継承式編
「ザンザスー、帰ってきたぜー」
「……カスザメ」
「ん゙?どうかしたかぁ?」
「………………」
「ああ、日本酒ならここにあるぜぇ。すぐにお猪口持ってくるからな」
「相変わらずのツーカー具合よねぇ。妬けちゃうわぁ……」
ヴァリアー邸に帰りついて、今回の事件の報告にザンザスの部屋を訪れたオレ達は、無言で投げられた花瓶に出迎えられた。
報告については口頭でザッと。
その後はそれぞれが思い思いに行動を取り始める。
オレはモノが散らばった机の周りを片付けて、自分の部屋に戻ろうとドアを開ける。
その背後から飛んできたリモコンが後頭部にジャストミートした。
「い゙っ!?何すんだテメッ!!」
「カスザメ」
ザンザスはいつの間に座ったのか二人がけのソファーに座ってバスバスと座面を叩いている。
その様子に意図を察して、頬の筋肉を引き攣らせた。
「ぼ、ボス……?」
「レヴィ、怒るなよ……」
ザンザスの様子を全部見ていたレヴィが、オロオロとザンザスの周りを彷徨いている。
体に取り付けている装備で邪魔になりそうなものは外して、ザンザスの隣の席に座った。
「んなぁ!?なな!なな、ななになにになぁっおご!!?」
「うるせえぞドカス」
レヴィがザンザスの拳により沈む。
倒れたレヴィには見向きもせずに、ザンザスはドサッとオレの膝の上に乗っかってくる。
膝で丸まる猫のようだ。
硬い髪の毛を撫でて、額についた傷痕をなぞった。
嫌がるように首を捻って、腹の方に顔を向けた。
ホントに猫みてぇ。
頭をゆるゆると撫でながら、肘掛けに肘をついて頬杖を付き、オレもゆっくりと眠りの世界に落ちていった。
* * *
「……」
あっという間に眠りに落ちたスクアーロを一瞥し、ザンザスはその顔を覗き込む。
目の下にうっすらと浮かぶ隈に、呆れたような視線を向けた。
睡眠不足や体調不良が仕事に響くことをよく知っているはずなのに、睡眠をとることもせずに働き続けるのは昔からのことだった。
どうせ部屋に戻ったところで、また書類仕事をすることになるのだろう。
スクアーロがいなかった数日間で、仕事が少し溜まっていた。
部屋に積まれていた書類の束を思い出し、ザンザスの赤い目が眇められ、その眉がひそめられる。
ザンザスの片した書類も中々の量だったが、ボス補佐であるスクアーロに集まる書類はそれよりも多い。
このあと目が覚めたら、あの書類の山を見て悲鳴でもあがるんじゃないのか。
スクアーロの膝の上で、とりとめのない考え事をしながら、ザンザスも眠気に誘われるままに目を閉じた。
―― コンコン カチャリ
「ざ、XANXUSー……、いるかー?」
「……」
突然聞こえてきた物音と声に、ザンザスの目がカッと見開かれる。
が、その声の正体が跳ね馬ディーノだと気付くと、また目を閉じて寝息を立て始めた。
格下は自分の邪魔をしない限り相手にしない。
某スーツの赤ん坊ヒットマンのような方針を持つザンザスは、くぴーと可愛らしい寝息を立てて夢の世界へと落ちていった。
* * *
「……ど、どういう状況なんだ?」
ディーノは二人がけのソファーの前に立ち尽くしていた。
そのソファーには、最近気になるスクアーロと、そのスクアーロが主と慕うXANXUSが座っていて……いや、XANXUSは座ってはいなかった。
スクアーロの膝の上に頭を預けて、くうくうと眠っている。
こ、これは俗に言う膝枕……なのか!?
ちなみにソファーの横には何故か、レヴィ・ア・タンが倒れている。
二人は熟睡していて、一人は気絶していて……一体何があったんだよ!!
つか!
