マンネリの正体
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side優衣
少しの残業後、マンションに到着した私は
"着きました" と、短くLINEを入れる
向かう先は津軽さんの部屋
休みがなかなか取れてない津軽さんは、午後休で先に帰っていた
お互いの休みが重ならないため、せめて夜くらいは…と一緒に過ごすことが多い
前にもらった、津軽さんの部屋の合鍵
まるで自分の部屋の如く鍵を開けた
「お邪魔します」
リビングのドアを開けると津軽さんがソファーで寛いでいた
「おかえりー、適当に用意しておいたよ」
「わあ、ありがとうございます!どれも美味しそう」
一緒に食べる夕食は、もう何度目なんだろう
私の好きな食べ物、好みそうな物はすっかり把握されていた
夕食後は片付けをして、テレビを見て、お風呂に入って、一緒に眠る
最近のルーティンと言えるだろう
一緒のベッドで横になりながら横目で津軽さんを盗み見る
「おやすみ」
軽く触れるだけのキスを交わす
薄手の毛布を肩までしっかりかけ直してくれ、津軽さんも横になった
いつも通り
いつも通りだ
やっぱり…これって
私たちの付き合いは3年を過ぎた
私はすぐに津軽さんにドキドキしてしまう
一方、津軽さんは余裕そうに構えてることが多い
考えすぎ?
家族みたいに感じて、ときめきや魅力が薄れてる?
デートが出来てないのは仕方ないにしても
前の津軽さんなら、家に行けば玄関で待っていてくれて、おかえりって抱きしめてくれた
前ならイチャイチャ触ってきてくれて、くっついてる事が多かった
隙あらばキスをして
お風呂だって恥ずかしいのに一緒に入ろうってしつこかった
今だって…
なにもせず、隣で眠るだけ
こ、これは…
マンネリ!!?
ーーーーーー ー ー
side津軽
交際三年目
恋人との関係は順調そのものだった
今日も仕事帰りに優衣が家に来る
冷凍庫には優衣が好きなアイス
ソファには優衣用のブランケット
洗面所には優衣専用のスキンケア用品
クローゼットには、優衣の服
もはや半同棲みたいなものだ
完璧だ
何も問題ない
そう思っていた
その時までは──
寝室
優衣に軽くキスをして横になる
最近は津軽班は忙しく、こうして夜二人の時間を持てるだけでも幸せだ
疲れがたまってるだろうから
抱かずに睡眠を優先させる
少しだけ、優衣の元気がなかった
気の使う案件をいくつか抱えているため、精神的にも体力的にも疲れてるのだろう
その時、体勢を変えた優衣から
ふわっとシャンプーの匂いがした
………抱き寄せて首筋に顔を埋めたい衝動に駆られる
いやいや、寝かせてあげるんだろ!?
我慢できる
それが余裕のある大人な男ってやつだ
…うん
優衣がいい匂いだなとか、柔らかな肌に触りたいなとか…アノ時の顔を見たいとか…
ないない!ダメだろ!
目を閉じて、ムラつく気持ちを抑え込む
そうだ、お経を唱えよう、えっと
「寝ちゃいましたか…?」
「どしたの?優衣は寝られなそう?」
目を開けて横を向くと、切なそうな瞳とかち合う
えっ、なんかあった…?
「あの…聞きたくて」
「ん?」
「……わたしたち、マンネリしてますよね」
「……。」
数秒停止した
「…はっ?」
人生最大級の衝撃をくらう
え?
ちょっと待って
俺、今、公安の極秘情報よりヤバい話聞いた?
マンネリとは。表現や行動が型にはまってしまい、新鮮さや独創性を失って飽きが生じている状態のこと。
はい?マンネリ?
飽きた?
俺が?
優衣に?
ありえない
むしろ三年前より、遥かに好きだ
でも冷静に考える
確かに最近はデートしてない
サプライズも減った
同じような夜の繰り返しだった
言葉にしなくても伝わると思っていた
最近忙しいから。疲れさせたくない、それで伝わってるだろうと勝手に思ってた
や、待てよ、俺は…
「優衣、あのさ─」
「ごめんなさい!なんでもないです。おやすみなさい」
くるっと背中を向けて、話したくないモードに入ってしまった
う、嘘だろーー!
