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スザク×ルルーシュ


「ゼロ、緊急事態だ。ついて来い」

背後から聞こえた声に振り向けば、金色の目を細め特徴的な緑色の髪を揺らしC.C.が慌ただしく室内へ入って来た。彼女のこんな姿は珍しい。いつも冷静で、にやにやしながら嫌味を言うこともあれば刺すような瞳で痛い所を突いてくることもある。
今日は予定していた会議や食事会は全て済ませていた。日本国首相とブリタニア代表の会議では、ブリタニアと手を取る事を是としない反首相組織が会場に乗り込んで来たが、黒の騎士団をはじめとする護衛団に一瞬にして排除された。こちら側に怪我人はいないし、会議も滞りなく行われた。

「こちらだ。早く来い」

C.C.はそう言うと、思考の中にいたゼロを急かすようにくるりと踵を返して長い廊下を歩いていく。それを慌てて追うように、ゼロは部屋に入った時のままの格好で入ったばかりの部屋を後にした。
C.C.は階段を使い、昇降機を使い、どんどん地下へ降りていく。ゼロが問いかけても一切答えようとしないC.C.に段々と不審な気持ちが沸き上がってくる。C.C.はルルーシュの共犯者だった。だが、二人を見ていると共犯者という枠を超えた別の関係である気がしていた。そして、その関係は自分が踏み入る事が出来ない。

「ここだ」

突然歩くのをやめたかと思うと、彼女は後ろをついて来ていたゼロを振り返り目的の場所についたと言う。しかし、そこは。

「…ここは…」

何もない真っ暗な部屋。椅子も机も窓さえない、まるで牢獄のような部屋だ。地下にこんな部屋があるだなんて知らなかったゼロは、僅かながらに動揺する。そして、その一瞬を待っていたとばかりにシュッと空気を切る音。
自分の頭部に向かってきたソレを寸でのところで避ける。すると、ソレを投げつけた彼女は、チッと大きく舌打ちした。ガランガランッと大きな音が鳴り響き、真っ暗な床に転がったものを見てゼロは目を細め目の前に立つ彼女に警戒心を強めた。

「C.C.…どういうつもりだ?」
「大人しくしていれば痛くしないでやるぞ?」

そう言って彼女は、消化器を持ち上げゼロに突進する。ゼロは姿勢を低く保ち、消化器を持つC.C.の手を素早く払い除ける。パァンッと小気味よい音がし、ついで彼女の腹を打ち動きを止めようとした。

だが。

床に倒れ込んだのはゼロの方だった。
薄れゆく意識の中で、手首を押さえて眉間に皺を寄せるC.C.が誰かと会話している声を聞きとる。おかしい、この場所には人の気配はしなかったのに。

「全く、ヒヤヒヤさせないでよ」
「すまない、助かった」
「枢木卿が相手なんだから、最初から僕に頼めば良かったのに。あ、今はゼロなんだっけ」
「お前が来たという事は、あいつも見ていたのか」
「そうだよ。兄さんのお願いじゃなかったら僕が来る訳ないだろ」
「それもそうだな」

この声の持ち主は死んだ筈だ。確かルルーシュが墓を作ったと言っていた。全てが終わった後、彼から聞いた場所へ一人で行き墓標の前で手を合わせたのも覚えている。その彼が、どうして…
そこまで考え、ゼロの意識はぷつりと途切れた。


ーー

「ねぇ、ロロ。全然起きないわよ?貴方、強く打ち過ぎたんじゃないかしら」
「申し訳ありません、ユーフェミア様。色々思うところがあったもので、つい力が」
「ついって…もう、主役が起きないなんてパーティが始まらないわ」
「いいんじゃないですか。この男はこのままで」
「何を言っているのロロ。あっ、スザク!目を覚ました?」

薄っすら瞼をあげると、そこの明るさに眉間に皺が寄る。しばらくしてもう少し瞼をあげると、懐かしい顔がスザクを見下ろしていた。菫色の瞳に桃色の髪。かつて自分が騎士として仕えたユーフェミア・リ・ブリタニアその人だった。そして、その横には嫌そうな顔を隠しもせずに「もう少し力を入れとくんだった」と物騒な事を呟く、ロロ・ランペルージ。あまりの事態に頭がついていかない。

