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図書館を出る頃には、空はすっかり茜色に染まっていた。
住宅街へ続く道には、どこかの家から夕飯の支度をする匂いが漂っている。窓の向こうから聞こえるテレビの音。自転車で帰っていく近所の人の姿。そんな、どこにでもある夕方の景色の中を、私はカイジくんと並んで歩いていた。
しげるとは、数分前角で別れていた。
「じゃあな」
「また明日」
いつも通りの短いやり取り。しげるはそれ以上何か言うこともなく、片手を軽く上げると、そのまま自分の帰り道へ歩いていった。
その背中をしばらく見送ってから、私は隣へ視線を移す。
……そういえば。
カイジくんと二人で帰るのは、これが初めてだった。高校に入学してから知り合った相手だから、まだ付き合いは数ヶ月ほどしかない。それでも、勉強を教えたり、くだらないことで言い合ったり、気付けばすっかり馴染んでいる。
最初は「大丈夫かな、この人」と思ったこともあったけれど。今では、こうして並んで歩くことに違和感がないくらいには、私たちは友達になっていた。
……とはいえ。
「……」
「……」
二人きりになると、なんとなく変な感じがする。いつもなら、ここにはしげるがいる。三人で歩くことが当たり前になっていたから、一人分空いた隣が妙に広く感じた。
別に気まずいわけではない。ただ、いつもの形と違う。それだけなのに、少しだけ落ち着かない。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと隣を歩くカイジくんの姿が目に入った。
「……あれ?」
「ん?」
私は思わず声を漏らす。
「もしかしてカイジくんって……しげるより背、高い?」
カイジくんは一瞬きょとんとしたあと、ゆっくり口元を緩めた。
「……今さら気付いたのかよ?」
「うん……」
素直に頷くと、カイジくんは呆れたようにため息をつく。
「いや、だって……」
言われてみれば、確かにそうだった。私は首を傾げる。
「なんで今まで気付かなかったんだろう」
答えはすぐに出た。三人で歩く時、いつも自然としげるが真ん中にいたからだ。別に決めたわけじゃない。いつの間にかそうなっていた。だから、こうしてカイジくんと二人で並んで歩いて初めて気付いた。
目線が少しだけ高い。ほんの数センチ。でも、確かにカイジくんの方がしげるより高かった。
「これだけは勝ってるんだよな」
カイジくんは少し得意げに胸を張る。
その顔があまりにも嬉しそうで、私は思わず笑ってしまった。
「そこ、威張るところなの?」
「重要だろ! 身長は!」
「そうかなぁ……」
「そうだよ!」
力強く言い切るカイジくんがおかしくて、私はまた笑う。だが、改めて考えると不思議だった。確かに、数字で見ればカイジくんの方が高い。なのに。
「でもなんでだろう……しげるの方が大きく見える」
カイジくんは少し黙った。そして、納得したように小さく頷く。
「……態度がでかいからじゃね?」
「あぁ……」
思わず深く頷いてしまった。否定できない。しげるは昔からそうだった。何かを大きな声で主張するわけでもない。目立とうとしているわけでもない。なのに、なぜかそこにいるだけで目を引く。周りが勝手に気にしてしまう。
身長じゃない。きっと、そういうものなのだ。
カイジくんが少しだけ得意げに続ける。
「まあでも、身長は勝ってるから」
「それでいいの?」
「いいんだよ」
真剣な顔で言うものだから、余計におかしい。私は肩を揺らして笑った。その時、前を見ると、いつの間にか私の家の前まで来ていた。
「じゃあ、また明日」
「おう。……ちゃんと勉強しろよ」
「カイジくんに言われたくないなぁ」
「今日はしただろ!」
抗議する声を背中で聞きながら玄関へ向かう。振り返ると、カイジくんは私の家の向かいに建つ古びた二階建てのアパートへ入っていった。
夕日に照らされた外階段を上る後ろ姿を見送る。
今日は思ったより勉強が進んだ。……とはいえ、まだ数学には少し不安が残っている。夕飯を食べたら、もう一度問題集を開いてみよう。そう思いながら私は玄関を開けるのだった。