翌朝、いつも通り。普通に接してくる優衣に、何も言えず…
そうだ、こういう時は!
捜査終わりの帰りの車の中
「モモ」
「はい」
「マンネリかって聞かれたらどうする?」
「は?」
モモは運転しながら困惑しているが構わず続ける
「いやだからマンネリ」
「誰がですか」
「仮に俺が」
「津軽さんじゃないですか。…アイツがそう言ったんですか?」
「ふっ…まぁね」
窓の外の流れる景色に視線を移しながら答える
「別れ話です」
「は?」
「終わりですね。別れたらどうです?」
「えぇっ、マジで?そこまで?」
「冗談です」
「お前なぁ……」
「……。マンネリって、安心してるってことじゃないですか」
「安心?」
「津軽さん、昔は誰とも続かなかったじゃないですか」
「そう?」
「そうです」
「……。」
「三年も続いてる時点で異常ですよ」
「モモならどうする?マンネリしてますかって聞かれたら」
「…初心に帰ればいいんじゃないですか」
「初心?」
「付き合いたての頃みたいに」
「なるほど」
「? 何書いてるんですか」
「メモ」
「真面目か」
その後、モモの助言を必死でメモり終わると
「津軽さん」
「ん?」
「付き合いたては、かなり余裕なかったですよ」
「俺が?」
「毎日ソワソワしてました」
「してない」
「してました」
「モモの意地悪」
「でも、今の方が幸せそうです」
「……そっか」
「そんなことも分からないなら」
「?」
「俺がアイツの背中にドスを刺します」
「いや、止めて?どこのヤクザより怖いから」
帰宅後。
ベッドで寝転びながらメモを見返す
付き合いたてか…
俺、どうしてたっけ
優衣の焦ったり、照れて、はにかむ笑顔を思い出すと
「よし」
ーーーーーー ー ー
Side優衣
午後
お茶を飲もうと給湯室でお湯を沸かしていると
「ウサちゃん」
「あれ?津軽さん戻ってたんですね、お疲れ様です」
「俺も飲みたい。ウサのお茶」
「はい、じゃあ」
水を足し、湯呑みの準備などする
「さて。時間余ってるね」
「?」
ジリジリとにじり寄る津軽さんに壁まで追い詰められてしまう
ドンッと津軽さんの両腕の中に閉じ込められた
「な、なんですか」
「ん?醍醐味でしょ」
「うっ…ダメですよ…し、仕事中です」
私の弱々しい声なんて、当たり前みたいに無視される
ふわっと、耳元に唇が近づき、柔らかな髪の毛が私の頬に触れる
「じゃあ…逃げたら?」
「…ズルイ」
「………」
「………」
時間が止まったみたいに、二人の世界が出来上がってしまう
誰か来たらどうしよう
そんな気持ちと
大好きな人に翻弄される快感
ゴトゴトゴトッ
ヤカンのお湯が湧き、我に返る
「…津軽さん」
ちゅっ
「!!」
私の頬に触れた唇に
心臓が大きく跳び跳ねた
身体は離れてくれたが、真っ赤に熱くなってるであろう顔を見られてしまった
恥ずかしくて何も言えない
黙ってお茶を淹れる
マンネリ疑惑で悩んでいた心臓には刺激が強すぎる
というか、この人…
この間の夜は、なんてことない顔で隣で寝ていたくせに
今日は壁ドンしてくるし
仕事中にキスしてくるし
あぁ、情緒が忙しい
振り回されるこっちの身にもなってほしい
……いや
振り回して楽しんでる!たちが悪い!
