あなたにしたい10のこと
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津軽さんと付き合い始めたのは昨日のこと
夕食後に、ゆっくりカフェオレに口をつけた
仕事帰りに買ったのはファッション誌
津軽さんは ゆるふわ系が好きみたいだけど
ペラペラページをめくりながら、ある特集に目が留まる
ん…?
『彼氏にしたい10のこと』
彼氏…と言えば、久しぶりに私にできた彼氏は
あの津軽高臣
イケメンで王子様みたいなのに、実は中身はめちゃくちゃで、妙な珍味を口に入れてくるし、無茶振りに振り回されるし、話は通じないし、仕事は鬼みたいに厳しくて
だけど、誰より仕事に真っ直ぐで、一緒にいると楽しくて、心の奥に温かい優しさを持っている
知れば知るほど、好きになる
全部引っくるめて好きとか!!あー会いたくなってきた
津軽さんって、噛めば噛むほど味が出る人なのだ
私の心の中にいつも津軽さんがいる
雑誌の特集を見ながら
せっかく彼女になったんだし、私も津軽さんに何かしたい!
ノートを取り出し10個の願いを書き出してみた
ーーーーーー ー ー
その1 お揃い
半休を利用してやって来たのは自由が丘
数件の雑貨屋さんを見て回り、ついにこれだと言う物を見つけた
「コーヒー淹れよっか?」
「あ、はい。それなんですけど」
夜、津軽さんのウチにお邪魔すると手提げ袋からアレを取り出す
「なに?……あ、マグカップ?」
「あの、嫌じゃなければ、お、お揃いで買ったのでここに置かせてもらえませんか?」
そう。私がしたかったのは、お揃いの物を持つこと。
職場でお揃いの物は持てないので、思い付いたのがマグカップだった
「嫌なわけないじゃん!ありがとう。わざわざ買いに行ってくれたんだ」
まじまじとカップを見ていた津軽さんが、ふっと、今度は私を見つめた
「 好みじゃ無かったです?」
「んーん、これってお誘いかなって」
「え?」
「俺と半同棲したいってこと?」
「ち、違います…」
「え、残念…同棲したかったなー」
「 まだ早いです!からかってばかり!」
焦りまくる私に、津軽さんは面白そうに笑う
まだ唇を重ねるだけのキスしかしていない私たちには、その一言は刺激が強すぎた
もう!恥ずかしい
でも、ニコニコ嬉しそうな顔を見ると、私も嬉しい
よし!この調子で色んなことしたい
お揃い、同じ物を持つことじゃなくて
同じ時間が増えていくことなのかもしれない
ーーーーーー ー ー
その2 私から…
「なんか買って帰る?」
「スーパー閉まってるし、コンビニですね」
駅の改札を通りながら雑談を交わす
でも私の心は他にあった
あるミッションがあるのだから!
ソワソワする気持ち、津軽さん気付いちゃってるかな?
私たちのマンションの最寄駅から出て、歩道を歩く
辺りはまだ人が多いけど、知り合いはいない
それを確認してから、私はそっと息を吐いた
自然と私の歩幅に合わせてくれるのは付き合うようになってから
カレカノなんだ…
実感して胸がいっぱいになる
よしっ!
チラチラ盗み見て、位置確認OK!
タイミングを逃さないように…!
ぎゅっ
つ、捕まえた!
「………」
「………」
ゆるく手を握りながら心臓はバクバク激しく動いてた
そう。今日、私が津軽さんにしたかったのは
私から手を繋ぐこと
いつも津軽さんからだったり、繋ぐ?って聞かれて繋いだり
恋人だもん。私から求めるのに意味がある気がしたから
「か、風が冷たくなりましたよね」
「…ぷっ、手汗かきながら言うこと~?」
「え!汗っ」
「あーだめ!離さないよ」
「ハンカチで拭きますから…!」
「このままがいい」
「う~、緊張し過ぎました…」
「可愛いなぁ。そんなに緊張してたんだ?」
「しますよ…彼氏…になったんですから」
彼氏…その言葉に頬が熱くなる
「そんな顔されたら、こっちまで照れるじゃん」
手汗は想定外だったけど
私のあなたが好きって思いが伝わったと思う
コンビニへ向かうだけの帰り道
それなのに、恋人と手を繋いで歩くだけで、世界で一番幸せなデートになった
手を繋ぐ、それだけなのに、こんなにドキドキするなんて知らなかった
ーーーーーー ー ー
その3 突然の…
パソコンに向かい一心不乱に手を動かしていると
ポンっと頭の上に何か柔らかい物を押し付けられた
「え?」
「頑張ってるウサにご褒美」
後ろから聞こえた声に振り返れば
今朝から捜査に出ていた津軽さんと百瀬さんが立っていた
頭に手をやり、柔らかいソレを取ると
「わあ!カワイイ」
それは手のひらサイズの、ウサギのマスコットだった
「え、どうしたんですか?」
「ちょっと野暮用で寄ったゲーセンにウサの友達がいたから連れて来てあげたよ」
つまり、クレーンゲームで取ってくれたということ
う、嬉しいーー!
「ニヤニヤすんじゃねえよ。津軽さんが直々くれてやるんだ。この恩、生涯忘れるなよ」
鋭い視線…でも、どこか呆れたような百瀬さんは、なんだかんだ津軽さんに付き合ってくれたんだろう
「家宝にします!」
「ウサは大袈裟だなあ」
「ありがとうございます…本当に嬉しいです」
こんな嬉しいサプライズ!押し付けられた書類に涙してたけど吹き飛んだ
一緒にいなくても、私を思い出してくれた時間が、津軽さんに存在していたことが胸を熱くした
帰宅後
眠る前、LINEで津軽さんとやり取りをしてから寝るようになった
もちろんタイミングが合えばの話だけど
今夜もベッドで寝転びながら、少しやり取りをして…
お休みなさいと送り合う
この瞬間、少し寂しい
また明日会えるのに、もっと近くに感じたい
ふと横を見ると、今日津軽さんにもらったウサギのマスコット
まさかの嬉しいサプライズだった
……そうだ
彼氏にしたいこと、実行しちゃう?
急いでスマホを開き、もう一度、津軽さんにメッセージを送る
“ ちょっとだけいいですか? ”
ピンポーン
「あ、え、ウサじゃん。ビックリした」
「ごめんなさい、寝ようとしてましたよね」
「うん、でもまだリビングにいたから」
「今日はウサギのマスコットありがとうございました。それで…」
「ん?」
小首をかしげる顔を、ぐいっと身体ごと引き寄せ唇に…
キスをした
「!?」
「お礼です!お休みなさい!」
恥ずかしくて、すぐに背を向けて走り出した
エレベーターに乗り込み、自分の階を押した
…やった!成功…かな?
そう。私がしたかったのは、サプライズ
何が良いかなってずっと考えてたけど
彼女のサプライズ訪問とキス
驚かせられた気がするし、何より、
ちょっと でも会えて、しかもキスまで…
上司としてじゃなく、彼氏に会いに行く彼女
こんなこと出来るのは恋人の特権なのだ
その頃、津軽さんは
「…反則だろ」
「…可愛すぎるでしょ、あれ」
「あぁ、今夜は眠れないかも」
サプライズを成功させたウサは改めて思う
サプライズ、驚かせたかったのに、ドキドキしたのは私の方だった
ーーーーーーー ー ー
その4 あなたのために上手くなりたい
最近気になってることがある
それは
「お昼買ってきました」
「ありがとー、さて昼飯にしよ」
私が買ってきたのは数人分のコンビニ弁当
今日も津軽班は外食する間もなく、手軽に食べて、すぐ仕事に戻れるお弁当
警察庁内でも、張り込み中でも、そんな日が続いていた
班長の津軽さんも例外ではない
できれば栄養のあるもの、食べてほしいな
夕方
「津軽さん、今日くらいは定時で帰ってください」
百瀬さんの言葉に私も加勢する
「そうですよ、ずっと出勤してますし」
「…ん、だね。今日は津軽班はノー残業デイにしようか」
津軽さんのその鶴の一声で私たち全員が定時退社となった
一緒に退庁すると
「どこかで食べて帰ろうか?」
「それなんですけど、ウチに来ませんか?」
「ウサが作ってくれるの?」
「はい、ちょうど実家から色々送られてきたので」
「へ~、じゃあ頂こうかな。フルコース、前菜は何?」
「ごく一般的な、普通の家庭料理です!」
そう。私がしたかったこと、それは手料理を食べて欲しい
べ、別に家庭的をアピールしたい訳じゃない!
