ウサ、ハニトラやります
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夢だった刑事になって3年目の春を迎えた私は
この春からガールズバー勤務になっていた…
※潜入捜査エスの女の子を危険から守る目的※
今日の夜から店舗へ出勤のため、港区女子風の服装、ウィッグ、メイクを施した
「優衣さん、潜入ですか?可愛いいですね~写真を撮らせてください」
「あっ、黒澤さんダメです!」
すでにパシャパシャ撮られてるし…
忘れ物を取りに来たのだが、まだ課内に残っていた黒澤さんに捕まり後藤さんも目を丸くして見ていた
「ほほう~涙ボクロ書いたんですね。いじらしい。オレもこんな彼女ほしいな」
私の目元を指差し楽しそうに笑う
「な、なにを!?変装のためです!」
「班長には見せましたか?この写真送っておきますね」
「いやいや、見たくもないと思いますし、勘弁してください」
「…そのセクシーな胸元も変装?」
視線は海外製の極厚パットブラでパンパンになった胸
「う、これは仕事上、必要で…。ニセモノですから」
「黒澤、セクハラだ。いい加減にしろ」
「後藤さん!いいんです…変なのは分かってますが、今回は完璧な変装が必要でして…似合ってませんが、いいんです」
「吉川、どこに潜入か分からないが充分気をつけてくれ。その衣装は似合ってるよ」
「!? て、照れます…」
ぎゅううー
「うぐっ!」
息がっ…!
こんな後ろから抱きしめ
どころか、息の根を止めようとしてくるのは
「なーに石神班にハニトラしてるのかな~。本番はこれから。てか余裕だね~うちの子は」
「ぐ、るひぃっ…」
ぱっと身体を解放され後ろを振り向き、津軽さんと目が合う
「……。」
頭から足先まで観察される
慣れない捜査。自分を鼓舞し、勇気、気合い、心のお守りが欲しくてメイクの時に書いた涙ボクロと津軽さんに買って貰ったリップ。
どんな感想を言ってくれるかドキドしてると
「行くよ。 下で、車用意してる」
………はい、そうですか。
ま、仕事だしね、ちょっと若作りだけど可愛く出来た…つもりだったから誉めて貰えると思った
という、甘々は脳内から捨てておこう…
ーーー ー ー
「? って言うか津軽さんは同行しない予定でしたよね」
一緒に歩き出した津軽さんは一緒にエレベーターに乗り込む
津軽さんは別件を対処していたはず
「手、空いたから。それに初日だからね」
「…心配ですか?」
「ウサを信じてるよ」
「津軽さん…」
「………。」
何か無口だな…
「何か裏が!?」
「キミ、疑り深いね」
困った顔で薄く微笑む津軽さんの本心は…見えなかった
あまり色気のある任務をして来なかった私が露出の多い衣装での潜入捜査。
"新人じゃないからね" って事だと解釈していたが…
『気分いいわけないじゃん。俺のが、そういうの…』
過去にハニトラの勉強を頑張る と言った私に津軽さんが言っていた言葉
公私混同しないために、これでいいんだけど。
だいたいターゲットを落とすのはエスで私じゃないのだが衣装が、きわどすぎる…
圧倒的に女手のない公安課。津軽さんのエスの協力があっても今回のように武器密輸と殺人容疑のある男に近づくには刑事が近くでフォローは必須だ
先日行われた捜査会議。
私がハニトラでターゲットを落とし情報を引き出す。しかし班全員の色気が無い!と言う理由で光の速さで却下となったのだ
自分の彼女にハニトラさせたくないとかいう以前の問題で…
「ウサも公安学校組へのハニトラは得意だけど」
「してませんが?」
「今回のエスから学べることは学びなよ。あいつプロだし。今日も顔見たいって、しつこくてさ~会いに行くわけ」
「あーそういう…」
私が気になる…んじゃなくて頼りになるエスに呼ばれたから行くのか
なんだ…
ーーー ー ー
大石くん運転で人目に着かない路地で車をとめる
ガチャ
「高臣きてくれたんだ!」
私には目もくれず津軽さんの横に座る彼女が今回のエス。アリサちゃん
「そりゃ来るでしょ。はいプレゼント」
ブランド物の袋を彼女に渡した
「ありがとう~高臣大好きっ」
「昼間も仕事してるんでしょ。身体、大丈夫?俺、無茶させてない?」
労るように掛ける優しい声、彼女を覗き込む視線、角度。完璧なものだった
「うん、平気だよ。若い身体の内にガンガン稼ぐんだ。それに高臣の顔みたら元気になるよ」
「そっか いつも助けてくれてありがとう」
…なんか…居たくない
「あの~私、先に店に向かいますね」
「うん、気をつけて」
「じゃあ、お姉さん後でね~」
ーーー ー ー
10分ほど歩いた先の繁華にあるガールズバー
中に入ればスリットの入ったミニのタイトスカートと小さめの白いYシャツが用意され、ブラの上に直Yシャツと指示される
まあ、前もってグレーな店と聞いてたけど…全身鏡で己の格好を確認するが、
(卑猥な!透けてる…)
こうしてガールズバー初日がスタートした
ーーー ー ー
「りんちゃん、こっちまずはセンパイから教わってね」
長野りん として潜入中…
「宜しくお願いします」
「あ~固くならないでね、夜の仕事初めてなんだっけ?じゃ説明するね」
メモ帳に一心不乱に仕事内、ドリンクの作り方をメモしていると、アリサさんも出勤してきた
(幹部の男は…まだ現れないか…)
ーーー ー ー
お店がオープンし 私は慣れないながらも、賑やかにカウンターでドリンクを作りお客さんとお喋りをしていた
(あ、大石くんと瀬戸内くん来た)
二人は一週間前から、客としてこの店に通っていた
アリサさんの前に座りビールを注文している
スマホを見ていた大石くんが私に一瞬目配せをした
私もターゲットとなる幹部の男と接触しなくてはならず、
(その事の合図?)
一瞬バックヤードを見た気がして…
センパイにお手洗いに…と言いカウンターを外した
ーーー ー ー
(いた…)
案の定、裏口から入ってきたターゲット、清田は、店長と話をしていた。よく有りがちな夜の店の話をしてるが
(ちょっと気が弱そうな?疲れてる?)
