継承式編
「スクアーロってさ、マフィアっぽく感じないなあ」
「そうっすか?」
シモンの聖地へと向かう船の部屋で、ちょこんとイスに座ったツナは、ポツリとそう呟いた。
理由は獄寺の持つモノにある。
「ま、全部記録しておきたいっつって、カメラ渡してくる奴はなかなかいないだろうからな」
「あ、やっぱり?」
「でもアイツ、ボンゴレの掃除屋なんすよね?それってマフィア中のマフィアじゃないんですか?」
「極限よくわからん。奴らはかつてオレ達を殺そうとしてきた敵だったしな」
まあ、そりゃそうなんだけど。
ゴニョゴニョと口の中でそう言葉を転がす。
その時はアイツら全員が恐ろしいだけのマフィアだって思ってたけど、未来の彼らに触れて、今の彼らと話して、恐ろしいマフィアっていうのは、彼らの一面でしかなかったということがわかった。
人は多角的だと、ツナは思う。
オレたちに向ける一面、他の人に向ける一面、自分自身に向ける内面。
それぞれすべて違うんだ。
きっと、炎真達だって、ただボンゴレが憎くいだけであんなに戦っている訳ではないんだ。
誰かを守りたい気持ち、組織への誇り、……復讐への覚悟だって勿論ある。
でもその中に、ひた向きで純粋な彼ら自身が覗けて見えるような気がして、だからツナは思うのだ。
本当の炎真たちと向き合いたいと。
……そしてこんな思いはきっと、スクアーロ達と話せなかったら持てなかったと思う。
「ここに来る前にスクアーロ達と話せて良かったよ」
「ちょっとエロかったしな」
「それ関係ないし!?」
うっかり前日のハプニングを思い出して、全員思い思いの顔色になる。
ツナは顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。
やがて、船は目的の場所へとたどり着いた。
* * *
「っくし!」
「うへー!汚ぇよスクアーロ!!」
「うるせぇ!!なんか背筋ゾクゾクする……」
「やだぁスクちゃん風邪?」
「健康管理が出来てないのだ!!やはりボスの右腕はオレだけ……」
「バカだから風邪引かねぇだけだろ」
「なぬっ!?」
「確かにレヴィが風邪引かないのはバカだからかも知れないけど、」
「なんだと!?」
「健康管理が大事ってのは確かにそうだよ。スクアーロ、君どうせまた寝ないで働いてたんだろ?それじゃあ体も壊すよ」
マーモンに諭されて、微妙な顔で納得したオレと、それを笑うヴァリアーの愉快な仲間達。
オレ達は今、山本の入院している並盛中央病院に向かっていた。
勿論、そのまま歩くと目立つので車で移動している。
……車のトランクからは、がこがこと誰かが暴れる音がしている。
「しし、つか山本武、だいじょーぶなの?腹に穴空いちまったんだろ?」
「どうなんだろうなぁ……」
病院の医者の話だと、峠は越えたが重い後遺症が残るらしい。
このままなら、剣を振るうことはおろか、野球も、歩くことすら難しいらしい。
あれだけ才能に溢れる人間が、と思うと、オレとしても心苦しいのだ。
だから断じて、断じて!今からするのは沢田達のためとかそんなことじゃねぇからな。
「とーちゃーくっ!!しし、マーモンちゃんと隠しとけよ?じゃねーと通報されるからな」
「わかってるよ」
病院の駐車場に車を止めて、未だガタゴトと暴れるトランクに歩み寄った。
レヴィに目配せして開けさせる。
頷き、トランクに手をかけ、無造作にあけたレヴィの腹に、次の瞬間、見事な蹴りが極った。
「ぐげふぅっ!?」
「んでオレがこんな狭いとこに閉じ込められて、運ばれなきゃならねーんだよ!!そして一番最初に見るのはきゃわいい女の子が良かった!!なんだこの提灯アンコウみたいな奴!!」
「ぐふっ……鳩尾に!!おえぇ……」
「汚ぇ……」
「吐くなよオッサン」
「ム……」
レヴィの奴、吐きやがった……。
全員が鼻を摘まんで遠巻きにする。
だがトランクから出てきた男は、手をしっかり結ばれているため、息を止めることしかできなかった。
「うっふ~ん♡レヴィが嫌ならアタシはどうかしら~ん?」
「ゔっ!!は、吐き気が……!」
「どういう意味よ!?」
「声、野太くなってんぞルッスーリア」
「あー!スックアーロちゃーん!!オジさんとちゅーしよーん♪」
