翡翠色のきみ
名前
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「それで?うちに何用かな、ユズリハ卿?」
じとっと舐めつけるような不躾な視線を物ともせず、サラはロイドの目をチラリと見て口元に笑みを浮かべた。
「廊下でセシルさんと会ってね、一緒にお茶どうですかって誘われたんです。ね、セシルさん?」
サラがそう言って、向かいに座る彼女を見れば笑顔でコクリと頷いた。
「でも、それだけじゃないでしょう?」
未だ見極めるような視線を収めることなく、ロイドはサラを見つめる。するとサラは、一つ軽い溜め息をつくと何でもないというようにサラリと本当の目的を口にした。
「そうだね、まあ敵情視察ってとこかな」
スザクが淹れてくれた温かいお茶を一口啜り、鼻から抜ける香りを楽しむ。気を利かせてくれたスザクがお茶を淹れてくれて良かった。ロイド伯爵は淹れないだろうし、セシルさんのお茶は何が入っているか分からない。
「そう簡単に教えると思うかい?」
三日月のような目をするロイドを横目に、チラッとスザクに視線を移す。彼は白いパイロットスーツを着ている。という事は今日はランスロットの調整があるのだろう。
「スザクだってこの前、ラクシャータの機体乗ってたじゃない。特派だけうちの情報持ってるなんて平等じゃないわ」
「は?」
ロイドはバッとサラの横に座るスザクに視線を移す。
「スザク君!君そんな事一言も言ってなかったよねぇ?!」
「あ、はは…えーっと…すみません」
困ったように頰をかくスザク。視線を泳がせた彼にクスリと笑ったサラは、サッとスザクの手をとる。
「スザク、いいよね?」
有無を言わせない強い瞳に、スザクはもう少しの所で飲み込まれそうになった。それを止めたのはセシルだ。
「サラさん、スザク君の一存では決められません。ロイドさん、どうしましょうか?」
翡翠の瞳を見ていた水色の瞳がセシルへ移り、次いでロイドへと移行する。ロイドはぐぬぬ…と唸った後、チロリとスザクへ視線をやり、
「スザク君…、知ってる事全部喋ってよね」
「あ、はい…」
どうやら許可が降りたようだ。
しかし、先ほどサラはあの異質な機体を自分のナイトメアではなく、ラクシャータの機体と呼んだ。という事はサラ用のナイトメアという事は話さない方がいいのか?
スザクはそう考え、未だ手を繋いだままのサラをそっと見る。するとサラもスザクを見ていたようで、視線が交差すると一瞬戸惑ったような顔をし次いで嬉しそうに微笑んだ。
「いいよ、スザク。全部話して」
スザクが考えていた事が分かったのか、繋いでいた手を話しニカッと笑う彼女はロイドの話の中の『蒼い暴君』とはかけ離れていた。スザクがサラから目を逸らしたのを確認してから、口元を緩く閉じる。
どの道、スザクが話した所であまり支障はない。何故ならあの機体は試作であって、本物は別にあるのだから。
ーーーー
白と金で装飾された機体。機体名はランスロット。
「間近で見るのは初めて…」
元々乗っていたKMFが壊れてからサラは、戦場に出ていなかった。というより、先代のサラの機体『マーリン』はラクシャータの渾身の機体であり、その機体を修復不可能まで破壊してしまったサラには、当分の間出撃命令が下りてこなかったのだ。サラ自身も愛情を持って乗っていた機体だけに、彼女も当時はかなり落ち込んでいた。
と、スザクがランスロットに乗り込む様をじいっと見ていたサラは徐にロイドに尋ねる。
「ロイド伯爵、スザクが持ってる情報は大した内容じゃないから変わりにわたしのデータあげようか?」
「……何が条件だい?」
何となく思いつきで言ってみたが、想像以上の食いつきだ。その目はいつも通り三日月を逆さまにしたように細く、口元は笑っているがサラには彼が本当は好奇心が疼いているのを知っている。それは彼に対する長年の経験であり、身近にいる研究者と同じ志を持っていると知っているから。
「ランスロットに乗りたい」
「………」
単刀直入に言えば途端に黙り込むロイド。まあ、それはそうだろう。ナイトオブラウンズとして通っている以上、ナイトメアに関する知識もあり仮にランスロットに乗せてもらえたとしたら内部の情報を盗られる可能性もあるのだ。その見返りが欲しかったデータだとしても、ランスロットの生みの親であり研究者である彼ならきっと…
「それは、だめ」
「うん、分かってた」
笑顔で言うロイドに笑顔で返す。その二人の後ろで調整を終えたランスロットが勢いよくトレーラーから発進して行った。そのスピードにサラの髪がブワッと舞い、セシルも腕を前に翳す。どんどん視界から遠ざかっていく機体。スザクに指示を出すセシルの後ろにそっと回り込んだサラは、凡そ研究者にしか分からないような文字の羅列を見つめる。
「適合率……94%ね、ふむ…」
見ただけなので詳細は分からないが、ロイドの趣味詰め放題のランスロットはサクラダイトを多く使っており、それによって得られた高出力で従来のKMFを大きく凌駕する運動性能を持つという。ラクシャータより得た情報と、自分で見た情報を絡み合わせ組み立てていく。自分の予想が正しければ、ランスロットは大会において最大の強敵になる。
「すごいでしょ?うちのランスロットは」
あくまでもパイロットであるスザクではなく、機体を褒める彼をチラリと見る。
「うん、素直にすごいと思う。けど、」
それ以上言葉を紡ぐ事なくサラは特派を後にする。その足でサラはアッシュフォード学園に隣接した寮へと向かう。ランスロットの情報を伝えるのは、ラクシャータじゃない。
ゾクゾクと湧き上がってくる高揚感を押さえ、サラはルルーシュの元へと向かった。
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