イメージしていたターゲットと違う…
「りんちゃん何してる?」
店長が怪訝そうに声をかけてくる
「ごめんなさい、お手洗いの場所が…」
ターゲット清田は少し痩せ気味の30後半。
人殺しの容疑があり、中国から銃を密輸して、反社に流してる。
ように見えず…人は見た目によらない、と片寄った考えになる自分を正した
ーーーー ー ー
無駄に一生懸命に仕事をし
深夜1時、無難に仕事を終え、スタッフルームで着替えるとアリサさんが事務所のターゲット清田に愛想良く話しかけていた。
(扉は空いてるし、キャストもチラホラいて、とりあえず危険はないかな)
今のうちに分からなかったところ、メモしよう…
早く仕事覚えてしまって捜査に集中したい
カウンター近くで思い出しながらメモを取る
(訓練生時代にキャバクラに潜入したけど、少し勝手が違うな……よし、アリサさんと時間差で店を出なきゃ)
ちょうど話終えたアリサさんが裏口から店を出た
(よし、ゆっくり歩いて私も店を…)
「ねえ、新人」
「…ふぇ?はい?」
事務室の前に来た所で清田に呼び止められる
「キミみたいなタイプの女の子、珍しいから辞めずに頑張りなよ」
「え~?あ、ありがとうございます?わたし、浮いてるってことですか?」
(見た目だけ変えても、内面の華やかさは無いってことかな…)
「真面目だろ?なんでここで働こうと?」
「……アイドルの推し活にはお金がかかるんです。秘密ですよ」
あらかじめ津軽さんに言われていた設定で誤魔化す
「ははっ 意外な…そっか。お疲れ」
「お疲れ様で~す」
やっぱり普通の人って感じ…。ダメだよね、すぐ表向きな面で気持ちを絆されちゃ
ーーー ー ー
お酒を呑んでない大石くんの運転で、私とアリサさんを家まで送ってもらい今日の任務は完了した
(明日、いや今日は午前休だけど仕事たまってるしお昼前には出勤しよ)
重い足取りでマンションの前でスマホのlineを確認すると
『ウサの部屋で待ってる』
津軽さんからメッセージが入っていて慌てて部屋に帰った
ーーーーー ー ー
「おかえり~」
「ただいまです」
ソファーで寛いでた津軽さんは おいでおいでと手招きをする
びっくりしたけど、嬉しいな…なんとなく、素っ気なかったし。
隣に座ると お日さまフローラルの香りがして プライベートな時間に、ほっと気持ちが切り替わる
「疲れたでしょ、立ち仕事だし」
「大丈夫です!でもアリサさんを守らなきゃだし、願わくば情報が欲しいし 緊張しました」
「俺も緊張した…こっち来て」
「緊張ってどっちの…意味ですか?」
露出のある衣装だからだよね。
身体を寄せ会えば、甘えたくなるのは恋人だから…
「優衣の思う方で。コレ、俺を意識したの?」
右目の斜め下を指触れる。アイライナーで書いた涙ボクロ
お守りは効果絶大で、胸を触られようされても上手く避けれたり、えっちな話題を出されても、そつなく誤魔化したり 煙に巻けたと思う
「正直に言うとお守りです。効果ありましたよ」
「ふぅん、じゃ、ココは?」
唇をぷにっと押される。津軽さんが選んで買ってくれたリップ
私たちの空気が 少し熱いのは…
深夜のテンションだから?まるでコスプレみたいな格好をしてるから?私がアリサさんに妬いたから?さっきの潜入捜査でのアドレナリンが私を興奮させてるから?
庁内で予想に反して素っ気なくされたのが尾をひいてる…?
…抱かれたい。抱きしめて欲しい、大好きな彼に…。
「…知ってるクセに。頑張ったご褒美はないんですか?人は誉められるから頑張れるって誰かが言ってました」
私から あからさまに誘った事、あったっけ?
勇気を出して、もっとしたいって…お願いしたことはあったけど。
どうしたら いーんだろ、その気になってもらえるんだろ…。
「誰~?そんなこと言ったの?仕方ないな、優しい津軽さんが今度 廻らない寿司連れてったげる」
「ちがっ…あの…だからっ…」
「もう遅いから帰るね、優衣もシャワー浴びてゆっくり寝なよ?早く出勤なんてしなくていいから」
か、か、帰るっ!?
のらりくらりと、かわされてる?
いや待って!落ちついて…
ハッキリ言わないと私たちの場合、伝わってない事が多い
1回大きく深呼吸する
「…帰らないで泊まっていってください! まだ一緒に居たくて。ここでサヨナラじゃ…さみ…しいし」
「えっ……?」
………。
あれ!!?
し、失敗した?
引いてる?
私を真顔でジっと見ている瞳は感情がよく分からないが引いてる気がする…?
こういうのからレスになったりしないよね?
いや、津軽さん繊細だからあり得る…
どうしよ…。
膨らんだ赤い風船がぷしゅ~と縮み、空しさすら感じる
私のバカ…
「…ごめんなさい…」
「…っ、いやいや、あははっ、ごめん!あはははっ」
「な、なに!?何が可笑しいんですか!」
「ごめんって、はあー可笑しい」
ごめんと言いながら まだ笑ってるイタズラ好きな人…悔しい
けど悔しいのは こういう所も好きって思う彼大好きすぎな私に対して。
このままじゃ駄目!早急にギャフンと言わせる作戦を考えなければ!
ふざけてた空気を恋人の空気に切り替えたのは、意外と笑い上戸な津軽さんからだった
引き寄せられてギュッと抱きしめられる
「…こっちは真剣なのに。もう!離してください」
嘘です。抱きしめてて。
「顔に全部書いてあるから可愛くて。あ~面白い!」
「悪趣味ですよ…」
良かった…引かれてなくて。
「でも昨日もシたのに、優衣も積極的になって…はあ、身が持たない…」
昨日は昨日。今日は今日。です。
「……。」
そんな意地悪言いながらも抱きしめてくれる腕は優しい
守られてるみたいで安心する
だからっ!悔しいけど…そこも好き…。
「ん?怒った?」
「…答えはYES…ですか?」
恥ずかしいから彼の胸に顔を埋めたまま聞いてみる
「ん、だけどシャワー浴びてきて」
バッと身体を離す
「臭いですか!?」
「抱くならガールズバー店員じゃなくて、いつもの優衣がいい。もちろん この格好もメイクもかわいいけどさ」
…なんか、前にホストの津軽さんに言った
"うちに来るなら いつもの津軽さんがいいです"
「すぐ浴びて来ます!」
「はーい 急いでよ」
ーーーー ー ー
翌朝
ギシッ…
ベッドが少し軋む音で目が覚める
なんかこのベッド…ギシギシ煩くなったなぁ…
カーテンの隙間は明るくなっていて朝だと分かる
「…あぁ、ごめん、起こしちゃった」
瞼にキスを落とされ、ほんの数時間前の恋人の時間を簡単に思い出させる
「おはよう…ございます…朝…食…」
「ギリギリまで寝ちゃったし、上で支度して出勤する。優衣はまだ寝てな?」
「…ん、はい…」
夢か 現実か 曖昧だったのに、隣の大きな温もりが無くなり冬でもないのに妙に寒いなって思った
また後で逢えるけど上司と部下で…
私から触れることはできない
ベッドから見送る背中が格好良くて、愛おしくて
無性に寂しかった
最近のわたし、変かも
好きすぎるから??
