翡翠色のきみ
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そよそよと穏やかな風が頰を撫でる。雲の切れ間から差し込む朝日は、今日の天候を表すように力強く温かい。昨日は雨模様だったが、本日は快晴だ。
朝早くからアリエス宮のとある一室に訪れたサラは、部屋の主であるユーフェミア・リ・ブリタニアを前に片膝をついた。
「おはようございます、ユーフェミア様」
「おはよう、サラ」
何故、早朝に皇族の部屋…しかも私室にいるのかといえば部屋の主であるユーフェミア本人に呼び出された為である。そして今日、ユーフェミアは姉のコーネリアと共に遠征に赴く為、早朝しか時間が取れなかったのだ。
「今回の遠征中に、ナイトメアの大会があったわね。貴女の勇姿を見れないのは本当に残念に思います」
柔らかな声には、本当に残念なのだろう。悔しさが滲み出していた。
「サラ、今日貴女を呼び出したのは大切なお話があるからです」
「はい」
「貴女をわたくしの騎士候補に推薦したいと思っています」
ユーフェミアの発言は予想はしていたものの改めて本人から言われると、重みもまた違う。サラはナイトオブラウンズだ。ナイトオブラウンズは一介の騎士よりも格上であり、軍内では最高の地位を誇る。
ユーフェミアの騎士候補という事は最高位であるナイトオブラウンズを降り、騎士候補に降格する事を指す。
「身に余る光栄でございます」
しかしサラは躊躇なく返事をする。今この場にはユーフェミアとサラしか居らず、皇族を相手にいかにナイトオブラウンズといえど拒否権は無いのだ。この神聖ブリタニア帝国において皇族は皇帝の次に力を持った一族なのだから。
「シャルル皇帝とはまだお話していませんが、近いうちに進言致します」
「畏まりました」
二人の会話はそこで一旦途切れる。ユーフェミアは纏っていた雰囲気を柔らかいものに変え、ふぅと一息つくとサラ、と優しく呼んだ。
「やっと…ここまでこれたわ。後もう少しだから」
「…ユフィ。漸く貴女の騎士候補になれるのね」
物心ついた頃から仲良しの第三皇女。まだ幼いながら彼女を支え仕えたいと思い、どんな厳しい訓練にも心が折れそうになる戦場でも戦い抜き、『ブリタニアの蒼い暴君』と呼ばれるほどに戦場で成果を出してきた。その功績が認められナイトオブラウンズになったのだが、サラにとって軍内最高位の地位よりもただ一人の騎士になる事の方が重要であった。
ユーフェミアとサラは手を握り合い、お互いの額に当てがう。通常では決して許されない、その近しい距離にお互い笑みを零した。
ーーーー
サラはユーフェミアの部屋を後にした足で、アッシュフォード学園に隣接している寮へと向かう。その途中で、スザクと初めて会った公園が見えてきた。公園には朝の体操をしているおじいさんおばあさんや、ジョギングをしている若者など幅広い年齢層が思い思いの時間を過ごしていた。その中に見知ったふわふわの栗色の髪を持つ人物を見つける。その人物は、ジョギング後の柔軟体操なのかバネのような身体をグイッと伸ばしている。その軟らかさに体操をしていたおじいさんおばあさん達から、拍手がわき起こっていた。それに照れたように笑う彼は年相応で、とてもナイトメアのパイロットには見えない。その彼が遠くから眺めていたサラに気づき、軽やかな足取りで近づいてきた。
「スザク、おはよ。人気者なんだね」
「おはようサラ。毎日してるから名物みたいになっちゃって…」
困ったように或いは照れたように笑う彼は可愛らしい。年上に可愛いなんて失礼かな?
「サラもジョギング?初めて会った時も、この公園だったよね」
スザクが覚えていてくれた事が嬉しくて、思わず声が弾んでしまう。
「わたしはユーフェミア様に用があって…。今日から遠征に行かれるから、その前にお話したかったの」
「今回は日本国に行かれるんだよね」
「そう。よく知ってるのね、スザク」
コーネリアとユーフェミアの遠征は軍内でも大々的に知らされている訳ではなく、今回の遠征も小規模精鋭兵のみで行くことになっている。あまりにも大人数で行くと、相手国に不信感を抱かれてしまうのだ。今の日本国はブリタニア帝国と同盟を結んでいるが、いつ反乱分子が出てくるとも限らない。その調査も兼ねた遠征だ。
「母国が関わる事は何でも知っておきたいから」
そう言って目元を緩ませる。そして、徐に腕時計を見た彼は、うわっと焦った声を出した。
「サラ、ごめん!もう行かなきゃっ」
太陽を見ればサンサンと暑いくらいの日差しを降り注いでいた。思ってる以上に時間は進んでいたらしい。いつの間にか、公園内にいる人は疎らで体操をしていたおじいさんおばあさん達も姿を消していた。
「うん、スザク。また後で」
「じゃあ、また」
手を振り合い、別れを告げる。
本当ならナナリーと一緒に朝食をとる予定だったが、サラも急がないと朝一の会議に遅れてしまいそうだ。ビスマルクの小言を聞くのも嫌だし、と寮へ向かいたくなる足を叱咤してサラはアリエス宮へ戻って行った。
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