百瀬尊の苦行
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──百瀬目線──
まさかだった
津軽さんが恋をするなんて
誰にも本気になれない。
どこか寂しそうで
どこか達観していて
どこか危ういのに、最後までやりきる芯の強さ
どこか少年っぽさが抜けない所も
俺はただただ、津軽さんについて行くと決めて今まできた
これからも、変わらない
そのままの津軽さんについていくんだと思っていた
アイツが現れるまでは。
ーーーーーーー ー ー
「それでウサが~」
「あ、ウサが好きそう」
「って、ウサが言うんだよ」
捜査から離れ雑談となると
ウサ、ウサ、ウサ…
津軽さんがこんなに一人の女に執着してるのは初めてだ
こんな日が来るなんて思わなかった
しかも、相手がアイツだ
わかんねぇ
でもアイツだから、津軽さんは誕生日をアイツと過ごした
土産にもらったリンゴは俺も彼女と食べた
そして、今日も俺は
「ウサってこういう店好きかな?」
「これウサに似合うかな。いやアクセのプレゼントは早いかな?」
「ウサが黒澤に話してたんだけど、スーパームーンを好きな人と見たいって。俺のことかな?」
……知らん。
密空間の、捜査帰りの車
今日もウサ、ウサ、ウサ
俺はアンタの恋愛相談員じゃない
「津軽さん」
「どう思う?」
「俺、彼女いるんで」
「知ってるけど」
「連絡先、教えるので彼女に聞いてください」
「えぇ?モモだから参考になるんだよ」
……何がだ。
仕方なく一般論を交えながら、津軽さんと話をする
女と付き合った数も、遊んできた数も、津軽さんの方が圧倒的に多い
それなのに、本気の恋愛になると俺に聞いてくる
完全に恋愛初心者だ
「で?付き合わないんですか?」
「……まあ、ほぼ付き合ってるみたいなもんでしょ」
「はあ…」
「俺たちは、プラトニックだから。純粋な関係もいいでしょ」
「プラトニックね…いいんじゃないですか」
「でしょ」
笑う津軽さんを見て思う
あの日…
誕生日のリンゴ狩りから帰ってきた日の津軽さんは、笑っていた
あんな顔をする人だったんだと、少し驚いた
だけど、その笑顔は一瞬だけだった
津軽さんの視線はデスクに置かれた卓上カレンダーに移る
家族を失った日。
誰にも悟られないくらい、小さく、ほんの少しだけ、この人の表情が曇った
……笑っていても、消えないものはある
それでも、この人が誕生日の過ごし方を変えた事に、少なからず衝撃を覚えたのだった
津軽さんはふざけてプラトニックと言ったが、あながち…本心なのかもしれない
アイツをどこに食事に誘おうか、一生懸命に探す横顔は幸せそうだ
だが!
俺の日常は、この二人にじわじわと侵食されていった
ある日
捜査に向かう途中、俺は運転、助手席は津軽さん、後部座席は吉川
津軽さんが振り返って吉川を構う
「ウサ寒くない?」
「大丈夫です!」
「ブランケットあるよ?」
「大丈夫です!」
「ほんと?」
「はい!」
バックミラーを見れば、津軽さんの頭が邪魔をするが、吉川の照れくさそうに笑ってる顔が映る
二人だけで目が合って笑ってる
(チッ……バックミラーが仕事しねぇ)
またある日
三人で屋台のラーメン
「ウサ、これ一口食べる?」
「え、いいんですか?」
「もちろん」
「じゃあ、私のも交換して食べましょう」
(付き合ってないんじゃなかったのか)
またある日
(…ん?この匂い)
アイツが廊下からこちらに歩いてくる
まだ姿は見えない
(……仕方ない)
「あと十秒」
「え?なにモモ?」
ガチャ
「お疲れ様です!」
「あ、ウサ!」
一瞬で満面の笑顔
(クソッ…!俺はなんで…)
またある日
「あ、虹じゃん」
「そうですね」
潜入捜査の帰り、高層ビルから虹が見えた
「ウサ見てるかな」
「……」
五秒後
「写真撮ってLINEしていいかな?」
「好きにしてください」
三十秒後
「返ってきた。綺麗ですね、だって」
「よかったですね」
(実況するな)
ここ最近、こんなことばかりだ
「はぁぁー…」
一人になり、盛大にため息をつく
そして俺は気づいた
津軽さんは、恋をすると、意外とうるさい
それから数日後
捜査を終え、二人で警察庁へ戻る車内
夕日が街を、車内を、茜色に染めている
信号待ちに、ふと助手席を見る
夕日に照らされた横顔は、どこか遠くを見ていた
普段なら、ウサ、ウサとアイツの話をするのに
今日は静かだった。
俺は知っている
この時間だ
家族を失った、あの日
津軽さんの時間だけが、今も止まる
名前を呼ぼうとして
(やめた…)
何も言えない
何を言っても届かない気がした
ただ夕日に照らされた横顔だけを見ていた
その表情は強い公安刑事でも、仲間に慕われる班長でもない
泣くこともできず、
時間だけが過ぎてしまった、幼い少年のようだった。
胸が締め付けられる
……幸せになってほしい
心の底から、そう思った
アイツなら…
吉川優衣なら
止まったままの時間を、少しずつ動かしてくれるかもしれない
だから俺は
今日も二人を見守る
多少うるさくても、多少巻き込まれても