「黙れシャマル。それ以上近付いたらお前の腹にも穴開けるからなぁ。」
額に血管を浮かべて、お冠なルッスーリアに押さえ付けられながら、唇をつき出すオッサンに、額を押さえてため息をついた。
「しし、殺っとく?」
「殺らねぇから。オイ、シャマル。今から山本の病室に連れてくから、お前アイツのこと見てやってくれ」
「えー……、オレ男は診たくねぇよ。ま、スクアーロちゃんがオレとちゅーしてくれんなら良いけど~」
「それならアタシがちゅーしてあげるわよん♡」
「ぎゃああああ!!」
汚く悲鳴をあげて倒れこんだシャマルに、ルッスーリアが襲いかかる。
ご愁傷さまである。
「ルッスーリア、遊んでねーでそいつさっさと運ぶぞぉ」
「りょうかぁーい♡」
ルッスーリアの顔がツルツルしている気がする。
反対にシャマルの顔は土気色だ。
ご愁傷さまである。
まだ嘔吐いているレヴィを蹴って急かし、マーモンを先頭にして病室に向かった。
* * *
「お疲れ様です、ヴァリアーの皆様!山本武は現在面会謝絶中となっておりますが……」
「医者を連れてきたぁ。通らせてもらうぞ」
「え、連れてき……え?」
例え、医者と思われる白衣姿の人間がゴツいオカマに俵担ぎにされていようと、顔色が土気色で白目を向いていようと、連れてきたことに変わりはない、はず。
困惑する下っ端の脇を通って病室に入る。
カーテンに囲まれた中に、山本武が横たわっていた。
「……」
「……しし、別人みてーだな」
たくさんのチューブに繋がれた青白い顔色の山本。
あまりの変わりように、言葉を失ってしまった。
つっと頬を撫でる手に伝わってくる体温に、ほんの僅かに安堵した。
「スクアーロちゃーん?なに、ソイツのことそんなに心配してたの?オジさん妬けちゃうなぁ~!」
「くっつくな変態がぁ!!」
山本の顔を覗き込んでいると、背後に近付く気配を感じて咄嗟に防御体制をとる。
シャマルである。
万歳の姿勢で飛び付いてきた野郎の顔を押さえてこれ以上近付いてこないように力一杯遠ざける。
気持ち悪いぞこのオヤジ。
「で、山本のこと見てもらえるのかぁ?」
「だっからー!スクアーロちゃんがちゅーしてくれたら……」
「よし、マーモン。幻術で酒池肉林作戦でいくぞ」
「偽物なんてイヤだ!!スクアーロちゃんがちょっとオジさんにキッスしてくれたら、そんだけで良いんだぜ!?」
絶対にイヤだ。
なんでこんなオッサンに!!
そして徐々にオッサンの顔が近づいてきてる。
ううっ……!これが力の差か!?
「ちゅーっ!!」
「イヤだってぇ、言ってんだ、ろがぁぁああ!!」
「ぷごふっ!?」
すんでのところで頭突きを繰り出し、なんとか引き剥がすことに成功する。
危なかったぜぇ……。
「で、やるのか、やらないのか?」
「ぐすっ、やります……」
「よし」
鼻の頭を押さえながら悶えるシャマルを足蹴にして、無理矢理頷かせる。
さすがオレ。
ピンチはチャンスだったな。
そしてやっと山本に向き直ったシャマルが、スッと表情を引き締めて医者の顔になる。
「これは……」
診察の邪魔をしたくなかったので、オレはカーテンの外に出ておく。
これでもしダメなようなら、最終手段に出るしかないな……。
ちょっと面倒なことになるんだが。
「……おい、終わったぞ」
しばらく経って、出てきたシャマルの顔は曇っている。
診察の結果は予想できてしまった。
「あれはオレには……いや、現在の医療では治せねぇ。どう考えても不可能だ」
「……そうかぁ」
最終手段に、出るしかないってことか。
「わりぃなスクアーロちゃん。力になれなくてよ」
「いや、期待してなかったからな。全く問題はねえ」
「……うん、そっか」
シャマルが項垂れる。
全くもって、笑え……いや、ご愁傷さまである。
こいつには丁重にお帰り願おうか。
「じゃあもう帰って良いぜ」
「え、これだけ!?本当にこれだけのために拉致したの?」
「それ以外にお前に用なんてねぇよ。今からやることあるんだから、さっさと帰れ」
「ヒドッ!!なー折角なんだからオジさんとデートしよーぜー!!」
「他当たれぇ!!」
抱き付こうとしてくるのを、げしげしと踏みつけて遠ざけた。
しつこいなコイツ本当に!!