ずいぶん、欲張りになったもんだな
ーーーー ー ー
警察庁
11時に出勤するとデスクに見慣れない物があった
「可愛い」
ウサギの小さなぬいぐるみがキーホルダーになったものだ
津軽さんのお土産かな?…そうだ…
キーホルダーを付けたのはガールズバーに潜入してる時用のスマホ
よし、これで一緒に居られる
情報が掴めるまで潜入捜査は続く。短期か長期か分からない。
可愛いウサギさん一緒に頑張ろう!
この時の私は 素直を元気を貰っていた
ーーー ー ー
2週間
潜入捜査は続けられたが成果が思うように出ていない現状だった
アリサさんも頑張っているが、清田との相性は悪い…気がする。しかし津軽さんが決定した人選に今さら誰も口を出せなかった
幸い清田は、高確率で店を訪れるため私は比較的、関係を構築出来ていた
そんな中
お店ではコスプレイベントが開かれるため私は
(ありえない!)
現役警察官が、ミニスカポリスのコスプレなんて
…神様は何故こんなイタズラを…
黒澤さんに見られたら写真どころか動画を撮られていただろう
トボトボ更衣室から出てくると清田と遭遇する
「りん、似合ってるよ くくっ-」
「あ!今、笑いましたよ」
「似合ってる、真面目な君にね」
「コスプレしたの初めてなんです。もう楽しんじゃおうかな!」
「おう!稼ぎ時だから頼むぞ、今日は俺の知り合いが来るから金使わせろよ~」
「え~初めてじゃないですか、清田さんのお友達来るの?」
「友達なんて止めてくれよ…俺の飼い主だよ」
!?
「…えっ 清田さんワンちゃんだったんですね 」
「バーカ 東京に来てからずっと世話になってんだ…」
曇った表情からも確信する
何かが起きる と。
ーーーー ー ー
トイレからショートメールで状況を報告、津軽さんや百瀬さんも車から待機となった
お店のカウンターに出ながら接客に明け暮れる。
もちろんアリサさんの様子は常に確認しなきゃだし、なかなか忙しい
潜入で一番の混み具合だった
(…来た よし、瀬戸内くん達も気づいてる)
清田と男は私の近くでビールを飲んでいた
騒々しい店内でよく聞こえないが、分かった事はある
男は中国訛り、清田は男に気を使ってる
私は今回の捜査で情報の細部を知らされていなかった
割りきれてるつもりだが、嘘が苦手な私を津軽さんが警戒したからだと思う
本人から聞いた訳じゃないけど…今回の捜査は、やけに私は会議から外された
「りん、裏に行くからあの酒持ってきて」
「あ、はい」
あの酒とは一昨日、清田に頼まれ私が買ってきた中国酒だった
(チャンス!)
急いで冷えたグラスに酒を継ぎ、普段 清田が使っている事務室に向かった
キャストの控え室前のドアが少しだけ空いている
(……たぶん、百瀬さんあたりが盗聴器を?)
そっと開けると意外にも
(…津軽さん)
素早く中に入りドアを閉めた
(わざわざ津軽さんが出てくる場面?っていうか会うの一週間ぶりなんですけど!?)
声を出さずに指示を待つと
耳元に唇を寄せられる
びくっ
身体が固まる
「盗聴器はウサギのマスコット、今夜、清田から確実な情報を得る」
(えっ…え、なに?)
確かに大きなヤマが来てるけど…
覚悟は…していた
これは私がハニトラで清田から吐かせた方が現実的だって
気になってるのは、そこじゃなくて あらかじめ決まってたシナリオみたいだから
「このコスプレいいね、でもほら、急いで」
コクンっ
頷くのが精一杯で、ひとつ大きく呼吸をして清田たちの元に向かった
ーーーーーー ー ー
清田と中国訛りの男の雰囲気は和やかとは言いがたいもの
盗聴器を近くに設置は出来たが…
その後、大石くんの合図から盗聴器から大した情報は得られなかったと知る
どうする?お店は閉店時間になりキャストの私は帰らなければ行けない
事務室は開いていて中国訛りの男は帰ったと知る
「…清田さん?」
「……」
「お酒のおかわり持って行こうか悩んだんですけど、なんだか…」
「……」
「行きません?」
「…はっ?」
「飲み直しに!ですよ。疲れた顔が更に疲れてますよ~」
「…おまえってお節介なの?」
「私も…実は飲みたい気分だからです」
「しょーがねぇな、連れてってやるよ」
よし!釣れた
あとは…どれだけ情報を得られるか…
そっとウサギのキーホルダー型、盗聴器を回収する
ウサギさん、まだまだ これからだよ
ーーーーーー ー ー
向かった先は
ホテルの一室だった…
「この部屋は…?」
「俺の部屋、ホテル暮らしだから」
無造作に置かれたパソコンに目が行く…
「すごーい、うちの会社儲かってるんですね」
「…んなことねーよ。普通だよ…まともにやってたらな」
「え、聞いちゃマズイ話??」
「缶ビールしかねーけど、ほら」
「はい、ありがとうございます」
他愛もない話から、歌舞伎町の夜の街の話、そして缶ビールを3本開けた所で本題に切り込む
「清田さんって、意外にストレス抱えてませんか?今日も…。あ、手のひらをほぐすマッサージしましょうか?」
素直を右手を出す清田の手をマッサージする
「そーえばお前も、飲みたい気分って言ってたな?疲れたか?」
「………」
「言いたくなきゃ、いいんだ」
「たいした事じゃないですよ?…信じてた彼氏に裏切られて…今日は1人になりたくないなって…」
「へ~、りんみたいなイイ女を傷つける男がいるのか?」
「清田さん…わたし…」
身体を引き寄せられ抱き締められるのは、計算上、分かっていたこと
なのに身体が強ばった
だめっ 身体を預けなきゃ
頭と身体と こんがらがる
顔がゆっくり近づき唇があたる寸前…
頭に浮かぶのは津軽さんの顔
公安刑事の自分と こんなやり方しなきゃ情報を出せない自分の やるせなさ
「?………き、清田さん?」
「…かっこわる…ねみーわ…」
「す、すみません、私帰ります、寝てください...」
ゆっくりベッドに横になる清田、すぐに寝息をたて出した
遅効性の睡眠薬は 津軽さんがお店の控え室に来た時に 中国酒に入れたものだ
成功…した
カバンから最新型 盗聴検知器で、部屋にカメラ等が無いかを確認後 部屋ドアを開けた
待機していた津軽さんと瀬戸内くんが入りパソコンからデータを抜く作業を行い無事に今日の私の任務は成功した
津軽さん…。その背中は公安刑事そのもの。
必ず結果を出す。刑事として 格好良くて頼りになる。だから尊敬して好きになった所もあるが
今回は……
納得のいかない気持ちと、結局は情報を取り出せた真実で心の整理がつかず、その背中を後ろから見ながら歩き、ホテルを出た
ホテルの下で待機していたバンには大石くんと百瀬さんが監視をして待ってくれていた事で、捜査だと気持ちを切り替え、感情的にならずに済んだ気がする
私は、自宅マンション前で車を下り 津軽さんたちはデータを解析するため警察庁に戻って行った
取り敢えず、私の任務は、ほぼ成し遂げたと言って良いだろう。
「……。疲れた」
ーーーーーー ー ー
あれから数日後
私は潜入していたガールズバーを客(班員)から激しく絡まれた事をキッカケに辞め、いつもの公安の業務に戻っていた
「吉川先輩が居ないと書類仕事、全部回って来て大変だったんですよ!」
「怒らなくでも…。それに午後は やれる時は一緒にやったじゃない?」
瀬戸内君と 大石君も 連日ガールズバーに通わなくて行けなくて、大変だったのは分かるけど
私は午前は休んでたし、待遇は良かったのかな
「あーゆう派手な女キライだし全然楽しく無かったし、ほんと疲れ取れない~」
「お疲れ様、今日は私が残業するから早めに帰ってね」
ーーーーーー ー ー
とは言ったものの
この量!