いや…ちょっと、あるかも…
一旦お互いの家に帰り、一時間後に私の家に来てもらうと、すでに部屋着の津軽さんに、ドキドキしてしまう
ホントに私たち、付き合ってるんだな…
プライベートを共有できて、改めて交際してるんだと実感する
「今盛り付けるんで座っててください」
「うん、ありがとう」
豚の生姜焼きとキャベツの千切り、根菜汁、ご飯
即席で作った割には栄養も考えて頑張ったんだけど
テーブルに並べながら
「オムライスとかカワイイ物が良いかなって思ったりもしたんですけど…」
「ううん、ウサが作ってくれたなら嬉しいに決まってるじゃん」
「そ、そうですか?」
「わざわざ言わせないで。イジワル」
「でも良かった!野菜をたくさん食べてほしくて」
「最近さ、彼女らしいこと、いっぱいしてくれるじゃん」
「!! さ、さあ 温かい内に食べましょう」
「うん、頂きます」
津軽さんが食べ始めて第一声は
「……うま。」
良かった…味があまり分からないらしい津軽さんに何かを作るのは正直難しい
「味、薄くなかったですか?」
「うん、大丈夫」
パクパク食べてくれる
もっと料理上手くなりたいな…
「こういうの、久しぶりかも」
「え?」
「誰かが俺の体のこと考えて作ってくれたご飯」
思わず箸が止まる
津軽さんは照れたように笑って
「……ありがとう」
たった一言
それだけなのに
胸の奥の"好き"が、また少し大きくなった
ムクムクと日々大きく育つ好きに、照れくさくなって…
つい目を逸らしながら一言だけ
「はい、私も一緒に食べられて嬉しいです…」
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
津軽さんが食器を持って立つ
「え、いいですよ!」
「彼女だけ働かせる彼氏じゃないから」
一緒にキッチンへ
上司じゃない彼氏の津軽さんに、またドキドキしながら一緒に洗い物をする
「また作ってね」
「!」
「ウサの料理おいしいから」
「……はい!」
彼氏にしたいこと。手料理を食べさせたい
料理が上手くなりたい、そう思った
私、津軽さんのおいしいって顔が見たかったんだな
小さくて大きな幸せを見つけた
そんな二人の夜だった
ーーーーーー ー ー
その5 何度だって言いたい
夜、ベッドで寝転びながら
今日のLINEを見返す
『おはよ』
『おはようございます!』
から始まり
『今日のBランチが煮魚定食でしたよ。カレイ美味しかったです』
『俺はコンビニ。また元公安学校組と食べたの?』
『鳴子とです!』
『ふぅーん』
『今度、津軽さんにも煮魚作って良いですか?』
『いいですよ』
『勉強しておきますね』
『明日の朝には公安課に帰るよ』
『順調ですね。早く会いたいです』
『え!素直!』
『私は素直なんです』
夕方にそんな会話をしてLINEは終わってる
地方に捜査で出張中の津軽さんに、邪魔しない程度にコミュニケーションを取る
特別な用事が無くても
LINEが出きるようになったのは付き合うようになってから
何気ない一言を送れることが、これもまた彼女の特権だ
彼女だから…ちゃんと、何度だって伝えたい
“ 大好き ”
おやすみなさいのLINEで伝えたい
そう。私が津軽さんにしたいこと
もう一度、好きですと伝えたい
でも、いざとなると…
とりあえず、
『そろそろ寝ます』
送るとすぐに既読がつき
『俺の夢見てね』
ふふっ、本当に見たいよ、津軽さんの夢
とりあえず今ならLINEを見られる状況らしい
『大好きです』
入力
は、恥ずかしい!
消す
『好きです』
や、やっぱりこれも...!恥ずかしい
消す
『早く明日になればいいな』
「違う……乙女すぎるっ」
何回も書いては消す
『大好きです』
再び入力
……送信!
「送っちゃったーー!!」
叫んで、スマホを放り投げる
スマホが見られない!
返信が怖い!
怖いけど…
出張中の津軽さんの貴重な時間を使ってるのでスマホを拾うと
『熱でもある?』
ヘナヘナと肩の力が抜ける
「もう!意地悪なんだから…」
と思った瞬間、すぐにLINEが来て
『……俺も大好き』
不意打ち!!
こんな言葉をくれるのは
彼女になった私だけなんだと思うと、胸が熱くなった
『早く会いたいです。おやすみなさい』
送るとすぐに、おやすみの返信がくる
ドキドキし過ぎてて、眠れるかな
そっとスマホを閉じた
大好きと伝えれば、大好きと返してくれる
私は、私だけでも、何度でも伝えたいって思ったけど
津軽さんは、私に気持ちを返してくれる人だった
好きだな…好きになって良かった
満たされた気持ちで、きっと今夜は津軽さんの夢を見るんだろう
明日の『おはよう』が、今から待ち遠しい
ーーーーーーー ー ー
その6 好きだと言うから
翌朝、私はいつもより少し早起きをして、鏡に向かっていた
「んー こんな感じ?」
髪の毛をアレコレ弄り、アイロンを当て毛先にウェーブをつける
合わせ鏡にして後ろを確認し
「完成…変じゃない…よね?」
今日は一日ぶりに津軽さんに会える
一日ぶり…そう考えて、自分で笑ってしまう
たった一日会えなかっただけなのに
早く会いたくてソワソワしたこの気持ち
恋してるんだな…
しみじみ自分の今の恋愛脳に呆れてしまう
今日の髪型は、ポニーテール
そう。私が津軽さんにしたいこと、津軽さんが好きな髪型で朝おはようと言いたい
前にポニーテールが好きだと、ひょんなことから知った
その時は髪が短くてできなかったけど
今はミディアムくらいには伸びた
津軽さんが好きだと言うから、伸ばした髪の毛でポニーテールにしたのだ
喜んでくれるかな?
警察庁
「優衣さん、おはようございます」
エレベーター前のロビーで声をかけられ、振り向くと
「あ、黒澤さん。おはようございます」
「一瞬誰かと思いましたよ、似合ってますよ、その髪型」
「 ほんとですか?良かったぁ」
「公安学校時代はずっと短めでしたからね、最近伸びてきたなと思っていたんです」
「ちょっと気分を変えたくて」
話をしながらエレベーターに乗り込んだ
公安課
「おはようございます」
挨拶をして辺りを見れば
津軽さんは
……いない
そっか、まだ出張から帰ってないのか
少し残念…と自席に向かうと
ちょん、ちょん、と髪の毛を軽く引っ張られる
え?
振り向くと近距離に
「うわっ、つ、津軽さん!びっくりした」
「マナーなってないなー、まずは、おはようでしょう?」
「おはようございます」
「うん、おはよう」
なんて言ってくれるだろう!?
期待に胸を膨らませるが…。
津軽さんは何事もなかったかのように席に行ってしまう
…あれ?ポニーテールさっき触ってきたのに
想像していた反応と違うけど
仕事中ということで自分を納得させる他なかった
食堂でランチを食べて公安課に戻る廊下を歩いていると
「あ、ウサ」
「津軽さんお疲れ様です」
ちょん、ちょん
またポニーテールを軽く引かれる
「あ、ちょっと…!」
「……結べたんだ」
「はい!」
「似合うよ」
「…ありがとうございます」
その一言だけがこんなにも嬉しいなんて
良かった!似合ってないのかと思った
胸をなで下ろした、その時
「でもさ」
「?」
「一番最初に見せる約束じゃなかった?」
「え?」
「黒澤に先越された」
「……あっ」
そうだった
『結べるようになったら、一番に見せてね』
そう言われていたのに
「ご、ごめんなさい!」
「しかも」
津軽さんは私の後ろへ回る
「黒澤、後ろからうなじ見てた」
「そんなことないと思いますが…」
「俺、うなじ好きなんだよね」
それは初耳ですが!?