「な、ちょっとお茶するだけ!!ダメか?」
「っ!!」
スルッと足の下から抜け出し、背後に回ったシャマルに肩を掴まれた。
痛みと気持ち悪さでゾワァッと鳥肌が立つ。
体を捻って抜け出し、ギッと睨んだ。
「何しやがるっ!?」
「えー、ダメ?」
「ちっ!仕事があるんだぁ。さっさと出てけ!」
「スクアーロちゃん、働きすぎだっての!!今日は休んでオジさんと遊ぼうぜー!!怪我もしてんのに無理しちゃダァメっ!!」
「……!!」
腐っても医者か。
肩の傷に、気付かれてた。
……あ?なんかさっきより、痛くない?
「へっ……、オレのモスキート、なかなか使えるだろ?」
「痛み止め、か?」
「んま、そんなとこだな。仕事もいーけどさ、たまには休まねーと体もたねーぞ?というわけで、週末にはオジさんとデートに……」
「それは行かねぇ」
「あ、そう……」
しょんぼりと項垂れて落ち込んだシャマルを、部屋から押し出す。
「いい加減帰れ」
「本当にダメかー?」
「ダメったらダメだぁ!……肩のことは感謝してる。今度暇なときに会ったら茶くらい付き合ってやるから、今はもう帰れ」
「マジで!?本当!?」
「あ゙ーホントホント……たぶんな」
「絶対だからなっ!!絶対お茶しに行こうなスクアーロちゃん!!」
「うぜぇ!!あとちゃん付けて呼ぶのやめろぉ!!」
「さっきまでは何も言わなかったじゃねーか!?」
「診察が終わってなかったからだ、文句あんのかゴルァ!!」
「現金っ!!」
喚くシャマルを何とか追い出すことに成功する。
さて、件の最終手段に移るか……。
「スクちゃん!本国から準備が整ったって連絡入ったわよ~!!」
「しし、到着は明後日になるってよ」
「了解だぁ」
未来の記憶の中に、素晴らしい才能を持ちながら、若くして病で死にかけた剣士がいた。
その剣士を病から救ったのは、白い悪魔。
「最終手段だぁ。白蘭の平行世界の知識を使って、山本武を復活させるぜぇ……!!」
「そうっすか?」
シモンの聖地へと向かう船の部屋で、ちょこんとイスに座ったツナは、ポツリとそう呟いた。
理由は獄寺の持つモノにある。
「ま、全部記録しておきたいっつって、カメラ渡してくる奴はなかなかいないだろうからな」
「あ、やっぱり?」
「でもアイツ、ボンゴレの掃除屋なんすよね?それってマフィア中のマフィアじゃないんですか?」
「極限よくわからん。奴らはかつてオレ達を殺そうとしてきた敵だったしな」
まあ、そりゃそうなんだけど。
ゴニョゴニョと口の中でそう言葉を転がす。
その時はアイツら全員が恐ろしいだけのマフィアだって思ってたけど、未来の彼らに触れて、今の彼らと話して、恐ろしいマフィアっていうのは、彼らの一面でしかなかったということがわかった。
人は多角的だと、ツナは思う。
オレたちに向ける一面、他の人に向ける一面、自分自身に向ける内面。
それぞれすべて違うんだ。
きっと、炎真達だって、ただボンゴレが憎くいだけであんなに戦っている訳ではないんだ。
誰かを守りたい気持ち、組織への誇り、……復讐への覚悟だって勿論ある。
でもその中に、ひた向きで純粋な彼ら自身が覗けて見えるような気がして、だからツナは思うのだ。
本当の炎真たちと向き合いたいと。
……そしてこんな思いはきっと、スクアーロ達と話せなかったら持てなかったと思う。
「ここに来る前にスクアーロ達と話せて良かったよ」
「ちょっとエロかったしな」
「それ関係ないし!?」
うっかり前日のハプニングを思い出して、全員思い思いの顔色になる。
ツナは顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。
やがて、船は目的の場所へとたどり着いた。
* * *
「っくし!」
「うへー!汚ぇよスクアーロ!!」
「うるせぇ!!なんか背筋ゾクゾクする……」
「やだぁスクちゃん風邪?」
「健康管理が出来てないのだ!!やはりボスの右腕はオレだけ……」
「バカだから風邪引かねぇだけだろ」
「なぬっ!?」
「確かにレヴィが風邪引かないのはバカだからかも知れないけど、」
「なんだと!?」
「健康管理が大事ってのは確かにそうだよ。スクアーロ、君どうせまた寝ないで働いてたんだろ?それじゃあ体も壊すよ」