住宅街へ続く道には、どこかの家から夕飯の支度をする匂いが漂っている。窓の向こうから聞こえるテレビの音。自転車で帰っていく近所の人の姿。そんな、どこにでもある夕方の景色の中を、私はカイジくんと並んで歩いていた。
しげるとは、数分前角で別れていた。
「じゃあな」
「また明日」
いつも通りの短いやり取り。しげるはそれ以上何か言うこともなく、片手を軽く上げると、そのまま自分の帰り道へ歩いていった。
その背中をしばらく見送ってから、私は隣へ視線を移す。
……そういえば。
カイジくんと二人で帰るのは、これが初めてだった。高校に入学してから知り合った相手だから、まだ付き合いは数ヶ月ほどしかない。それでも、勉強を教えたり、くだらないことで言い合ったり、気付けばすっかり馴染んでいる。
最初は「大丈夫かな、この人」と思ったこともあったけれど。今では、こうして並んで歩くことに違和感がないくらいには、私たちは友達になっていた。
……とはいえ。
「……」
「……」
二人きりになると、なんとなく変な感じがする。いつもなら、ここにはしげるがいる。三人で歩くことが当たり前になっていたから、一人分空いた隣が妙に広く感じた。
別に気まずいわけではない。ただ、いつもの形と違う。それだけなのに、少しだけ落ち着かない。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと隣を歩くカイジくんの姿が目に入った。
「……あれ?」
「ん?」
私は思わず声を漏らす。
「もしかしてカイジくんって……しげるより背、高い?」
カイジくんは一瞬きょとんとしたあと、ゆっくり口元を緩めた。
「……今さら気付いたのかよ?」
「うん……」
素直に頷くと、カイジくんは呆れたようにため息をつく。
「いや、だって……」
言われてみれば、確かにそうだった。私は首を傾げる。
「なんで今まで気付かなかったんだろう」
答えはすぐに出た。三人で歩く時、いつも自然としげるが真ん中にいたからだ。別に決めたわけじゃない。いつの間にかそうなっていた。だから、こうしてカイジくんと二人で並んで歩いて初めて気付いた。
目線が少しだけ高い。ほんの数センチ。でも、確かにカイジくんの方がしげるより高かった。
「これだけは勝ってるんだよな」
カイジくんは少し得意げに胸を張る。
その顔があまりにも嬉しそうで、私は思わず笑ってしまった。
「そこ、威張るところなの?」
「重要だろ! 身長は!」
「そうかなぁ……」
「そうだよ!」
力強く言い切るカイジくんがおかしくて、私はまた笑う。だが、改めて考えると不思議だった。確かに、数字で見ればカイジくんの方が高い。なのに。
「でもなんでだろう……しげるの方が大きく見える」
カイジくんは少し黙った。そして、納得したように小さく頷く。
「……態度がでかいからじゃね?」
「あぁ……」
思わず深く頷いてしまった。否定できない。しげるは昔からそうだった。何かを大きな声で主張するわけでもない。目立とうとしているわけでもない。なのに、なぜかそこにいるだけで目を引く。周りが勝手に気にしてしまう。
身長じゃない。きっと、そういうものなのだ。
カイジくんが少しだけ得意げに続ける。
「まあでも、身長は勝ってるから」
「それでいいの?」
「いいんだよ」
真剣な顔で言うものだから、余計におかしい。私は肩を揺らして笑った。その時、前を見ると、いつの間にか私の家の前まで来ていた。
「じゃあ、また明日」
「おう。……ちゃんと勉強しろよ」
「カイジくんに言われたくないなぁ」
「今日はしただろ!」
抗議する声を背中で聞きながら玄関へ向かう。振り返ると、カイジくんは私の家の向かいに建つ古びた二階建てのアパートへ入っていった。
夕日に照らされた外階段を上る後ろ姿を見送る。
今日は思ったより勉強が進んだ。……とはいえ、まだ数学には少し不安が残っている。夕飯を食べたら、もう一度問題集を開いてみよう。そう思いながら私は玄関を開けるのだった。