「あの…」
「ショック」
「そんな大げさな……!」
「いや、結構本気」
少し肩を落としてため息
「俺が一番に見たかった」
その一言に申し訳なくなる
津軽さんを喜ばせたかったのに
こんなことになっちゃって
「でも、本当にわざとじゃなくて……」
「分かってるって。だから許すよ。優しい彼氏ですから」
「え、本当ですか?」
「その代わり」
津軽さんは私の後ろに立つと、結んだ髪を指先でそっと持ち上げる
「今日の帰りは俺が独占する」
「!!」
「だって彼女でしょ?一緒に帰ろ」
「も、もう……!」
真っ赤になる私を見て、津軽さんは満足そうに笑った
誰もいない廊下を再び歩き始める
私の揺れるポニーテールを見て
「ねえ」
「はい?」
「……ありがとね」
「え?」
「伸ばしてくれて」
気づいてくれてた
津軽さんのために伸ばしていたこと
「……はい」
「嬉しかった。本当に可愛いよ」
彼氏の津軽さんに翻弄されっぱなしです…
今度はデートでポニーテールしよう。楽しみだな
あなたを喜ばせたい
そう思って始めたことなのに
気付けば、一番幸せになっているのは、いつも私だった。
ーーーーーー ー ー
その7 癒したい
捜査に出たり出張だったり、タイトなスケジュールをこなしていた津軽さんは、今日はずっとデスクワークをしている
「津軽さん、コーヒーです」
「ありがと」
キーボードを打つ手は止まらない
朝からほとんど席を立たず、捜査資料と向き合っている
休憩も取らない姿を見ていると、少し心配になる
でも…実は楽しみもあって
定時で上がる予定の私たちは、軽く何か食べて帰る約束をしていた
でも、疲れてそうな津軽さんを見ると、早く帰した方がいいのか、迷いもある
そうだ…
今日なら…アレ、実行できるんじゃないかな?
真剣な表情でパソコンに向かう津軽さんを横目に見ながら決意を固めた
無事に定時で上がれた私たちは、雰囲気のいい創作イタリアンで食事をした後、タクシーでマンション前まで帰宅していた
「ご馳走さまでした。本当に次は私もお支払いしますから」
食事代からタクシー代まで、何から何まで出してもらい、申し訳ない気持ちになる
「あのねー、どんだけ給料に差があると思ってんの?黙って甘えときゃいいの」
「でも…」
「…じゃあさ、また今度ウサの手料理、食べさせて?」
「!!もちろんです、作りたいです」
「うん、じゃ帰ろっか?」
「あの…!あ、えっと」
「ん?」
「まだ一緒にいたいです…。ちょっとだけ、お邪魔して良いですか?」
勇気を出して、気持ちを言葉にする
少し、面食らった表情をされた気がして、迷惑だったかと不安になる
「大丈夫?ウサ疲れてない?」
「え?私は全然なんともありません。津軽さんこそ疲れてますよね」
「そんなことないけど」
「…マッサージ…させてくれませんか?」
そう。私が今日したかったのはマッサージ
この日のために、動画を見て勉強してきたのだ
「急だね」
「嫌……ですか?」
「嫌じゃないけど」
津軽さんは腕を組んで少し考えたあと
「彼女にそんなことしてもらうの初めてだなって」
「わ、私も彼氏にするの初めてです」
妙に初々しい自分達に照れてしまい、お互いを見て笑いあった
ソファに座り
「後ろ向いてください」
「はいはい」
そっと肩に触れる
初めて津軽さんの肩を触ってドキドキと緊張してしまう
んっ?……
「か、固っ!!」
「そんな?」
「石みたいです」
「筋肉、筋肉」
「いやいや、凝ってるんですよ、ほぐしますね」
一生懸命に身体をほぐしていく。でも痛くないように優しく揉む
「痛くないですか?」
「平気」
「強すぎません?」
「平気」
「眠くないですか?」
「平気」
「何でも言ってくださいね?」
「ウーサ?そんなに心配しなくても大丈夫だって」
「でも……」
「優衣」
「!! は、はい?」
「こういうのってさ」
「?」
「正解なんてないんじゃない?」
「え?」
「俺たちの恋人って関係も、たぶん同じ」
「お互い、こうかなって探しながら覚えていけばいいんだよ」
「津軽さん…」
「優衣が言ってくれたじゃん。二人で、二人だけの恋人の形を見つけようって」
「あ…」
「俺、あの言葉好きなんだ」
「…はい、覚えててくれてありがとうございます」
「うん」
「あー…そこ気持ちいい」
「本当ですか?リンパの流れが良くなるらしいです」
「うん…なんか流れてる気がする」
「ふふっ、丁寧にしますね」
最後に手のひらをマッサージする
「上手いね、今日はよく眠れそう」
「良かったぁ…。…はい、これで終わりです」
津軽さんは、立ち上がって肩を回して
「うん、軽くなった」
「本当ですか?良かったー」
少しでも癒せてホッとすると、隣に座り軽く手を握られた
「?」
近づいた顔に、目を閉じる時間さえなかった
優しく重ねるだけのキス
「ありがとう」
「こ、こちらこそ…」
二人だけの恋人の形
少しずつ、少しずつ
正解を探すんじゃない
二人で作っていく。
そんな恋人になれたらいい
私がマッサージで癒したはずなのに
私の心を津軽さんは癒してくれたのだった。
ーーーーーー ー ー
その8 枕は枕でも
優しいキスに癒されたあと
マッサージは終わったけど、この流れで、あれやってみる?
離れがたくて、もっと津軽さんの体温が欲しくて
恋人になれた現実に、浮かれてふわふわしている
自覚はある。だけど大好きな気持ちは止めようにも止まらない
「あの、津軽さん、もし良かったら…」
「うん?」
ソファー、隣同士で座る私たち
「ひ…膝枕とかどうですか?」
そう。私が津軽さんにしたかったこと。膝枕で休んでほしい
でも…、上司の顔を引き剥がして、彼女として私を見てほしいのが私の本音なのかも知れない
数秒の沈黙が流れた
うっ…、グイグイいき過ぎた!?
「……え?」
「や、やっぱり変ですよね!」
「いや、ふっ…なんか今日はウサが積極的だなぁって」
「だ、だって彼女ですし……。」
「えっ?」
なぜか疑問系で返される
「えっ、彼女ですよね!?」
「あーそうだった、彼女アピールね。かわいいよ?」
「もうっ 」
イジワルなのは、いつものこと
でも最近は、それが照れ隠しなんだって分かるようになった
彼女歴はまだ浅いけど、それくらいは分かる
言い返そうかと思ったその時
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
津軽さんがゆっくり横になる
「……。」
「……。」
(え。本当に乗せた)
想像以上の重みと近さ
目の前には津軽さんの顔
(ち、近い……)
手をどこに置けばいいのか分からない
「固まってる」
「だって……。」
「膝枕するって言ったのウサだよ?」
「そうなんですけど!」
「ふふっ」
嬉しそうに含み笑いを浮かべる顔にそっと手を伸ばす
そして恐る恐る髪を撫でてみた
サラッ
「!」
髪の毛…サラサラ…
「嫌でした?」
「んーん」
目を閉じたまま
「気持ちいい」
マッサージだけじゃなくて
こういう時間も、疲れが取れたらいいな
と思う
ゆっくりと頭を撫で続けた
しばらく静かな時間が流れた
「ねぇ」
「はい?」
「今度は」
「?」
「俺の番ね」
「え?」
「膝枕。」
「!!」
「ウサにもしてあげる」
かーっと頬が熱くなる
「け、結構です!」
「遠慮しないの」
「し、します……!」
「あははっ、残念」
目を合わせて笑い合う
膝枕をしてあげたかっただけなのに
癒やされたのは、また私の方だった
恋人って、不思議だ。
あなたを幸せにしたいと思うたび、 私も同じだけ幸せになっていく
ーーーーーーー ー ー
その9 欲張り
「ん…、気持ちいい…眠くなってきた」
津軽さんに膝枕をしながら、ゆったりと頭を撫で続けていた
眠そうに私の膝の上でウトウトし出した
離れがたい…まだまだ一緒にいたい
つくづく思う。こんな強欲な自分知らなかった
津軽さんは気付いてると思うけど
私は欲張りなんです
恋人って肩書きに甘えすぎていいのか迷う
でも、その肩書きが私をワガママにする
好きって私に言ってくれた声、今も鮮明に覚えてる
「津軽さん…」
「んー?」
「……」
「どしたの?」
「…帰りたくない…。だめですか?」
「っ……!優衣…」
手を伸ばし私の赤くなった頬に触れられる
「うん、泊まりなよ」
勇気を振り絞った私を褒めるような優しい手が嬉しい
そして、急遽決まった津軽さん宅にお泊まり
そう。私が津軽さんにしたかったのは添い寝
極上のくつろぎを提供したいと思ったんだけど…!!!
