翡翠色のきみ
名前
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ピチチチ…
雲の切れ間から朝日が差し込み、ふわりと吹いた風は青々とした草木を揺らしていく。気持ちの良いいつも通りの朝。
ルルーシュ・ランペルージは、いつも通り目覚ましが鳴る数分前に起き枕元に置いてある目覚まし時計を止めようとした。そう、ここまではいつも通り。何時もと違ったのは彼が眠るベッドサイドにある人物がいたこと。その人物は真っ白な髪に透き通った海を思わせる瞳、そうサラだ。サラはベッドに肘をついて、ルルーシュの目と鼻の先で彼の寝顔を見ていたようだ。
「………は?」
寝起きの第一声は、そんな間の抜けた声。そして、そんなルルーシュにサラは笑顔だった。
「おはよう、ルルーシュ。今日は頑張ろうね」
「ほぁああああ!」
漸く覚醒した脳は途端にパニックになったらしく、ルルーシュは素っ頓狂な声を上げて掛けていた毛布をばさりとベッド下に落とした。
それでもサラはにこにことルルーシュを見ている。暫く経ってからルルーシュは、はぁ〜…と重い溜め息をついてその細く長い指を眉間にあてる。
「……サラ、幾ら子供の頃からの付き合いとはいえ男の寝所に一人で来るなんて危機感が足りないんじゃないか?」
「え?ルルーシュに負けない自信あるもの」
「あのなぁ…」
朝から頭痛から酷い。ルルーシュはサラの腕をグイッと引っ張ると、わわっと慌てた様子の彼女をいとも簡単にベッドに縫い合わせた。
「俺だって男だ。女のお前なんて簡単に…」
そこでルルーシュの言葉が切れたのは、見下ろした彼女の瞳が危険な光を帯びていたからだ。それは、おおよそ簡単にベッドに縫いつけられていいような弱い女性ではなく、ラウンズとして皇帝の剣として闘う者のそれ。
しかし、その剣呑な光も瞬きをした後には消えており目の前の彼女はあどけない表情をした幼い頃から知っているサラに戻る。そして、どちらかともなく口を開く前にルルーシュ達がいる部屋の扉を叩く音に、お互い口を閉じるのだった。
「ルルーシュ様、朝食の準備が出来ておりますが、お目覚めになってますか?……ルルーシュ様?」
扉の向こうにいる人物は、この部屋の主がなかなか返事をしないことに直様違和感を抱いた。SP等を輩出する家系、篠崎流の三十七代目である彼女はいつもと違う部屋の様子に敏感に反応した。
「……ああ、起きている。すぐに行く」
サラが足先でルルーシュを小突いた事により、固まっていたルルーシュはやっとの事で返事を返した。返事はしたにしても彼女の事だから何かしら勘づいただろう。さて、どうやってサラの存在を隠そうと思案した所で未だにベッドに縫いつけられているサラが、視線で手を外せと言ってきた。
ルルーシュがそっと手を離すと、サラは唇に人差し指を当ててルルーシュに目で確認をとると、彼女の透き通るような瞳に赤い鳥のような紋様が浮かび上がり、驚きに目を見開くルルーシュの前でサラは姿を変えた。
ベッドにちょこんと座るのは真っ白な毛並みの猫だ。いつだったかスザクが一目惚れしたとか言っていた猫が、ルルーシュを見上げている。そして猫に変身したサラは、すとっとベッドを降りクローゼットをタシタシと叩く。
そこでルルーシュはハッとした。未だに自分がパジャマのままだと言う事に。急いで立ち上がったルルーシュを確認したサラは、彼の着替えが終わるまで扉の前で大人しく待っていた。
「すまない、咲世子。何処から忍び込んだのか分からないが、部屋の中にこいつがいてな…」
疲れた様子のルルーシュの足元には、真っ白な猫。その猫に咲世子は見覚えがあった。目が覚めてしまったというナナリーと共に早朝から少し離れた所にある広場へ散歩しに行った時の事だ。ルルーシュの友人である枢木スザクと共にいたその猫を、ナナリーは幼い頃からの友人であると言った。確か名前はサラ。かの猫は迎えに来たというナイトオブスリーに連れられ、アリエス宮へ戻ったようだったが…
「……サラ様?」
「咲世子、知り合いか?」
「いえ、ナナリー様と散歩に行った際にお見かけしたのですが…」
「にゃあん」
サラは咲世子を見上げて一声鳴くと、ナナリーが居るであろう朝食をとる部屋へと歩いて行った。それを見ていた咲世子は、ふとルルーシュへと視線を移し、
「ルルーシュ様、サラ様は最初からあの姿を?」
「あ、ああ。そうだ」
若干、言葉に詰まったルルーシュに目を光らせた咲世子だったが、にっこりと微笑む。その顔が何より怖いのを知っているルルーシュは、少したじろいだ。
「ナナリー様には内緒にいたしますが、女性を寝室に招くのはいかがなものかと」
「違う、間違っているぞ咲世子!あいつが勝手に…」
「やはり、サラ様は猫のお姿ではなかったのですね」
「…………」
ルルーシュはまた頭痛が酷くなるのを感じた。
ーーーー
「これがわたしの?」
「ああ。俺がデザインした」
ぴらりと両手でそれを持ち上げ、上から下までしげしげと眺める。黒を基調としたパイロットスーツは、体のラインを縁取るように銀色の刺繍が施されている。そして胸元にはブリタニア帝国の皇族のみが持つ騎士章である剣と盾に羽が生えた紋様に似た、十字架に羽が生えた紋様。純白の十字架に漆黒の翼。相反するような紋様は、パイロットスーツを飾る最後のパーツのよう。
腕を通せば、いつの間に採寸したのかと思うほどサイズがぴったりだった。
「サラ、すごく似合ってます」
車椅子を自分で動かし、部屋に入って来たのはナナリーだ。彼女も黒を基調としたパイロットスーツに身を包んでいる。しかし、サラのものと違うのは縁取るラインの色が桃色だということ。そう、彼女もパイロットの一人だ。
今回のKMF大会では三人一組で出場する。サラ達のチームはルルーシュ、ナナリーの三人組だ。ナイトメアに乗る皇族は少なく、日本へ遠征に行ったコーネリアは自分の部隊を持っているが、皇族で第一線で闘うのも彼女くらいだ。ルルーシュとナナリーは戦場に出る事はまず無い。そもそも皇帝が許さないのだ。自分の子供にはとことん甘いシャルル皇帝は、コーネリアが自分の部隊を持つと進言した時も大変だった。三日三晩かけてビスマルク、マリアンヌ、コーネリアで説得を続けやっとのことでコーネリアは自分の部隊を持つことを許されたのだ。
そんな父親を持つ皇子、皇女達はなかなか自ら進んで軍に入ろうとはしなかった。
「わたし、この日を楽しみにしてたんです」
目を輝かせ、頰を上気させてナナリーは微笑む。足が不自由な彼女にとって、自在に動き回れるナイトメアは正に水を得た魚のようだった。走ることも飛ぶことも出来なくなってしまった彼女の足は、代わりにナイトメアが自由を引き受けたのだ。
そして、もともとの才能もあったのだろう。ナナリーは直ぐにKMFの操縦を覚え、めきめきと実力を発揮して行った。その早さに兄であるルルーシュも目を見張った程だ。
「楽しもうね、ルルーシュ、ナナリー」
「ああ、そうだな」
「はい」
ルルーシュは黒を基調としたパイロットスーツに身を包み、ラインは紫色だ。三人はそれぞれインカムを付け、ラクシャータが待つKMF研究室へ歩き出した。
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