継承式編

空気が凍り付いている。
オレはまず、自分の状況を確認した。
自分の腕の中には、暴れて抜け出そうとしているスクアーロがいる。
自分はそのお腹に手を回して、覆い被さるようになっている。
ドアの前には、その光景を見て固まるツナ達とヴァリアーの皆様。
――男が女を襲うところを目撃しちゃった人たちの図の出来上がりです!!
脳内でキュー○ー3分クッキングのテーマ曲が流れて、女性アシスタントが笑顔で紹介しているが、オレの状況が好転することはない。
ツツッと頬を冷や汗が伝う。
初めに沈黙を破ったのは、ツナだった。

「……お邪魔しました」
「うわぁあ違うぞツナ待った待った!!これは暴れるスクアーロを止めようとして転んだだけで別に押し倒したとか襲おうとしてるわけでは断じてないからな!?」
「なに言ってやがるエロ馬ディーノ。本音は良い匂いするとか思ってんだろ……ってツナが言ってるぞ」
「言ってないし!?」
「思ってねーし!?大体スクアーロからは消毒液の匂いがするし、思ってたより柔らかいなくらいしか思ってね、」
「いやぁぁああ!!うちの子にナニしてんのよ変態!!」

すっ飛んできたルッスーリアに顎を殴られて、呆然と固まっていたスクアーロを連れてかれる。
微かにスクアーロから、ぐはっ!とかいう呻き声が聞こえた気がするんだが大丈夫かあいつ!?

「嫁入り前の女の子に何て事してくれたのよ!!スクちゃんたらショックでぐったりして……」
「いや絶対違うよっ!!なんかバキバキって聞こえましたよ!?」
「あらん?」

力任せに抱きつかれたせいで、ルッスーリアの腕にぐでっと垂れ下がっている。
し、屍のようだ……。

「しし、やっぱサックリ殺っとけば良かったんじゃね?」
「殺るか殺らないかはともかくとして、半裸の女性に気軽に触るのはどうかと思うよ」
「その前にスクちゃん、あなたなんでシャツ着てないのよ?」
「……し、城だから医務室も、あるし、医療器具も、持ってきてたが……、替えの服、なかったんだろ……」
「あー、さっきまで着てたスーツ、傷と血でボロボロだしなー」

そ、そう言えばスクアーロ、上半身は包帯と晒巻いてるだけで何も着てなかったんだよな……。
スクアーロの背中、傷だらけだったけど、白くて肌触りが良かった、な。
今さら思い出して、顔に熱が集まる。

「と、とにかく、スクアーロ服着て!!」
「ねーよ、着る服が」
「……!」

何故か無言のレヴィ・ア・タンが自身のスーツの上着をスクアーロに差し出す。

「あ、助かるぜレヴ……テメーレヴィ、お前何で鼻押さえてんだおいコラ渡すんならこっち向いて渡せコラあ゙あ?」
「くっ……無理だ!!」
「ざけんなこのムッツリ雷親父が出てけ!!」
「もう!怒ってないでさっさと着ちゃってよねん!!」
「シュールだ……」

ツナが漏らした通り、シュールな光景が繰り広げられている。
レヴィ・ア・タンの顔を押さえる指の隙間から赤いものが見えるのはオレの気のせいで良いのだろうか……。
渋々レヴィの上着を受け取ったスクアーロはモゾモゾとそれに袖を通した。
やはり左肩が痛むのか、袖を通すときに少し顔を歪めていた。
そしてスクアーロが上着を着終わったタイミングで、何故か了平が進み出る。
こ、今度はなんだ!?

「感動した……感動したぞスクアーロ!!そのしなやかな筋肉に!!極限にボクシング部に入れ!」
「入れねぇ。帰れ」
「何バカ言ってんだ、芝生メット!!」
「バカではない!ボクシングバカだ!!」

余計にシュールに……!
ああっ!ツナが頭抱えてる!!
誰かこれおさめてくれよ……!!

「……つーか、お前らなんか聞きに来たんじゃねーのかぁ?」

助け船を出したのは、恐らく一番の被害者のスクアーロだった。


 * * *


「で、シモンの奴らの戦闘スタイルについて聞きに来たんだなぁ?」
「はい!」

ようやく場が落ち着き、ヴァリアー達がベッドに座り、ツナ達はイスに座る。
……オレ?
オレは何故か床に正座で座っている。
ルッスーリアいわくお仕置きらしい。
オレ一応キャバッローネのボスなんだけど……、って言葉は華麗にスルーされた。

「まず、古里炎真についてだが、奴は自分達の力を指して『大地の7属性』と言っていた。そこから、あの見えねえ力の正体を推測すると、重力を操る能力じゃねーかと推測できる」
「え、重力!?」
「だがあくまでこりゃ推測だぁ。もしかしたら全く違う能力かもしれん」
「そう、ですか……」

