旅行:前半
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二人は、海へと続く道へ向かって歩き出す。
海は、胸の奥に溜まっていたもやもやを、気持ちのいい風と一緒にさらっていくみたいだった。空は高く、雲はまばらで、潮の匂いがはっきりと鼻をくすぐる。
寄せては返す波の音が、一定の調子で続いていて、それだけで気持ちが落ち着いた。
二人は白い砂浜を裸足で歩いている。靴は砂浜に降りる階段へ置いてきた。足の裏に伝わる砂は、まだ少し冷たくて、ところどころ湿っている。踏みしめるたび、くすぐったいような感触が伝わってきた。
しげるに合わせて選んだブルーのワンピースが、風を受けて、裾をひらひらと揺らす。
まだ海に入るには早い季節だ。それでも浜辺の日差しは思った以上に強く、歩いているだけで背中にじんわりと汗が滲む。また風が吹いた。髪が揺れ、潮の匂いが一層濃くなる。
「気持ちいい~」
思わず両手を高く伸ばして、うん、と背中を反らす。
「見て、カニ!」
指さした先で、小さなカニが、慌てたように砂の上を横切っていく。少し後ろを歩いていたしげるが、それを見て、ほんのわずかに口元を緩めた。
波は穏やかに、静かに寄せては返している。
しげるは、そのまま波打ち際へ近づき、そっと足先を水に浸した。
「……冷てぇ」
そう言いながらも、すぐには引っ込めない。水の感触を確かめるように、ゆっくり足を動かしている。
「風邪ひかないでよ~」
「うららさんも来なよ」
何でもない調子で言われて、うららは一瞬、足を止めた。差し出された手を見る。
「冷たいんでしょ?」
「大丈夫だって。ほら」
その声に押されるように、おずおずと手を取った、その瞬間。ぐいっと、思いのほか強く引き寄せられた。
「きゃ」
体勢を崩し、そのまましげるの胸元にぶつかる。一瞬、ふわりと鼻をくすぐったのは、煙草とも潮とも違う、しげるの匂いだった。
「もう……危ないでしょ!」
言葉とは裏腹に、足元が定まらない。ちょうどそのとき、波が押し寄せ、冷たい海水がうららの足首を包み込んだ。
「……っ!!」
息を呑む。しげるが、にやりと少し意地の悪い笑い方をした。
「道ずれ」
「やったわね~!」
今度はうららが、わざと足を動かして水を跳ねさせる。小さな水しぶきが、しげるの足元に散る。しげるも、それに応えるように足を動かした。
「ちょっと!」
ぱしゃっ、ぱしゃっ。
二人の足元で、水面がにわかに騒がしくなる。周囲に人影はない。ただ、海と空と、波の音だけ。足元を洗う水は冷たいのに、日差しはやけにあたたかかった。
数分後。
はあ、と息をつく。
「……そろそろ上がろうか」
「これ以上濡れたら、宿で怒られるかもね」
「もう……最初に入ったの誰よ」
「俺」
悪びれもせず、即答。
「でも、ほんとすごい濡れちゃったね」
「あんたの服も、思ったより濡れてるな」
「あ、ほんとだ……」
視線を落とすと、裾あたりが色を変えている。濃い色だから目立たなかったけれど、近くで見ると、しっかり海水を吸っていた。
「結構気に入ってたのに~」
「ま、自業自得だな」
「元はと言えば、しげるくんが引き寄せるから」
言い返しかけて、そこで言葉が止まる。
手。
ずっと、手をつないだままだった。
今さら気づいたみたいに、指先にじんわりと体温が伝わってくる。離そうと思えば、いつでも離せるはずなのに、しげるの手は緩まない。
……別に、気にしてないけど
そう思い込もうとする自分が、少しおかしかった。視線を逸らし、何でもない顔を装う。じとっと睨みつけると、どこか余裕のある表情で、しげるは肩をすくめるだけだった。