マーモンに諭されて、微妙な顔で納得したオレと、それを笑うヴァリアーの愉快な仲間達。
オレ達は今、山本の入院している並盛中央病院に向かっていた。
勿論、そのまま歩くと目立つので車で移動している。
……車のトランクからは、がこがこと誰かが暴れる音がしている。
「しし、つか山本武、だいじょーぶなの?腹に穴空いちまったんだろ?」
「どうなんだろうなぁ……」
病院の医者の話だと、峠は越えたが重い後遺症が残るらしい。
このままなら、剣を振るうことはおろか、野球も、歩くことすら難しいらしい。
あれだけ才能に溢れる人間が、と思うと、オレとしても心苦しいのだ。
だから断じて、断じて!今からするのは沢田達のためとかそんなことじゃねぇからな。
「とーちゃーくっ!!しし、マーモンちゃんと隠しとけよ?じゃねーと通報されるからな」
「わかってるよ」
病院の駐車場に車を止めて、未だガタゴトと暴れるトランクに歩み寄った。
レヴィに目配せして開けさせる。
頷き、トランクに手をかけ、無造作にあけたレヴィの腹に、次の瞬間、見事な蹴りが極った。
「ぐげふぅっ!?」
「んでオレがこんな狭いとこに閉じ込められて、運ばれなきゃならねーんだよ!!そして一番最初に見るのはきゃわいい女の子が良かった!!なんだこの提灯アンコウみたいな奴!!」
「ぐふっ……鳩尾に!!おえぇ……」
「汚ぇ……」
「吐くなよオッサン」
「ム……」
レヴィの奴、吐きやがった……。
全員が鼻を摘まんで遠巻きにする。
だがトランクから出てきた男は、手をしっかり結ばれているため、息を止めることしかできなかった。
「うっふ~ん♡レヴィが嫌ならアタシはどうかしら~ん?」
「ゔっ!!は、吐き気が……!」
「どういう意味よ!?」
「声、野太くなってんぞルッスーリア」
「あー!スックアーロちゃーん!!オジさんとちゅーしよーん♪」
「黙れシャマル。それ以上近付いたらお前の腹にも穴開けるからなぁ。」
額に血管を浮かべて、お冠なルッスーリアに押さえ付けられながら、唇をつき出すオッサンに、額を押さえてため息をついた。
「しし、殺っとく?」
「殺らねぇから。オイ、シャマル。今から山本の病室に連れてくから、お前アイツのこと見てやってくれ」
「えー……、オレ男は診たくねぇよ。ま、スクアーロちゃんがオレとちゅーしてくれんなら良いけど~」
「それならアタシがちゅーしてあげるわよん♡」
「ぎゃああああ!!」
汚く悲鳴をあげて倒れこんだシャマルに、ルッスーリアが襲いかかる。
ご愁傷さまである。
「ルッスーリア、遊んでねーでそいつさっさと運ぶぞぉ」
「りょうかぁーい♡」
ルッスーリアの顔がツルツルしている気がする。
反対にシャマルの顔は土気色だ。
ご愁傷さまである。
まだ嘔吐いているレヴィを蹴って急かし、マーモンを先頭にして病室に向かった。
* * *
「お疲れ様です、ヴァリアーの皆様!山本武は現在面会謝絶中となっておりますが……」
「医者を連れてきたぁ。通らせてもらうぞ」
「え、連れてき……え?」
例え、医者と思われる白衣姿の人間がゴツいオカマに俵担ぎにされていようと、顔色が土気色で白目を向いていようと、連れてきたことに変わりはない、はず。
困惑する下っ端の脇を通って病室に入る。
カーテンに囲まれた中に、山本武が横たわっていた。
「……」
「……しし、別人みてーだな」
たくさんのチューブに繋がれた青白い顔色の山本。
あまりの変わりように、言葉を失ってしまった。
つっと頬を撫でる手に伝わってくる体温に、ほんの僅かに安堵した。
「スクアーロちゃーん?なに、ソイツのことそんなに心配してたの?オジさん妬けちゃうなぁ~!」
「くっつくな変態がぁ!!」
山本の顔を覗き込んでいると、背後に近付く気配を感じて咄嗟に防御体制をとる。
シャマルである。
万歳の姿勢で飛び付いてきた野郎の顔を押さえてこれ以上近付いてこないように力一杯遠ざける。
気持ち悪いぞこのオヤジ。
「で、山本のこと見てもらえるのかぁ?」
「だっからー!スクアーロちゃんがちゅーしてくれたら……」
「よし、マーモン。幻術で酒池肉林作戦でいくぞ」
「偽物なんてイヤだ!!スクアーロちゃんがちょっとオジさんにキッスしてくれたら、そんだけで良いんだぜ!?」
絶対にイヤだ。
なんでこんなオッサンに!!