「…ユ、フィ?…ロロも…これは夢…?」
「久しぶりね、スザク。元気そうでよかったわ」

自身を覗き込んでくるユーフェミアに、ゼロの仮面をつけていないことに漸く気づく。そして、服もゼロのものではなく、何故か日本の浴衣。濃藍色の生地のそれはサラリと肌に馴染む。キョロキョロと周りを見れば、優しい光が降り注ぐ、真っ白な部屋の中で、スザクはこれまた真っ白なベッドで横になっていたようだ。

「主役が起きたから、早速行きましょう」
「行くって…」

どこへ?と続ける前にユーフェミアから手を引かれ、真っ白な部屋から外へ出る。後ろからロロもついて来て、三人で真っ白な廊下を歩けば目の前に、三メートルはありそうな巨大な扉。
さあ、とユーフェミアが促し、指先が扉に触れると扉は自然に開いた。扉の先は懐かしの枢木神社だった。小鳥のさえずり、蝉の鳴き声、ルルーシュとナナリーとスザクが過ごした幸せな短い時間が蘇ってくる。
しかし、目の前の光景は幼き頃を過ごしたものとは違い大勢の人で賑わっていた。まるで、夏祭りのように。

「枢木スザク、起きたのか。楽しんでいけよ」

声をかけた人物は、数十分前に消化器で攻撃してきたC.C.だ。片手にピザを持ち、口元からびよーんと伸びたチーズを舌で器用に巻きとっている。彼女も鴇色の浴衣を着ており、長い髪を一つに結い可愛らしい花かんざしを挿していた。日本の夏祭りに浴衣、ピザという組み合わせに疑問を抱きながら鈍く痛む頭を抑え、必死に状況を把握しようとするスザク。

「なんだ、ユーフェミア様は説明をされていないのか?」

チラリとスザクの後ろにいた彼女を見れば、いつの間にか空色の浴衣に着替えており、屋台に目が釘付けだった。こちらの話なんて聞いていない。はあ、と溜め息をついたC.C.は、

「枢木スザク、そっちのお姫様はお前に任せた。ここは世界の狭間。精々、楽しんで行け」

ひらひらと手を振ってC.C.は人ごみに消えていく。与えられた情報は余りにも少ない。だが、肌に感じる空気も人々の熱気も現実としてスザクを迎え入れる。頭が追いついていないが、今のところはこの状況を楽しむか。そう思い、目をキラキラさせているユーフェミアの手をそっととる。

「案内するよ、ユフィ」
「ありがとう、スザク」

ふわりと笑う彼女はあの頃のままで。翡翠の瞳を潤ませたスザクは、そこでロロが居なくなっていることに気づく。

「ロロなら、主催者のお手伝いに行きましたよ」

スザクの疑問にユーフェミアが答える。主催者?この状況を計画した人物がいるということか。ユーフェミアはそれ以上は答えず、早く早くとスザクの手を引く。その皇族らしからぬ行動と無邪気な笑顔に、初めてユーフェミアと会った時を思い出しスザクの口元は自然に緩んだ。

二人は大勢の人で賑わう中を並んで歩いた。ユーフェミアは、初めて見るものばかりのようで子供の様に目を輝かせ、ぐいぐいとスザクの手を引っ張って行く。

「スザク、これは何?」

彼女が指した先には射的があった。

「彼氏さん、彼女にいいとこ見せてやれよ」

自分の父親くらいの年代のおじさんから声をかけられ、ユーフェミアも目を輝かせているものだからスザクの手は射撃用の銃をスッととり、構えた。弾は全部で五つ。

「ユフィ、欲しいものはある?」
「じゃあ、アメジスト色の石が入った腕輪を」
「イエスユアハイネス」

自然と口から出た返事に、ユーフェミアは驚きながらも嬉しそうに微笑む。パンッと小気味いい音がして、狙った腕輪がころんと落ちた。

「にいちゃん、すげーな!」

成り行きを見守っていたギャラリーから声がかかる。

「次は?」
「え、えっと…翡翠色の石が入ったネックレス」

またもやネックレスが落ちる。

「次は?」
「えっと……一等のぬいぐるみ」

ユーフェミアが指差したのは、景品の真ん中にどーんと居座る熊のぬいぐるみだ。そこそこ大きいもので、弾五つで取れるのかも怪しい。

「イエスユアハイネス」

スザクはパンッパンッと連続で打ち、最後の一発をぬいぐるみの眉間辺りに打ち込んだ。ぬいぐるみがぐらりと傾き、ころんと落ちる。
ギャラリーがワッと歓声に包まれ、皆は拍手喝采、店主は「大赤字だ…」と肩を落としていた。