次の日
お昼休みに黒澤さんと東雲さんと、警察庁の近くに出来た人気のパン屋さんの話をしてると
黒澤「生ドーナツが絶品だそうですよ」
「今日見たんですが売り切れてて」
東雲「甘過ぎなくて、まあいいんじゃない?」
「もう食べていらっしゃる!」
黒澤「オレも気にしてみるんで、買えたら優衣さん、一緒に食べましょう」
「黒澤さんっ!ありがとうございます!」
東雲「お前、優しいな」
黒澤「普通ですよ」
東雲「この子限定で甘い」
「えっ?」
黒澤「そうです?」
東雲「ふーん、そういうことにしておく」
「ウ~サ!」
「うぐぅ」
黒澤「来た…」
東雲「面倒なのが来た」
突然、私の後ろにピッタリ張り付く何かは、津軽さん以外にない
「イタイです!顎が頭に突き刺さって」
なんなの!急に..
突然、密着されてドキドキと心臓が早くなる
「ウサお得意のハニトラでも炸裂中だった?」
「はあ!?」
ぎゅうっと腕をお腹に回され
な、な、なんなの!?
ずっとこんなこと…して来なかったのに
私たちの交際が銀室で暗黙の了解になってからは、皆さんの前でベタベタするような行動は極端に減った
周りに気を使わせないのが、職場恋愛に対する私たちの配慮だったはず
こ、このバックハグはなに!?
ぎゅーっと一度強く抱き締められたあと、スッと身体が離される
黒澤「愛あるコミュニケーションですね」
東雲「はあ、俺らいったい何を見せられてんの」
「…つ、津軽さん、早いですね。近くのカフェに行ってたんですよね」
話題を変えようと話をふる。この人は彼女の私を差し置いて女性職員たちと昼食に行ってしまったのだ
私は食堂で食べたのに。ヤキモチってほどじゃないけど。でも…
「はい、コレ」
「え、この紙袋は」
「今、話してたじゃん、生ドーナツ」
「えぇ!買えたんですか」
「うん、店員さんに声かけたら、できたて出してくれたよ」
東雲「へぇー、この昼時に津軽さんが並んだんですか?」
「並んだよ?」
東雲「すご」
黒澤「でも、津軽さん」
「ん?」
黒澤「昨日もそのパン屋の前で見ましたよ」
「……。」
東雲「昨日も?」
黒澤「開店前からいました」
「え?あの…そうなんですか?」
黒澤「しかも、定休日でした」
東雲「っ!」
津軽「透く~ん?歩くんも何笑ってんの。まとめてサハラ砂漠に冒険に行く?」
東雲・黒澤「結構でーす」
やんやじゃれ合う(?)三人を見ながら
もしかして、昨日から私のために…??
津軽さんは面倒そうに肩を竦めているけれど
ちらっと見えた耳が少し赤い
昔からそうだ
本当に照れている時だけ、耳に出る
渡された生ドーナツの袋を胸に抱きながら
胸の中が温かくなっていく
更に次の日
捜査は落ち着き、今日は定時で帰れる
警察庁のエントランスを抜け、外に出るとLINEがなる
『デートしない?』
「お疲れ様です。津軽さんも定時だったんですね」
前に何度か待ち合わせしたことのある駅で、津軽さんと合流した
「お疲れ~ちょっとだけ歩ける?」
待ち合わせ場所にいた津軽さんは 前髪を上げていてデートスタイルの髪型になっていた
(か、格好いい…デコ出しの津軽さんも好きなんだよね)
「はい、もちろん」
連れていかれた先は
「美味しいっ」
「ねっ」
「味、分かります?」
味覚障害の津軽さんには高級レストランは、調味料を掛けられないから、つまらなくないかと心配すると
「んー、ちょっと分かるから大丈夫」
「良かった」
ここは昔 津軽さんと初めてデートした展望レストラン
あの時みたいに、お互いのお皿をシェアしながら食事と会話を楽しんだ
テラス席に出ると煌めく夜景が広がる
「綺麗…」
初めてここに来た時のドキドキソワソワした気持ちを思い出しながら、無意識に呟いていた
「優衣…」
「はい?」
ぱっと目の前に突然だされたのは
カスミソウを基調とした白い花束だった
「わあ!カワイイ…。でも、ど、どうしたんですか?」
「俺を誰だと思ってるの。津軽高臣だよ」
「えぇっ?」
少し照れたように視線を逸らす津軽さんは、また少し耳が赤い
「……ほら、夜景見よ」
後ろから抱きしめてくる大きな身体に、身を任せる
よく分からない津軽さんだけど
私を楽しませたり、喜ぶことをしたい
そう思ってくれてることは しっかり伝わった
