代理戦争編

「うーん、何しようかなー」

紛うことなきフランである。
ただし頭の被り物は、カエルではなくリンゴだ。

「リンゴ頭かよ……」
「あいつガキの時から被りものしてんのかぁ……」
「バカだびょん」
「バカな子です」
「バカすぎない?」

六道骸一味がかなり酷いことを言っているが……、お前らこれから仲間にしようって奴に酷くないか。

「まずは軽く流されるか」
「!?」

突然水に浸かったフランは、プカプカとリンゴだけ水上に出して流れていく。

「でもなー、前に海まで流された時、誰も気付いてくれなかったんだよなー」
「一人遊びかしら……?」
「し、知るか!!」

海まで流されたのも気になるが、どうやって帰ったのかも教えて欲しいところである。
そしてフランは、レヴィの声に気付いたのか、ざばっと立ち上がってこちらを振り向いた。

「ん、人の気配がする。んー?」

やっとフランの顔がはっきり見えた。
おお、未来のフランより顔が丸くてあどけない。
10歳若いんだから当たり前だが、しかし目の下の刺青はこの頃からあったんだな。

「ししっ、まんまガキのフランだ!!」
「フッ」

それぞれの反応を示すオレ達ヴァリアーと骸一味を見て、フランが目を擦ってから言った。

「やべ、妖精見える」

………………。
………………ええ!?
今まで鬼だ人殺しだと詰られたことこそあったが、妖精と言われたのは初めてだ……。
つかフランの目に、オレらはどう映ってんだ?
夢で見た未来の仲間達だと気付かないのか?

「オンブラコッコ、ドンブラコッコ。妖精よ立ち去りたまえ~」
「あのバカ何やってんだ?」
「あんな呪いで妖精が消えるわけねーだろ」
「そうじゃないでしょ!!あの子私達が誰だかわからないのかしら?」
「クフフ、あなた達ヴァリアーは影が薄すぎたんですよ」

骸が冷笑と共に言い放つ。
ヴァリアーほどキャラの濃い集団、オレは見たことないがな。

「フラン、僕です!!わかりますね、お前の師匠です!!」
「え……、うわー」

骸の顔を見たフランがピタッと動きを止める。
骸のことに気付いてオレ達に気付かないなんて……、まさか本当にオレ達って影うすかったのか?

「たまげました。ビックリですー」
「クフフフ」
「こんな山の中にパイナップルの精が」
「んがっ!」
「一番言ってはいけないことを的確に!!」

どうやらフランは気付いたわけではなかったらしい。
確かにあの髪型は初めビビるけど、いきなりパイナップルって……。

「しししっ!!」
「ベル、あんまり笑ってやるな。本人はあの髪型が気に入ってんだ。たとえパイナップルに見えても!あいつはあれが気に入ってんだぁ。バカにしちゃダメだぞ」
「フォローのつもりですかガットネロ!!あなたの言葉に一番傷付きましたよ!!」

ベルに真顔で注意したら、六道骸に怒られた。
そんなに怒らなくても良いのに……。
だいたいお前だって、オレらのこと影が薄いとかバカにしてたんだからお相子じゃないのか。

「あ、よく見るとロンゲのあなたは見覚えありますー。というよりこちら側のみなさんは知ってますー。一つの集団ですよね」
「ポーンピーン♪」
「……なんて集団か、言ってみろ」
「虫歯菌だ」

六道骸の時点で若干予想は出来ていたが、まさか虫歯菌とは……。
つぅか虫歯菌って妖精じゃねーだろ。
おもっくそ菌って言ってるだろ。

「てめっ!!」
「胃痛が痛いぜ……」
「スクちゃんしっかりー!!」
「オンブラコッコ、ドンブラコッコ。立ち去れ~、立ち去れ~」

怒るオレたちを見て怖くなったのか、またクネクネと踊り出したフラン。
オレがベルを、柿本千種が六道を抑えてなければ今ごろフランは穴だらけだ。

「虫歯菌とパイナップルの精が襲ってきますー。ヘルプミー!」

だがこの言葉に更に頭にきたらしいベルが、オレの手を振りほどいてナイフを投げた。

「果汁だしなっ!」
「わっ」

ヤバいと思ったときには、既にフランは頭を抱えて避けようとしていた。
あれならナイフは被りものに当たるだけで済みそうだ。
しかし、予想を裏切り、ナイフは被りものを通り抜けて遠くの方へ飛んでいった。

「んまっ!」
「あの被りものは幻覚!!」
「すでにそれ程の……」

今の今まで気付かなかった!
あの被りものは幻覚で出来たもの……。
かなりの完成度だが……未来のフランが有幻覚で被りものを作っていたのと比べると劣る。
……リングがないせいだろうか?

「ヘルプミー!前髪切り忘れた頭の悪そうな虫歯菌が、いかにもオリジナルって感じのダサダサナイフ投げてきたー!!」
「にゃろっ!」

言葉の一々が人の神経を逆撫でるのは、さすがフランである。
とりあえず、ベルがキレてフランを殺す前に大人しくさせなくては。
オレがフランを捕まえるより早く飛び出した、城島犬とレヴィは簡単に逃げられる。
パシャパシャと逃げてきたフランの後ろから、脇に手を入れてひょいっと持ち上げた。

「ゔお゙ぉい、なんで逃げようとすんだぁ?」
「観念なさい」

オレに捕まえられたフランの頭に六道が槍を突き付ける。
隣には柿本千種が武器を装備して立っている。
両者とも威圧感抜群だ。
だが子供相手に武器ってどうなのだろう。
大人げねぇよな。
あと六道の武器はフランの被りものに突き付けられているのでこれはたぶん刺したら突き抜けてオレに当たるんじゃないだろうか。

