継承式編
「スクアーロちゃん、気持ち悪くない?」
「へーき、だ……」
「ふふ、まるで娘ができたみたいねぇ」
しばしばと目を擦るスクアーロの髪を撫でた奈々は、大きすぎる娘ができてご機嫌である。
サラサラの長い髪も、奈々の機嫌を良くする一因だった。
「綺麗な髪ねぇ……。銀色の髪なんて初めて見たわ」
「ん゙……」
布団に入って、ぼんやりと奈々を眺めるスクアーロに、ニコニコしながら話し掛けた。
ツナも昔はこうして側にいないと、なかなか寝付いてくれなかったっけ。
そんな懐かしいことを思い出しながら、眠りに落ちていくスクアーロを、もう一撫でする。
奈々の手から溢れる銀糸が、暗い部屋にキラキラと光っていた。
* * *
「……ん?」
気付いたら、暗い和室で寝ていた。
「……ん゙ん?」
いや待て、なんでオレは和室に寝ているんだ。
というか、頭が霞がかったようにぼんやりとしていて、状況が掴めない、ってか考えが回らない。
ふわふわしている……。
とりあえず寝て……、それから考えようか。
布団の中にもぐり、ぬくぬくと暖かい中で目をつぶる。
だが完全に眠りに落ちる前に、戸が開き、声が聞こえた。
「スクアーロちゃん、寝てるかしら?」
「……奈々?」
「あら、起きてたのね!もう大丈夫かしら?」
「……?」
大丈夫って……いったい何が?
キョトンとしてると、沢田奈々が近付いてきて、枕元の灯りをつけた。
「もう顔色は戻ったみたいね」
「……?」
頬に触れてそう言った奈々が、とても安心した様子だったが、何故安心しているのか、良くわからなかった。
ただ、暖かな手のひらが心地好くて、擦り寄ってしまった。
暖かい人は好きだった。
知らない人に触られるのは好きじゃないけど、暖かな彼女に撫でてもらえるのは、好き。
「スクアーロちゃん、とっても疲れてたみたいねぇ……」
「……そう、ですか?」
「ええ、さっきまでぐっすりだったのよ?」
疲れていた、か。
それはたぶん、悩んでいたから、かもしれない。
何より、悩みを忘れたくて、仕事に打ち込みすぎたかもしれない。
「奈々、さんは、暖かい、ですね」
「ふふ、スクアーロちゃんも暖かいわ!」
「……奈々さんの手、好きです」
「嬉しいわぁ!私もね、スクアーロちゃんの髪が好きよ。サラサラで柔らかくて、綺麗な銀色」
「好き……?」
「そう、好きよ!」
屈託なく笑う奈々が、オレの髪を掬う。
その手をオレが握る。
人の温もりが伝わってきて、心の底が、じんわり温かくなるような気がした。
布団から出て、胡座をかく。
頭に浮かんだことを、そのまま口に出していく。
思考が定まらない感覚。
奈々には全部、話してしまいたいと、思わせられた。
「オレ、知り合いに、好きだって言われて……」
「まあ、告白かしら?」
「……オレ、自分が、自分はどうなのか、どう思ってるのか、わからない、んです」
「相手の人、どんな人なの?」
「へなちょこ」
「まあまあ……!」
「でも、たぶん……優しくて」
「うんうん」
「アイツなりに、真っ直ぐに想いを伝えてくれて……」
「良い子なのねぇ」
「ちゃんと、答えたいけど、オレの中に、答えなんか、ないんです……」
ゆっくり話すオレに、奈々は優しく頷きながら、聞いてくれている。
それが嬉しくて、嫌なこと全部、吐き出していく。
奈々が両手を広げてくれたから、オレはぎこちなくその細い体に抱きついて、柔らかい髪に頬をすり寄せた。
奈々は、ゆっくりと背中を撫でてくれる。
「オレなんかに、求めないでほしい……」
「どうして?」
「どうしたら良いのか、わかんねぇ、から」
「わからないの?」
「……嫌いじゃ、ないけど」
「好きかわからない?」
「恋愛、とかの好きは、……オレにはわかんねぇ、……です」
「スクアーロちゃんは、その人といるとドキドキしたりする?」
「……しない。でも、凄く困って、いつも通りじゃ、なくなっちまって……」
「そうねぇ……。恋人への好きっていうのはね、他の人に思う好きとは違くて、一緒にいるとお腹の底が温かくなって、ずっと側にいたいって思えてね?その人が見詰めてくれるだけで、普通じゃなくなっちゃうの」
「奈々は、そうなるのか?」
「そう!家光さんといると、とっても幸せで、ドキドキしちゃうの……」
「じゃあ、オレのとは、別かなぁ……」
「そうねぇ、まだ、別かもね!」
「まだ?」
「スクアーロちゃんにとって、その人は特別だけど、まだ好きではないんじゃないかしら?」
「まだ……」
「その人のことを、よぉく見て、他の人たちと比べてみたらどうかしら?」
奈々の言葉が、ゆっくりと脳に染み入ってくる。
コクンと頷くと、嬉しそうに奈々が頭を撫でてくれた。
暖かい……。
奈々に頭を撫でられたまま、オレはまた眠りについていった。
「へーき、だ……」
「ふふ、まるで娘ができたみたいねぇ」
しばしばと目を擦るスクアーロの髪を撫でた奈々は、大きすぎる娘ができてご機嫌である。
サラサラの長い髪も、奈々の機嫌を良くする一因だった。
「綺麗な髪ねぇ……。銀色の髪なんて初めて見たわ」
「ん゙……」
布団に入って、ぼんやりと奈々を眺めるスクアーロに、ニコニコしながら話し掛けた。
ツナも昔はこうして側にいないと、なかなか寝付いてくれなかったっけ。
そんな懐かしいことを思い出しながら、眠りに落ちていくスクアーロを、もう一撫でする。
奈々の手から溢れる銀糸が、暗い部屋にキラキラと光っていた。
* * *
「……ん?」
気付いたら、暗い和室で寝ていた。
「……ん゙ん?」
いや待て、なんでオレは和室に寝ているんだ。
というか、頭が霞がかったようにぼんやりとしていて、状況が掴めない、ってか考えが回らない。
ふわふわしている……。
とりあえず寝て……、それから考えようか。
布団の中にもぐり、ぬくぬくと暖かい中で目をつぶる。
だが完全に眠りに落ちる前に、戸が開き、声が聞こえた。
「スクアーロちゃん、寝てるかしら?」
「……奈々?」
「あら、起きてたのね!もう大丈夫かしら?」
「……?」
大丈夫って……いったい何が?