タクシーでマンション近くまで移動した
ここは昔からよく津軽さんと寄り道して、コンビニで買った物を食べたりした公園
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ベンチに座り、半分こした生ドーナツを津軽さんに渡した
「この公園に寄るの久しぶりですね」
「大抵、通りすぎてどちらかの家に帰っちゃってたからね」
高級レストランもいいんだけど
ただの公園のベンチも幸せなデートだ
二人でいられたら
ただ、それだけで…。
「津軽さん」
「うん?」
「私、勘違いしてました」
「え、何が?」
「マンネリじゃなかったです」
津軽さんの顔を見て微笑む
「安心しすぎてるだけでした」
「安心かぁ……」
「?」
「俺、昔はそういうの無かったから」
「三年前は、この子と付き合えたらいいなって思ってた」
「…津軽さん」
「まだまだ好きになるって」
「!!」
「飽きたことなんかないよ」
本当に?嬉しい…
黙り込む私に津軽さんは続ける
「明日も、来週も、来年も、優衣が隣にいるって、そう思った」
ふーっ息を吐き、真っ直ぐに私を見る
「油断したって言うか…心配させてごめん」
「そんな!わ、私もです」
同じ物を食べて、同じ空間を共有して、同じことを思い、笑い合う
マンネリじゃなくて、ただの幸せだった。
「じゃあマンネリ認定は却下で」
「まだ言います?」
「言う。実はさ…」
「?」
「モモに相談した」
「えぇっ!?」
「" 初心に帰れ "って言われた」
「あぁ、だから…」
「そ。……付き合う前のこと、全部やり直してみた」
「全部?」
「付き合う前さ」
「はい」
「一緒にいるだけで楽しかったじゃん」
「確かに…」
「くっついたり、レストランも、公園も、花も」
「……。」
「正直、何が正解か分かんなかった」
「…あの、大丈夫です…全部、私に刺さりましたから」
「えっ?マジ?」
「はい、ドキドキする時間も、安心する時間も津軽さんとだから」
「…うん。今日、ウチくる?」
「お邪魔します…」
手を繋いでベンチから立ち上がる
なんだか、今日は離れられそうもない
マンネリじゃなかった
恋が終わったわけでもない
ときめきが消えたわけでもない
当たり前になった毎日が、
少しだけ近すぎて見えなくなっていただけ
初心に帰る必要なんてなかった
私たちは今日も
また恋を更新していく。
そして翌日
パソコンに向かい、会議用に資料を作成していると、視線を感じた
津軽さんと目が合い、柔らかく微笑まれた
し、仕事中!ドキドキしないの!
自分の心臓に言い聞かせる
「ウサ、お茶飲みたい」
「…かしこまりました」
更に感じた視線に、横を見れば
「……。」
「あ、百瀬さんもいかがですか?」
「おい、お前…」
「?」
「…命拾いしたな」
「!?!?」
低い声は本気だ
「つ、津軽さん!助けてください」
「あははっ、仲良しさんだね」
津軽さんが楽しそうに笑えば、百瀬さんはそっぽを向いた
こうして、私の毎日は
刺激的に
でも、たくさんの愛に包まれながら続いて行くのです
少しの残業後、マンションに到着した私は
"着きました" と、短くLINEを入れる
向かう先は津軽さんの部屋
休みがなかなか取れてない津軽さんは、午後休で先に帰っていた
お互いの休みが重ならないため、せめて夜くらいは…と一緒に過ごすことが多い
前にもらった、津軽さんの部屋の合鍵
まるで自分の部屋の如く鍵を開けた
「お邪魔します」
リビングのドアを開けると津軽さんがソファーで寛いでいた
「おかえりー、適当に用意しておいたよ」
「わあ、ありがとうございます!どれも美味しそう」
一緒に食べる夕食は、もう何度目なんだろう
私の好きな食べ物、好みそうな物はすっかり把握されていた
夕食後は片付けをして、テレビを見て、お風呂に入って、一緒に眠る
最近のルーティンと言えるだろう
一緒のベッドで横になりながら横目で津軽さんを盗み見る
「おやすみ」
軽く触れるだけのキスを交わす
薄手の毛布を肩までしっかりかけ直してくれ、津軽さんも横になった
いつも通り
いつも通りだ
やっぱり…これって
私たちの付き合いは3年を過ぎた
私はすぐに津軽さんにドキドキしてしまう
一方、津軽さんは余裕そうに構えてることが多い
考えすぎ?