「これからは、こういう時増えるから部屋着とかウチに置いとけば?」
「は、はい、いずれ…」
一旦、同じマンションの自分の部屋に帰ってシャワーを浴び、部屋着を着て津軽さんの部屋に戻ってきた
同じく部屋着の津軽さんに手を引かれ寝室へ向かう
ベッドを見て、急に緊張してきた
初めて入るわけでもない。けど恋人になってから初なわけで...…
寝るだけなのにドキドキし過ぎて
別に、“ そういう意味 ”のお誘いをした訳じゃない
それは津軽さんも分かってくれてる
キスだって
まだ優しいキスだけだし…
固まる私に津軽さんは笑う
「さっきまであんなに積極的だったのに?」
「うっ……」
「マッサージで身体触りまくって」
「い、言い方……」
「膝枕もしてくれたよね」
「はい……」
「帰りたくないって言って」
「はい……」
「今度は?」
「…………。」
「寝るのは恥ずかしい?」
「……恥ずかしいです」
小さな声で答える私に津軽さんは少し笑って
「安心して」
「?」
「俺も」
「え?」
「結構緊張してる」
「津軽さんでも?」
「好きな子が隣で寝るんだから当たり前でしょ」
「!!」
いそいそと、ベッドに二人並んで横になる
でも
少し距離がある
ちょっと遠いかな
いやでも、今さら近づくのは…
ちょんちょんと、手をつつかれる
横を向くと津軽さんとバッチリ目が合う
「優衣」
「はい?」
「手。」
「え?」
「手だけならいい?」
「…それなら」
ぎゅ。
静かな時間が流れる
手を繋ぐなんて今まで何度もあった
でも馴れることなく胸がドキドキと
ときめいてしまう
好きだなぁ 津軽さんのこと
「ねぇ…」
「?」
「さっき" まだ一緒にいたい "って言ってくれたじゃん。」
「……はい。」
「嬉しかった」
「!!」
「また言って」
「む、無理です!」
「えー」
「一日に二回は言えません!」
「ケチ。」
「ケチじゃありません!」
「ふふっ、今度、絶対に言わすから」
「津軽さんの思いどおりになんて、させません」
「はいはい」
こんなやり取りをしてても、繋がれた手は離れない
それが今の私たち。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
少しお喋りをした後、部屋の明かりが消える
静かな部屋に、規則正しい呼吸だけが響く
繋いだ手は、そのまま
少しだけ勇気を出して、私の方から近付く
寄り添う身体が近くなる
すると
ぎゅっ
「!」
握る力が少しだけ強くなる
「……いいよね、こういうの」
眠そうな声で、津軽さんが小さく呟く
「私、今すごく幸せかも」
暗いからか、素直な思いを口に出す
「うん。知ってる」
そんなやり取りで胸がいっぱいになる
恋人になってから、私は欲張りになった。
手を繋ぎたくて。 キスをしたくて。 一緒に眠りたくて。
でも──
欲張りなのは、私だけじゃなかった
手を離したくないと思ってくれる人がいる
それが、こんなにも幸せ
今夜もきっと、二人でいい夢が見られる
ーーーーーー ー ー
その10 津軽さんへ
夜。
明日は久しぶりの休日
仕事も少し落ち着いていて、部屋の中は静かだった
テーブルには便箋と封筒。
そういえば…
彼氏に手紙なんて、書いたことない
LINEなら毎日する
会えば話もできる
それでも今日は…
文字で伝えたいことがあった
ペンを持ち、便箋をひろげた
『好き』
『ありがとう』
『これからもよろしくお願いします』
全部ありきたりだ
もちろんそう思ってるし、初めは、そんなことを書こうと思ってた
なんだけど…
もっと伝えたいことがある気がする
思い返す
津軽さんと付き合い始めた日々
マグカップ。
手を繋いだ帰り道。
サプライズのキス。
料理。
LINE。
ポニーテール。
マッサージ。
膝枕。
添い寝。
全部……うん、全部
“ 津軽さんの嬉しそうだった顔 ”
を思い出す
そっか、私…
私は何かをしてあげたかったんじゃない
あなたが笑う顔を見たかったんだ
翌日。
定時で仕事を上がった津軽さんと彼の部屋で夕食を一緒に食べた
食器を片付けたタイミングで、ケーキ屋さんで買ってきたショートケーキをテーブルに置いた
「ロウソクは?」
「まだ一ヶ月なので一本もありません」
「イベント感ゼロだ」
「ショートケーキ食べたかっただけです」
「あははっ、ウサらしい」
「津軽さんも好きなくせに」
「でもさ、ウサってば付き合って1ヶ月記念したいなんて、乙女だね」
「私は乙女なんですよ?津軽さんは知らないでしょうけど」
「プレゼント用意してなくてごめんねー?」
「いえいえ要りませんって。そういう目的じゃないですから」
「んー、でもねぇ…」
「でも…私は津軽さんにプレゼント…というか、もらって欲しい物があって」
「…え??」
差し出したピンク色の封筒
津軽さんへ
私はまだ恋人一年生です。
だから正解は分かりません。
でも、一つだけ約束できます。
嬉しい日も、悲しい日も、迷う日も、
私はあなたを信じています。
津軽さんが自分を信じられない日があっても、
その日は私が信じます。
だから安心してください。
これからも
二人だけの恋人の形を
一緒に作っていきましょう。
優衣
黙って便箋を読む津軽さんは、一言も話さない
もう一回読み返してるのが、視線の動きで分かる
読み終えても、封筒へは戻さない
指先で便箋をなぞるように、もう一度だけ視線を落とす
静かな部屋に時計の音だけが響く
「……津軽さん?」
返事はない
しばらくの沈黙が流れたあと
「……参ったな」
ふっと小さな息を吐き、僅かに眉を下げる
「こんなの貰ったらさ…」
困ったように笑う顔
「一生逃がしてあげないよ?」
「に、逃げる予定はありませんし…」
そんなこと言う津軽さんだけど
どこかで私も思ってたから
この手紙で伝えたかったのかも知れない
離れないって。
「ずっと俺の隣にいる?」
「はい。ずっと」
私が津軽さんにしたい10のこと。
その最後は『信じてる』と伝えることだった
この先、あと何十年も経っても
私はきっと何度でも、あなたにそう伝える
無意識に声に出していた
「津軽さんを信じてます」
少し照れたように笑った津軽さんは、私の手をそっと握る
「じゃあ俺も」
「?」
「優衣を信じる」
繋いだ手が少しだけ強く握り返される
あの日、約束した。
" 二人だけの恋人の形を見つけよう "
その答えは、きっとまだ途中
だけど今日、一つだけ分かったことがある
信じることは、愛することと、とてもよく似ている
だから私は今日も、明日も、その先も。
あなたを信じ続けよう
あなたが笑う顔を、これからもずっと見ていたい。
それが、私が津軽さんにしたい、一番大切なことだから。
夕食後に、ゆっくりカフェオレに口をつけた
仕事帰りに買ったのはファッション誌
津軽さんは ゆるふわ系が好きみたいだけど
ペラペラページをめくりながら、ある特集に目が留まる
ん…?