「すごいわっスザク!ありがとう」

余程嬉しいのか興奮からか、ユーフェミアは頰を赤らめ熊のぬいぐるみに抱きついている。それを見てスザクも嬉しくなる。あの時出来なかった、こんなにも穏やかな時間を過ごす事が出来たこの世界に心の内で感謝した。


ーー


「ユフィ!C.C.が探しておられたぞ」

声がした方を振り向けば、白藤色の浴衣を着たクロヴィス・ラ・ブリタニアが手を振りながら此方へ歩いてくるところだった。

「すぐ参ります」

スザクに「また後でね」と言い残し、クロヴィスと入れ違いでこの場を去っていく。

「久しぶりだな、枢木卿。私が選んだ浴衣もよく似合っているじゃないか」

頭から足先まで一通り視線を動かし、クロヴィスは云々と唸っている。

「し、失礼しました」

スザクは慌てて皇族に対する礼をとるが、クロヴィスがそれを制す。

「ここでは皇族も関係ない。私は死人だ。この世界はあの子が望んだままの世界。心地いいものだね」
「…あの子、とは?」

聞き返せば紺碧の瞳を優しく細め、視線をついっと動かした。それにつられ視線の方を見れば、ぼんやりとした暖かな光の中にひっそりと小さな東屋がたっているのが見えた。

「あの子が君を待っている。行ってあげなさい」

背中を押すように言われ、スザクは一歩ずつ東屋へ歩いていく。一つ、二つの提灯のみの灯りで儚げに東屋は建っていた。そこで遠くに視線を向けていた人物が、近づいてきたスザクに顔を向ける。

「スザク」

その人物は、最後に見た顔のままで。薄く笑みを浮かべて優しくスザクの名を呼んだ。

「…ルルーシュ」

彼も浴衣を着ていた。紫黒色の浴衣は闇に溶けてしまいそうだが、白緑の帯がそれを許さない。浴衣の裾にあしらわれた淡藤色の装飾が、彼の嘘に隠された優しく脆い本質を表しているようだ。

「楽しめたか?」

アメジストの瞳を優しく細める彼の隣に座る。

「これは、君が?」

そう問えば、ルルーシュはきょとんとした顔をした。

「…C.C.やロロから聞いたんじゃないのか」
「彼等はここは世界の狭間だと。君が計画したのか?」
「そうだ」

この世界で出会った人物はC.C.を除いて、亡くなった人ばかりだった。恐らく祭りの出店などを出していた人達も、戦闘に巻き込まれた人達なのだろう。しかし、皆一様に笑顔だった。

「食うか?」

そう言って、ずいっと目の前に出されたのはいちごのシロップがたっぷりかけられたかき氷だった。それを見てから、そういえばここ数時間食事はおろか水さえ摂っていなかった事を思い出し、ありがとうと受け取る。かき氷なんて久しぶりだ。幼い頃、ルルーシュとナナリーと三人でSPの目を盗んで夏祭りに行ったことがあった。初めて見る光景にルルーシュは目をキラキラさせて、見えないナナリーも祭りの雰囲気と熱気にわくわくしていた。三人で気がすむまで思いっきり遊んだ、とても幸せな時間だった。
シャクシャクと氷の粒を咀嚼する音が響く。スザクがかき氷を食べている間、ルルーシュはそんな彼をじいっと見ていた。

「…そんなに見られると食べづらいよ」
「……いや、美味そうに食べるなと思って」
「君も食べる?」

ストローの口を切り取り、スプーン状になったもので掬い、ルルーシュの口の前に持っていく。彼は一瞬躊躇したようだったが、ぱくりといちご味のかき氷を口に含んだ。

「…甘い」
「美味しいでしょ」

かき氷はどんどん溶けてしまう。カップの底の方では既に溶けた氷の粒が、いちごシロップと混ざり合って甘ったるいジュースのようになっている。それを喉を鳴らして飲めば、ルルーシュはそんなスザクをまたじいっと見つめていた。