家族みたいに感じて、ときめきや魅力が薄れてる?
デートが出来てないのは仕方ないにしても
前の津軽さんなら、家に行けば玄関で待っていてくれて、おかえりって抱きしめてくれた
前ならイチャイチャ触ってきてくれて、くっついてる事が多かった
隙あらばキスをして
お風呂だって恥ずかしいのに一緒に入ろうってしつこかった
今だって…
なにもせず、隣で眠るだけ
こ、これは…
マンネリ!!?
ーーーーーー ー ー
side津軽
交際三年目
恋人との関係は順調そのものだった
今日も仕事帰りに優衣が家に来る
冷凍庫には優衣が好きなアイス
ソファには優衣用のブランケット
洗面所には優衣専用のスキンケア用品
クローゼットには、優衣の服
もはや半同棲みたいなものだ
完璧だ
何も問題ない
そう思っていた
その時までは──
寝室
優衣に軽くキスをして横になる
最近は津軽班は忙しく、こうして夜二人の時間を持てるだけでも幸せだ
疲れがたまってるだろうから
抱かずに睡眠を優先させる
少しだけ、優衣の元気がなかった
気の使う案件をいくつか抱えているため、精神的にも体力的にも疲れてるのだろう
その時、体勢を変えた優衣から
ふわっとシャンプーの匂いがした
………抱き寄せて首筋に顔を埋めたい衝動に駆られる
いやいや、寝かせてあげるんだろ!?
我慢できる
それが余裕のある大人な男ってやつだ
…うん
優衣がいい匂いだなとか、柔らかな肌に触りたいなとか…アノ時の顔を見たいとか…
ないない!ダメだろ!
目を閉じて、ムラつく気持ちを抑え込む
そうだ、お経を唱えよう、えっと
「寝ちゃいましたか…?」
「どしたの?優衣は寝られなそう?」
目を開けて横を向くと、切なそうな瞳とかち合う
えっ、なんかあった…?
「あの…聞きたくて」
「ん?」
「……わたしたち、マンネリしてますよね」
「……。」
数秒停止した
「…はっ?」
人生最大級の衝撃をくらう
え?
ちょっと待って
俺、今、公安の極秘情報よりヤバい話聞いた?
マンネリとは。表現や行動が型にはまってしまい、新鮮さや独創性を失って飽きが生じている状態のこと。
はい?マンネリ?
飽きた?
俺が?
優衣に?
ありえない
むしろ三年前より、遥かに好きだ
でも冷静に考える
確かに最近はデートしてない
サプライズも減った
同じような夜の繰り返しだった
言葉にしなくても伝わると思っていた
最近忙しいから。疲れさせたくない、それで伝わってるだろうと勝手に思ってた
や、待てよ、俺は…
「優衣、あのさ─」
「ごめんなさい!なんでもないです。おやすみなさい」
くるっと背中を向けて、話したくないモードに入ってしまった
う、嘘だろーー!
翌朝、いつも通り。普通に接してくる優衣に、何も言えず…
そうだ、こういう時は!
