翡翠色のきみ
名前
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「お迎えにあがりました。お姫様」
そう言ってジノ・ヴァインベルグは恭しくお辞儀をした。ナナリーが抱くサラに向けて。
突然現れたナイトオブラウンズに、場に緊張感が漂うが当のジノ本人は気にした様子もなく。
「おや?ナナリー様もご一緒でしたか」
「おはようございます、ジノさん」
ナナリーがにこりと微笑めば、ジノもにこりと微笑む。ナナリーは世間には隠しているが皇族だ。皇帝直属の騎士であるナイトオブラウンズが知っているのも、当たり前である。
「サラを、迎えに来たのですか?」
ナナリーがそう問えば、ジノはピクリと肩を揺らしサラを睨むようにじぃと視線を送る。その視線には、何でバレてんだよ!という彼の怒りがこれでもかというほど込められていた。
それに対してサラは、ごめんごめんと悪びれた様子もなく呑気に欠伸をした。すいっとジノが腕を差し出せば、ナナリーから離れたサラはジノの肩に乗る。
「ナナリー様、今仰った事はどうか御内密に。この能力は、まだ皇帝陛下と我々ナイトオブラウンズしか知りません。この事はここだけの話にして頂きたい」
君もね。とジノは終始無言のスザクへ視線を送った。敬礼をとっているから、一般人ではない。それにこの顔……枢木スザク准尉だったか?
「分かりました。他言はいたしません」
ナナリーの返事を聞いて満足したのか、失礼しますと綺麗なお辞儀をしてジノはその場から去って行った。途中一度だけ肩に乗ったサラが振り返り、尻尾をゆらりと揺らす。それにナナリーが笑顔で手を振った。
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「全く!貴女って人は!わたしがどれだけ心配したと思ってるんですか!」
「……はい、ごめんなさい」
アリエス宮に戻ったサラはというと、こっ酷くユーフェミアから怒られていた。笛を鳴らしたというのに待ち人はいつまで待っても来ない。もしかして攫われた?事故にでもあって動けないんじゃ…!と悪い予感は次々と浮かんでくる。いてもたっても居られなくなったユーフェミアは、会議前の父親であるシャルルを取っ捕まえてナイトオブラウンズを貸して欲しいと頼んだのだった。ユーフェミアの血相を変えた姿に緊急だと思ったのだろう。シャルルは二つ返事で了承してくれ、丁度側に控えていたジノを行かせたのだった。しかし、迎えに行ってみれば探し人はナナリー姫の膝で寛いでいる。しかも、ただの猫の姿であったのに正体がバレている。これで怒らない人はいないだろう。
「暫くギアスを使う事を禁じます!貴女の主であるシャルル皇帝からも了承を得ていますからね!」
「イエスユアハイネス…」
今回の件は、全面的に自分が悪い。サラはちゃんと自覚していた。猫の姿であった事で油断していたのだ。翡翠のピアスでまさかナナリーにバレるとは。シンプルで気に入っていたが世界に一つのだけの一点物だったなんて。
パタンとユーフェミアの部屋を後にすると、テクテクと長い廊下を歩き出す。次はシャルル皇帝からの説教だ。足が重くなるが、仕方ない。
サラは踵を返そうとする足を叱咤して、謁見の間へ向かった。
まあ、結論から言うとシャルル皇帝は怒ってはいなかった。後ろに控えたビスマルクの方が怒っていたくらいだ。シャルル皇帝は、可愛い娘のような存在であるサラに対して激甘で今回の事も、気をつけるんだぞの一言で終わった。その後にビスマルクからネチネチ小言を言われたが、その対処も心掛けているので台風が通り過ぎるのを静かに待つのみである。
「時にサラよ」
「はっ」
ビスマルクの小言が一息ついた所に皇帝がサラに声をかける。
「来月予定のKMFの大会には出るのか?」
そういえばそうだった。来月は、神聖ブリタニア帝国の歴史的大会であるKMFの技術を競う大会があるのだ。通例であれば個人の技術を競うものだが、今回は三人一組のチーム戦である。
そしてナイトオブラウンズは、個々の戦力が高いのでこういった大会には出場出来ないのだが、今回はそれも免除されている。なんでも普段戦う事のないナイトオブラウンズに挑みたいという、命知らずな輩が多数いるのだという。戦場で共に戦わなければ、その実力を知る機会はほぼ無いと言っていい。なので、そういった輩が出て来ても不思議ではないのかもしれない。
「はい。今ラクシャータが試験体を作ってまして、その機体に乗ろうと思ってます」
「そうか。期待しておるぞ」
「イエスユアマジェスティ」
サラは深く頭を下げ、一歩下がって敬礼をとりその場を後にした。
廊下を出た所でジノに捕まる。
「サラ、試験体ってなんの事だよ?」
「……盗み聞きしてたの?」
ジロリと自分より背の高い青年を見やれば、その視線も軽くかわしサラに歩幅を合わせてついてくる。
「今からラクシャータの所に行くのか?ついて行ってもいいだろ?」
拒否権を与えない物言いに、はぁ〜と溜め息をつけばそれを了承と取ったようでにんまり笑いながら、後ろをついてくる。
ガチャンと仰々しい音を響かせてたどり着いた先は、ラクシャータが管理するKMFの研究所だ。ナイトオブラウンズのKMFもここで整備点検されている。何体ものKMFが並び立つ中を、サラは迷う事なく一ヶ所を目指す。サラが立ち止まって先にあるKMFを見たジノは言葉を失った。そこにあったのは今まで見てきたKMFとはあまりにも異質なものだったのだ。
「あら?ヴァインベルグ卿、いらっしゃい」
ジノに気づいたラクシャータが声をかけ、異質のKMFを見て固まっている様子に気づき笑みを深めた。
「E.U.の技術者と会談する機会があってね〜見よう見まねで作ってみたの」
煙管を器用に指で弄びながらラクシャータは笑う。見よう見まねで作ったとは思えないが、事実そうなのであろう。まさか技術者もこんなに簡単に技術を奪われたとは思っていないかも知れない。
そのKMFは、従来のKMFと比べるとかなり小型で完全なる人型であった。E.U.のものはインセクト・モードという虫型に変型出来るそうなのだが、そこまでは出来なかったらしくラクシャータが作ったものは機動性の高い対KMF用の戦闘機だった。
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