「ヤバイ……、妖精をおだてて鎮めないと殺される……」

フランはフランで生唾を飲み込みながら変なこと言ってるし。

「浮き世ばなれしたロン毛ですねー。人間にはとてもそのロン毛にする勇気のある者はおりません。メガネの精さんも肌の質感がすごいなー。消しゴムみたいですー。パイナップルの精さんなんていてくれるだけでパインくさいですー。ああくさい!本当にくさい!」

オレはこれくらいでキレるほどストレス耐性低くねぇが(これくらいで怒ってたら胃が幾つあっても保たなかっただろう)、二人からは血管が切れるような音が聞こえてきた。
しかし、ここまできても、フランはオレ達のことにまったく気付く様子がない。
あの戦いに参加していた以上、記憶を受け取らなかったはずはないし、これは、もしや……。

「ゔお゙ぉい、一つ聞くぞぉフラン。お前最近頭を強く打った覚えはねぇかぁ!?」
「おばあちゃんによると、チーズの角で頭打ったらしいですけど、ミーは記憶を失って覚えてないんですー」
「つまり……未来の記憶を失ってしまっている……」

チーズの角で頭を打つって……。
しかし、困った。
未来の記憶がないのなら、フランはすぐに戦いに出すわけにはいかねぇし、マーモンだってお子さまの面倒を見る……もとい、弟子にとって教育をするのは嫌がるだろう。
しばらく無言で考え込んだオレと、六道骸の視線がバッチリ合う。

「六道骸、てめぇと交渉がある」
「僕もです、S・スクアーロ」

そして二人で声を揃えて言った。

「フランをゆずってやる」
「フランを差し上げます」

……うん、まあ、こう言い出すことは想像できてたけども。
なんだかんだで似てるようだしな、こいつとオレの思考回路。

「元々未来ではお前の弟子だっただろうがぁ!お前が責任持って一人前に育てるべきだぁ!!」
「僕も忙しい!!ヴァリアーの充実した施設で育てるべきです。あのおチビのバカが治ってから引き取ります!!」
「バカは死ぬまで治らねぇ!だいたいオレ達ヴァリアーが引き取った時点で、こいつとてめぇらの縁は切れるんだから、もし引き取ったとしてもてめぇらにゃ渡さねぇぞ!!」
「それを言うならヴァリアーもでしょう!!」
「オレたちは強い奴全員に用があんだぁ!!もれなく人員不足中でかつかつなんだよ!!フランを教育する暇はねぇ!!」
「僕とて日々世界征服マフィア撲滅のために忙しいのです!!お金も人も時間も足りていない!!」
「金にならないことしてねぇで真面目に勉学に励めサボり学生!」
「汚い金で暮らすあなた達に言われたくはありませんね!!」

最終的にはただの罵詈雑言である。
仲間達からも生温い視線を受けながら、オレは更に六道を攻める。

「もしフランを連れて帰るならお前の好物のゴ○ィバのチョコをつける!!」
「ご、ゴディ○ですって!?」
「そして今ならヴァリアーお抱えパティシエの手作り高級ショコラがついてきて更にお買い得!!」
「ぐっ!!」
「ちょっと何揺れてるのよ骸ちゃん!!」
「そして今ならル○ヴィトンの高級新作バッグもつける!!」
「フランを連れて帰るわよ骸ちゃん!!」

来た!
この調子ならフランを連れていくのは六道骸一味!!
フランを地面に降ろしてやり、パタパタと汚れたズボンの裾を叩く。

「そもそも男所帯のうちで預かるより、ちゃんと女性のいるそっちで預かった方が教育に良いだろぉ」
「あなた女性じゃないですか!!」
「え、女なんですかこの人ー?」

はっ、そういえばそうだった……。
六道にツッコまれたのは結構痛い。
そして何故か女ってとこに反応したフランは、クルッと振り返ると、おもむろに手を伸ばし、オレの胸にペタッと手を当てた。

「でも胸ないですー。男ですよやっぱり」
「……いや、中に防弾チョッキ着てるからな。そりゃあ平たいだろぉ」
「なるほどー」
「……ってなに平然としてんのスクちゃん!!女の子ならそこは普通嫌がるところよ!!」
「ええー……」
「なんで私に嫌そうな顔するのよ!!」

だって胸触られた訳じゃないし、チョッキだけじゃなくて色々仕込み武器とかもあるから、言ってしまえば触られてる感触すらほぼないし。
でもしつこく体をペタペタ触られるのは嫌だから、フランをもう一度抱き上げて六道骸の前に置いた。

「今なら手数料なしで自宅まで送る」
「くっ……チョコのためです……!!仕方があるまい……!!」

どこぞのTVショッピングよろしく、フランをドーンと押し出した。
六道がチョコ狂いだというのはしっかり調べてあったからな。
まさかここで役立つとは思わなかったが、フランを預けられてラッキーだった。

「じゃあまたなぁフラン」
「もう会わないことを願ってますー」

別れる時まで口の減らないガキである。
オレらは帰って六道骸に送るチョコとバッグの準備でもするか。
そして途中にマーモンと合流したオレ達は、大した収穫もないまま、ヴァリアー邸へと戻ったのだった。

「あれ?フランって奴は?」
「未来の記憶を失っていたから、六道骸の元で修業させてから引き取ることにした」

いつかあの生意気なガキんちょが、ヴァリアーの一員となるのを楽しみに待つことにしよう。
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