「XANXUSの奴なんて羨ましいことしてやがる……!!」
ギリギリと歯軋りしたところで、スクアーロがオレに膝枕してくれる日なんて来やしないんだろうが、だからと言ってXANXUSが膝枕されてるのを黙って眺めるしかないなんて、と言うかの如く暗いオーラを撒き散らし始めたディーノだったが、一端深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「……でもシモンのことについて話に来たのに、これじゃあなぁ」
継承式が中止になり、招待されていた全てのファミリーはそれぞれの本拠地に戻っていたが、ディーノ達キャバッローネは、9代目から内密に、10代目ファミリーがシモンに負けた場合の戦力となってくれるようにと打診を受けていた。
ツナには信じるとかなんとか言ってはいたが、組織というのは常に万が一の可能性を視野に入れてなければならない。
ディーノは一度イタリアに帰り、戦力を整え、そして今日は、ヴァリアーの様子を伺いに来ていた。
もしツナが負け、自分達が戦うとしたら、ヴァリアーは間違いなく前線に配置される。
ヴァリアーのボス、XANXUSは自分からは中々動かなそうだし、No.2のスクアーロは怪我してるし、幹部は堅物かちゃらんぽらんばっかりだし。
どうなっているのかは、気になるところである。
そして彼らを見に来たディーノの目の前に、こんな光景が広がっている。
一瞬にしてキャバッローネのこともシモンのこともぶっ飛んでしまうような衝撃である。
なんてこった……。
「まさか……、いや、異様にXANXUSに対して忠実だったり執着してたりしてるとは思ってたけど。膝枕までする仲だったのか……。い、いや、別にだからってどうって訳じゃ……。気になってるだけで、好きとか、まだよくわかんねーし……?」
誰に言い訳をしているのか。
それはともかくとして、本当はこんなことは滅多にないことなのだが、それを知らないディーノは、よくあることなのかと勘違いをしてしまう。
「XANXUSは主なんだし、スクアーロのことも色々知ってんだろうな……。でもXANXUSが、本気でスクアーロを女として見てるとは……」
「……オイ、うるせえぞドカス」
「XANXUS!?」
ぶつぶつと呟いていたせいか、XANXUSを起こしてしまったらしい。
ムクッと起き上がったXANXUSは、寝起きでいつもよりも悪い目付きでディーノを睨み付ける。
何故だか闘争心を煽られたディーノも睨み返す。
「人の部屋でごちゃごちゃと……。カッ消されてぇのか?」
「んなわけねーだろ!オレはシモンのことで様子を見に……」
「そのわりには、カスザメの事ばかり見てたじゃねーか」
「なっ!!見てたのか!?」
正確には聞かれてたのか!?なのかもしれないが、一気に赤面したディーノにそれを気にする余裕はない。
慌てて、あー、だの、うー、だのと意味のない音を出しながら弁解の言葉を考える。
「い、いやほら、知り合いがイチャついてるの見ちゃうと動揺するだろ!?それだけだぜ!!」
「どうでもいいな」
「はぁ!?」
いやいや、自分の彼女をやらしい目で見る男がいたら、どうでも良くないだろう。
混乱するディーノに見せ付けるように、XANXUSの手がスクアーロの太股に触れる。
髪の匂いを嗅ぐように鼻を埋めて、もう片方の手で頬をなぞった。
その手付きが、慣れてる感じがして、スゴくイヤらしく見えて、ディーノの頭が端から真っ白に染まってく。
……気付いたら、スクアーロの頭を撫でるXANXUSの手を掴んでいた。
「……なんだ?」
「や、めろ……」
「何故だ……」
「それは!」
喉が張り付いたように、言葉が出ない。
何故、怒っているんだ。
何故、それ以上触らないで欲しいと思ったんだ……。
言葉に詰まったディーノを見て、鼻で笑ったXANXUSはスクアーロから手を離した。
「それでまだ、『好きとかまだよくわかんねー』のか?」
「……は!?」
「どう考えても好きだろ、センス悪いな」
「センス悪……どういう意味だそれ!?」
「そのまんまだ、ドカス」
XANXUSは、からかっていたのだろうか。
それともただの暇潰し?
XANXUSはそして、飽きたと言わんばかりに気怠そうに立ち上がって、さっさと部屋を出ていってしまった。
その気配を感じたか、はたまた膝の上にあった重みがなくなったことに気付いたのか。
スクアーロがぼんやりと目を開けた。
「……あ゙?」
「す、スクアーロ!?」
「跳ね馬、か?」
眠たそうに目を擦って、カクンと頬杖を崩したスクアーロは、寝惚けてキョロキョロと辺りを見回す。
オレが……コイツを好き?