「ご馳走さまでした」

あっという間に空っぽになり、体が潤ったことを感じ思いのほか渇いていた事に気づく。夜とはいえ、ここは真夏だ。サラサラとした風は涼しいが、大気を包む空気はジメッと暑い。どこからか虫の鳴き声も聞こえる。こんなに穏やかな時間はいつぶりだろう。


ーー


「……そろそろ、だな」
「…?」

ルルーシュが何も見えない真っ暗な空を見つめ、数秒が経つ。スザクがルルーシュに声をかけようとした、その時。
ヒュルルルルーと空を割るかのような高い音。次いでドォオオンと大きな音と共に夜空に咲く大輪の花。真っ白なそれは、金色に色を変え、キラキラと光の粒を煌めかせながら夜空にとけていく。その美しさにスザクは言葉を失い、花火に魅入られたように身体も硬直した。
次いで、赤、青、黄、桃とカラフルで小ぶりな花火が次々と上がる。瞬きする事も惜しい、というようにスザクは目が離せなかった。
その時、ふわりと空気が動きスザクの頰に柔らかな何かが当たった。連続して上がっていた花火が途切れた時で、思わず隣を見れば薄暗い中でも分かるくらい頰を赤らめたルルーシュがいた。

「……とう」
「え?」
「………っ、誕生日おめでとう」
「……え?」
「聞こえなかったのか?誕生日おめでとうって言ったんだよ」
「え…?誕生日…?」
「お前、自分の誕生日も忘れたのか」

緊張して損をした、とルルーシュは呟く。

「そっか…今日は七月十日…」
「ああ」
「この為に僕をここへ?」
「そうだ」

隣で微笑んでいるルルーシュを思いっきり抱きしめる。途端に、痛い痛い!と暴れるので少し力を弱め彼の肩に額をのせた。

「……ほんと、君ってずるいな」
「狡い?」
「うん、敵わないよ」
「よく分からんが、喜んでくれて良かった」

肩にのせた額を上げ、アメジストの瞳を見つめる。その瞬きを柔らかいが、意思の強さを感じる。その瞳が好きだと言ったら、君はどんな顔をするだろう。

「…ルルーシュ、キスしていい?」
「……!聞くなっ、馬鹿」

二人の唇がそっと触れ合い、直ぐ離れた。恥ずかしそうに顔を背けるルルーシュの顎を掴み、今度は深く口づける。

「んんっ、…ふぁ…」

絡み合う舌と舌。厚い舌がルルーシュの口内を犯す。柔らかな舌先を吸い上げ、歯列をなぞる。舌を絡めながら、指先で真っ赤な耳を愛撫すればルルーシュの身体から力が抜け、スザクの大きな手が支えた。
その時、ヒュルルーと高い音が聞こえたので名残惜しげに唇を離す。くたりと力が抜けたルルーシュを自身の胸に抱きしめ、真っ暗な空を見上げればドォオオンと白い大輪の花。それは紫、翡翠色、金色に色を変え、夜空にきえていった。

「……この日の為に特注で作ったんだ」
「すごく、綺麗だったよ。ありがとう、ルルーシュ」

未だ力が抜けているルルーシュの漆黒の髪に唇を寄せる。途端にふわりと香る彼の香りに、一旦火がついた身体はクラリとするが、その先は現れた人物が許さなかった。

「兄さんから離れろ!」

いつの間に間合いに入ったのか。殺気を隠しもせずゴリ、とスザクの頭部に銃口を突きつける。

「…ロロ、やめなさい」
「はい、兄さん」

スザクの腕の中でルルーシュが呻くように制止の声をかければ、銃口は直ぐ離れた。

「お前は本当に喧嘩っ早いな」
「ロロが喧嘩っ早いのは枢木卿に対してだけだと思うがな」
「スザクったら、本当にルルーシュが好きなのね。妬けちゃうわ」

暗がりからC.C.とクロヴィス、ユーフェミアが苦笑を浮かべながら出て来た。三人とも祭りを楽しんだようで頭にはお面、両手には焼きそば、たこ焼き、りんご飴とたくさんの食べ物。

