翡翠色のきみ
名前
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人は彼の事をマッドサイエンティストと呼ぶ。KMFのパイロットを『パーツ』と呼び、最新のKMFの開発にしか興味無い。とはいえ生きている人間に興味がない訳でもないらしく、彼は相手の深いところを突いてきたり意味深な言葉を投げかけたりする。それなりに関わってきたスザクでさえ、彼の事はよく分からない部分が多かった。
しかし今現在、カタカタと無心になってパソコンにデータを打ち続けていた彼は、スザクが学園から帰ってくると「おかえり〜」と間伸びした声で迎える。どうやら周りが見えないほど集中していた訳ではないらしい。ギシっと椅子の背もたれに体重をかけ、セシル・クルーミーがいれたであろうコーヒーを一口啜って、途端に顔が青くなった。
「…ただいま戻りました」
顔が青くなったまま口の中のものを飲み込んだロイド・アスプルンドは、スザクにチラリと視線を向け、口元に人差し指を当てる。どうやら内緒にしろという合図らしい。ロイドはコーヒーらしきものが入ったカップを持つと、そのまま流しに捨てていた。
今、特別派遣嚮導技術部のトレーラーにはロイドとスザクの二人だけだ。セシルは別用で出ているらしい。カップに水を入れ、口内を濯いでいるロイドをチラリと見てからスザクはランスロットのパイロットスーツに着替え始めた。そしてややゲッソリした表情のロイドが、キッチンから出てきた所で話しかけた。
「ロイドさん、」
「ん〜?」
「 ……サラ・ユズリハ卿は、どんな方なんですか」
スザクが持つサラに関する情報は余りにも少なかった。ルルーシュやナナリーの友人である事、ナイトオブラウンズに所属している事、異端のナイトメアに乗る事、何故かは分からないが動物に変身できる事、そして……自分と同じ意志を持っている事。
ロイドは変人と揶揄される事は多いが伯爵位をもつれっきとした貴族であり、軍を長いこと支えてきたらしいのでスザクよりも情報に長けていると思ったのだ。
「……ユズリハ卿?」
問われたロイドはジーっとスザクを見やり、うーんと天井を仰いだ。しばらく考えていたようだったが、徐に口を開く。
「ユズリハ卿に関しては謎が多くてね〜。僕も多くの事は知らないんだ。ナイトオブラウンズにいつ入ったかも分からなくて、彼女がラウンズに与えられている筈のマントを着ているところを見たことも無いし」
「え?」
てっきり自分が持つ情報+αくらいを期待していたのだが、まるっきり違う情報を聞かされる。
「ルルーシュ殿下とナナリー皇女とは彼等がアリエス宮にいた頃からの付き合いみたいで、ユーフェミア皇女の幼馴染らしい。あとは……ニ年前のナガサキ侵攻作戦の時に、当時乗っていたナイトメアを壊されてユズリハ卿本人も生死を彷徨うほどの怪我をしたみたい。それまでの彼女は『ブリタニアの蒼い暴君』って呼ばれていてね〜、敵に対して容赦なかったよ」
ロイドは当時を思い出すように視線を遠くにやりながら目を細めた。
「彼女のナイトメアはラクシャータのものだけど全身真っ青なナイトメアで、特別小さなナイトメアだったよ。槍も剣も持たない異例のKMFで、僕も最初見た時はどうやって戦うのか分からなかった」
スザクが乗るランスロットには、両腕に搭載されたブレイズルミナス、腕部と腰部に計4基装備された強化型スラッシュハーケン、MVS、ヴァリスがある。それらが何もないという事だろうか。
「彼女は…サラは、どうやって戦ったんですか?」
続きを促すようにスザクが問うとロイドは遠くを見ていた視線をスザクに戻し、面白いものを見つけた時のような、にんまりとした笑みを浮かべ言い放った。
「彼女の強さは、超接近戦にあったんだ」
日本には攻撃してきた相手の力を利用し、捌き、技を返すことで、相手を投げ飛ばしたり抑え込むことができてしまう合気道という武道がある。サラの戦い方は正にそれだった。対人間であってもその武道は、老人が若者に触れることなく抑え込むことが出来てしまう。それがナイトメア対ナイトメアだったら。向かってくるナイトメアが如何に高性能で如何に大きくても、サラを前にしたらそのナイトメアは指先を動かす前に地面に伏せられ行動不能まで壊されたのだという。そこから彼女は『ブリタニアの蒼い暴君』と呼ばれた。
ブリタニア出身であるサラが、何故日本の武道を心得ているのかは分からないが合気道を武器にしているのであれば、武器を持たない理由も小型のナイトメアに乗る理由も理解出来た。そして、スザクがテスト操縦で乗った真っ白な異端のナイトメアの存在も。
「彼女は全てが異端で異質だ。でも、優秀なパーツだと思うよ〜。僕も彼女の情報は欲しいんだ」
ロイドがそこまで言った所で、トレーラーのドアがシュンと音を立てて開いた。入ってきた人物を見て、ロイドは嬉しそうににんまりと笑いスザクは目を丸くした。
「あ、スザク君。帰ってたのね、おかえりなさい」
「ロイド伯爵、久しぶりー。スザクもおかえり〜でいいのかな?」
扉の向こうから現れたのはセシルと渦中の人物であるサラだった。突然の事にスザクは「あ…た、ただいま」と返すだけで精一杯だった。
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