代理戦争編

――日本、並盛町。
9代目も泊まったホテルの、スーパースイートルーム。
その部屋で、いつもの隊服からラフな服装に着替え直したヴァリアー達は、それぞれ思い思いの姿で寛いでいた。
ザンザスは一人、さっさと風呂に入り、浴衣で清酒を飲んでいる。
レヴィはザンザスが相手をしてくれないことにグレてやけ酒中だ。
ルッスーリアは日課の筋トレを始めている。
ベルはホテルの探索に出掛けたまま、帰ってくる様子がない。

「今回の戦い、どんな戦いになるんだろうね」
「やはり殴り合いのガチンコじゃねぇか?強さを見るんだろぉ?」
「そうだと仮定すると、君達が代理になってくれて心強いよ」
「お前に誉められると、なんか怖いなぁ」

スクアーロとマーモンは、革張りのソファーにゆったりと座り、代理戦争について意見を交わしていた。

「各々の代理については、ある程度想定できる。リボーンは間違いなく、沢田綱吉を代理に立てて来るだろうね」
「必然、10代目ファミリーもついてくるわけだなぁ。だが個人主義の六道や雲雀は、どうだろうな」
「そこまではわからないよ」
「まあ、詳しいことは明日から調べるか。ユニ、アリアの代理は間違いなく白蘭……、とジッリョネロの奴らも関わってくるだろうなぁ」
「奴ら、過保護だからね。それと、コロネロは恐らくラル・ミルチと組んでくるよ。アイツら、見てると砂糖を吐きそうなくらいイチャイチャしてるんだよ」
「ゔむ、ラル・ミルチがつくとなるとチェデフも関わってくるのか。沢田家光……面倒なのが出てきたな」
「ムム、でもどう出るか予想がつかない他の3人よりはましさ。ヴェルデなんかは科学者だからね。変なドーピングされたり毒を使われたら厄介だよ」
「アルコバレーノの情報についてはほぼ皆無だからなぁ。予測するのも難しいぜぇ……。とにかく、戦争が始まるまでは情報収集に徹するかぁ」
「それが良いかもね」

お互いにこの戦いの難儀さを再認し、大きなため息をつく。
呑気に酔っ払って服を脱ぎ出したレヴィや、筋トレに明け暮れるルッスーリアが羨ましく見える。

「とりあえず、今日はゆっくり体を休めるかぁ。マーモン、何か飲むか?」
「じゃあ僕レモネード」
「わかっ」
「スクアーロー、マーモン!ししっ!面白い奴がいたぜ!!」

スクアーロの台詞を遮り、バーン!とドアを開けたベルは、興奮した様子で文字通り飛び込んで部屋に来た。

「なんだぁ?」
「同じホテルに跳ね馬が泊まってんぜ!!しし、アイツきっとリボーンの代理だ!!」
「ムムッ、そうかリボーンの奴、跳ね馬までも代理に出してきたのか」
「……」

そう、同じホテルに跳ね馬ディーノとキャバッローネファミリーの者達が宿泊していたのである。
それを聞いたスクアーロが、突然閉口し、ゆらりと立ち上がったかと思うと、自身の荷物が置いてある部屋に戻り始めた。

「スクアーロ?どうしたんだい?」
「決まってんだろぉ。……何かあったときのために、装備強化するんだぁ」

丁度前髪で鼻から上が影になって、爛々と輝く目だけが見えている。
禍々しい殺気を発し始めたスクアーロは、ちょっとしたホラーだ。

「ちょ、ちょっとスクアーロ!?まさかここで跳ね馬達を殺す気じゃないよね!?ここで先走ったことして失格になるなんて僕はゴメンだよ!?」
「安心しろぉ。……反撃以外はしねぇ!!」
「反撃はするの!?」
「なーんであんなに殺気立ってんだ?」
「僕が知りたいよ……!」

黒いものを背負って部屋に消えたスクアーロを見送った二人は、首を傾げながら、跳ね馬の様子を見るためにホテルのロビーへと降りていった。


 * * *


「面白いゴミ拾ったぜ!!」
「ちょっ、何すんですかー!!」

準備を万端に整え、満足してコーヒーを飲んでいたスクアーロの元に、ベルが沢田綱吉を抱えてやってきた。

「ボスはどこだい?」
「奥の和室だ」
「へい」

沢田も災難である。
同情はしねぇが。
そしてオレは、後から来るだろう人物のために熱々のコーヒーを入れ直し、ドアに近付いた。

「邪魔するぜっ……ってあっつぅう!?」

無遠慮にドアを開けた跳ね馬ディーノに、頭から無言でコーヒーを被せる。
リボーンと亀のエンツィオは華麗に避けてオレの肩の上に乗り換えた。

「スクアーロ!?突然何すんだよ!!」
「……この代理戦争で、てめぇをかっ捌くからなぁ」
「はあ!?」

べーっと舌を出して親指で下を指す。
ふんっと鼻を鳴らして背を向ければ、少しはすっきりしたので、そのままエンツィオを連れて椅子に戻った。
リボーンは当たり前だが、肩の上から追っ払う。
ふむ、亀を飼うのも悪くないな。
掌の上にのせて首の下を撫でてやると、エンツィオは気持ち良さそうに目を細める。
亀なら連れ歩くのも難しくなさそうだよな。
奥の和室から騒がしい声が聞こえるが、ベルもマーモンもいるし平気だよな。
近くにあった野菜スティックを亀の口元に持っていき、食べさせようとした、その時だった。

「誰だ!」

緊迫した声と続いて激しい銃声。
咄嗟に亀を懐に突っ込み、和室に向かって駆け出した。
ガラスの破片の中に見えた、見覚えのない後ろ姿の人物の背後を取り、首にナイフを突き付けた。

「何者だぁ!?」
「スクアーロ!?はやぁっ!!」

チェックの帽子を被り、立ち上がった謎の男は、怪しく笑いながら帽子を脱いだ。

「ヒヒャハ!いきなりナイフを突き付けられるとは思いませんでしたハハ!!うっかりみなさんの部屋の番号を忘れてしまって、ヘヘ。外から覗いて探してたんです、フフ。私は『虹の代理戦争』を企画した者の遣いで尾道と申します、フフッ。虹の代理戦争をより具体的に説明しに参りました、ハハッ!!」

七三に髪を分けた男は、尾道と名乗った。
あの鉄帽子の男の遣い……。
何をヘラヘラと笑っているんだ。
ナイフを突き付けられているにも関わらず、気味が悪い。

「あの、それ退けていただけます?ヒヒ」
「……」

笑った尾道に、警戒は解かぬまま、ナイフをしまった。
鉄帽子にしろ、この男にしろ、信用できねぇ奴ばかりだ、と、舌打ちをした。
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