キョトンとしてると、沢田奈々が近付いてきて、枕元の灯りをつけた。
「もう顔色は戻ったみたいね」
「……?」
頬に触れてそう言った奈々が、とても安心した様子だったが、何故安心しているのか、良くわからなかった。
ただ、暖かな手のひらが心地好くて、擦り寄ってしまった。
暖かい人は好きだった。
知らない人に触られるのは好きじゃないけど、暖かな彼女に撫でてもらえるのは、好き。
「スクアーロちゃん、とっても疲れてたみたいねぇ……」
「……そう、ですか?」
「ええ、さっきまでぐっすりだったのよ?」
疲れていた、か。
それはたぶん、悩んでいたから、かもしれない。
何より、悩みを忘れたくて、仕事に打ち込みすぎたかもしれない。
「奈々、さんは、暖かい、ですね」
「ふふ、スクアーロちゃんも暖かいわ!」
「……奈々さんの手、好きです」
「嬉しいわぁ!私もね、スクアーロちゃんの髪が好きよ。サラサラで柔らかくて、綺麗な銀色」
「好き……?」
「そう、好きよ!」
屈託なく笑う奈々が、オレの髪を掬う。
その手をオレが握る。
人の温もりが伝わってきて、心の底が、じんわり温かくなるような気がした。
布団から出て、胡座をかく。
頭に浮かんだことを、そのまま口に出していく。
思考が定まらない感覚。
奈々には全部、話してしまいたいと、思わせられた。
「オレ、知り合いに、好きだって言われて……」
「まあ、告白かしら?」
「……オレ、自分が、自分はどうなのか、どう思ってるのか、わからない、んです」
「相手の人、どんな人なの?」
「へなちょこ」
「まあまあ……!」
「でも、たぶん……優しくて」
「うんうん」
「アイツなりに、真っ直ぐに想いを伝えてくれて……」
「良い子なのねぇ」
「ちゃんと、答えたいけど、オレの中に、答えなんか、ないんです……」
ゆっくり話すオレに、奈々は優しく頷きながら、聞いてくれている。
それが嬉しくて、嫌なこと全部、吐き出していく。
奈々が両手を広げてくれたから、オレはぎこちなくその細い体に抱きついて、柔らかい髪に頬をすり寄せた。
奈々は、ゆっくりと背中を撫でてくれる。
「オレなんかに、求めないでほしい……」
「どうして?」
「どうしたら良いのか、わかんねぇ、から」
「わからないの?」
「……嫌いじゃ、ないけど」
「好きかわからない?」
「恋愛、とかの好きは、……オレにはわかんねぇ、……です」
「スクアーロちゃんは、その人といるとドキドキしたりする?」
「……しない。でも、凄く困って、いつも通りじゃ、なくなっちまって……」
「そうねぇ……。恋人への好きっていうのはね、他の人に思う好きとは違くて、一緒にいるとお腹の底が温かくなって、ずっと側にいたいって思えてね?その人が見詰めてくれるだけで、普通じゃなくなっちゃうの」
「奈々は、そうなるのか?」
「そう!家光さんといると、とっても幸せで、ドキドキしちゃうの……」
「じゃあ、オレのとは、別かなぁ……」
「そうねぇ、まだ、別かもね!」
「まだ?」
「スクアーロちゃんにとって、その人は特別だけど、まだ好きではないんじゃないかしら?」
「まだ……」
「その人のことを、よぉく見て、他の人たちと比べてみたらどうかしら?」
奈々の言葉が、ゆっくりと脳に染み入ってくる。
コクンと頷くと、嬉しそうに奈々が頭を撫でてくれた。
暖かい……。
奈々に頭を撫でられたまま、オレはまた眠りについていった。