スザク×ルルーシュ
「………なあ、スザク」
「……なんだい?ルルーシュ」
カリカリカリカリ……
2人が持つペンが紙の上を走っていく。監視役の教師が退出したタイミングで、ペンの動きを止める事なくルルーシュが同じく紙に書き続けているスザクに声をかけた。
現在、2人は補習中だ。日頃から授業を欠席することが多い2人。見兼ねた教師が2人を呼び出し、こうして補習を受けさせている。
「どうしてあの時、俺を起こさなかった?」
ルルーシュの声音は若干、苛ついているようだ。そして、あの時というのはほんの数時間の出来事。そう、スザクとルルーシュが2人で木陰ですやすやと寝ていた時だ。
問われたスザクは、え、えーっと…と言葉に詰まる。確かに自分はすやすやと眠るルルーシュを起こさなかった。始業を告げるチャイムが鳴っていたにもかかわらずだ。
出来事は数時間前に遡る。
ーーー
「?!」
自分の目と鼻の先に眠るルルーシュに、スザクは言葉が出てこない。しかも自分の腕はルルーシュの肩を抱き込んでいたのだ。
(…え?!僕いつの間に寝て…ってルルーシュも一緒に寝てる?いつ来たんだろ…)
とそこで数十分前に自ら親友の肩を抱き込み、昼寝に誘ったことを思い出す。
(…そうだった…一緒に寝ようって言ったんだっけ)
目の前の親友は、そよ風にサラサラの髪を遊ばせながら珍しいほど熟睡しているようだ。その安心しきったような顔に思わずスザクは笑みを浮かべる。
そぉっと抱き込んでいた腕を退ければ、触れていたぬくもりがなくなった為かルルーシュが身動ぎする。しかし、木漏れ日の下すぐにまた夢の中へ行ってしまったようだ。
その様子を翡翠の瞳が頬杖をつきながら見ていた。
(こういう時間っていいなぁ…)
遠くでチャイムの音が聞こえる。
「あ、やばっ…!」
慌てて隣で眠るルルーシュを起こそうとした時、一際大きな風が2人の間を駆け抜けていく。ザアッという音と共に漆黒の髪が流れ、薄く笑みを浮かべて眠る親友に目が釘付けになってしまう。
スザクは自分でも殆ど無意識に影を落とした長い睫毛を持つルルーシュの瞼に、そっと唇を落とした。唇に柔らかな体温を感じ、バッと唇を離す。
(ぼ、僕は……何を……)
思わず自分の唇を抑え、そしてたった今触れたルルーシュの瞼を凝視してしまう。惹かれたのだ。吸い寄せられたといってもいいのかも知れない。
ルルーシュの顔を見たまま、暫く固まっていたスザクだったがその視線は薄く開く唇へと移っていく。
(…い、いや駄目でしょ…僕たちは友達なんだから…)
「……ん…スザ…ク…」
それはただの寝言。
けれど、スザクの理性を壊すには十分だった。それでも無理矢理押さえつける事はしない。そっと宝物に触れるように、自らの唇を押し当てた。
(………ここが外じゃなかったらヤバかった)
自分のこの気持ちが何を指すのか。この行動の意味もきちんと理解していないのに、止まらない欲。
ブラウン色の髪をぐしゃぐしゃにして、スザクは頭を抱え終業のチャイムが鳴り終わるまで蹲っていた。
ーーー
そして今に至る。
ちなみにルルーシュが起きたのは、風が冷えてきた放課後近くのこと。数分間の昼寝のつもりが1時間以上寝ていたことに驚きを隠せないが、それよりも軍の仕事がなければ授業をサボったりしない友人が側にいたのに、起こされなかった事に驚き腹を立てた。
「スザク?聞いてるのか?」
俯いたまま返事をしないスザクに業を煮やしたのか、ルルーシュは席を立ちスザクの前に屈んだ。
「……っ!」
「?」
陰ったことで思わず顔を上げれば目の前にはルルーシュの顔。そして宝物を扱うようにそっと触れた唇。自分の中でまだ答えは出ていない。
目が合ったと思ったら固まってしまったスザクを前に訝しんだルルーシュは、頰をぺチッと叩くつもりで手を伸ばす。
「ランペルージ君!」
ガラッと音と共に退出した教師が戻ってくる。
「堂々とカンニングですか?」
ツカツカと教師がこちらに歩いてくる。ルルーシュはそれを聞き、スッと答案用紙を持ち教師へ歩いていった。
「いえ、先生。ちょうど出来たので退出しようてしてた所ですよ」
教師に渡された用紙には答えがびっしりと書かれている。それを見て、よろしい。と教師も満足そうに頷く。
ルルーシュは鞄を持ち、出入り口まで歩き自然な動きで扉の前で止まった。
そこまでをスザクは教師に気づかれない程度に目で追う。スザクのその動きもルルーシュは気づいているのだろう。自身の制服の襟を摘むとクイッと上へ持ち上げ視線はスザクへ、口元には笑みを浮かべて教室から出て行く。
(……くそっまだ答えは出ていないのに…)
ルルーシュの一連の動きをスザクは最後まで見ていた。だからこそ2人だけの暗号にも気づき、頭を抱えてしまう。
答案用紙を出したら、屋上へ向かう。そこに彼が待っている。絶対先ほどの問いに答えろと言われるのであろう。そこまで分かっているのに、行きたいような行きたくないような。
スザクはなるべく時間をかけて、目の前の問題を解いていく。けれど、ルルーシュを前にして答えは出るのだろうか。
end