それを聞いて、ツナが不安そうにうつ向いた。
ボンゴレリングをバージョンアップしてVG(ボンゴレギア)を手に入れても、やっぱり未知の力は怖いのだろう。
オレも力を貸したいが……、リングも持たないオレたちじゃ、足手まといになっちまうよな……。

「それから、鈴木アーデルハイトの能力はお前らも目にしただろうが、氷の能力だ。青葉紅葉は鋭い葉のような炎を扱っていたぁ。水野薫は槍のような武器を扱う。機動力には欠けるが、破壊力は凄まじかった。恐らく山本をやったのはあの武器だろうなぁ」
「水野薫が野球バカを……!!」
「SHITT・Pと大山らうじについては、ほぼ防御ばかりだったから具体的な能力はわからねぇ」
「しし、オレSHITT・Pってのと戦ったけど、なんか、んー、溶けた?」
「はぁ!?」
「薬品使いかぁ?」
「あーよくわかんねーけど、あの鉤ヅメみたいな奴の先から液体出てきてナイフ溶かされたんだよな」
「……なるほどなぁ。モノを溶かす能力があるのかもしれねぇ」
「どの人も、とんでもない能力を持ってるんだ……!!」

ツナが拳を握りしめる。
これから戦う敵の強大さに、獄寺達も深刻な顔をしている。
それをみたスクアーロが、ちょっとため息をついてから、乱暴にツナの頭を撫でた。

「うわっ、えと、スクアーロ!?」
「お前ら、ボンゴレリングのバージョンアップしたんだろぉ?」
「え?知ってたの!?」
「跳ね馬に聞いたぁ。未来でもたくさん戦って、強くなったんだろ。根性見せてこいよ、ドカス」
「あ、はい……!!」
「オレもお前なら大丈夫だと思ってるぜ、ツナ。自信もって行ってこいよ」
「ディーノさん……!!」

オレも、ツナの頭をグシャグシャに撫でる。
……正座の罰ゲーム破ったオレへの、ヴァリアーの視線は厳しかったけど。

「ってオイ!ちょっと待てよ!!まだあと一人説明が終わってねーぜ」
「……加藤ジュリーだなぁ」

獄寺の言うように、スクアーロの説明した能力はまだ6人だけ。
加藤ジュリーって奴が残ってた。
そいつの名前を出したスクアーロの顔が、一瞬曇る。
そういや、古里炎真を殺ろうとして加藤ジュリーに防がれてたっけ、スクアーロ。
でもこの顔の曇りはそれだけじゃないようだ。

「……古里炎真やその他の守護者については、お前らが好きにすりゃいい。だが、加藤ジュリーだけは絶対に殺せぇ」
「……え!?それってクロームをさらった奴だけを……?」
「な、何で加藤ジュリーだけ!?」
「極限に納得できん!」
「あの野郎だけは、他のシモンファミリーとは違う気配を纏っていた。血濡れ、腐ったマフィアの臭いがした。……いや、奴からはまるで、腐った死体のような、禍々しい臭いが……」

上手くその様子をいいあらわせないのか、途切れ途切れに紡がれた言葉も、小さくなって消えていく。
顎に手を添えて考え込むスクアーロに、刹那、目が奪われた。
すぐにその姿勢は崩れ、結局当てはまる言葉は見つからなかったのか、緩く首を振った。

「……とにかく、野郎は質が違う。格も、世界も、見てるもんも違う。シモンファミリーと接触して思ったが……、奴らがここまでたどり着いたのは奴らだけの実力じゃあり得ねえ。加藤ジュリーが、全ての鍵になるとオレは感じた」
「スクアーロ、だがそりゃあ、お前個人の勘だろ?」
「ああ、そうだぁ。8年以上、ボンゴレの暗部に関わり続けてきた、オレの勘だぁ」
「……」

リボーンとスクアーロの視線が交差する。
リボーンが、いつものようにニヒルに笑った。

「わかったぞ。加藤ジュリーは注意して見ておく」
「オレ、殺すなんて出来ないけど、絶対に倒すよ。ありがとう、スクアーロ」

スクアーロは少しだけ驚いたような顔をしていた。
同時に肩の力が抜けていった。
それを見てオレの肩からも力が抜ける。
人が力んでんの見ちまうと、こっちも力がはいっちまうよな。
少し表情を和らげたスクアーロが頭を下げて、ツナたちに頼む。

「頼んだぞ」
「ええ!?頭下げなくて良いですから!!てか何で!?」
「スクちゃん真面目だから~」
「継承式を狙うマフィアの殲滅はオレの仕事だった。失敗したことを詫びると共に、シモン討伐、よろしく頼む」

アワアワとツナが慌てながら頭を上げるように頼んでる。
逆にツナを困らせちまってるスクアーロに、笑いながら声を掛けることにした。

「スクアーロ、ツナが困ってんぜ」
「……」
「あ、いやその……。オレ、オレなりに頑張ってみます!!」
「その意気だぜツナ!!信じてるからな……!」
「ぷ、プレッシャー……!」

途端冷や汗をだらだら流し始めたツナに、また部屋に賑やかさが戻った。
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