旅行:前半
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国鉄の車両は、ゆっくりと揺れていた。
ガタン、ゴトン、と規則正しい音が床から伝わってくる。ボックス席内の向かいにはしげるが外を眺めながら煙草を吸っている。連休初日にしてはそれほど混んでおらずゆったりとした時間が流れていた。
木枠の窓。少し曇った硝子越しに、初夏の光が流れ込む。窓の外では、町並みがいつの間にか田畑に変わり、遠くに低い山の稜線が見え隠れしていた。うららは、膝の上で両手を重ね、景色を眺めている。けれど、目に映っているのは、今の風景ばかりではなかった。
――数日前。
夕食後、ほうじ茶を飲みながら一息ついたいた時のこと。しげるが、煙草を指に挟んだまま、まるで思いついたように言った。
「うららさんって仕事休めたりする?」
「日によるけど、どうして?」
「今度の休み泊りでどこか行きません?」
「……え?」
あまりにも唐突で、聞き返すしかなかった。
「泊りって…しげるくんは仕事休めるの?」
「辞めた」
軽い調子。
「ほんとに?」
「嘘ついてどうすんの」
しげるがうららの家に居座るようになって早数日。
今思えばしげるが仕事に行くそぶりは見せていない。うららが仕事に行くころ起き、仕事から帰ってくる頃には家にいた。1度夜遅いときがあったくらいで、しげるはほぼ家にいたのだろう。
「金の心配はしなくていい」
うららが思い返してるを不安で黙ったと勘違いしたのだろう。しげるが言う。
「ぱーっと使おうぜ」
そうは言っても行きたいところ。
頭の中が、一瞬で真っ白になる。しげると二人で、どこかへ行く。しかも泊まりで。そんなこと、考えたこともなかった。
「旅行か…」
言葉に詰まりながら、うららは必死に考える。
ゆったり、それとも観光…。山、海。遠くへ行く列車。どこか、昔から知っている場所。小さい頃、家族で一度だけ行った。宿から見えた海。土産物屋の干物の匂い。夏前になると、なぜか思い出す土地。
「……伊豆」
ぽつりと口にすると、
「いいな」
即答だった。
「しげるくんは行きたいところないの?」
「…ねえな」
「……じゃあ、伊豆で」
「決まり」
その一言で、話は一気に進んだ。なんと切符や宿の手配もしげるが率先して行ってくれたおかげで気づけば出発の日が来ていた。
そして、今。列車は、また大きく揺れる。ガタン、と音を立てて鉄橋を渡る。窓の外に、ちらりと青い色が見えた。
「……海」
思わず、声が漏れる。指先が、そわそわと落ち着かない。ふと視線に気づいて、思わず向かいの席を見る。しげるは窓の外の海ではなく、うららの様子を見ていた。
「……なあに?」
「いや」
しげるは、口の端を少し上げる。
「楽しそうな顔してるなって」
「うん、すごく楽しい」
「そりゃ良かった」
また窓の外に視線を戻す。流れる景色が、少しずつ、海の色を帯びていく。列車の揺れに身を任せながら、うららの胸は、どきどきと、わくわくで満たされていた。
ガタン、ゴトン、と規則正しい音が床から伝わってくる。ボックス席内の向かいにはしげるが外を眺めながら煙草を吸っている。連休初日にしてはそれほど混んでおらずゆったりとした時間が流れていた。
木枠の窓。少し曇った硝子越しに、初夏の光が流れ込む。窓の外では、町並みがいつの間にか田畑に変わり、遠くに低い山の稜線が見え隠れしていた。うららは、膝の上で両手を重ね、景色を眺めている。けれど、目に映っているのは、今の風景ばかりではなかった。
――数日前。
夕食後、ほうじ茶を飲みながら一息ついたいた時のこと。しげるが、煙草を指に挟んだまま、まるで思いついたように言った。
「うららさんって仕事休めたりする?」
「日によるけど、どうして?」
「今度の休み泊りでどこか行きません?」
「……え?」
あまりにも唐突で、聞き返すしかなかった。
「泊りって…しげるくんは仕事休めるの?」
「辞めた」
軽い調子。
「ほんとに?」
「嘘ついてどうすんの」
しげるがうららの家に居座るようになって早数日。
今思えばしげるが仕事に行くそぶりは見せていない。うららが仕事に行くころ起き、仕事から帰ってくる頃には家にいた。1度夜遅いときがあったくらいで、しげるはほぼ家にいたのだろう。
「金の心配はしなくていい」
うららが思い返してるを不安で黙ったと勘違いしたのだろう。しげるが言う。
「ぱーっと使おうぜ」
そうは言っても行きたいところ。
頭の中が、一瞬で真っ白になる。しげると二人で、どこかへ行く。しかも泊まりで。そんなこと、考えたこともなかった。
「旅行か…」
言葉に詰まりながら、うららは必死に考える。
ゆったり、それとも観光…。山、海。遠くへ行く列車。どこか、昔から知っている場所。小さい頃、家族で一度だけ行った。宿から見えた海。土産物屋の干物の匂い。夏前になると、なぜか思い出す土地。
「……伊豆」
ぽつりと口にすると、
「いいな」
即答だった。
「しげるくんは行きたいところないの?」
「…ねえな」
「……じゃあ、伊豆で」
「決まり」
その一言で、話は一気に進んだ。なんと切符や宿の手配もしげるが率先して行ってくれたおかげで気づけば出発の日が来ていた。
そして、今。列車は、また大きく揺れる。ガタン、と音を立てて鉄橋を渡る。窓の外に、ちらりと青い色が見えた。
「……海」
思わず、声が漏れる。指先が、そわそわと落ち着かない。ふと視線に気づいて、思わず向かいの席を見る。しげるは窓の外の海ではなく、うららの様子を見ていた。
「……なあに?」
「いや」
しげるは、口の端を少し上げる。
「楽しそうな顔してるなって」
「うん、すごく楽しい」
「そりゃ良かった」
また窓の外に視線を戻す。流れる景色が、少しずつ、海の色を帯びていく。列車の揺れに身を任せながら、うららの胸は、どきどきと、わくわくで満たされていた。
