翡翠色のきみ
名前
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しんどかった。
というのがスザクの感想だった。結果的に銃弾をほぼ避けたスザクだったが、自分が乗るランスロットとは違い自身の筋肉を使い、かつ周りの状況を分析し思考する力も判断する力も自分が持ちうる全ての力を使って操縦するその機体は、向かってくる銃弾を避けるだけでも身体への負担は大きかったのだ。何より初めて乗る機体だ。同調率云々の前に、もっと確認する事があるんじゃないのか。
コックピットから出て来たスザクは、いの一番にルルーシュに詰め寄る。
「本当に壊す気だったのか?」
発射された銃弾の数は、実戦で受けるような数で。しかもグラスゴーを操縦しているパイロットも訓練を受けた兵士のようだった。スザクへ銃口を向け、決して逸らさず、全弾を撃ち尽くした。
「お前なら避けると思ったから撃ったんだ。結果的にお前は避けた。それでいいだろう?」
悪びれる様子もなく言い放つルルーシュに、スザクはグッと拳を握る。幼い時からの親友ではあるが、こういう所では必ずといっていいほど相容れない。お互い譲れないものがあるからだ。尚も言い募ろうとしたスザクに、誰かの足音が聞こえた。コツコツと固い床をやや早足で歩いてくるその人物は、スザクと対面しているルルーシュを見つけると、あっと嬉しそうな声を出した。
「ルルーシュ!会議が早く終わったから例のナイトメア見に来たよ!」
その明るい声にスザクが振り向けば、真っ白な長い髪が目に入る。透き通った海を思わせる水色の瞳に、小さな耳には翡翠のピアス。あの時の猫を思い出し、スザクの瞳が驚きに見開かれた。
スザクの姿を見とめたサラも驚いて足を止める。暫く二人は声も出さず見つめ合っていた。
「サラ、今テスト操縦が終わった所なんだ」
ルルーシュの声に、二人はハッと金縛りが解けたようだ。そっか…とサラは、ルルーシュに返事をしスザクに向き直る。
「はじめまして、でいいかな?サラ・ユズリハです。ナイトオブラウンズに所属してます。サラって呼んで!よろしくね」
「く、枢木スザクです。自分は准尉です」
彼女の明るい声と笑顔に、スザクはどもりながらも自己紹介をした。するとサラは、にこっと笑いパイロットスーツのままのスザクに、もしかして…と話しかけた。
「あなたがあのナイトメアに乗ったの?どうだった?動きやすかった?」
「こいつは随分大変そうだったぞ」
スザクが答える前に、ずっと黙って見ていたルルーシュが答える。ルルーシュの答えにサラはふむふむと頷き、ねえ、とスザクの手をとった。
「スザクって呼んでいい?あのナイトメア、一応わたしが乗る予定なの。だから教えて?」
そう言って、先ほどまでスザクが乗っていたナイトメアまで引っ張っていく。いろんな事が頭の中をぐるぐるして、思考が回らないスザクはサラに引っ張られるがままに歩を進める。
スザクより頭一つ分小さい彼女は、小柄に見えるのにスザクを引っ張っる力は強く、よく見ればタンクトップ風なラウンズの制服からはほどよく筋肉がついた腕がのぞいていた。会いたかった人と会えたからかサラと繋ぐ手に熱が集まる。
そして二人でナイトメアの足元まで来て、さてと…とサラはスザクに向き直った。繋がれた手は離され、スザクは無意識に気分が沈む。意思の強そうな水色の瞳がスザクを映した。
「このナイトメアはデバイザーの神経とナイトメアの神経を繋ぐんだけど、従来のナイトメアとは操縦方法も違うから慣れるまで大変だよね。それともルルーシュがまた無茶な要求したの?」
「は、はい。あ、えーっと自分の身体の動きと同じようにナイトメアも動きましたので、銃弾を避けるのに全神経を集中させました。腕と足に一発ずつ被弾しましたが、他は全て避けました」
上司に報告するように話すスザクにサラは眉を顰めた。
「……スザク、あなた歳はいくつ?」
「自分は十七であります」
「なんだ、年上じゃない。立場的には、わたしは上司にあたるのかも知れないけど敬語なんていらないわ。ふつーに話して。ふつーに」
サラはそう言うがスザクは戸惑ったように、え…えーっと…と視線を彷徨わせた。ナイトオブラウンズは皇帝直属の騎士だ。軍内では最高位にあたる。
「サラ、スザクは真面目だからな。俺とお前が話すような普通の会話は難しいかもしれんぞ」
いつの間にかラクシャータと話していたルルーシュが、急に顔を上げ割り込んできた。そしてスザクに、ふんっと小馬鹿にしたような笑みを向ける。それにすぐ様反応したスザクは、
「そんな事ないよ、ルルーシュ。じゃあ遠慮なくサラって呼ばせてもらうね」
「わあ、うれしい!」
にこりとサラに笑みを向け、スザクがそう言えば本当に嬉しそうにサラが笑うから、スザクは顔に熱が集まるのを感じた。
「あれ?スザク、顔赤いよ?」
「な、なんでもないよっ」
顔を近づけ、覗き込もうとするサラを必死に回避するスザク。その様子にルルーシュが珍しく察したのかニヤニヤしていた。
「時にルルーシュ、銃弾ってなんの事?貴方まさか適合検査もしてないスザクに発砲したっていうの?」
怒りを含んだ、やや低めの声でサラはニヤニヤしていたルルーシュを睨みつけた。その睨みもルルーシュはサラリと流そうとする。
「俺には確信があった。ランスロットの適合検査をオールSでクリアしたスザクなら、万が一ということもないだろう」
「だからって…貴方のことだからスザクにろくな説明もしないまま、ナイトメアに乗せたんでしょう?」
「こいつにナイトメアの説明をした所で意味はない。こいつは頭で考えるより体が動くやつだからな」
「だから、そうじゃなくて!このテストの一連の動きと射撃するなら、その確認も!」
サラの声がだんだん荒々しくなっていくのをスザクは隣でポカンと見ていた。今まで色んなルルーシュの兄弟達(母親は違えど父親は一緒なので、百人はいるであろう人達は皆兄弟と捉えるらしい)を見てきたが、同じ皇族である彼等でさえルルーシュに嚙みつこうとする人はいなかった。彼等は、ルルーシュに口で敵わない事を知っている。
サラの返答に、なんだそんな事かとルルーシュは肩を竦めた。その仕草がサラの逆鱗に触れてしまったらしい。
「いつも言ってるでしょ?!貴方は結果だけ見てるけど、そこに至るまでの過程が大事なの!間違ったやり方で得た結果に意味なんて…」
サラの声が遠くに聞こえる。スザクは雷にうたれたようにその場から動けなかった。その考えは、まるで自分そのものだったから。
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