継承式編

「山本も獄寺君も、今日はたくさん食べていってね」
「おう!」
「光栄です10代目!!」
「お、大袈裟だよ獄寺君……」

今日は随分と大所帯の食事になるわけで、必然、忙しくなる沢田奈々の手伝いを全員ですることになった。

「今日はお世話になります」
「あら!良いのよそんなに気にしないで!!それにスクアーロ君が手伝ってくれるなら、スッゴく助かっちゃうわ♪」
「恐縮です」

挨拶をしにキッチンに向かい、沢田奈々に頭を下げると、後ろがざわついた。

「す、スクアーロが!頭下げてるっ!?」
「スクアーロ……まだ眠いのな?」
「何企んでやがる……!?」
「失礼だなテメーら……」

オレだって、生まれは良いのだし、何より他人より余計に世間の荒波に揉まれてきた訳だから、これくらいはむしろ普通なのだ。
……好きなわけではないし、疲れるけれど。

「じゃあツナ!!お皿出してもらえる?」
「わかった」
「スクアーロ君はご飯をよそってもらえるかしら?」
「わかりました」

テキパキと下される指示の通りに動き、夕飯の仕度を進めていく。
全員で準備をすれば、あっという間に仕度は整い、全員席についたところで、沢田奈々の号令と共に食べ始めた。

「いただきます」
『いただきます!』

綱吉、奈々、山本、獄寺、リボーンに居候中のビアンキ(ゴーグル装着済)、イーピン、ランボ、フゥ太、それにオレを入れた計10人の超大所帯の夕餉である。
箸を手にして、煮魚を口にしたオレは、目を見開いて思わず小さく歓声を漏らす。

「ゔお゙……、美味いな……!」
「まあ、本当?嬉しいわぁ!!ほら、このお漬け物も食べてみて!」
「あ、はい」

勧められるものを端から食べていく。
箸は使いなれなかったが、すぐに慣れて、使いこなせるようになっていた。

「スクアーロ君、お箸上手ねぇ」
「そんなこと……」
「へなちょこディーノが来たときは酷かったからな」

リボーンの口から出た名前に、一瞬箸が止まってしまう。
今は、聞きたくない名前だ。
すぐに気を取り直して味噌汁に口を付ける。
油揚げが美味しい。

「オレも、これくらい美味しく作れるようになりたいです」
「スクアーロ君もお料理するの?」
「あ、そう言えば……向こうでもしてたよね」

未来(むこう)では、確かにアジトで女子達の手伝いもした。
上手いつもり、ではあるが、自分の料理と彼女の料理、どこかが違う気がした。

「よかったら今度一緒にお料理しましょう?私で良ければ教えてあげるわ!!」
「い゙っ!?か、母さん!!それは……!」
「……嬉しいお誘いですが、ご遠慮させていただきます」
「あらそう?残念ねぇ……」

眉を八の字に下げた奈々に、何だか申し訳ない気持ちになってくる……。
慌てて言葉を足した。

「あの、でも、もしよろしかったら、また食べに来たい、です」
「まあ!嬉しいわ!!いつでもいらっしゃいね♪」

良心がチクチクと痛む……。
オレがマフィアでしかも暗殺稼業に手を染めてるなんて知ったら、この人はどう思うんだろうか。
騙しているような、申し訳ない気持ちで一杯だ……。

「ご、ゴメンねスクアーロ……。母さんが無理言って……」

聞こえないようにこそりと謝ってきた沢田に、気にするなと伝える。

「優しい人だな」
「そうかなぁ……?」
「母親って感じのする人だぁ」
「んー、でも口煩いし」
「それだけお前が大切なんだろぉ。……母親、大事にしろよ」
「……うん」

オレには母親の記憶はなくて、写真と、父親の話の中だけの存在だった。
生きていたら、こんな風に家族で食卓を囲むこともあったかもしれない。
……夢の、また夢の話だがな。

「あ、そうだ!忘れてたわ!!」
「どうしたの母さん?」
「リボーンちゃんにスクアーロ君のお話聞いてね、買っといたのよ!」

急に立ち上がった奈々が、ルンルンと楽しそうに冷蔵庫に向かい、中から飲み物らしき缶を取り出した。

「お酒買ったのよ~!!スクアーロ君成人してるって聞いてたし、折角だから飲んでいって?」
「は!?いや、オレは……」
「ママンがこう言ってんだ。飲むよな、スクアーロ」

前にも言ったかもしれないが、オレは下戸。
酒なんてほとんど飲めねぇし、普段も飲まない。
断ろうとしたオレを邪魔したのは、またもや、リボーンだった。
ハッとしてリボーンを見る。
その口はニマニマと笑い、目はキラキラと輝いている。
コイツまさか……!
オレを酔わせて色々と吐かせようと!?
秘密よりも先に胃の中身吐くぞ!?

「どうぞスクアーロ君!」
「え、いやオレは酒は……!」
「ビールとかより、ワインの方が良かったかしら……?」
「……!」

勝手に注がれていくコップの中身に、なすすべもなく言葉を失う。
ノリノリの奈々に断りを入れるのは躊躇われる……。
女性に優しいイタリア人の血である。
おのれイタリア人、と的外れな怒りを胸に、ぎこちなく笑みを浮かべて恐る恐るコップを持つ。
大丈夫だ……少しだけなら、オレだって行ける、はず……!
意を決して、コップに口をつけた。

「一気に飲めよ」
「グフッ!?」

突然、リボーンがコップを小突いて、喉にアルコールがドバリと流れ込んでくる。
結局コップ一杯丸々と飲んでしまい…………、そこからの記憶は、ない。
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