時間は23時。課内で1人になってしまった
朝までかかるかな やらなきゃいけない事は終わったが今日は仕事を思いっきりしたい気分だった
どこかで身体がガールズバーに勤務していた自分から抜け出せてない感覚があり刑事に戻りたかったから。
潜入してる時間が長かった事が原因だけど、いつもより感情が揺さぶられ、女の私で居る時間が長すぎた
「……。疲れた」
疲れた疲れたって私、何度目??自分を自嘲して目を閉じた
津軽班は今、ピークに忙しく仕事と家の往復で、津軽さんに関しては家に帰って居ない日もあるみたいだった
「おつかれ~」
「!! 津軽さん、お疲れ様です」
今二人きりになるのは久しぶり…
疲れているはずなのに、感じさせない立ち姿とふわふわした雰囲気
でも ふわふわの中に感じ取れるものがあった
それは…
「また残業してる…ウサは働きアリになったの?」
「今の内ですから。がむしゃらに働きたいんです」
「おっ、野心あるじゃん」
「野心ってわけじゃないですよ。刑事として、やる気があるって事です」
いつまで女である私が1日中、残業してまで仕事を頑張れるか?
結婚して…たとえば子供が産まれたら、こんな残業なんて出来なくなるし やれる内に思いっっきり働くのも良いかなって考えてたりする
憧れてた職業に就いたんだもん。目指してた刑事には程遠いけど 頑張りたいって気持ちは
ずーっと変わらない。
「……ウサは…」
俯いた顔から、だいたい察してしまう
「津軽さん…」
久しぶりにちゃんと、顔見たな…
珍しく気まずそうな顔に、きゅんとする私って…
「…んー…えっとだからさ…」
まあ、言いたい事、何となく分かるけど
「怒ってるよな…」
「私がですか?」
「ごめん」
津軽さんは落ち込んでる。ずっと悩んでたんだと分かってますよ?
色々、班長としてシュミレーションして一番の方法が今回のやり方で
情報を共有して欲しかった気持ちはあるけど、結果が公安として欲しかった情報を得られて摘発し逮捕まであと数日と迫っていた
感情を激しく揺さぶられたのも含め、津軽さんが私を駒として最高の物にするための作戦
呑み込んでいく
この経験は何度も何度もしてきた
「大丈夫ですよ?津軽さんが気にしすぎですって」
「いやさ、だって…」
「ここは、お手柄だったよ で、良いじゃないですか?いつだか話しましたけど仕事に関しては駒でいいので」
嘘だ
本当は傷ついた
認めたくなかったけど、私は傷ついた
けど公安刑事として 班長の思惑通りに捜査は大きく進んだ
分かってるから津軽さんを責めない
だから 全く気にしてません という態度を取る
嘘だとバレていても突き通す
「いや傷ついてるでしょ…ウサは強いけど、やり過ぎだったか俺だって悩んでー」
カチンっ
ギリギリ競って自分を納得させていた気持ちが…
崩れていき口から勝手に言葉が流れ出る
「津軽さん」
「あ、はい…」
「私は強くなんてありません。でも津軽さんの目的を達成させたいって個人的な気持ちがあります。支えたいっていつも考えてます。頑張ってるんです。」
「優衣…」
「もう、二度と言いたくないので 覚えておいて下さいね?」
「は、はい…」
すぅー、大きく息を吸う
「なんで分かんないの!?私の気持ち舐めんな!!」
「……… 」
「はあ、スッキリした」
「……虎だ」
「トラ?」
「ウサじゃなくて虎だなんて、うちの子じゃない!」
「前にも言われましたね…落ち込んで見えましたが 切り替えていきましょう」
「ウサに言われる事になるとはね…」
「ハニトラ、またさせてくれますか?」
「……どうかな。そんなに がむしゃらに働きたいなら考えとく」
「はい。まだまだ経験不足ですが頑張ります」
「なんで ハニトラに対して そんなやる気なの?」
「私は大丈夫です。大丈夫だから、ですよ」
笑って見せる 割りきりましょう 津軽さんに伝えるために。
傷ついてほしくないから
「…分かった。ねえ、事件解決したら どっか泊まりに行こう?」
「わぁ!いいですね 遠くでなくていいので、楽しみにしてます」
「じゃ、まずは ソレ片付けなよ」
「はい…ご褒美があると頑張れますね」
「うん、だよね。」
パソコンに手をやりキリの良い所まで終わらそうと頭を切り替えるが感じる視線
「津軽さん、まだ帰れないですか?」
「俺も残ってく」
「そうですか。あとで夜食買いに行きます?」
「だね」
変わっていかなきゃいけない、そんな段階を私達は一つ越えたと思う
葛藤しながらも、班長の役割を果たした津軽さん
事件解決まであと少し、ご褒美も待ってるし私も落ちていられない。津軽さんの右腕になるには 程遠いけど頑張ろう
「あっ!」
「うわぁ! な、なんですか?」
「アレっ 持ち帰った?ハニトラしてくれるんでしょ?」
「はい?」
「警察官のコスプレ衣装」
潜入で着たミニスカポリス…!
