見上げた空は何色か
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「最近楽しそうだな、ナナリー」
「はい、お兄さま。新しいお友達が出来たのです」
「友達?」
嬉しそうに笑いながら朝食を食べる妹をルルーシュは訝しむ。この枢木神社にいる人間は限られている。外部の人間は本殿には入るがこんな見窄らしい土倉には、寄りつこうとしない。そんな中、ナナリーに友達が出来たという。枢木の人間か?
「どんな人なんだ?」
「とても可愛らしい声をしていて、双子なんです。お兄さまともお話ししたいと言ってましたよ」
自分がスザクと二人で出かけるようになってから、一人で待つナナリーが気がかりだったが、そこを狙ったかのように現れた人物。警戒しない訳がない。
「ナナリーの友達なら、僕も会いたいな。次はいつ会えるんだ?」
「えぇっと…いつも約束とかしないので…。ごめんなさい、お兄さま。次会えた時に聞いてみます」
「ああ」
そこまで話して朝食を済ませた二人。ルルーシュは二人分の食器を洗う為、近くの川へ向かった。兄がいなくなったのを見計らってかはたまた偶然か、ナナリーを呼ぶ声がした。
「ナナリー様、おはようございます」
「あっtwins!おはようございます、今あなた達の事を話していたのよ」
「我らの?」
「あら、サラ一人?」
きょとんとした様子の人物に、ナナリーは笑いかける。まだ片手で数えるくらいしか話していないが、気さくに呼び合う位には気を許していた。そして最初は全く区別がつかなかったが、今となっては声だけでロロとサラを見分けていた。
「はい、ロロは陛下にご報告を」
「そう。以前、お兄さまともお話ししたいって言っていたでしょう?お兄さまにお話ししたら、是非にって。それで、いつがいいかしら…」
考え込むナナリーを他所に、サラは話が通じるだろうかと思案する。彼はブリタニア帝国を憎んでいる。その皇帝である実父もだ。その皇帝の命でここへ来たtwinsを果たして受け入れてくれるだろうか。
「ナナリー様、出来ればナナリー様とルルーシュ様とでお話し出来ればと存じます。枢木スザク殿はまた別の機会に。彼はブリタニア帝国を嫌っています。我らの容姿を見ても受け入れてはくれないでしょう」
「スザクさんは…大丈夫です。わたしはあんなに優しい日本人を知りません」
「ナナリー様…」
そこで、誰かが歩いてくる音が聞こえた。サラは手に持っていたバイザーを被り、音がする方へ意識と視線を向ける。ナナリーの横に立ち、出入り口である扉が開くのを待った。
「ナナリー?話し声がしたけど、スザクか?」
扉を開けて入って来たのは食器を洗い終わったルルーシュだ。ルルーシュは、ナナリーの横に立つバイザーで顔を隠した人物に目を止めると、当たり前だが警戒心剥き出しで叫んだ。
「誰だ?!ナナリーから離れろっ」
「お兄さま?!違います、この方は…!」
パリンと食器が割れる音。次いでサラとナナリーの間を割るように殴りかかってきたルルーシュは、出した手を引っ込める事無く勢いのままにサラを殴りつけた。
ゴッという骨を殴る音に堪らずナナリーが叫ぶ。
「やめてください!この方はわたしのお友達です、どうか殴らないでください!」
「とも、だち…?こんな怪しい格好のやつが…?」
殴られた頰を赤くし、ゆらりと立ち上がったサラはただただルルーシュを見つめた。
背格好を見ても男女の区別はつかない。バイザーをしているので顔も確認出来ないが、ふんわりとした髪の毛はナナリーのそれに似ている。しかし、その服装はナナリーが着ているようなワンピースなどでは無く、どちらかというと軍人が着るような機動性を重視したもの。そして、ただ立っているだけなのに妙に迫力がありルルーシュは蛇に睨まれた蛙のようにその場から動けなかった。
「ルルーシュ!何かあったのか?!」
その金縛りのようなものが解けたのは、スザクが飛び込んで来てくれたおかげだった。土倉に入ったスザクは、出入り口のすぐ側に立っている見たことのない人物とナナリーを守るように立つルルーシュを交互に見て、キッと怪しげな人物を睨みつけた。
「何者だ?枢木の人間じゃないな。誰の許可を得てここにいる?」
「スザクさん、やめてください!その方はわたしのお友達です」
明らかに敵意剥き出しのスザクに、慌ててナナリーは叫ぶ。だが、スザクはそれでも警戒心を解くことはない。
「ナナリー様、お話しはまたの機会に致しましょう。この状況では…」
「それを決めるのはお前じゃない」
なんとかこの場を切りぬけようとしたサラをスザクが制止する。…枢木スザク、思った以上に面倒だ。はぁと溜息をついたサラは恐らく近くにいるであろう、ロロを思う。さて、どうしたらいいか。
「お兄さま、スザクさん。その方はわたしのお友達です。わたしは目が見えないので、その方がどんな容姿なのか分かりません。ですが、その方はいつも楽しいお話を聞かせてくださいました。わたしとお兄さまの身の上話も全部知っています。そして、彼女たちの身の上話も話してくださいました。彼女たちはわたし達の味方です」
「彼女たち…?」
発せられた問いは誰のものだったのか。
ふと空気が揺れ、人の気配にスザクが外を振り返れば土倉の中に居る人物と全く同じ背格好の人物がスザクの背後に立っていた。ぞわりとした悪寒を感じ、ルルーシュの側へと離れる。背後につかれるまで全く気配がしなかった。それがスザクの危機感を強めた。
「twins、何か指示はありましたか?」
凛とした声はナナリーのもの。彼女は兄にもスザクにも見せたことのなかった、皇族として人を従える風格を漂わせていた。
「ナナリー…?」
戸惑ったような声はルルーシュ。今迄見たことのなかった妹の姿。歩けない、目も見えないのにそれを物ともせず前を向く彼女は自分の知らない女の子だった。
そして、ナナリーが発した言葉の意味もどれだけ頭を回転させても理解出来ない。
「はい、皇帝陛下よりナナリー様とルルーシュ様を護るようにと」
「皇帝だと?!」
即座に反応したのはルルーシュ。
「お前たち…あいつの指示で来たのか」
「はい」
「僕とナナリーの監視のために」
「はい」
「お前たちは、僕たちのこの小さな世界までも奪うのか」
「…いいえ」
三つめの質問には少し返答まで時間があった。
ロロが皇帝に近況報告をした時、思わぬ指示があった。
『……以上です』
『ご苦労。twinsよ、儂のひとり言を聞いてくれるか。…儂は一国の王だ。儂の言葉一つで多くの人間が死ぬ。それは王としてこの国に君臨した頃より心得ていたことだ。…だが、儂は王であると同時に父でもある。儂が愛した妻は先立ってしまったが…マリアンヌが遺した子を、儂は……twins、儂の代わりとなってあの子らを護るのだ。全ての憎しみから』
『………イエス、ユアマジェスティ』
そこで通信は途切れた。
いつもの陛下らしくない。最初に思ったのはそれだった。もしかしたら、ずっと睨み合いを続けていたブリタニアと日本が戦争に…?人質がいるのに?しかし、ルルーシュとナナリーは皇位継承権を剥奪されている。人質としての価値があるのかも怪しかったが、先ほどの皇帝の言葉から事態は動くのだと予想される。
考えながら歩いていたら土倉の中から言い争う声。そっと中を覗けば、ナナリー、ルルーシュ、スザク、そしてサラの姿。胸の中で溜息をついたロロは、気配を消してスザクの背後に回ったのだった。
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