翡翠色のきみ
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ルルーシュは眉間に皺を寄せている。
何故かと言えば、朝から友人である枢木スザクの様子が変だからである。朝、おはようと挨拶した時も一拍遅れてから、おはようと言われこの時点で何かおかしいとは思ったのだが、授業中や休み時間など何気なく観察すれば、急に頭を抱えブンブン振ったかと思えば大きな溜息。一体どうしたと言うのだろう。暫くすれば、スザク側から何かアクションがあると思っていたが、そこまで頭が回らないのだろうかほぼ一日中ぼんやりしていた。仕方ないので、二人だけの暗号を使い屋上に呼んでみたのが放課後になってからの話だ。
ガチャリと扉が開く音がして、どんよりとした空気を纏ったスザクが歩いてくる。その様子にルルーシュは相変わらず眉間に皺を寄せたままだ。
「お前、今日一日どうしたんだ?」
「え、僕そんなに酷かった?」
心配そうに尋ねれば、心底驚いたような声を上げる始末。
「この世の終わりみたいな顔してたぞ」
そう返せば、またどんよりとした空気を纏ってしまう。暫く二人の間に沈黙が流れた。ふと校庭を見れば、陸上部だろうか。掛け声が聞こえる。そちらに視線をやり、どうしたものかとルルーシュが思案しているとポツリとスザクが呟いた。
「昨日……一目惚れしたんだ」
「は?」
軍で何かあったのかと心配していたが、そうではなかった様子。にしても、一目惚れくらいで何故そんなに落ち込んでいるのか分からない。
「へぇ、どんな子だ?」
とりあえず思った事を聞いてみる。しかし、ルルーシュの問いにスザクはまた黙ってしまった。皇族か?身分が違い過ぎて落ち込んでいるのか?そう聞こうと思い、口を開いたルルーシュだがスザクが発した言葉に今度はルルーシュが黙ってしまう。
「……………猫、なんだ」
……………は?こいつ…日頃から人間離れしているとは思っていたが、本当に人類卒業したのか。というのがルルーシュの感想であった。勿論、口には出していなかったが少なからず顔には出てしまったようで、スザクはまた落ち込む。
「そうだよね…自分でも頭おかしいんじゃないかって思ってるんだ。けど…」
頭から離れないんだ。と小さく呟く友人に、何と声をかけていいかルルーシュは考える。
「お前が猫好きなのは知っていたが…一目惚れとはな…」
一目惚れとはどういう感覚なのだろう。生まれてこのかた一目惚れというものを経験した事のないルルーシュには、この相談自体難解なものだった。
「どんな子なんだ?」
否定も肯定もせず、純粋に気になった事を聞いてみる。するとスザクは、否定されなかった事が余程嬉しかったのか思い出すように話し出した。
「真っ白なふわふわの毛並みをしててね、淡い水色の目をしてたんだ。それだけでも珍しいのに、耳に翡翠のピアスをしてたんだ。どこかの飼い猫だと思ったんだけど……すごく人間慣れしてたからね」
そこまで一気に話し、隣に立つルルーシュを見れば何か考え込んでいるようだった。
「ルルーシュ?」
「あ、いや……(白い毛並みに水色の瞳…翡翠のピアスだと?最近、軍に新たなギアスに目覚めた者がいると聞いたが…いや、まさかな…しかし…)」
ギアスについては皇帝とナイトオブラウンズそして一部の皇族にしか知らされていない、国家機密だ。それを今、ブリタニア軍所属で准尉であってもスザクに話す訳にはいかなかった。
だが、ルルーシュには白い髪で水色の瞳、翡翠のピアスを持つ人物に心当たりがあった。その人物が、新たなギアスに目覚めた人物と同一であったなら……スザクは、猫に恋した人類卒業者というレッテルを外す事が出来る。
「その子とはどこで会ったんだ?」
「えっと…うちの近くの公園だけど…まさかルルーシュ、知ってるの?」
スザクの答えを聞いて、合点がいったように口元に笑みを浮かべたルルーシュにスザクは詰め寄った。
「ルルーシュ、猫に知り合いいたの?」
「正確にはその子は猫じゃない」
「へ?」
え、何どういう事?とスザクはパニックになっている。
「おそらく明日、また会えるだろう。今度は最初に会った公園から2キロ先の広場ってとこか」
「何それ?予言?」
一目惚れした子は猫じゃないと言われ、じゃあ何なんだと言い返そうとすれば、明日会えるであろう場所まで教えてくれる。スザクにしてみれば訳が分からない。
と、そこでルルーシュの携帯電話が鳴った。悪いと一言断り、かけてきた人物と話し出す。
「ああ。……わかった。ナナリーにも伝えておくよ。ああ、じゃあな」
その声音が優しい事にスザクは驚きを隠せない。スザクが固まっている事に気づいたのか、なんだ?と不思議そうな視線を向けてくるルルーシュ。
「君がナナリー以外にそんな優しく話すところ初めて見たよ」
そう言われ、ああ。とルルーシュは納得したのか先ほどまで繋がっていた携帯を見つめた。
「……こいつはアリエスの離宮にいた時からの付き合いでな。ナナリーとも仲が良いんだ」
アリエスの離宮はルルーシュとナナリーが幼い頃暮らしていた場所だ。今は二人共にアッシュフォード学園の寮に住んでいる。足が不自由なナナリーが、毎日アリエスの離宮から学園まで通うのが大変な為、兄妹は寮から通っているのだ。
携帯を見つめながら話すルルーシュの表情は、とても柔らかく愛しい者に向けるそれとしか思えなくて。スザクは言葉が出てこない。
「まあ、本当の妹のような存在だな」
と続いた言葉に、心底安堵したのは何故だろうか。別にルルーシュが誰を好きでも構わないはずなのに、ルルーシュが話している時に微かに聞こえた優しくて楽しげな女性の声に、どくりと心臓が鳴ったのは確かだ。
ルルーシュは、自分の一目惚れ相手が猫じゃないと言った。もしかして、さっきの電話の相手って……
「おっと、もうこんな時間か。スザク、生徒会寄っていくだろ?」
話は済んだとばかりにルルーシュは話しかけてくる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!僕まだ頭が混乱してるんだけど…」
「まあ、その内わかる時がくる」
頭を抱えるスザクをよそに、ルルーシュは校内へ続く扉へと歩き出してしまった。それをスザクが慌てて追いかけていく。
夕日は赤く、空はオレンジ色に染まっていた。
4/12ページ