「みんなも、ありがとう。礼を言う」

スザクの腕から離れたルルーシュがそう言うと、ロロ、C.C.、ユーフェミア、クロヴィスは嬉しそうに笑った。


ーー


「そろそろ夜が明ける。スザク、戻るぞ」
「ちょっと待って、ルルーシュ。そういえば僕の身体ってどうなってるの?」
「仮死状態になっている筈だ。C.C.に一服盛られたんだろう?」
「いや、消火器で襲われたんだけど」
「は?……おい、C.C.どういう事だ。俺はお前にきちんと薬を渡したぞ」

椅子に座り、ユーフェミア、クロヴィスとたこ焼きを頬張っているC.C.をギロリと睨むルルーシュ。

「ああ、確かに貰った。これだろう?」

そう言って取り出したのは小さな小瓶。ガラスの中でちゃぷん、と青い液体が揺れていた。

「何故使っていない?」
「色々、思うところがあってな。一発殴ってやろうとしたんだが、流石に避けられた」
「相手はスザクだ。だからこそ、無味無臭で即効性のある物を渡したんだぞ!」
「分かっている。分かってはいたんだが、気づいたら消火器を振り上げていてな。止められなかった」

悪びれる事なく事実を告げるC.C.。

「本当に危なかったんだよ、兄さん。僕が入ったから、C.C.は捻挫程度で済んだけど」

やはりあの時、ロロはあの場にいたのだ。ロロが時間停止のギアスを持つ事を知ってるスザクは、気づかぬ内に背後を取られ気を失わせられた事も殺気を隠しもしてないのに間合いに入られた訳にも合点がいった。

「ちっ、来年は計画を見直さねば…」
「来年もしてくれるの?」

計画通りに行かなかった事を悔しそうにするルルーシュが零した言葉を、聞き逃さないとばかりにスザクが拾った。
それを何でもないとでもいうように、ああと軽く返事をし、

「来年は今年より豪華にするつもりだ。楽しみにしておけ」

挑発的な笑みと共に驚きに目を見張る翡翠の瞳を見つめた。

「あ、大切な言葉を言ってなかったわ」

ユーフェミアが思い出した様に口にし、たこ焼きを飲み込んだC.C.が椅子から立ち上がりユーフェミアもそれに習う。ユーフェミアの隣にクロヴィスが立ち、C.C.の隣にロロが立つ。
そしてユーフェミアが、せーのっと声をかけ四人が声を揃えて、

「Happy Birthday !スザク!」

と言い、ルルーシュが続けるように、

「生まれてきてくれて、ありがとう。お前と過ごした時間は俺の宝物だ」

と優しい笑みと共に告げた。その言葉に、スザクは視界が歪むのを感じ、隠すようにルルーシュの肩に額を押しつけた。






「じゃあ、またな。スザク」
「最高のプレゼントありがとう、ルルーシュ。来年君に会えるのを楽しみにしてるよ」
「はいはい。今度は忘れるんじゃないぞ」
「忘れないさ。君が祝ってくれるんだから」

頰に、ちゅっとキスを送れば馬鹿っ人前で!と焦るルルーシュを腕の中に閉じ込めた。それを少し離れたところから見ていたC.C.とロロは、来年も奇襲をかけようとタッグを組んだ。

「枢木スザク、時間だ。行くぞ」

絡み合ったままの二人に容赦なく近づき、C.C.はジロとスザクを鋭い瞳で睨みつけた。

「わたしがお前をあちら側へ送る。だが、その前にこれを」

渡されたのは青い液体が入った例の小瓶。躊躇うことなく全部を口に入れたスザクは、ごくんと飲みほした。途端にぐらりと揺れた視界は、あっという間に真っ暗になった。








「おい、ゼロ。起きられるか?」

呼びかけに答えるように瞼を押し上げれば、裸眼で見るのとは違う少し色がくすんだ景色に、ゼロの仮面をつけている事を知る。ゆっくりと上体を起こせば、痛むところは特にないようで直ぐに立ち上がったゼロに、C.C.は少し驚いた顔をする。

「すごい効き目だな。仮死状態の後遺症も無いとは」
「来年はすぐに薬を飲ませてくれるかい?C.C.」
「ふん、お前わたしがそんな優しい女だと思うのか?」
「……思わないけど」
「だったらいい。来年も楽しみにしてるぞ」

ひらひらと手を振り昇降機へと繋がる廊下を歩き出すC.C.に、ゼロは重い溜め息を零した。






Happy Birthday !Suzaku!
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