「返してから辞めましたよ…って言うか 何をさせたかったんですか…?」
「え?職場でエッチな話しないでよ」
「どっちが!」
バカな話をしながら 深夜の残業は続いてく
やっぱり2人で一緒にいる事が自然だな…なんて考えながら。
この春からガールズバー勤務になっていた…
※潜入捜査エスの女の子を危険から守る目的※
今日の夜から店舗へ出勤のため、港区女子風の服装、ウィッグ、メイクを施した
「優衣さん、潜入ですか?可愛いいですね~写真を撮らせてください」
「あっ、黒澤さんダメです!」
すでにパシャパシャ撮られてるし…
忘れ物を取りに来たのだが、まだ課内に残っていた黒澤さんに捕まり後藤さんも目を丸くして見ていた
「ほほう~涙ボクロ書いたんですね。いじらしい。オレもこんな彼女ほしいな」
私の目元を指差し楽しそうに笑う
「な、なにを!?変装のためです!」
「班長には見せましたか?この写真送っておきますね」
「いやいや、見たくもないと思いますし、勘弁してください」
「…そのセクシーな胸元も変装?」
視線は海外製の極厚パットブラでパンパンになった胸
「う、これは仕事上、必要で…。ニセモノですから」
「黒澤、セクハラだ。いい加減にしろ」
「後藤さん!いいんです…変なのは分かってますが、今回は完璧な変装が必要でして…似合ってませんが、いいんです」
「吉川、どこに潜入か分からないが充分気をつけてくれ。その衣装は似合ってるよ」
「!? て、照れます…」
ぎゅううー
「うぐっ!」
息がっ…!
こんな後ろから抱きしめ
どころか、息の根を止めようとしてくるのは
「なーに石神班にハニトラしてるのかな~。本番はこれから。てか余裕だね~うちの子は」
「ぐ、るひぃっ…」
ぱっと身体を解放され後ろを振り向き、津軽さんと目が合う
「……。」
頭から足先まで観察される
慣れない捜査。自分を鼓舞し、勇気、気合い、心のお守りが欲しくてメイクの時に書いた涙ボクロと津軽さんに買って貰ったリップ。
どんな感想を言ってくれるかドキドしてると
「行くよ。 下で、車用意してる」
………はい、そうですか。
ま、仕事だしね、ちょっと若作りだけど可愛く出来た…つもりだったから誉めて貰えると思った
という、甘々は脳内から捨てておこう…
ーーー ー ー
「? って言うか津軽さんは同行しない予定でしたよね」
一緒に歩き出した津軽さんは一緒にエレベーターに乗り込む
津軽さんは別件を対処していたはず
「手、空いたから。それに初日だからね」
「…心配ですか?」
「ウサを信じてるよ」
「津軽さん…」
「………。」
何か無口だな…
「何か裏が!?」
「キミ、疑り深いね」
困った顔で薄く微笑む津軽さんの本心は…見えなかった
あまり色気のある任務をして来なかった私が露出の多い衣装での潜入捜査。
"新人じゃないからね" って事だと解釈していたが…
『気分いいわけないじゃん。俺のが、そういうの…』
過去にハニトラの勉強を頑張る と言った私に津軽さんが言っていた言葉
公私混同しないために、これでいいんだけど。
だいたいターゲットを落とすのはエスで私じゃないのだが衣装が、きわどすぎる…
圧倒的に女手のない公安課。津軽さんのエスの協力があっても今回のように武器密輸と殺人容疑のある男に近づくには刑事が近くでフォローは必須だ
先日行われた捜査会議。
私がハニトラでターゲットを落とし情報を引き出す。しかし班全員の色気が無い!と言う理由で光の速さで却下となったのだ
自分の彼女にハニトラさせたくないとかいう以前の問題で…
「ウサも公安学校組へのハニトラは得意だけど」
「してませんが?」
「今回のエスから学べることは学びなよ。あいつプロだし。今日も顔見たいって、しつこくてさ~会いに行くわけ」
「あーそういう…」
私が気になる…んじゃなくて頼りになるエスに呼ばれたから行くのか
なんだ…
ーーー ー ー
大石くん運転で人目に着かない路地で車をとめる
ガチャ
「高臣きてくれたんだ!」
私には目もくれず津軽さんの横に座る彼女が今回のエス。アリサちゃん
「そりゃ来るでしょ。はいプレゼント」
ブランド物の袋を彼女に渡した
「ありがとう~高臣大好きっ」
「昼間も仕事してるんでしょ。身体、大丈夫?俺、無茶させてない?」
労るように掛ける優しい声、彼女を覗き込む視線、角度。完璧なものだった
「うん、平気だよ。若い身体の内にガンガン稼ぐんだ。それに高臣の顔みたら元気になるよ」
「そっか いつも助けてくれてありがとう」
…なんか…居たくない
「あの~私、先に店に向かいますね」
「うん、気をつけて」
「じゃあ、お姉さん後でね~」
ーーー ー ー
10分ほど歩いた先の繁華にあるガールズバー
中に入ればスリットの入ったミニのタイトスカートと小さめの白いYシャツが用意され、ブラの上に直Yシャツと指示される
まあ、前もってグレーな店と聞いてたけど…全身鏡で己の格好を確認するが、
(卑猥な!透けてる…)
こうしてガールズバー初日がスタートした
ーーー ー ー
「りんちゃん、こっちまずはセンパイから教わってね」
長野りん として潜入中…
「宜しくお願いします」
「あ~固くならないでね、夜の仕事初めてなんだっけ?じゃ説明するね」
メモ帳に一心不乱に仕事内、ドリンクの作り方をメモしていると、アリサさんも出勤してきた
(幹部の男は…まだ現れないか…)
ーーー ー ー
お店がオープンし 私は慣れないながらも、賑やかにカウンターでドリンクを作りお客さんとお喋りをしていた
(あ、大石くんと瀬戸内くん来た)
二人は一週間前から、客としてこの店に通っていた
アリサさんの前に座りビールを注文している
スマホを見ていた大石くんが私に一瞬目配せをした
私もターゲットとなる幹部の男と接触しなくてはならず、
(その事の合図?)
一瞬バックヤードを見た気がして…
センパイにお手洗いに…と言いカウンターを外した
ーーー ー ー
(いた…)
案の定、裏口から入ってきたターゲット、清田は、店長と話をしていた。よく有りがちな夜の店の話をしてるが
(ちょっと気が弱そうな?疲れてる?)
