テスト勉強
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数日後の午後の数学の授業、最後のテスト返却の日。
「はい、次。宮本ー」
先生が名前を呼びながら、一枚ずつ答案用紙を配っていく。教室のあちこちから歓声や悲鳴が上がる。テスト返却も、いよいよ最後の一教科になった。
柔らかな日差しが窓から差し込み、教室の床を明るく照らしている。昼食後の気だるい空気が漂っていた教室にはテストが返却されるたびにざわめきが大きくなっていった。
「やった! 平均超えた!」
「終わった……赤点だ……」
「あと一問合ってれば六十点だったのに!」
笑う者もいれば、机に突っ伏す者もいる。そんな騒がしさの中、私の机にも一枚の答案用紙が置かれた。赤いペンで大きく書かれた数字は――55点。
「……うーん」
赤点ではない。でも、決して満足できる点数でもなかった。答案用紙を眺めながら小さくため息をつくと、斜め前の席からしげるが振り返った。
「どうだった?」
どうやら、しげるとカイジくんは一足先に点数を見せ合っていたらしい。カイジくんは宝くじでも当たったみたいな顔でにこにこしている。
「……五十五点」
そう答えると、しげるは小さく口角を上げた。
「へえ……良かったね、カイジさん」
「……え?」
嫌な予感がした。恐る恐るカイジくんを見ると、本人は待ってましたと言わんばかりに答案用紙を高々と掲げる。
「聞いて驚け!」
妙に胸を張っている。
「数学、五十五点!」
「……」
その瞬間、時間が止まった。教室のざわめきも、先生の声も、一瞬だけ遠くへ消えていく。私の視界には、自分の答案用紙と、カイジくんの答案用紙。そこに並ぶ数字は、まったく同じ。
55点。
「……同じ?」
「ああ!」
カイジくんは誇らしげに大きくうなずいた。
「どうだ! 俺にしてはよくやった方だろう?」
私は自分の答案用紙を見つめる。もう一度見る。やっぱり五十五点だった。
「……うそ」
思わず漏れた声に、カイジくんが目を丸くする。
「なんでそんなショック受けてんだよ!?」
「ち、違うの!」
慌てて両手を振る。
「カイジくんが五十五点取ったことじゃなくて……」
視線は自然と答案用紙へ落ちた。
「私、図書館であれだけ勉強したよね?」
「ああ」
「それで同じ点数って……」
じわじわと悔しさが込み上げてくる。赤点じゃない。だけど、もっと取れたはずだった。そんな私の横で、しげるは頬杖をつきながら二人の答案を見比べ、小さく笑った。
「俺の教えのおかげじゃない?」
「そうだよ」
カイジくんは勢いよくしげるの背中を何度も叩いた。
「ありがとな、しげる!」
「痛いって……」
肩をさすりながら苦笑したしげるは、そのままカイジくんへ質問する。
「そういえば、他の教科は?」
その一言で、カイジくんの笑顔がぴたりと止まった。
「あ……いや、その……」
露骨に目が泳ぐ。
「まあ、平均よりは下だけど……赤点は回避した。うん、回避した」
「じゃあ」
しげるはくすりと笑う。
「俺のおかげっていうより、数学だけ奇跡だったんだ」
そして私の答案へ視線を移し、少しだけ肩をすくめた。
「こんなんだったら、もう一人を重点的に見てあげればよかったかも」
「うぅ……」
私は答案用紙を机へ伏せながら肩を落とす。
「やっぱり私もしげる先生がいないとダメみたい」
「待て待て!」
カイジくんが慌てて身を乗り出した。
「違う! しげるのおかげだ! だから頼む、俺を見捨てないでくれぇ!」
必死に両手を合わせる姿があまりにも情けなくて、私は吹き出してしまう。さっきまでの悔しさも、その笑顔につられるように少しずつ薄れていった。しげるはそんな私たちを見比べると、喉の奥で小さく笑う。
「次は期末だぞー」
教壇から先生の声が飛ぶ。教室には「えーっ」という悲鳴が一斉に上がり、また賑やかな空気が戻ってきた。窓の外では、初夏の風が校庭の木々を静かに揺らしている。
高校生活は、まだ始まったばかり。次のテストも、その次の放課後も、きっとまたこんなふうに三人で笑っているのだろう。そんな気がして、私はそっと答案用紙を鞄へしまった。
