にダメージとなって返ってくる、バイパー・ミラージュ・R」
「ああ、そうさ。特別に今回はその"縛り"を教えてやるよ。勝利を疑った者は、自爆する」
そこにいたのは、フードを被った小柄な人物……疑いようもない、呪解したマーモンだ。
しかし格好良く技の説明をしてくれているところ悪いが、まさかその技、オレ達にも掛かってるんじゃあないだろうな……?
頼もしさ半分、怖さ半分で、オレは呪解したマーモンを見詰めたのだった。