そして徐々にオッサンの顔が近づいてきてる。
ううっ……!これが力の差か!?
「ちゅーっ!!」
「イヤだってぇ、言ってんだ、ろがぁぁああ!!」
「ぷごふっ!?」
すんでのところで頭突きを繰り出し、なんとか引き剥がすことに成功する。
危なかったぜぇ……。
「で、やるのか、やらないのか?」
「ぐすっ、やります……」
「よし」
鼻の頭を押さえながら悶えるシャマルを足蹴にして、無理矢理頷かせる。
さすがオレ。
ピンチはチャンスだったな。
そしてやっと山本に向き直ったシャマルが、スッと表情を引き締めて医者の顔になる。
「これは……」
診察の邪魔をしたくなかったので、オレはカーテンの外に出ておく。
これでもしダメなようなら、最終手段に出るしかないな……。
ちょっと面倒なことになるんだが。
「……おい、終わったぞ」
しばらく経って、出てきたシャマルの顔は曇っている。
診察の結果は予想できてしまった。
「あれはオレには……いや、現在の医療では治せねぇ。どう考えても不可能だ」
「……そうかぁ」
最終手段に、出るしかないってことか。
「わりぃなスクアーロちゃん。力になれなくてよ」
「いや、期待してなかったからな。全く問題はねえ」
「……うん、そっか」
シャマルが項垂れる。
全くもって、笑え……いや、ご愁傷さまである。
こいつには丁重にお帰り願おうか。
「じゃあもう帰って良いぜ」
「え、これだけ!?本当にこれだけのために拉致したの?」
「それ以外にお前に用なんてねぇよ。今からやることあるんだから、さっさと帰れ」
「ヒドッ!!なー折角なんだからオジさんとデートしよーぜー!!」
「他当たれぇ!!」
抱き付こうとしてくるのを、げしげしと踏みつけて遠ざけた。
しつこいなコイツ本当に!!
「な、ちょっとお茶するだけ!!ダメか?」
「っ!!」
スルッと足の下から抜け出し、背後に回ったシャマルに肩を掴まれた。
痛みと気持ち悪さでゾワァッと鳥肌が立つ。
体を捻って抜け出し、ギッと睨んだ。
「何しやがるっ!?」
「えー、ダメ?」
「ちっ!仕事があるんだぁ。さっさと出てけ!」
「スクアーロちゃん、働きすぎだっての!!今日は休んでオジさんと遊ぼうぜー!!怪我もしてんのに無理しちゃダァメっ!!」
「……!!」
腐っても医者か。
肩の傷に、気付かれてた。
……あ?なんかさっきより、痛くない?
「へっ……、オレのモスキート、なかなか使えるだろ?」
「痛み止め、か?」
「んま、そんなとこだな。仕事もいーけどさ、たまには休まねーと体もたねーぞ?というわけで、週末にはオジさんとデートに……」
「それは行かねぇ」
「あ、そう……」
しょんぼりと項垂れて落ち込んだシャマルを、部屋から押し出す。
「いい加減帰れ」
「本当にダメかー?」
「ダメったらダメだぁ!……肩のことは感謝してる。今度暇なときに会ったら茶くらい付き合ってやるから、今はもう帰れ」
「マジで!?本当!?」
「あ゙ーホントホント……たぶんな」
「絶対だからなっ!!絶対お茶しに行こうなスクアーロちゃん!!」
「うぜぇ!!あとちゃん付けて呼ぶのやめろぉ!!」
「さっきまでは何も言わなかったじゃねーか!?」
「診察が終わってなかったからだ、文句あんのかゴルァ!!」
「現金っ!!」
喚くシャマルを何とか追い出すことに成功する。
さて、件の最終手段に移るか……。
「スクちゃん!本国から準備が整ったって連絡入ったわよ~!!」
「しし、到着は明後日になるってよ」
「了解だぁ」
未来の記憶の中に、素晴らしい才能を持ちながら、若くして病で死にかけた剣士がいた。
その剣士を病から救ったのは、白い悪魔。
「最終手段だぁ。白蘭の平行世界の知識を使って、山本武を復活させるぜぇ……!!」