『彼氏にしたい10のこと』
彼氏…と言えば、久しぶりに私にできた彼氏は
あの津軽高臣
イケメンで王子様みたいなのに、実は中身はめちゃくちゃで、妙な珍味を口に入れてくるし、無茶振りに振り回されるし、話は通じないし、仕事は鬼みたいに厳しくて
だけど、誰より仕事に真っ直ぐで、一緒にいると楽しくて、心の奥に温かい優しさを持っている
知れば知るほど、好きになる
全部引っくるめて好きとか!!あー会いたくなってきた
津軽さんって、噛めば噛むほど味が出る人なのだ
私の心の中にいつも津軽さんがいる
雑誌の特集を見ながら
せっかく彼女になったんだし、私も津軽さんに何かしたい!
ノートを取り出し10個の願いを書き出してみた
ーーーーーー ー ー
その1 お揃い
半休を利用してやって来たのは自由が丘
数件の雑貨屋さんを見て回り、ついにこれだと言う物を見つけた
「コーヒー淹れよっか?」
「あ、はい。それなんですけど」
夜、津軽さんのウチにお邪魔すると手提げ袋からアレを取り出す
「なに?……あ、マグカップ?」
「あの、嫌じゃなければ、お、お揃いで買ったのでここに置かせてもらえませんか?」
そう。私がしたかったのは、お揃いの物を持つこと。
職場でお揃いの物は持てないので、思い付いたのがマグカップだった
「嫌なわけないじゃん!ありがとう。わざわざ買いに行ってくれたんだ」
まじまじとカップを見ていた津軽さんが、ふっと、今度は私を見つめた
「 好みじゃ無かったです?」
「んーん、これってお誘いかなって」
「え?」
「俺と半同棲したいってこと?」
「ち、違います…」
「え、残念…同棲したかったなー」
「 まだ早いです!からかってばかり!」
焦りまくる私に、津軽さんは面白そうに笑う
まだ唇を重ねるだけのキスしかしていない私たちには、その一言は刺激が強すぎた
もう!恥ずかしい
でも、ニコニコ嬉しそうな顔を見ると、私も嬉しい
よし!この調子で色んなことしたい
お揃い、同じ物を持つことじゃなくて
同じ時間が増えていくことなのかもしれない
ーーーーーー ー ー
その2 私から…
「なんか買って帰る?」
「スーパー閉まってるし、コンビニですね」
駅の改札を通りながら雑談を交わす
でも私の心は他にあった
あるミッションがあるのだから!
ソワソワする気持ち、津軽さん気付いちゃってるかな?
私たちのマンションの最寄駅から出て、歩道を歩く
辺りはまだ人が多いけど、知り合いはいない
それを確認してから、私はそっと息を吐いた
自然と私の歩幅に合わせてくれるのは付き合うようになってから
カレカノなんだ…
実感して胸がいっぱいになる
よしっ!
チラチラ盗み見て、位置確認OK!
タイミングを逃さないように…!
ぎゅっ
つ、捕まえた!
「………」
「………」
ゆるく手を握りながら心臓はバクバク激しく動いてた
そう。今日、私が津軽さんにしたかったのは
私から手を繋ぐこと
いつも津軽さんからだったり、繋ぐ?って聞かれて繋いだり
恋人だもん。私から求めるのに意味がある気がしたから
「か、風が冷たくなりましたよね」
「…ぷっ、手汗かきながら言うこと~?」
「え!汗っ」
「あーだめ!離さないよ」
「ハンカチで拭きますから…!」
「このままがいい」
「う~、緊張し過ぎました…」
「可愛いなぁ。そんなに緊張してたんだ?」
「しますよ…彼氏…になったんですから」
彼氏…その言葉に頬が熱くなる
「そんな顔されたら、こっちまで照れるじゃん」
手汗は想定外だったけど
私のあなたが好きって思いが伝わったと思う
コンビニへ向かうだけの帰り道
それなのに、恋人と手を繋いで歩くだけで、世界で一番幸せなデートになった
手を繋ぐ、それだけなのに、こんなにドキドキするなんて知らなかった
ーーーーーー ー ー
その3 突然の…
パソコンに向かい一心不乱に手を動かしていると
ポンっと頭の上に何か柔らかい物を押し付けられた
「え?」
「頑張ってるウサにご褒美」
後ろから聞こえた声に振り返れば
今朝から捜査に出ていた津軽さんと百瀬さんが立っていた
頭に手をやり、柔らかいソレを取ると
「わあ!カワイイ」
それは手のひらサイズの、ウサギのマスコットだった
「え、どうしたんですか?」
「ちょっと野暮用で寄ったゲーセンにウサの友達がいたから連れて来てあげたよ」
つまり、クレーンゲームで取ってくれたということ
う、嬉しいーー!
「ニヤニヤすんじゃねえよ。津軽さんが直々くれてやるんだ。この恩、生涯忘れるなよ」
鋭い視線…でも、どこか呆れたような百瀬さんは、なんだかんだ津軽さんに付き合ってくれたんだろう
「家宝にします!」
「ウサは大袈裟だなあ」
「ありがとうございます…本当に嬉しいです」
こんな嬉しいサプライズ!押し付けられた書類に涙してたけど吹き飛んだ
一緒にいなくても、私を思い出してくれた時間が、津軽さんに存在していたことが胸を熱くした
帰宅後
眠る前、LINEで津軽さんとやり取りをしてから寝るようになった
もちろんタイミングが合えばの話だけど
今夜もベッドで寝転びながら、少しやり取りをして…
お休みなさいと送り合う
この瞬間、少し寂しい
また明日会えるのに、もっと近くに感じたい
ふと横を見ると、今日津軽さんにもらったウサギのマスコット
まさかの嬉しいサプライズだった
……そうだ
彼氏にしたいこと、実行しちゃう?
急いでスマホを開き、もう一度、津軽さんにメッセージを送る
“ ちょっとだけいいですか? ”
ピンポーン
「あ、え、ウサじゃん。ビックリした」
「ごめんなさい、寝ようとしてましたよね」
「うん、でもまだリビングにいたから」
「今日はウサギのマスコットありがとうございました。それで…」
「ん?」
小首をかしげる顔を、ぐいっと身体ごと引き寄せ唇に…
キスをした
「!?」
「お礼です!お休みなさい!」
恥ずかしくて、すぐに背を向けて走り出した
エレベーターに乗り込み、自分の階を押した
…やった!成功…かな?
そう。私がしたかったのは、サプライズ
何が良いかなってずっと考えてたけど
彼女のサプライズ訪問とキス
驚かせられた気がするし、何より、
ちょっと でも会えて、しかもキスまで…
上司としてじゃなく、彼氏に会いに行く彼女
こんなこと出来るのは恋人の特権なのだ
その頃、津軽さんは
「…反則だろ」
「…可愛すぎるでしょ、あれ」
「あぁ、今夜は眠れないかも」
サプライズを成功させたウサは改めて思う
サプライズ、驚かせたかったのに、ドキドキしたのは私の方だった
ーーーーーーー ー ー
その4 あなたのために上手くなりたい
最近気になってることがある
それは
「お昼買ってきました」
「ありがとー、さて昼飯にしよ」
私が買ってきたのは数人分のコンビニ弁当
今日も津軽班は外食する間もなく、手軽に食べて、すぐ仕事に戻れるお弁当
警察庁内でも、張り込み中でも、そんな日が続いていた
班長の津軽さんも例外ではない
できれば栄養のあるもの、食べてほしいな
夕方
「津軽さん、今日くらいは定時で帰ってください」
百瀬さんの言葉に私も加勢する
「そうですよ、ずっと出勤してますし」
「…ん、だね。今日は津軽班はノー残業デイにしようか」
津軽さんのその鶴の一声で私たち全員が定時退社となった
一緒に退庁すると
「どこかで食べて帰ろうか?」
「それなんですけど、ウチに来ませんか?」
「ウサが作ってくれるの?」
「はい、ちょうど実家から色々送られてきたので」
「へ~、じゃあ頂こうかな。フルコース、前菜は何?」
「ごく一般的な、普通の家庭料理です!」
そう。私がしたかったこと、それは手料理を食べて欲しい
べ、別に家庭的をアピールしたい訳じゃない!