ディーノが一歩、近付く。
人一倍頑固で、責任感が強くて、プライド高くて、掃除屋とか呼ばれるくらい強くて、なのに突然左腕切り落としちゃうくらい危なっかしくて、見てて怖くなるくらい儚げに見えることがあって、時折凄い脆くて……。
女だというのが本当に嫌そうで、でも、でもオレは……………………。
「スクアーロ、オレ、お前が好きだ」
「……え?」
「お前は、未来の記憶に踊らされてるだけって言ってたが、そうじゃない。未来のお前も、今のお前も、間違いなく一人のお前で、オレはそんなお前の全部を見て、好きだって思ったんだよ」
「な……何言って?」
「お前のことが好き。お前は、オレのこと、どう思ってんだ……?」
頑張り屋で、一途で真面目で。
そんなコイツを見ていて、側で支えてあげなきゃと思った。
コイツを撫でるXANXUSを見て、……オレは嫉妬した。
側にいるのはオレが良かった。
コイツに触れるのは、自分が良かった。
「スクアーロ……」
「……そ、そんなの、」
「うん」
「わかんね、よ……」
寝起きに突然の告白。
脳ミソの処理速度が追い付いていないらしい彼女は、呆気に取られた顔で、途切れ途切れに答えた。
たぶん、これが今の本当の気持ち。
言い訳も、言い逃れもする余裕のない状況で出たこの言葉が、スクアーロの本音。
ディーノは、予想は勿論していたが、少し落胆した様子で、肩を落とす。
嫌いだと言われなかっただけ、マシなんだろう。
「……オレ、スクアーロが好きだって言ってくれるの待ってるからな」
「は?え?」
「言っとくけど振り向いてもらうために、何でもするからな」
「???」
訳がわからず目をシロクロさせるスクアーロに、にっと笑って、じゃあまたな!と言って、ディーノ部屋を出た。
とんでもないことになっちまったと、頭を抱える。
何より、
「恋のキューピッドがXANXUSって……!!」
なんだか不吉この上ない。
結局ディーノはシモンのことについては何も聞けないまま、キャバッローネへと帰ることとなったのだった。
「……カスザメ」
「ん゙?どうかしたかぁ?」
「………………」
「ああ、日本酒ならここにあるぜぇ。すぐにお猪口持ってくるからな」
「相変わらずのツーカー具合よねぇ。妬けちゃうわぁ……」
ヴァリアー邸に帰りついて、今回の事件の報告にザンザスの部屋を訪れたオレ達は、無言で投げられた花瓶に出迎えられた。
報告については口頭でザッと。
その後はそれぞれが思い思いに行動を取り始める。
オレはモノが散らばった机の周りを片付けて、自分の部屋に戻ろうとドアを開ける。
その背後から飛んできたリモコンが後頭部にジャストミートした。
「い゙っ!?何すんだテメッ!!」
「カスザメ」
ザンザスはいつの間に座ったのか二人がけのソファーに座ってバスバスと座面を叩いている。
その様子に意図を察して、頬の筋肉を引き攣らせた。
「ぼ、ボス……?」
「レヴィ、怒るなよ……」
ザンザスの様子を全部見ていたレヴィが、オロオロとザンザスの周りを彷徨いている。
体に取り付けている装備で邪魔になりそうなものは外して、ザンザスの隣の席に座った。
「んなぁ!?なな!なな、ななになにになぁっおご!!?」
「うるせえぞドカス」
レヴィがザンザスの拳により沈む。
倒れたレヴィには見向きもせずに、ザンザスはドサッとオレの膝の上に乗っかってくる。
膝で丸まる猫のようだ。
硬い髪の毛を撫でて、額についた傷痕をなぞった。
嫌がるように首を捻って、腹の方に顔を向けた。
ホントに猫みてぇ。
頭をゆるゆると撫でながら、肘掛けに肘をついて頬杖を付き、オレもゆっくりと眠りの世界に落ちていった。
* * *
「……」
あっという間に眠りに落ちたスクアーロを一瞥し、ザンザスはその顔を覗き込む。
目の下にうっすらと浮かぶ隈に、呆れたような視線を向けた。
睡眠不足や体調不良が仕事に響くことをよく知っているはずなのに、睡眠をとることもせずに働き続けるのは昔からのことだった。
どうせ部屋に戻ったところで、また書類仕事をすることになるのだろう。