イメージしていたターゲットと違う…
「りんちゃん何してる?」
店長が怪訝そうに声をかけてくる
「ごめんなさい、お手洗いの場所が…」
ターゲット清田は少し痩せ気味の30後半。
人殺しの容疑があり、中国から銃を密輸して、反社に流してる。
ように見えず…人は見た目によらない、と片寄った考えになる自分を正した
ーーーー ー ー
無駄に一生懸命に仕事をし
深夜1時、無難に仕事を終え、スタッフルームで着替えるとアリサさんが事務所のターゲット清田に愛想良く話しかけていた。
(扉は空いてるし、キャストもチラホラいて、とりあえず危険はないかな)
今のうちに分からなかったところ、メモしよう…
早く仕事覚えてしまって捜査に集中したい
カウンター近くで思い出しながらメモを取る
(訓練生時代にキャバクラに潜入したけど、少し勝手が違うな……よし、アリサさんと時間差で店を出なきゃ)
ちょうど話終えたアリサさんが裏口から店を出た
(よし、ゆっくり歩いて私も店を…)
「ねえ、新人」
「…ふぇ?はい?」
事務室の前に来た所で清田に呼び止められる
「キミみたいなタイプの女の子、珍しいから辞めずに頑張りなよ」
「え~?あ、ありがとうございます?わたし、浮いてるってことですか?」
(見た目だけ変えても、内面の華やかさは無いってことかな…)
「真面目だろ?なんでここで働こうと?」
「……アイドルの推し活にはお金がかかるんです。秘密ですよ」
あらかじめ津軽さんに言われていた設定で誤魔化す
「ははっ 意外な…そっか。お疲れ」
「お疲れ様で~す」
やっぱり普通の人って感じ…。ダメだよね、すぐ表向きな面で気持ちを絆されちゃ
ーーー ー ー
お酒を呑んでない大石くんの運転で、私とアリサさんを家まで送ってもらい今日の任務は完了した
(明日、いや今日は午前休だけど仕事たまってるしお昼前には出勤しよ)
重い足取りでマンションの前でスマホのlineを確認すると
『ウサの部屋で待ってる』
津軽さんからメッセージが入っていて慌てて部屋に帰った
ーーーーー ー ー
「おかえり~」
「ただいまです」
ソファーで寛いでた津軽さんは おいでおいでと手招きをする
びっくりしたけど、嬉しいな…なんとなく、素っ気なかったし。
隣に座ると お日さまフローラルの香りがして プライベートな時間に、ほっと気持ちが切り替わる
「疲れたでしょ、立ち仕事だし」
「大丈夫です!でもアリサさんを守らなきゃだし、願わくば情報が欲しいし 緊張しました」
「俺も緊張した…こっち来て」
「緊張ってどっちの…意味ですか?」
露出のある衣装だからだよね。
身体を寄せ会えば、甘えたくなるのは恋人だから…
「優衣の思う方で。コレ、俺を意識したの?」
右目の斜め下を指触れる。アイライナーで書いた涙ボクロ
お守りは効果絶大で、胸を触られようされても上手く避けれたり、えっちな話題を出されても、そつなく誤魔化したり 煙に巻けたと思う
「正直に言うとお守りです。効果ありましたよ」
「ふぅん、じゃ、ココは?」
唇をぷにっと押される。津軽さんが選んで買ってくれたリップ
私たちの空気が 少し熱いのは…
深夜のテンションだから?まるでコスプレみたいな格好をしてるから?私がアリサさんに妬いたから?さっきの潜入捜査でのアドレナリンが私を興奮させてるから?
庁内で予想に反して素っ気なくされたのが尾をひいてる…?
…抱かれたい。抱きしめて欲しい、大好きな彼に…。
「…知ってるクセに。頑張ったご褒美はないんですか?人は誉められるから頑張れるって誰かが言ってました」
私から あからさまに誘った事、あったっけ?
勇気を出して、もっとしたいって…お願いしたことはあったけど。
どうしたら いーんだろ、その気になってもらえるんだろ…。
「誰~?そんなこと言ったの?仕方ないな、優しい津軽さんが今度 廻らない寿司連れてったげる」
「ちがっ…あの…だからっ…」
「もう遅いから帰るね、優衣もシャワー浴びてゆっくり寝なよ?早く出勤なんてしなくていいから」
か、か、帰るっ!?
のらりくらりと、かわされてる?
いや待って!落ちついて…
ハッキリ言わないと私たちの場合、伝わってない事が多い
1回大きく深呼吸する
「…帰らないで泊まっていってください! まだ一緒に居たくて。ここでサヨナラじゃ…さみ…しいし」
「えっ……?」
………。
あれ!!?
し、失敗した?
引いてる?
私を真顔でジっと見ている瞳は感情がよく分からないが引いてる気がする…?
こういうのからレスになったりしないよね?
いや、津軽さん繊細だからあり得る…
どうしよ…。
膨らんだ赤い風船がぷしゅ~と縮み、空しさすら感じる
私のバカ…
「…ごめんなさい…」
「…っ、いやいや、あははっ、ごめん!あはははっ」
「な、なに!?何が可笑しいんですか!」
「ごめんって、はあー可笑しい」
ごめんと言いながら まだ笑ってるイタズラ好きな人…悔しい
けど悔しいのは こういう所も好きって思う彼大好きすぎな私に対して。
このままじゃ駄目!早急にギャフンと言わせる作戦を考えなければ!
ふざけてた空気を恋人の空気に切り替えたのは、意外と笑い上戸な津軽さんからだった
引き寄せられてギュッと抱きしめられる
「…こっちは真剣なのに。もう!離してください」
嘘です。抱きしめてて。
「顔に全部書いてあるから可愛くて。あ~面白い!」
「悪趣味ですよ…」
良かった…引かれてなくて。
「でも昨日もシたのに、優衣も積極的になって…はあ、身が持たない…」
昨日は昨日。今日は今日。です。
「……。」
そんな意地悪言いながらも抱きしめてくれる腕は優しい
守られてるみたいで安心する
だからっ!悔しいけど…そこも好き…。
「ん?怒った?」
「…答えはYES…ですか?」
恥ずかしいから彼の胸に顔を埋めたまま聞いてみる
「ん、だけどシャワー浴びてきて」
バッと身体を離す
「臭いですか!?」
「抱くならガールズバー店員じゃなくて、いつもの優衣がいい。もちろん この格好もメイクもかわいいけどさ」
…なんか、前にホストの津軽さんに言った
"うちに来るなら いつもの津軽さんがいいです"
「すぐ浴びて来ます!」
「はーい 急いでよ」
ーーーー ー ー
翌朝
ギシッ…
ベッドが少し軋む音で目が覚める
なんかこのベッド…ギシギシ煩くなったなぁ…
カーテンの隙間は明るくなっていて朝だと分かる
「…あぁ、ごめん、起こしちゃった」
瞼にキスを落とされ、ほんの数時間前の恋人の時間を簡単に思い出させる
「おはよう…ございます…朝…食…」
「ギリギリまで寝ちゃったし、上で支度して出勤する。優衣はまだ寝てな?」
「…ん、はい…」
夢か 現実か 曖昧だったのに、隣の大きな温もりが無くなり冬でもないのに妙に寒いなって思った
また後で逢えるけど上司と部下で…
私から触れることはできない
ベッドから見送る背中が格好良くて、愛おしくて
無性に寂しかった
最近のわたし、変かも
好きすぎるから??
