見上げた空は何色か
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ちちち…と小鳥の鳴き声。木々に囲まれた道なき道を二人の子供が歩いている。目的地は枢木神社。皇帝から命を受け、二人はルルーシュ皇子とナナリー皇女に接触を図ろうとしていた。
「…ふぅ、日本は暑いなあ」
「サラ、大丈夫?休憩しようか?」
隣を歩く自分と同じ顔をした少年も額に薄っすら汗をかいている。サラは手に持った小さな水筒をパカリと開け、こくりと喉を鳴らすと足を止めることなくロロに水筒を渡した。彼も足を止めることなく喉を鳴らして、水を飲む。
と、その時子供達が争うような声を聞き、二人はそっと気配を消し、声の場所に近づいた。
「ブリキ野郎が!日本から出て行け!」
どうやら一人の男の子を数人が囲っているらしい。男の子は動かず、ただじっと嵐が過ぎ去るのを待っているようで、殴られて蹴られても抵抗することもしない。
「ロロ、あれって…」
「うん、資料通り彼の方がルルーシュ皇子だ」
二人は子供達の死角に身を隠し、状況を把握しようとしていた。と、その時、
「お前ら!ルルーシュを虐めるな!」
力強い声と共に木刀を持った少年が駆けてきた。少年はすぐさま子供達を追い払うと、じっと動かなかった少年を見て声をかけている。
少年は差し出された手を払いのけると、足を引きずりながら枢木神社前の長い階段を登っていく。残された少年は、ぐっと拳を握るとルルーシュの後を追って行った。
「…あの子が枢木スザク?」
「うん、そうみたい」
彼はルルーシュ皇子を守っているように見えた。虐めていた子供達と同じ日本人なのに。しかも彼は日本国首相の息子だ。ブリタニア帝国の元皇子を守る理由なんてあるのだろうか。
「あとは、ナナリー皇女か」
二人は枢木神社前の長い階段を見て、散らばるように立っている日本国のSPに気づかれないように上へ向かった。
ーー
彼らは小さな土倉に居た。簡素で小さな車椅子に乗った少女が、心配そうに傷だらけのルルーシュを見つめている。ルルーシュは自分で傷の手当てをし、それを眉間に皺を寄せながら枢木スザクが見守っていた。彼の手には救急箱が握られていたが、使用した形跡はない。ルルーシュは傷口を洗い、菌を流すと清潔な布で傷口を覆った。それを確認したスザクは、土倉を後にした。
「お兄さま、大丈夫ですか?」
「どうってことないよ、ナナリー」
それは強がりだ。ルルーシュが引きずっていた足は踝辺りが赤く腫れている。腕と頰のすり傷は、消毒を施せば大丈夫だろう。スザクが戻って来ないのを確認したサラは、近づこうと足を踏み出した。が、それは止められた。
「まだ駄目だサラ。ルルーシュ皇子は警戒を解かれていない」
早口に言ったロロが、サラを制止するとガサガサと音がしてスザクが氷が入った袋を持って戻ってきた。どうやらルルーシュの足を冷やす為に、氷を取りに行ったようだった。
サラはロロの隣に座りなおすと、氷を受け取ろうとしないルルーシュを見つめ、今後の事を考え始めた。
ーー
それから数ヶ月が経ち、意気投合したスザクとルルーシュは度々土倉から離れることが増えた。それまで長い時間離れる事がなかったナナリーだが、寂しさを抑え兄に友人が出来た事を嬉しく思う。
今日も今日とて、スザクとルルーシュは二人で向日葵畑へ駆けて行った。お土産に一番大きな向日葵を持って帰ると言って。笑顔で二人を見送ったナナリーは、ふと土倉の中の空気が揺れたのを感じた。
「……?どなたかいらっしゃるのですか?」
今まで感じたことのない気配に、ナナリーは不安そうに眉を寄せる。悪意は感じられない。ただじっと自分を見ている気がする。この場にいない兄を思い、どうしようかと思案していた時、
「…はじめまして、ナナリー皇女殿下」
声がかけられた。
それは自分と同じ子供の声。ただそれだけだったのに、ナナリーは警戒を解いていた。
「わたしを知っているのですね?あなたは…?」
そこでまた空気が揺れた。人数が増えたようだ。
「我らの事はtwinsとお呼びください」
「ツインズ…?双子、なのですか?」
「はい、殿下」
交互に聞こえる声は同じもの。だが気配は二つ。目が見えていた頃なら、目の前に立つ二人の姿も確認出来たのに。見えない事が悔しい。
「あの…その殿下という呼び方やめていただけませんか?わたしは…もう皇女ではありません」
「では、ナナリー様」
twinsは、ナナリーの事情を知っているのだろう。特に疑問に思うこともなく、呼び方を改めた。
「わたしに何かご用ですか?生憎、何も持っていないのですが…」
相手が敵なのか味方なのか分からない状況では、相手を刺激することはしたくない。ナナリーは言葉を選びながら慎重に声を発する。
「ナナリー様が日本に来られてから、ずっと行動を見させて頂きました。我らはシャルル皇帝より命を受け、貴女とルルーシュ様を監視していたのです」
「か、んし…?お父さまが…」
一気に不安が増す。
自分達は人質として日本に来た。枢木神社に来てからは首相が用意したSPが目を光らせており、枢木神社の敷地内からは出れた試しがない。元より、足が不自由なナナリーは脱走しようとも出来なかったのだが。
「ナナリー様、我らは敵ではありません。貴女を傷つけるつもりもありません。こうやって貴女の前に姿を現したのは、貴女と話がしたかったから」
「お話し…?わたしと…?」
未だ不安そうなナナリーを安心させるように、二人はナナリーの前に跪く。そして、そっと手を重ねた。一瞬びくりと震えたナナリーだが、すぐに落ちつきを取り戻す。握られた手は、兄より少し小さく温かな手だった。