いや…ちょっと、あるかも…
一旦お互いの家に帰り、一時間後に私の家に来てもらうと、すでに部屋着の津軽さんに、ドキドキしてしまう
ホントに私たち、付き合ってるんだな…
プライベートを共有できて、改めて交際してるんだと実感する
「今盛り付けるんで座っててください」
「うん、ありがとう」
豚の生姜焼きとキャベツの千切り、根菜汁、ご飯
即席で作った割には栄養も考えて頑張ったんだけど
テーブルに並べながら
「オムライスとかカワイイ物が良いかなって思ったりもしたんですけど…」
「ううん、ウサが作ってくれたなら嬉しいに決まってるじゃん」
「そ、そうですか?」
「わざわざ言わせないで。イジワル」
「でも良かった!野菜をたくさん食べてほしくて」
「最近さ、彼女らしいこと、いっぱいしてくれるじゃん」
「!! さ、さあ 温かい内に食べましょう」
「うん、頂きます」
津軽さんが食べ始めて第一声は
「……うま。」
良かった…味があまり分からないらしい津軽さんに何かを作るのは正直難しい
「味、薄くなかったですか?」
「うん、大丈夫」
パクパク食べてくれる
もっと料理上手くなりたいな…
「こういうの、久しぶりかも」
「え?」
「誰かが俺の体のこと考えて作ってくれたご飯」
思わず箸が止まる
津軽さんは照れたように笑って
「……ありがとう」
たった一言
それだけなのに
胸の奥の"好き"が、また少し大きくなった
ムクムクと日々大きく育つ好きに、照れくさくなって…
つい目を逸らしながら一言だけ
「はい、私も一緒に食べられて嬉しいです…」
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
津軽さんが食器を持って立つ
「え、いいですよ!」
「彼女だけ働かせる彼氏じゃないから」
一緒にキッチンへ
上司じゃない彼氏の津軽さんに、またドキドキしながら一緒に洗い物をする
「また作ってね」
「!」
「ウサの料理おいしいから」
「……はい!」
彼氏にしたいこと。手料理を食べさせたい
料理が上手くなりたい、そう思った
私、津軽さんのおいしいって顔が見たかったんだな
小さくて大きな幸せを見つけた
そんな二人の夜だった
ーーーーーー ー ー
その5 何度だって言いたい
夜、ベッドで寝転びながら
今日のLINEを見返す
『おはよ』
『おはようございます!』
から始まり
『今日のBランチが煮魚定食でしたよ。カレイ美味しかったです』
『俺はコンビニ。また元公安学校組と食べたの?』
『鳴子とです!』
『ふぅーん』
『今度、津軽さんにも煮魚作って良いですか?』
『いいですよ』
『勉強しておきますね』
『明日の朝には公安課に帰るよ』
『順調ですね。早く会いたいです』
『え!素直!』
『私は素直なんです』
夕方にそんな会話をしてLINEは終わってる
地方に捜査で出張中の津軽さんに、邪魔しない程度にコミュニケーションを取る
特別な用事が無くても
LINEが出きるようになったのは付き合うようになってから
何気ない一言を送れることが、これもまた彼女の特権だ
彼女だから…ちゃんと、何度だって伝えたい
“ 大好き ”
おやすみなさいのLINEで伝えたい
そう。私が津軽さんにしたいこと
もう一度、好きですと伝えたい
でも、いざとなると…
とりあえず、
『そろそろ寝ます』
送るとすぐに既読がつき
『俺の夢見てね』
ふふっ、本当に見たいよ、津軽さんの夢
とりあえず今ならLINEを見られる状況らしい
『大好きです』
入力
は、恥ずかしい!
消す
『好きです』
や、やっぱりこれも...!恥ずかしい
消す
『早く明日になればいいな』
「違う……乙女すぎるっ」
何回も書いては消す
『大好きです』
再び入力
……送信!
「送っちゃったーー!!」
叫んで、スマホを放り投げる
スマホが見られない!
返信が怖い!
怖いけど…
出張中の津軽さんの貴重な時間を使ってるのでスマホを拾うと
『熱でもある?』
ヘナヘナと肩の力が抜ける
「もう!意地悪なんだから…」
と思った瞬間、すぐにLINEが来て
『……俺も大好き』
不意打ち!!
こんな言葉をくれるのは
彼女になった私だけなんだと思うと、胸が熱くなった
『早く会いたいです。おやすみなさい』
送るとすぐに、おやすみの返信がくる
ドキドキし過ぎてて、眠れるかな
そっとスマホを閉じた
大好きと伝えれば、大好きと返してくれる
私は、私だけでも、何度でも伝えたいって思ったけど
津軽さんは、私に気持ちを返してくれる人だった
好きだな…好きになって良かった
満たされた気持ちで、きっと今夜は津軽さんの夢を見るんだろう
明日の『おはよう』が、今から待ち遠しい
ーーーーーーー ー ー
その6 好きだと言うから
翌朝、私はいつもより少し早起きをして、鏡に向かっていた
「んー こんな感じ?」
髪の毛をアレコレ弄り、アイロンを当て毛先にウェーブをつける
合わせ鏡にして後ろを確認し
「完成…変じゃない…よね?」
今日は一日ぶりに津軽さんに会える
一日ぶり…そう考えて、自分で笑ってしまう
たった一日会えなかっただけなのに
早く会いたくてソワソワしたこの気持ち
恋してるんだな…
しみじみ自分の今の恋愛脳に呆れてしまう
今日の髪型は、ポニーテール
そう。私が津軽さんにしたいこと、津軽さんが好きな髪型で朝おはようと言いたい
前にポニーテールが好きだと、ひょんなことから知った
その時は髪が短くてできなかったけど
今はミディアムくらいには伸びた
津軽さんが好きだと言うから、伸ばした髪の毛でポニーテールにしたのだ
喜んでくれるかな?
警察庁
「優衣さん、おはようございます」
エレベーター前のロビーで声をかけられ、振り向くと
「あ、黒澤さん。おはようございます」
「一瞬誰かと思いましたよ、似合ってますよ、その髪型」
「 ほんとですか?良かったぁ」
「公安学校時代はずっと短めでしたからね、最近伸びてきたなと思っていたんです」
「ちょっと気分を変えたくて」
話をしながらエレベーターに乗り込んだ
公安課
「おはようございます」
挨拶をして辺りを見れば
津軽さんは
……いない
そっか、まだ出張から帰ってないのか
少し残念…と自席に向かうと
ちょん、ちょん、と髪の毛を軽く引っ張られる
え?
振り向くと近距離に
「うわっ、つ、津軽さん!びっくりした」
「マナーなってないなー、まずは、おはようでしょう?」
「おはようございます」
「うん、おはよう」
なんて言ってくれるだろう!?
期待に胸を膨らませるが…。
津軽さんは何事もなかったかのように席に行ってしまう
…あれ?ポニーテールさっき触ってきたのに
想像していた反応と違うけど
仕事中ということで自分を納得させる他なかった
食堂でランチを食べて公安課に戻る廊下を歩いていると
「あ、ウサ」
「津軽さんお疲れ様です」
ちょん、ちょん
またポニーテールを軽く引かれる
「あ、ちょっと…!」
「……結べたんだ」
「はい!」
「似合うよ」
「…ありがとうございます」
その一言だけがこんなにも嬉しいなんて
良かった!似合ってないのかと思った
胸をなで下ろした、その時
「でもさ」
「?」
「一番最初に見せる約束じゃなかった?」
「え?」
「黒澤に先越された」
「……あっ」
そうだった
『結べるようになったら、一番に見せてね』
そう言われていたのに
「ご、ごめんなさい!」
「しかも」
津軽さんは私の後ろへ回る
「黒澤、後ろからうなじ見てた」
「そんなことないと思いますが…」
「俺、うなじ好きなんだよね」
それは初耳ですが!?
