テスト勉強
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いつもと同じ時間、終礼を告げるチャイムが鳴ると、号令がかかる。それが終わると同時に教室の空気が一気にほどけた。椅子を引く音、筆箱を閉じる音、友達を呼ぶ声。それまで静かに先生の話を聞いていた教室であちらこちらで話が弾む。
「帰りどこ寄る?」
「ファミレスで勉強しようぜ」
あちこちからそんな声が飛び交う。一週間後には高校生になって初めての定期テスト。部活動は今日から休みになり、放課後は誰もが「勉強」という言葉を口にしていた。
私はスクールバッグへ教科書と筆箱をしまいながら、その光景をぼんやり眺める。ついこの間まで入学したばかりだと思っていたのに、もうテストの季節だ。高校生活は思っていたよりもずっと慌ただしくて、毎日があっという間に過ぎていく。
隣でリュックを肩に掛けたしげるが、教室を見回しながら呟いた。
「今日は人が多いね。みんな部活行かないの?」
その瞬間。隣から盛大なため息が聞こえた。
「お前、先生の話聞いてなかったのかよ……」
カイジくんが額に手を当て、大げさに肩を落とす。
「今日から一週間テスト期間。部活は休み。だからみんな勉強すんだよ」
「ああ、そういうこと」
しげるはようやく納得したように頷くと、喉の奥で小さく笑った。
「ククク……じゃあ俺らには関係ねえな」
「いや、あるから」
私は思わず即座に突っ込む。
「テスト受けるのはしげるも一緒でしょ」
「そうだぞ」
カイジくんも腕を組んで何度も頷いた。
「むしろお前らより俺の方が危ないんだからな」
「威張ることじゃないよ、それ」
私が笑いながら言うと、カイジくんは「あーもう!」と頭をかきむしった。少しの沈黙。さっきまで勢いよく騒いでいたカイジくんが、急にそわそわと落ち着かなくなる。何か言いたそうに私としげるを見比べては、口を開いて閉じる。
「……なあ」
ようやく決心したように、カイジくんが口を開いた。
「……今日、一緒に勉強しねえ?」
「え?」
思わずしげると顔を見合わせる。
「カイジくんが勉強?」
「できるの?」
ほとんど同時に同じ言葉が口から出た。
「お前ら失礼だな!?」
勢いよく立ち上がったカイジくんだったが、その威勢も長くは続かない。
「……いや、でもマジなんだ」
今度は打って変わって両手を合わせ、拝むような格好になる。
「頼む! 教えてくれ! また留年したらマジで洒落になんねえ!」
「あんた、この一年の授業二周目だろ」
しげるがとんでもない毒を吐く。
「そこを突くなよぉ……」
カイジくんの肩を落として情けない声を漏らす姿があまりにも必死で、私は思わず吹き出してしまった。普段は口も態度も大きいくせに、勉強の話になると途端に弱気になる。そのギャップがなんだか可笑しい。
「私はもともと勉強する予定だったし、一緒にやろうよ」
「ほんとか!?」
さっきまで今にも泣きそうだった顔が、一瞬でぱっと明るくなる。あまりに分かりやすい変わりように笑ってしまう。
「助かったぁ!」
「でも途中で寝たら置いて帰るからね」
「ぐぬぬ……」
私はスクールバッグを肩へかけながら、どこで勉強するのがいいか考えた。もともとは家で勉強するつもりだった。だが集中するなら図書館のほうがいいだろう。
「じゃあ、家の近くの図書館行こう。あそこ、人も少なくて穴場なの」
「場所は任せる」
カイジくんは、ほっとしたように大きく息を吐いた。私は、隣でぼーっと空を見上げてるしげるへ視線を向ける。
「しげるはどうする?」
いつものしげるなら、答えは決まっている。『めんどくさい』あるいは『帰る』そんな一言で話は終わるはずだった。だから私は、半分は形式的に聞いただけだったのだ。ところが――
「たまには勉強するのも悪くないかもな」
しげるのいつもとは違う回答に、私は思わず動きを止めた。
「……え?」
思わずしげるの顔を見つめる。冗談を言っている様子はない。相変わらず何も考えていないような顔でそのまま何事もなかったかのように教室の出口へ歩き出してしまう。
――珍しい。胸の中に浮かんだのは、その一言だけだった。
普段なら面倒事には誰よりも消極的なしげるが、自分から勉強会についてくるなんて。どういう風の吹き回しだろう。そんな私の戸惑いとは対照的に、カイジくんは仲間が増えたことが素直に嬉しいらしい。
「よっしゃ! 三人なら心強ぇ!」
そう言ってカイジくんはしげるの肩へ腕を回す。しげるは鬱陶しそうにしてはいるが払いのけることはしない。
「暑い」
「冷たいこというなよ~」
教室の外では、さわやかな風が廊下をゆっくり吹き抜けていく。窓の外ではすでに下校している生徒たちの話声が響き、梅雨入り前の青空が校舎の向こうに広がっていた。