スクアーロがいなかった数日間で、仕事が少し溜まっていた。
部屋に積まれていた書類の束を思い出し、ザンザスの赤い目が眇められ、その眉がひそめられる。
ザンザスの片した書類も中々の量だったが、ボス補佐であるスクアーロに集まる書類はそれよりも多い。
このあと目が覚めたら、あの書類の山を見て悲鳴でもあがるんじゃないのか。
スクアーロの膝の上で、とりとめのない考え事をしながら、ザンザスも眠気に誘われるままに目を閉じた。
―― コンコン カチャリ
「ざ、XANXUSー……、いるかー?」
「……」
突然聞こえてきた物音と声に、ザンザスの目がカッと見開かれる。
が、その声の正体が跳ね馬ディーノだと気付くと、また目を閉じて寝息を立て始めた。
格下は自分の邪魔をしない限り相手にしない。
某スーツの赤ん坊ヒットマンのような方針を持つザンザスは、くぴーと可愛らしい寝息を立てて夢の世界へと落ちていった。
* * *
「……ど、どういう状況なんだ?」
ディーノは二人がけのソファーの前に立ち尽くしていた。
そのソファーには、最近気になるスクアーロと、そのスクアーロが主と慕うXANXUSが座っていて……いや、XANXUSは座ってはいなかった。
スクアーロの膝の上に頭を預けて、くうくうと眠っている。
こ、これは俗に言う膝枕……なのか!?
ちなみにソファーの横には何故か、レヴィ・ア・タンが倒れている。
二人は熟睡していて、一人は気絶していて……一体何があったんだよ!!
つか!
「XANXUSの奴なんて羨ましいことしてやがる……!!」
ギリギリと歯軋りしたところで、スクアーロがオレに膝枕してくれる日なんて来やしないんだろうが、だからと言ってXANXUSが膝枕されてるのを黙って眺めるしかないなんて、と言うかの如く暗いオーラを撒き散らし始めたディーノだったが、一端深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「……でもシモンのことについて話に来たのに、これじゃあなぁ」
継承式が中止になり、招待されていた全てのファミリーはそれぞれの本拠地に戻っていたが、ディーノ達キャバッローネは、9代目から内密に、10代目ファミリーがシモンに負けた場合の戦力となってくれるようにと打診を受けていた。
ツナには信じるとかなんとか言ってはいたが、組織というのは常に万が一の可能性を視野に入れてなければならない。
ディーノは一度イタリアに帰り、戦力を整え、そして今日は、ヴァリアーの様子を伺いに来ていた。
もしツナが負け、自分達が戦うとしたら、ヴァリアーは間違いなく前線に配置される。
ヴァリアーのボス、XANXUSは自分からは中々動かなそうだし、No.2のスクアーロは怪我してるし、幹部は堅物かちゃらんぽらんばっかりだし。
どうなっているのかは、気になるところである。
そして彼らを見に来たディーノの目の前に、こんな光景が広がっている。
一瞬にしてキャバッローネのこともシモンのこともぶっ飛んでしまうような衝撃である。
なんてこった……。
「まさか……、いや、異様にXANXUSに対して忠実だったり執着してたりしてるとは思ってたけど。膝枕までする仲だったのか……。い、いや、別にだからってどうって訳じゃ……。気になってるだけで、好きとか、まだよくわかんねーし……?」
誰に言い訳をしているのか。
それはともかくとして、本当はこんなことは滅多にないことなのだが、それを知らないディーノは、よくあることなのかと勘違いをしてしまう。
「XANXUSは主なんだし、スクアーロのことも色々知ってんだろうな……。でもXANXUSが、本気でスクアーロを女として見てるとは……」
「……オイ、うるせえぞドカス」
「XANXUS!?」
ぶつぶつと呟いていたせいか、XANXUSを起こしてしまったらしい。
ムクッと起き上がったXANXUSは、寝起きでいつもよりも悪い目付きでディーノを睨み付ける。
何故だか闘争心を煽られたディーノも睨み返す。
「人の部屋でごちゃごちゃと……。カッ消されてぇのか?」