「あの…」
「ショック」
「そんな大げさな……!」
「いや、結構本気」
少し肩を落としてため息
「俺が一番に見たかった」
その一言に申し訳なくなる
津軽さんを喜ばせたかったのに
こんなことになっちゃって
「でも、本当にわざとじゃなくて……」
「分かってるって。だから許すよ。優しい彼氏ですから」
「え、本当ですか?」
「その代わり」
津軽さんは私の後ろに立つと、結んだ髪を指先でそっと持ち上げる
「今日の帰りは俺が独占する」
「!!」
「だって彼女でしょ?一緒に帰ろ」
「も、もう……!」
真っ赤になる私を見て、津軽さんは満足そうに笑った
誰もいない廊下を再び歩き始める
私の揺れるポニーテールを見て
「ねえ」
「はい?」
「……ありがとね」
「え?」
「伸ばしてくれて」
気づいてくれてた
津軽さんのために伸ばしていたこと
「……はい」
「嬉しかった。本当に可愛いよ」
彼氏の津軽さんに翻弄されっぱなしです…
今度はデートでポニーテールしよう。楽しみだな
あなたを喜ばせたい
そう思って始めたことなのに
気付けば、一番幸せになっているのは、いつも私だった。
ーーーーーー ー ー
その7 癒したい
捜査に出たり出張だったり、タイトなスケジュールをこなしていた津軽さんは、今日はずっとデスクワークをしている
「津軽さん、コーヒーです」
「ありがと」
キーボードを打つ手は止まらない
朝からほとんど席を立たず、捜査資料と向き合っている
休憩も取らない姿を見ていると、少し心配になる
でも…実は楽しみもあって
定時で上がる予定の私たちは、軽く何か食べて帰る約束をしていた
でも、疲れてそうな津軽さんを見ると、早く帰した方がいいのか、迷いもある
そうだ…
今日なら…アレ、実行できるんじゃないかな?
真剣な表情でパソコンに向かう津軽さんを横目に見ながら決意を固めた
無事に定時で上がれた私たちは、雰囲気のいい創作イタリアンで食事をした後、タクシーでマンション前まで帰宅していた
「ご馳走さまでした。本当に次は私もお支払いしますから」
食事代からタクシー代まで、何から何まで出してもらい、申し訳ない気持ちになる
「あのねー、どんだけ給料に差があると思ってんの?黙って甘えときゃいいの」
「でも…」
「…じゃあさ、また今度ウサの手料理、食べさせて?」
「!!もちろんです、作りたいです」
「うん、じゃ帰ろっか?」
「あの…!あ、えっと」
「ん?」
「まだ一緒にいたいです…。ちょっとだけ、お邪魔して良いですか?」
勇気を出して、気持ちを言葉にする
少し、面食らった表情をされた気がして、迷惑だったかと不安になる
「大丈夫?ウサ疲れてない?」
「え?私は全然なんともありません。津軽さんこそ疲れてますよね」
「そんなことないけど」
「…マッサージ…させてくれませんか?」
そう。私が今日したかったのはマッサージ
この日のために、動画を見て勉強してきたのだ
「急だね」
「嫌……ですか?」
「嫌じゃないけど」
津軽さんは腕を組んで少し考えたあと
「彼女にそんなことしてもらうの初めてだなって」
「わ、私も彼氏にするの初めてです」
妙に初々しい自分達に照れてしまい、お互いを見て笑いあった
ソファに座り
「後ろ向いてください」
「はいはい」
そっと肩に触れる
初めて津軽さんの肩を触ってドキドキと緊張してしまう
んっ?……
「か、固っ!!」
「そんな?」
「石みたいです」
「筋肉、筋肉」
「いやいや、凝ってるんですよ、ほぐしますね」
一生懸命に身体をほぐしていく。でも痛くないように優しく揉む
「痛くないですか?」
「平気」
「強すぎません?」
「平気」
「眠くないですか?」
「平気」
「何でも言ってくださいね?」
「ウーサ?そんなに心配しなくても大丈夫だって」
「でも……」
「優衣」
「!! は、はい?」
「こういうのってさ」
「?」
「正解なんてないんじゃない?」
「え?」
「俺たちの恋人って関係も、たぶん同じ」
「お互い、こうかなって探しながら覚えていけばいいんだよ」
「津軽さん…」
「優衣が言ってくれたじゃん。二人で、二人だけの恋人の形を見つけようって」
「あ…」
「俺、あの言葉好きなんだ」
「…はい、覚えててくれてありがとうございます」
「うん」
「あー…そこ気持ちいい」
「本当ですか?リンパの流れが良くなるらしいです」
「うん…なんか流れてる気がする」
「ふふっ、丁寧にしますね」
最後に手のひらをマッサージする
「上手いね、今日はよく眠れそう」
「良かったぁ…。…はい、これで終わりです」
津軽さんは、立ち上がって肩を回して
「うん、軽くなった」
「本当ですか?良かったー」
少しでも癒せてホッとすると、隣に座り軽く手を握られた
「?」
近づいた顔に、目を閉じる時間さえなかった
優しく重ねるだけのキス
「ありがとう」
「こ、こちらこそ…」
二人だけの恋人の形
少しずつ、少しずつ
正解を探すんじゃない
二人で作っていく。
そんな恋人になれたらいい
私がマッサージで癒したはずなのに
私の心を津軽さんは癒してくれたのだった。
ーーーーーー ー ー
その8 枕は枕でも
優しいキスに癒されたあと
マッサージは終わったけど、この流れで、あれやってみる?
離れがたくて、もっと津軽さんの体温が欲しくて
恋人になれた現実に、浮かれてふわふわしている
自覚はある。だけど大好きな気持ちは止めようにも止まらない
「あの、津軽さん、もし良かったら…」
「うん?」
ソファー、隣同士で座る私たち
「ひ…膝枕とかどうですか?」
そう。私が津軽さんにしたかったこと。膝枕で休んでほしい
でも…、上司の顔を引き剥がして、彼女として私を見てほしいのが私の本音なのかも知れない
数秒の沈黙が流れた
うっ…、グイグイいき過ぎた!?
「……え?」
「や、やっぱり変ですよね!」
「いや、ふっ…なんか今日はウサが積極的だなぁって」
「だ、だって彼女ですし……。」
「えっ?」
なぜか疑問系で返される
「えっ、彼女ですよね!?」
「あーそうだった、彼女アピールね。かわいいよ?」
「もうっ 」
イジワルなのは、いつものこと
でも最近は、それが照れ隠しなんだって分かるようになった
彼女歴はまだ浅いけど、それくらいは分かる
言い返そうかと思ったその時
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
津軽さんがゆっくり横になる
「……。」
「……。」
(え。本当に乗せた)
想像以上の重みと近さ
目の前には津軽さんの顔
(ち、近い……)
手をどこに置けばいいのか分からない
「固まってる」
「だって……。」
「膝枕するって言ったのウサだよ?」
「そうなんですけど!」
「ふふっ」
嬉しそうに含み笑いを浮かべる顔にそっと手を伸ばす
そして恐る恐る髪を撫でてみた
サラッ
「!」
髪の毛…サラサラ…
「嫌でした?」
「んーん」
目を閉じたまま
「気持ちいい」
マッサージだけじゃなくて
こういう時間も、疲れが取れたらいいな
と思う
ゆっくりと頭を撫で続けた
しばらく静かな時間が流れた
「ねぇ」
「はい?」
「今度は」
「?」
「俺の番ね」
「え?」
「膝枕。」
「!!」
「ウサにもしてあげる」
かーっと頬が熱くなる
「け、結構です!」
「遠慮しないの」
「し、します……!」
「あははっ、残念」
目を合わせて笑い合う
膝枕をしてあげたかっただけなのに
癒やされたのは、また私の方だった
恋人って、不思議だ。
あなたを幸せにしたいと思うたび、 私も同じだけ幸せになっていく
ーーーーーーー ー ー
その9 欲張り
「ん…、気持ちいい…眠くなってきた」
津軽さんに膝枕をしながら、ゆったりと頭を撫で続けていた
眠そうに私の膝の上でウトウトし出した
離れがたい…まだまだ一緒にいたい
つくづく思う。こんな強欲な自分知らなかった
津軽さんは気付いてると思うけど
私は欲張りなんです
恋人って肩書きに甘えすぎていいのか迷う
でも、その肩書きが私をワガママにする
好きって私に言ってくれた声、今も鮮明に覚えてる
「津軽さん…」
「んー?」
「……」
「どしたの?」
「…帰りたくない…。だめですか?」
「っ……!優衣…」
手を伸ばし私の赤くなった頬に触れられる
「うん、泊まりなよ」
勇気を振り絞った私を褒めるような優しい手が嬉しい
そして、急遽決まった津軽さん宅にお泊まり
そう。私が津軽さんにしたかったのは添い寝
極上のくつろぎを提供したいと思ったんだけど…!!!