それくらいなら、安いもんだ
まさかだった
津軽さんが恋をするなんて
誰にも本気になれない。
どこか寂しそうで
どこか達観していて
どこか危ういのに、最後までやりきる芯の強さ
どこか少年っぽさが抜けない所も
俺はただただ、津軽さんについて行くと決めて今まできた
これからも、変わらない
そのままの津軽さんについていくんだと思っていた
アイツが現れるまでは。
ーーーーーーー ー ー
「それでウサが~」
「あ、ウサが好きそう」
「って、ウサが言うんだよ」
捜査から離れ雑談となると
ウサ、ウサ、ウサ…
津軽さんがこんなに一人の女に執着してるのは初めてだ
こんな日が来るなんて思わなかった
しかも、相手がアイツだ
わかんねぇ
でもアイツだから、津軽さんは誕生日をアイツと過ごした
土産にもらったリンゴは俺も彼女と食べた
そして、今日も俺は
「ウサってこういう店好きかな?」
「これウサに似合うかな。いやアクセのプレゼントは早いかな?」
「ウサが黒澤に話してたんだけど、スーパームーンを好きな人と見たいって。俺のことかな?」
……知らん。
密空間の、捜査帰りの車
今日もウサ、ウサ、ウサ
俺はアンタの恋愛相談員じゃない
「津軽さん」
「どう思う?」
「俺、彼女いるんで」
「知ってるけど」
「連絡先、教えるので彼女に聞いてください」
「えぇ?モモだから参考になるんだよ」
……何がだ。
仕方なく一般論を交えながら、津軽さんと話をする
女と付き合った数も、遊んできた数も、津軽さんの方が圧倒的に多い
それなのに、本気の恋愛になると俺に聞いてくる
完全に恋愛初心者だ
「で?付き合わないんですか?」
「……まあ、ほぼ付き合ってるみたいなもんでしょ」
「はあ…」
「俺たちは、プラトニックだから。純粋な関係もいいでしょ」
「プラトニックね…いいんじゃないですか」
「でしょ」
笑う津軽さんを見て思う
あの日…
誕生日のリンゴ狩りから帰ってきた日の津軽さんは、笑っていた
あんな顔をする人だったんだと、少し驚いた
だけど、その笑顔は一瞬だけだった
津軽さんの視線はデスクに置かれた卓上カレンダーに移る
家族を失った日。
誰にも悟られないくらい、小さく、ほんの少しだけ、この人の表情が曇った
……笑っていても、消えないものはある
それでも、この人が誕生日の過ごし方を変えた事に、少なからず衝撃を覚えたのだった
津軽さんはふざけてプラトニックと言ったが、あながち…本心なのかもしれない
アイツをどこに食事に誘おうか、一生懸命に探す横顔は幸せそうだ
だが!
俺の日常は、この二人にじわじわと侵食されていった
ある日
捜査に向かう途中、俺は運転、助手席は津軽さん、後部座席は吉川
津軽さんが振り返って吉川を構う
「ウサ寒くない?」
「大丈夫です!」
「ブランケットあるよ?」
「大丈夫です!」
「ほんと?」
「はい!」
バックミラーを見れば、津軽さんの頭が邪魔をするが、吉川の照れくさそうに笑ってる顔が映る
二人だけで目が合って笑ってる
(チッ……バックミラーが仕事しねぇ)
またある日
三人で屋台のラーメン
「ウサ、これ一口食べる?」
「え、いいんですか?」
「もちろん」
「じゃあ、私のも交換して食べましょう」
(付き合ってないんじゃなかったのか)
またある日
(…ん?この匂い)
アイツが廊下からこちらに歩いてくる
まだ姿は見えない
(……仕方ない)
「あと十秒」
「え?なにモモ?」
ガチャ
「お疲れ様です!」
「あ、ウサ!」
一瞬で満面の笑顔
(クソッ…!俺はなんで…)
またある日
「あ、虹じゃん」
「そうですね」
潜入捜査の帰り、高層ビルから虹が見えた
「ウサ見てるかな」
「……」
五秒後
「写真撮ってLINEしていいかな?」
「好きにしてください」
三十秒後
「返ってきた。綺麗ですね、だって」
「よかったですね」
(実況するな)
ここ最近、こんなことばかりだ
「はぁぁー…」
一人になり、盛大にため息をつく
そして俺は気づいた
津軽さんは、恋をすると、意外とうるさい
それから数日後
捜査を終え、二人で警察庁へ戻る車内
夕日が街を、車内を、茜色に染めている
信号待ちに、ふと助手席を見る
夕日に照らされた横顔は、どこか遠くを見ていた
普段なら、ウサ、ウサとアイツの話をするのに
今日は静かだった。
俺は知っている
この時間だ
家族を失った、あの日
津軽さんの時間だけが、今も止まる
名前を呼ぼうとして
(やめた…)
何も言えない
何を言っても届かない気がした
ただ夕日に照らされた横顔だけを見ていた
その表情は強い公安刑事でも、仲間に慕われる班長でもない
泣くこともできず、
時間だけが過ぎてしまった、幼い少年のようだった。
胸が締め付けられる
……幸せになってほしい
心の底から、そう思った
アイツなら…
吉川優衣なら
止まったままの時間を、少しずつ動かしてくれるかもしれない
だから俺は
今日も二人を見守る
多少うるさくても、多少巻き込まれても
それくらいなら、安いもんだ
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