「んなわけねーだろ!オレはシモンのことで様子を見に……」
「そのわりには、カスザメの事ばかり見てたじゃねーか」
「なっ!!見てたのか!?」
正確には聞かれてたのか!?なのかもしれないが、一気に赤面したディーノにそれを気にする余裕はない。
慌てて、あー、だの、うー、だのと意味のない音を出しながら弁解の言葉を考える。
「い、いやほら、知り合いがイチャついてるの見ちゃうと動揺するだろ!?それだけだぜ!!」
「どうでもいいな」
「はぁ!?」
いやいや、自分の彼女をやらしい目で見る男がいたら、どうでも良くないだろう。
混乱するディーノに見せ付けるように、XANXUSの手がスクアーロの太股に触れる。
髪の匂いを嗅ぐように鼻を埋めて、もう片方の手で頬をなぞった。
その手付きが、慣れてる感じがして、スゴくイヤらしく見えて、ディーノの頭が端から真っ白に染まってく。
……気付いたら、スクアーロの頭を撫でるXANXUSの手を掴んでいた。
「……なんだ?」
「や、めろ……」
「何故だ……」
「それは!」
喉が張り付いたように、言葉が出ない。
何故、怒っているんだ。
何故、それ以上触らないで欲しいと思ったんだ……。
言葉に詰まったディーノを見て、鼻で笑ったXANXUSはスクアーロから手を離した。
「それでまだ、『好きとかまだよくわかんねー』のか?」
「……は!?」
「どう考えても好きだろ、センス悪いな」
「センス悪……どういう意味だそれ!?」
「そのまんまだ、ドカス」
XANXUSは、からかっていたのだろうか。
それともただの暇潰し?
XANXUSはそして、飽きたと言わんばかりに気怠そうに立ち上がって、さっさと部屋を出ていってしまった。
その気配を感じたか、はたまた膝の上にあった重みがなくなったことに気付いたのか。
スクアーロがぼんやりと目を開けた。
「……あ゙?」
「す、スクアーロ!?」
「跳ね馬、か?」
眠たそうに目を擦って、カクンと頬杖を崩したスクアーロは、寝惚けてキョロキョロと辺りを見回す。
オレが……コイツを好き?
ディーノが一歩、近付く。
人一倍頑固で、責任感が強くて、プライド高くて、掃除屋とか呼ばれるくらい強くて、なのに突然左腕切り落としちゃうくらい危なっかしくて、見てて怖くなるくらい儚げに見えることがあって、時折凄い脆くて……。
女だというのが本当に嫌そうで、でも、でもオレは……………………。
「スクアーロ、オレ、お前が好きだ」
「……え?」
「お前は、未来の記憶に踊らされてるだけって言ってたが、そうじゃない。未来のお前も、今のお前も、間違いなく一人のお前で、オレはそんなお前の全部を見て、好きだって思ったんだよ」
「な……何言って?」
「お前のことが好き。お前は、オレのこと、どう思ってんだ……?」
頑張り屋で、一途で真面目で。
そんなコイツを見ていて、側で支えてあげなきゃと思った。
コイツを撫でるXANXUSを見て、……オレは嫉妬した。
側にいるのはオレが良かった。
コイツに触れるのは、自分が良かった。
「スクアーロ……」
「……そ、そんなの、」
「うん」
「わかんね、よ……」
寝起きに突然の告白。
脳ミソの処理速度が追い付いていないらしい彼女は、呆気に取られた顔で、途切れ途切れに答えた。
たぶん、これが今の本当の気持ち。
言い訳も、言い逃れもする余裕のない状況で出たこの言葉が、スクアーロの本音。
ディーノは、予想は勿論していたが、少し落胆した様子で、肩を落とす。
嫌いだと言われなかっただけ、マシなんだろう。
「……オレ、スクアーロが好きだって言ってくれるの待ってるからな」
「は?え?」
「言っとくけど振り向いてもらうために、何でもするからな」
「???」
訳がわからず目をシロクロさせるスクアーロに、にっと笑って、じゃあまたな!と言って、ディーノ部屋を出た。
とんでもないことになっちまったと、頭を抱える。
何より、
「恋のキューピッドがXANXUSって……!!」
なんだか不吉この上ない。
結局ディーノはシモンのことについては何も聞けないまま、キャバッローネへと帰ることとなったのだった。