七夕
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梅雨が明けたばかりの空は高く澄み、夏の日差しが長屋の小さな庭へ惜しみなく降り注いでいた。
物干し竿に並ぶ洗濯物が風を受けてゆるやかに揺れ、乾いた布の匂いが陽だまりに溶けていく。
すみれは洗い終えた手ぬぐいをぱん、と小気味よく伸ばし、物干し竿へ掛けた。最後の一枚を干そうと手を伸ばした、その時だった。戸口ががらりと開く音がする。
「ただいま」
聞き慣れた声に振り返ったすみれは、その姿を見た瞬間、思わず目を丸くした。
「おかえり……しげるくん、それ……」
しげるの肩には、自分の背丈よりも大きな笹が担がれていた。青々とした葉がさらさらと揺れ、陽の光を浴びるたび、みずみずしく輝いている。歩くたびに枝先がゆらりと揺れ、長屋の軒先をかすめた。
「タバコ屋のおばちゃんにもらいました。余ったから持ってけって」
あまりにも当然のように言うものだから、すみれは一瞬きょとんとしてしまう。それから笹を見つめ、庭先を吹き抜ける夏の風を感じたところで、ようやく思い至った。
「ああ……今日は七夕だったわね」
朝から近所の子どもたちが笹を抱えて走り回っていた理由にも、ようやく合点がいった。しげるは笹を担いだまま、不思議そうに首を傾げた。
「七夕って、何する日なんですか?」
「笹に飾りをつけて、短冊に願い事を書くのよ」
「願い事……」
聞き慣れない言葉だったのか、しげるは短く繰り返す。すみれは笹の葉をそっと指先で撫でながら、穏やかに笑った。
「七夕はね、一年に一度だけ織姫さまと彦星さまが会える日なの」
葉先が風に揺れ、さらさらと涼しげな音を立てる。
「その日に願い事を書くと、お星さまが願いを聞いてくれるって言われているのよ」
「本当に叶うんですか?」
しげるは笹を見上げたまま尋ねた。すみれは少しだけ考えて、それからくすっと笑う。
「どうかしら。でも、願い事ってね、口にしたり、こうして書いたりすると、不思議と頑張ろうって思えるものなの」
しげるは黙ってすみれの顔を見つめる。
「……そういうものですか」
「そういうものよ」
すみれはにっこり笑うと、ぱんと軽く手を叩いた。
「せっかく笹もあるんだもの。ちょっと待ってて。折り紙、探してくるわ」
そう言い残し、ぱたぱたと家の中へ入っていく。しげるは一人残されると、肩に担いでいた笹を見上げた。さらり、と風が葉を鳴らす。
「願い事……」
小さく呟いたその声は、葉擦れの音に紛れて消えた。
物干し竿に並ぶ洗濯物が風を受けてゆるやかに揺れ、乾いた布の匂いが陽だまりに溶けていく。
すみれは洗い終えた手ぬぐいをぱん、と小気味よく伸ばし、物干し竿へ掛けた。最後の一枚を干そうと手を伸ばした、その時だった。戸口ががらりと開く音がする。
「ただいま」
聞き慣れた声に振り返ったすみれは、その姿を見た瞬間、思わず目を丸くした。
「おかえり……しげるくん、それ……」
しげるの肩には、自分の背丈よりも大きな笹が担がれていた。青々とした葉がさらさらと揺れ、陽の光を浴びるたび、みずみずしく輝いている。歩くたびに枝先がゆらりと揺れ、長屋の軒先をかすめた。
「タバコ屋のおばちゃんにもらいました。余ったから持ってけって」
あまりにも当然のように言うものだから、すみれは一瞬きょとんとしてしまう。それから笹を見つめ、庭先を吹き抜ける夏の風を感じたところで、ようやく思い至った。
「ああ……今日は七夕だったわね」
朝から近所の子どもたちが笹を抱えて走り回っていた理由にも、ようやく合点がいった。しげるは笹を担いだまま、不思議そうに首を傾げた。
「七夕って、何する日なんですか?」
「笹に飾りをつけて、短冊に願い事を書くのよ」
「願い事……」
聞き慣れない言葉だったのか、しげるは短く繰り返す。すみれは笹の葉をそっと指先で撫でながら、穏やかに笑った。
「七夕はね、一年に一度だけ織姫さまと彦星さまが会える日なの」
葉先が風に揺れ、さらさらと涼しげな音を立てる。
「その日に願い事を書くと、お星さまが願いを聞いてくれるって言われているのよ」
「本当に叶うんですか?」
しげるは笹を見上げたまま尋ねた。すみれは少しだけ考えて、それからくすっと笑う。
「どうかしら。でも、願い事ってね、口にしたり、こうして書いたりすると、不思議と頑張ろうって思えるものなの」
しげるは黙ってすみれの顔を見つめる。
「……そういうものですか」
「そういうものよ」
すみれはにっこり笑うと、ぱんと軽く手を叩いた。
「せっかく笹もあるんだもの。ちょっと待ってて。折り紙、探してくるわ」
そう言い残し、ぱたぱたと家の中へ入っていく。しげるは一人残されると、肩に担いでいた笹を見上げた。さらり、と風が葉を鳴らす。
「願い事……」
小さく呟いたその声は、葉擦れの音に紛れて消えた。