「はい、次。宮本ー」
先生が名前を呼びながら、一枚ずつ答案用紙を配っていく。教室のあちこちから歓声や悲鳴が上がる。テスト返却も、いよいよ最後の一教科になった。
柔らかな日差しが窓から差し込み、教室の床を明るく照らしている。昼食後の気だるい空気が漂っていた教室にはテストが返却されるたびにざわめきが大きくなっていった。
「やった! 平均超えた!」
「終わった……赤点だ……」
「あと一問合ってれば六十点だったのに!」
笑う者もいれば、机に突っ伏す者もいる。そんな騒がしさの中、私の机にも一枚の答案用紙が置かれた。赤いペンで大きく書かれた数字は――55点。
「……うーん」
赤点ではない。でも、決して満足できる点数でもなかった。答案用紙を眺めながら小さくため息をつくと、斜め前の席からしげるが振り返った。
「どうだった?」
どうやら、しげるとカイジくんは一足先に点数を見せ合っていたらしい。カイジくんは宝くじでも当たったみたいな顔でにこにこしている。
「……五十五点」
そう答えると、しげるは小さく口角を上げた。
「へえ……良かったね、カイジさん」
「……え?」
嫌な予感がした。恐る恐るカイジくんを見ると、本人は待ってましたと言わんばかりに答案用紙を高々と掲げる。
「聞いて驚け!」
妙に胸を張っている。
「数学、五十五点!」
「……」
その瞬間、時間が止まった。教室のざわめきも、先生の声も、一瞬だけ遠くへ消えていく。私の視界には、自分の答案用紙と、カイジくんの答案用紙。そこに並ぶ数字は、まったく同じ。
55点。
「……同じ?」
「ああ!」
カイジくんは誇らしげに大きくうなずいた。
「どうだ! 俺にしてはよくやった方だろう?」
私は自分の答案用紙を見つめる。もう一度見る。やっぱり五十五点だった。
「……うそ」
思わず漏れた声に、カイジくんが目を丸くする。
「なんでそんなショック受けてんだよ!?」
「ち、違うの!」
慌てて両手を振る。
「カイジくんが五十五点取ったことじゃなくて……」
視線は自然と答案用紙へ落ちた。
「私、図書館であれだけ勉強したよね?」
「ああ」
「それで同じ点数って……」
じわじわと悔しさが込み上げてくる。赤点じゃない。だけど、もっと取れたはずだった。そんな私の横で、しげるは頬杖をつきながら二人の答案を見比べ、小さく笑った。
「俺の教えのおかげじゃない?」
「そうだよ」
カイジくんは勢いよくしげるの背中を何度も叩いた。
「ありがとな、しげる!」
「痛いって……」
肩をさすりながら苦笑したしげるは、そのままカイジくんへ質問する。
「そういえば、他の教科は?」
その一言で、カイジくんの笑顔がぴたりと止まった。
「あ……いや、その……」
露骨に目が泳ぐ。
「まあ、平均よりは下だけど……赤点は回避した。うん、回避した」
「じゃあ」
しげるはくすりと笑う。
「俺のおかげっていうより、数学だけ奇跡だったんだ」
そして私の答案へ視線を移し、少しだけ肩をすくめた。
「こんなんだったら、もう一人を重点的に見てあげればよかったかも」
「うぅ……」
私は答案用紙を机へ伏せながら肩を落とす。
「やっぱり私もしげる先生がいないとダメみたい」
「待て待て!」
カイジくんが慌てて身を乗り出した。
「違う! しげるのおかげだ! だから頼む、俺を見捨てないでくれぇ!」
必死に両手を合わせる姿があまりにも情けなくて、私は吹き出してしまう。さっきまでの悔しさも、その笑顔につられるように少しずつ薄れていった。しげるはそんな私たちを見比べると、喉の奥で小さく笑う。
「次は期末だぞー」
教壇から先生の声が飛ぶ。教室には「えーっ」という悲鳴が一斉に上がり、また賑やかな空気が戻ってきた。窓の外では、初夏の風が校庭の木々を静かに揺らしている。
高校生活は、まだ始まったばかり。次のテストも、その次の放課後も、きっとまたこんなふうに三人で笑っているのだろう。そんな気がして、私はそっと答案用紙を鞄へしまった。
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