ずいぶん、欲張りになったもんだな
ーーーー ー ー
警察庁
11時に出勤するとデスクに見慣れない物があった
「可愛い」
ウサギの小さなぬいぐるみがキーホルダーになったものだ
津軽さんのお土産かな?…そうだ…
キーホルダーを付けたのはガールズバーに潜入してる時用のスマホ
よし、これで一緒に居られる
情報が掴めるまで潜入捜査は続く。短期か長期か分からない。
可愛いウサギさん一緒に頑張ろう!
この時の私は 素直を元気を貰っていた
ーーー ー ー
2週間
潜入捜査は続けられたが成果が思うように出ていない現状だった
アリサさんも頑張っているが、清田との相性は悪い…気がする。しかし津軽さんが決定した人選に今さら誰も口を出せなかった
幸い清田は、高確率で店を訪れるため私は比較的、関係を構築出来ていた
そんな中
お店ではコスプレイベントが開かれるため私は
(ありえない!)
現役警察官が、ミニスカポリスのコスプレなんて
…神様は何故こんなイタズラを…
黒澤さんに見られたら写真どころか動画を撮られていただろう
トボトボ更衣室から出てくると清田と遭遇する
「りん、似合ってるよ くくっ-」
「あ!今、笑いましたよ」
「似合ってる、真面目な君にね」
「コスプレしたの初めてなんです。もう楽しんじゃおうかな!」
「おう!稼ぎ時だから頼むぞ、今日は俺の知り合いが来るから金使わせろよ~」
「え~初めてじゃないですか、清田さんのお友達来るの?」
「友達なんて止めてくれよ…俺の飼い主だよ」
!?
「…えっ 清田さんワンちゃんだったんですね 」
「バーカ 東京に来てからずっと世話になってんだ…」
曇った表情からも確信する
何かが起きる と。
ーーーー ー ー
トイレからショートメールで状況を報告、津軽さんや百瀬さんも車から待機となった
お店のカウンターに出ながら接客に明け暮れる。
もちろんアリサさんの様子は常に確認しなきゃだし、なかなか忙しい
潜入で一番の混み具合だった
(…来た よし、瀬戸内くん達も気づいてる)
清田と男は私の近くでビールを飲んでいた
騒々しい店内でよく聞こえないが、分かった事はある
男は中国訛り、清田は男に気を使ってる
私は今回の捜査で情報の細部を知らされていなかった
割りきれてるつもりだが、嘘が苦手な私を津軽さんが警戒したからだと思う
本人から聞いた訳じゃないけど…今回の捜査は、やけに私は会議から外された
「りん、裏に行くからあの酒持ってきて」
「あ、はい」
あの酒とは一昨日、清田に頼まれ私が買ってきた中国酒だった
(チャンス!)
急いで冷えたグラスに酒を継ぎ、普段 清田が使っている事務室に向かった
キャストの控え室前のドアが少しだけ空いている
(……たぶん、百瀬さんあたりが盗聴器を?)
そっと開けると意外にも
(…津軽さん)
素早く中に入りドアを閉めた
(わざわざ津軽さんが出てくる場面?っていうか会うの一週間ぶりなんですけど!?)
声を出さずに指示を待つと
耳元に唇を寄せられる
びくっ
身体が固まる
「盗聴器はウサギのマスコット、今夜、清田から確実な情報を得る」
(えっ…え、なに?)
確かに大きなヤマが来てるけど…
覚悟は…していた
これは私がハニトラで清田から吐かせた方が現実的だって
気になってるのは、そこじゃなくて あらかじめ決まってたシナリオみたいだから
「このコスプレいいね、でもほら、急いで」
コクンっ
頷くのが精一杯で、ひとつ大きく呼吸をして清田たちの元に向かった
ーーーーーー ー ー
清田と中国訛りの男の雰囲気は和やかとは言いがたいもの
盗聴器を近くに設置は出来たが…
その後、大石くんの合図から盗聴器から大した情報は得られなかったと知る
どうする?お店は閉店時間になりキャストの私は帰らなければ行けない
事務室は開いていて中国訛りの男は帰ったと知る
「…清田さん?」
「……」
「お酒のおかわり持って行こうか悩んだんですけど、なんだか…」
「……」
「行きません?」
「…はっ?」
「飲み直しに!ですよ。疲れた顔が更に疲れてますよ~」
「…おまえってお節介なの?」
「私も…実は飲みたい気分だからです」
「しょーがねぇな、連れてってやるよ」
よし!釣れた
あとは…どれだけ情報を得られるか…
そっとウサギのキーホルダー型、盗聴器を回収する
ウサギさん、まだまだ これからだよ
ーーーーーー ー ー
向かった先は
ホテルの一室だった…
「この部屋は…?」
「俺の部屋、ホテル暮らしだから」
無造作に置かれたパソコンに目が行く…
「すごーい、うちの会社儲かってるんですね」
「…んなことねーよ。普通だよ…まともにやってたらな」
「え、聞いちゃマズイ話??」
「缶ビールしかねーけど、ほら」
「はい、ありがとうございます」
他愛もない話から、歌舞伎町の夜の街の話、そして缶ビールを3本開けた所で本題に切り込む
「清田さんって、意外にストレス抱えてませんか?今日も…。あ、手のひらをほぐすマッサージしましょうか?」
素直を右手を出す清田の手をマッサージする
「そーえばお前も、飲みたい気分って言ってたな?疲れたか?」
「………」
「言いたくなきゃ、いいんだ」
「たいした事じゃないですよ?…信じてた彼氏に裏切られて…今日は1人になりたくないなって…」
「へ~、りんみたいなイイ女を傷つける男がいるのか?」
「清田さん…わたし…」
身体を引き寄せられ抱き締められるのは、計算上、分かっていたこと
なのに身体が強ばった
だめっ 身体を預けなきゃ
頭と身体と こんがらがる
顔がゆっくり近づき唇があたる寸前…
頭に浮かぶのは津軽さんの顔
公安刑事の自分と こんなやり方しなきゃ情報を出せない自分の やるせなさ
「?………き、清田さん?」
「…かっこわる…ねみーわ…」
「す、すみません、私帰ります、寝てください...」
ゆっくりベッドに横になる清田、すぐに寝息をたて出した
遅効性の睡眠薬は 津軽さんがお店の控え室に来た時に 中国酒に入れたものだ
成功…した
カバンから最新型 盗聴検知器で、部屋にカメラ等が無いかを確認後 部屋ドアを開けた
待機していた津軽さんと瀬戸内くんが入りパソコンからデータを抜く作業を行い無事に今日の私の任務は成功した
津軽さん…。その背中は公安刑事そのもの。
必ず結果を出す。刑事として 格好良くて頼りになる。だから尊敬して好きになった所もあるが
今回は……
納得のいかない気持ちと、結局は情報を取り出せた真実で心の整理がつかず、その背中を後ろから見ながら歩き、ホテルを出た
ホテルの下で待機していたバンには大石くんと百瀬さんが監視をして待ってくれていた事で、捜査だと気持ちを切り替え、感情的にならずに済んだ気がする
私は、自宅マンション前で車を下り 津軽さんたちはデータを解析するため警察庁に戻って行った
取り敢えず、私の任務は、ほぼ成し遂げたと言って良いだろう。
「……。疲れた」
ーーーーーー ー ー
あれから数日後
私は潜入していたガールズバーを客(班員)から激しく絡まれた事をキッカケに辞め、いつもの公安の業務に戻っていた
「吉川先輩が居ないと書類仕事、全部回って来て大変だったんですよ!」
「怒らなくでも…。それに午後は やれる時は一緒にやったじゃない?」
瀬戸内君と 大石君も 連日ガールズバーに通わなくて行けなくて、大変だったのは分かるけど
私は午前は休んでたし、待遇は良かったのかな
「あーゆう派手な女キライだし全然楽しく無かったし、ほんと疲れ取れない~」
「お疲れ様、今日は私が残業するから早めに帰ってね」
ーーーーーー ー ー
とは言ったものの
この量!