まるで、こちらの動揺など最初からお見通しだと言わんばかりに。
海は、胸の奥に溜まっていたもやもやを、気持ちのいい風と一緒にさらっていくみたいだった。空は高く、雲はまばらで、潮の匂いがはっきりと鼻をくすぐる。
寄せては返す波の音が、一定の調子で続いていて、それだけで気持ちが落ち着いた。
二人は白い砂浜を裸足で歩いている。靴は砂浜に降りる階段へ置いてきた。足の裏に伝わる砂は、まだ少し冷たくて、ところどころ湿っている。踏みしめるたび、くすぐったいような感触が伝わってきた。
しげるに合わせて選んだブルーのワンピースが、風を受けて、裾をひらひらと揺らす。
まだ海に入るには早い季節だ。それでも浜辺の日差しは思った以上に強く、歩いているだけで背中にじんわりと汗が滲む。また風が吹いた。髪が揺れ、潮の匂いが一層濃くなる。
「気持ちいい~」
思わず両手を高く伸ばして、うん、と背中を反らす。
「見て、カニ!」
指さした先で、小さなカニが、慌てたように砂の上を横切っていく。少し後ろを歩いていたしげるが、それを見て、ほんのわずかに口元を緩めた。
波は穏やかに、静かに寄せては返している。
しげるは、そのまま波打ち際へ近づき、そっと足先を水に浸した。
「……冷てぇ」
そう言いながらも、すぐには引っ込めない。水の感触を確かめるように、ゆっくり足を動かしている。
「風邪ひかないでよ~」
「うららさんも来なよ」
何でもない調子で言われて、うららは一瞬、足を止めた。差し出された手を見る。
「冷たいんでしょ?」
「大丈夫だって。ほら」
その声に押されるように、おずおずと手を取った、その瞬間。ぐいっと、思いのほか強く引き寄せられた。
「きゃ」
体勢を崩し、そのまましげるの胸元にぶつかる。一瞬、ふわりと鼻をくすぐったのは、煙草とも潮とも違う、しげるの匂いだった。
「もう……危ないでしょ!」
言葉とは裏腹に、足元が定まらない。ちょうどそのとき、波が押し寄せ、冷たい海水がうららの足首を包み込んだ。
「……っ!!」
息を呑む。しげるが、にやりと少し意地の悪い笑い方をした。
「道ずれ」
「やったわね~!」
今度はうららが、わざと足を動かして水を跳ねさせる。小さな水しぶきが、しげるの足元に散る。しげるも、それに応えるように足を動かした。
「ちょっと!」
ぱしゃっ、ぱしゃっ。
二人の足元で、水面がにわかに騒がしくなる。周囲に人影はない。ただ、海と空と、波の音だけ。足元を洗う水は冷たいのに、日差しはやけにあたたかかった。
数分後。
はあ、と息をつく。
「……そろそろ上がろうか」
「これ以上濡れたら、宿で怒られるかもね」
「もう……最初に入ったの誰よ」
「俺」
悪びれもせず、即答。
「でも、ほんとすごい濡れちゃったね」
「あんたの服も、思ったより濡れてるな」
「あ、ほんとだ……」
視線を落とすと、裾あたりが色を変えている。濃い色だから目立たなかったけれど、近くで見ると、しっかり海水を吸っていた。
「結構気に入ってたのに~」
「ま、自業自得だな」
「元はと言えば、しげるくんが引き寄せるから」
言い返しかけて、そこで言葉が止まる。
手。
ずっと、手をつないだままだった。
今さら気づいたみたいに、指先にじんわりと体温が伝わってくる。離そうと思えば、いつでも離せるはずなのに、しげるの手は緩まない。
……別に、気にしてないけど
そう思い込もうとする自分が、少しおかしかった。視線を逸らし、何でもない顔を装う。じとっと睨みつけると、どこか余裕のある表情で、しげるは肩をすくめるだけだった。
まるで、こちらの動揺など最初からお見通しだと言わんばかりに。