向かう先は、家の近くにある図書館の自習室。誰かと一緒に図書館へ向かう放課後が、少しだけ楽しみになるなんて、この時は思ってもいなかった。
「帰りどこ寄る?」
「ファミレスで勉強しようぜ」
あちこちからそんな声が飛び交う。一週間後には高校生になって初めての定期テスト。部活動は今日から休みになり、放課後は誰もが「勉強」という言葉を口にしていた。
私はスクールバッグへ教科書と筆箱をしまいながら、その光景をぼんやり眺める。ついこの間まで入学したばかりだと思っていたのに、もうテストの季節だ。高校生活は思っていたよりもずっと慌ただしくて、毎日があっという間に過ぎていく。
隣でリュックを肩に掛けたしげるが、教室を見回しながら呟いた。
「今日は人が多いね。みんな部活行かないの?」
その瞬間。隣から盛大なため息が聞こえた。
「お前、先生の話聞いてなかったのかよ……」
カイジくんが額に手を当て、大げさに肩を落とす。
「今日から一週間テスト期間。部活は休み。だからみんな勉強すんだよ」
「ああ、そういうこと」
しげるはようやく納得したように頷くと、喉の奥で小さく笑った。
「ククク……じゃあ俺らには関係ねえな」
「いや、あるから」
私は思わず即座に突っ込む。
「テスト受けるのはしげるも一緒でしょ」
「そうだぞ」
カイジくんも腕を組んで何度も頷いた。
「むしろお前らより俺の方が危ないんだからな」
「威張ることじゃないよ、それ」
私が笑いながら言うと、カイジくんは「あーもう!」と頭をかきむしった。少しの沈黙。さっきまで勢いよく騒いでいたカイジくんが、急にそわそわと落ち着かなくなる。何か言いたそうに私としげるを見比べては、口を開いて閉じる。
「……なあ」
ようやく決心したように、カイジくんが口を開いた。
「……今日、一緒に勉強しねえ?」
「え?」
思わずしげると顔を見合わせる。
「カイジくんが勉強?」
「できるの?」
ほとんど同時に同じ言葉が口から出た。
「お前ら失礼だな!?」
勢いよく立ち上がったカイジくんだったが、その威勢も長くは続かない。
「……いや、でもマジなんだ」
今度は打って変わって両手を合わせ、拝むような格好になる。
「頼む! 教えてくれ! また留年したらマジで洒落になんねえ!」
「あんた、この一年の授業二周目だろ」
しげるがとんでもない毒を吐く。
「そこを突くなよぉ……」
カイジくんの肩を落として情けない声を漏らす姿があまりにも必死で、私は思わず吹き出してしまった。普段は口も態度も大きいくせに、勉強の話になると途端に弱気になる。そのギャップがなんだか可笑しい。
「私はもともと勉強する予定だったし、一緒にやろうよ」
「ほんとか!?」
さっきまで今にも泣きそうだった顔が、一瞬でぱっと明るくなる。あまりに分かりやすい変わりように笑ってしまう。
「助かったぁ!」
「でも途中で寝たら置いて帰るからね」
「ぐぬぬ……」
私はスクールバッグを肩へかけながら、どこで勉強するのがいいか考えた。もともとは家で勉強するつもりだった。だが集中するなら図書館のほうがいいだろう。
「じゃあ、家の近くの図書館行こう。あそこ、人も少なくて穴場なの」
「場所は任せる」
カイジくんは、ほっとしたように大きく息を吐いた。私は、隣でぼーっと空を見上げてるしげるへ視線を向ける。
「しげるはどうする?」
いつものしげるなら、答えは決まっている。『めんどくさい』あるいは『帰る』そんな一言で話は終わるはずだった。だから私は、半分は形式的に聞いただけだったのだ。ところが――
「たまには勉強するのも悪くないかもな」
しげるのいつもとは違う回答に、私は思わず動きを止めた。
「……え?」
思わずしげるの顔を見つめる。冗談を言っている様子はない。相変わらず何も考えていないような顔でそのまま何事もなかったかのように教室の出口へ歩き出してしまう。
――珍しい。胸の中に浮かんだのは、その一言だけだった。
普段なら面倒事には誰よりも消極的なしげるが、自分から勉強会についてくるなんて。どういう風の吹き回しだろう。そんな私の戸惑いとは対照的に、カイジくんは仲間が増えたことが素直に嬉しいらしい。
「よっしゃ! 三人なら心強ぇ!」
そう言ってカイジくんはしげるの肩へ腕を回す。しげるは鬱陶しそうにしてはいるが払いのけることはしない。
「暑い」
「冷たいこというなよ~」
教室の外では、さわやかな風が廊下をゆっくり吹き抜けていく。窓の外ではすでに下校している生徒たちの話声が響き、梅雨入り前の青空が校舎の向こうに広がっていた。
向かう先は、家の近くにある図書館の自習室。誰かと一緒に図書館へ向かう放課後が、少しだけ楽しみになるなんて、この時は思ってもいなかった。