時間は23時。課内で1人になってしまった
朝までかかるかな やらなきゃいけない事は終わったが今日は仕事を思いっきりしたい気分だった
どこかで身体がガールズバーに勤務していた自分から抜け出せてない感覚があり刑事に戻りたかったから。
潜入してる時間が長かった事が原因だけど、いつもより感情が揺さぶられ、女の私で居る時間が長すぎた
「……。疲れた」
疲れた疲れたって私、何度目??自分を自嘲して目を閉じた
津軽班は今、ピークに忙しく仕事と家の往復で、津軽さんに関しては家に帰って居ない日もあるみたいだった
「おつかれ~」
「!! 津軽さん、お疲れ様です」
今二人きりになるのは久しぶり…
疲れているはずなのに、感じさせない立ち姿とふわふわした雰囲気
でも ふわふわの中に感じ取れるものがあった
それは…
「また残業してる…ウサは働きアリになったの?」
「今の内ですから。がむしゃらに働きたいんです」
「おっ、野心あるじゃん」
「野心ってわけじゃないですよ。刑事として、やる気があるって事です」
いつまで女である私が1日中、残業してまで仕事を頑張れるか?
結婚して…たとえば子供が産まれたら、こんな残業なんて出来なくなるし やれる内に思いっっきり働くのも良いかなって考えてたりする
憧れてた職業に就いたんだもん。目指してた刑事には程遠いけど 頑張りたいって気持ちは
ずーっと変わらない。
「……ウサは…」
俯いた顔から、だいたい察してしまう
「津軽さん…」
久しぶりにちゃんと、顔見たな…
珍しく気まずそうな顔に、きゅんとする私って…
「…んー…えっとだからさ…」
まあ、言いたい事、何となく分かるけど
「怒ってるよな…」
「私がですか?」
「ごめん」
津軽さんは落ち込んでる。ずっと悩んでたんだと分かってますよ?
色々、班長としてシュミレーションして一番の方法が今回のやり方で
情報を共有して欲しかった気持ちはあるけど、結果が公安として欲しかった情報を得られて摘発し逮捕まであと数日と迫っていた
感情を激しく揺さぶられたのも含め、津軽さんが私を駒として最高の物にするための作戦
呑み込んでいく
この経験は何度も何度もしてきた
「大丈夫ですよ?津軽さんが気にしすぎですって」
「いやさ、だって…」
「ここは、お手柄だったよ で、良いじゃないですか?いつだか話しましたけど仕事に関しては駒でいいので」
嘘だ
本当は傷ついた
認めたくなかったけど、私は傷ついた
けど公安刑事として 班長の思惑通りに捜査は大きく進んだ
分かってるから津軽さんを責めない
だから 全く気にしてません という態度を取る
嘘だとバレていても突き通す
「いや傷ついてるでしょ…ウサは強いけど、やり過ぎだったか俺だって悩んでー」
カチンっ
ギリギリ競って自分を納得させていた気持ちが…
崩れていき口から勝手に言葉が流れ出る
「津軽さん」
「あ、はい…」
「私は強くなんてありません。でも津軽さんの目的を達成させたいって個人的な気持ちがあります。支えたいっていつも考えてます。頑張ってるんです。」
「優衣…」
「もう、二度と言いたくないので 覚えておいて下さいね?」
「は、はい…」
すぅー、大きく息を吸う
「なんで分かんないの!?私の気持ち舐めんな!!」
「……… 」
「はあ、スッキリした」
「……虎だ」
「トラ?」
「ウサじゃなくて虎だなんて、うちの子じゃない!」
「前にも言われましたね…落ち込んで見えましたが 切り替えていきましょう」
「ウサに言われる事になるとはね…」
「ハニトラ、またさせてくれますか?」
「……どうかな。そんなに がむしゃらに働きたいなら考えとく」
「はい。まだまだ経験不足ですが頑張ります」
「なんで ハニトラに対して そんなやる気なの?」
「私は大丈夫です。大丈夫だから、ですよ」
笑って見せる 割りきりましょう 津軽さんに伝えるために。
傷ついてほしくないから
「…分かった。ねえ、事件解決したら どっか泊まりに行こう?」
「わぁ!いいですね 遠くでなくていいので、楽しみにしてます」
「じゃ、まずは ソレ片付けなよ」
「はい…ご褒美があると頑張れますね」
「うん、だよね。」
パソコンに手をやりキリの良い所まで終わらそうと頭を切り替えるが感じる視線
「津軽さん、まだ帰れないですか?」
「俺も残ってく」
「そうですか。あとで夜食買いに行きます?」
「だね」
変わっていかなきゃいけない、そんな段階を私達は一つ越えたと思う
葛藤しながらも、班長の役割を果たした津軽さん
事件解決まであと少し、ご褒美も待ってるし私も落ちていられない。津軽さんの右腕になるには 程遠いけど頑張ろう
「あっ!」
「うわぁ! な、なんですか?」
「アレっ 持ち帰った?ハニトラしてくれるんでしょ?」
「はい?」
「警察官のコスプレ衣装」
潜入で着たミニスカポリス…!
「返してから辞めましたよ…って言うか 何をさせたかったんですか…?」
「え?職場でエッチな話しないでよ」
「どっちが!」
バカな話をしながら 深夜の残業は続いてく
やっぱり2人で一緒にいる事が自然だな…なんて考えながら。
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