「これからは、こういう時増えるから部屋着とかウチに置いとけば?」
「は、はい、いずれ…」
一旦、同じマンションの自分の部屋に帰ってシャワーを浴び、部屋着を着て津軽さんの部屋に戻ってきた
同じく部屋着の津軽さんに手を引かれ寝室へ向かう
ベッドを見て、急に緊張してきた
初めて入るわけでもない。けど恋人になってから初なわけで...…
寝るだけなのにドキドキし過ぎて
別に、“ そういう意味 ”のお誘いをした訳じゃない
それは津軽さんも分かってくれてる
キスだって
まだ優しいキスだけだし…
固まる私に津軽さんは笑う
「さっきまであんなに積極的だったのに?」
「うっ……」
「マッサージで身体触りまくって」
「い、言い方……」
「膝枕もしてくれたよね」
「はい……」
「帰りたくないって言って」
「はい……」
「今度は?」
「…………。」
「寝るのは恥ずかしい?」
「……恥ずかしいです」
小さな声で答える私に津軽さんは少し笑って
「安心して」
「?」
「俺も」
「え?」
「結構緊張してる」
「津軽さんでも?」
「好きな子が隣で寝るんだから当たり前でしょ」
「!!」
いそいそと、ベッドに二人並んで横になる
でも
少し距離がある
ちょっと遠いかな
いやでも、今さら近づくのは…
ちょんちょんと、手をつつかれる
横を向くと津軽さんとバッチリ目が合う
「優衣」
「はい?」
「手。」
「え?」
「手だけならいい?」
「…それなら」
ぎゅ。
静かな時間が流れる
手を繋ぐなんて今まで何度もあった
でも馴れることなく胸がドキドキと
ときめいてしまう
好きだなぁ 津軽さんのこと
「ねぇ…」
「?」
「さっき" まだ一緒にいたい "って言ってくれたじゃん。」
「……はい。」
「嬉しかった」
「!!」
「また言って」
「む、無理です!」
「えー」
「一日に二回は言えません!」
「ケチ。」
「ケチじゃありません!」
「ふふっ、今度、絶対に言わすから」
「津軽さんの思いどおりになんて、させません」
「はいはい」
こんなやり取りをしてても、繋がれた手は離れない
それが今の私たち。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
少しお喋りをした後、部屋の明かりが消える
静かな部屋に、規則正しい呼吸だけが響く
繋いだ手は、そのまま
少しだけ勇気を出して、私の方から近付く
寄り添う身体が近くなる
すると
ぎゅっ
「!」
握る力が少しだけ強くなる
「……いいよね、こういうの」
眠そうな声で、津軽さんが小さく呟く
「私、今すごく幸せかも」
暗いからか、素直な思いを口に出す
「うん。知ってる」
そんなやり取りで胸がいっぱいになる
恋人になってから、私は欲張りになった。
手を繋ぎたくて。 キスをしたくて。 一緒に眠りたくて。
でも──
欲張りなのは、私だけじゃなかった
手を離したくないと思ってくれる人がいる
それが、こんなにも幸せ
今夜もきっと、二人でいい夢が見られる
ーーーーーー ー ー
その10 津軽さんへ
夜。
明日は久しぶりの休日
仕事も少し落ち着いていて、部屋の中は静かだった
テーブルには便箋と封筒。
そういえば…
彼氏に手紙なんて、書いたことない
LINEなら毎日する
会えば話もできる
それでも今日は…
文字で伝えたいことがあった
ペンを持ち、便箋をひろげた
『好き』
『ありがとう』
『これからもよろしくお願いします』
全部ありきたりだ
もちろんそう思ってるし、初めは、そんなことを書こうと思ってた
なんだけど…
もっと伝えたいことがある気がする
思い返す
津軽さんと付き合い始めた日々
マグカップ。
手を繋いだ帰り道。
サプライズのキス。
料理。
LINE。
ポニーテール。
マッサージ。
膝枕。
添い寝。
全部……うん、全部
“ 津軽さんの嬉しそうだった顔 ”
を思い出す
そっか、私…
私は何かをしてあげたかったんじゃない
あなたが笑う顔を見たかったんだ
翌日。
定時で仕事を上がった津軽さんと彼の部屋で夕食を一緒に食べた
食器を片付けたタイミングで、ケーキ屋さんで買ってきたショートケーキをテーブルに置いた
「ロウソクは?」
「まだ一ヶ月なので一本もありません」
「イベント感ゼロだ」
「ショートケーキ食べたかっただけです」
「あははっ、ウサらしい」
「津軽さんも好きなくせに」
「でもさ、ウサってば付き合って1ヶ月記念したいなんて、乙女だね」
「私は乙女なんですよ?津軽さんは知らないでしょうけど」
「プレゼント用意してなくてごめんねー?」
「いえいえ要りませんって。そういう目的じゃないですから」
「んー、でもねぇ…」
「でも…私は津軽さんにプレゼント…というか、もらって欲しい物があって」
「…え??」
差し出したピンク色の封筒
津軽さんへ
私はまだ恋人一年生です。
だから正解は分かりません。
でも、一つだけ約束できます。
嬉しい日も、悲しい日も、迷う日も、
私はあなたを信じています。
津軽さんが自分を信じられない日があっても、
その日は私が信じます。
だから安心してください。
これからも
二人だけの恋人の形を
一緒に作っていきましょう。
優衣
黙って便箋を読む津軽さんは、一言も話さない
もう一回読み返してるのが、視線の動きで分かる
読み終えても、封筒へは戻さない
指先で便箋をなぞるように、もう一度だけ視線を落とす
静かな部屋に時計の音だけが響く
「……津軽さん?」
返事はない
しばらくの沈黙が流れたあと
「……参ったな」
ふっと小さな息を吐き、僅かに眉を下げる
「こんなの貰ったらさ…」
困ったように笑う顔
「一生逃がしてあげないよ?」
「に、逃げる予定はありませんし…」
そんなこと言う津軽さんだけど
どこかで私も思ってたから
この手紙で伝えたかったのかも知れない
離れないって。
「ずっと俺の隣にいる?」
「はい。ずっと」
私が津軽さんにしたい10のこと。
その最後は『信じてる』と伝えることだった
この先、あと何十年も経っても
私はきっと何度でも、あなたにそう伝える
無意識に声に出していた
「津軽さんを信じてます」
少し照れたように笑った津軽さんは、私の手をそっと握る
「じゃあ俺も」
「?」
「優衣を信じる」
繋いだ手が少しだけ強く握り返される
あの日、約束した。
" 二人だけの恋人の形を見つけよう "
その答えは、きっとまだ途中
だけど今日、一つだけ分かったことがある
信じることは、愛することと、とてもよく似ている
だから私は今日も、明日も、その先も。
あなたを信じ続けよう
あなたが笑う顔を、これからもずっと見ていたい。
それが、私が津軽さんにしたい、一番大切なことだから。
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