捜査終わりの帰りの車の中
「モモ」
「はい」
「マンネリかって聞かれたらどうする?」
「は?」
モモは運転しながら困惑しているが構わず続ける
「いやだからマンネリ」
「誰がですか」
「仮に俺が」
「津軽さんじゃないですか。…アイツがそう言ったんですか?」
「ふっ…まぁね」
窓の外の流れる景色に視線を移しながら答える
「別れ話です」
「は?」
「終わりですね。別れたらどうです?」
「えぇっ、マジで?そこまで?」
「冗談です」
「お前なぁ……」
「……。マンネリって、安心してるってことじゃないですか」
「安心?」
「津軽さん、昔は誰とも続かなかったじゃないですか」
「そう?」
「そうです」
「……。」
「三年も続いてる時点で異常ですよ」
「モモならどうする?マンネリしてますかって聞かれたら」
「…初心に帰ればいいんじゃないですか」
「初心?」
「付き合いたての頃みたいに」
「なるほど」
「? 何書いてるんですか」
「メモ」
「真面目か」
その後、モモの助言を必死でメモり終わると
「津軽さん」
「ん?」
「付き合いたては、かなり余裕なかったですよ」
「俺が?」
「毎日ソワソワしてました」
「してない」
「してました」
「モモの意地悪」
「でも、今の方が幸せそうです」
「……そっか」
「そんなことも分からないなら」
「?」
「俺がアイツの背中にドスを刺します」
「いや、止めて?どこのヤクザより怖いから」
帰宅後。
ベッドで寝転びながらメモを見返す
付き合いたてか…
俺、どうしてたっけ
優衣の焦ったり、照れて、はにかむ笑顔を思い出すと
「よし」
ーーーーーー ー ー
Side優衣
午後
お茶を飲もうと給湯室でお湯を沸かしていると
「ウサちゃん」
「あれ?津軽さん戻ってたんですね、お疲れ様です」
「俺も飲みたい。ウサのお茶」
「はい、じゃあ」
水を足し、湯呑みの準備などする
「さて。時間余ってるね」
「?」
ジリジリとにじり寄る津軽さんに壁まで追い詰められてしまう
ドンッと津軽さんの両腕の中に閉じ込められた
「な、なんですか」
「ん?醍醐味でしょ」
「うっ…ダメですよ…し、仕事中です」
私の弱々しい声なんて、当たり前みたいに無視される
ふわっと、耳元に唇が近づき、柔らかな髪の毛が私の頬に触れる
「じゃあ…逃げたら?」
「…ズルイ」
「………」
「………」
時間が止まったみたいに、二人の世界が出来上がってしまう
誰か来たらどうしよう
そんな気持ちと
大好きな人に翻弄される快感
ゴトゴトゴトッ
ヤカンのお湯が湧き、我に返る
「…津軽さん」
ちゅっ
「!!」
私の頬に触れた唇に
心臓が大きく跳び跳ねた
身体は離れてくれたが、真っ赤に熱くなってるであろう顔を見られてしまった
恥ずかしくて何も言えない
黙ってお茶を淹れる
マンネリ疑惑で悩んでいた心臓には刺激が強すぎる
というか、この人…
この間の夜は、なんてことない顔で隣で寝ていたくせに
今日は壁ドンしてくるし
仕事中にキスしてくるし
あぁ、情緒が忙しい
振り回されるこっちの身にもなってほしい
……いや
振り回して楽しんでる!たちが悪い!
次の日
お昼休みに黒澤さんと東雲さんと、警察庁の近くに出来た人気のパン屋さんの話をしてると
黒澤「生ドーナツが絶品だそうですよ」
「今日見たんですが売り切れてて」
東雲「甘過ぎなくて、まあいいんじゃない?」
「もう食べていらっしゃる!」
黒澤「オレも気にしてみるんで、買えたら優衣さん、一緒に食べましょう」
「黒澤さんっ!ありがとうございます!」
東雲「お前、優しいな」
黒澤「普通ですよ」
東雲「この子限定で甘い」
「えっ?」
黒澤「そうです?」
東雲「ふーん、そういうことにしておく」
「ウ~サ!」
「うぐぅ」
黒澤「来た…」
東雲「面倒なのが来た」
突然、私の後ろにピッタリ張り付く何かは、津軽さん以外にない
「イタイです!顎が頭に突き刺さって」
なんなの!急に..
突然、密着されてドキドキと心臓が早くなる
「ウサお得意のハニトラでも炸裂中だった?」
「はあ!?」
ぎゅうっと腕をお腹に回され
な、な、なんなの!?
ずっとこんなこと…して来なかったのに
私たちの交際が銀室で暗黙の了解になってからは、皆さんの前でベタベタするような行動は極端に減った
周りに気を使わせないのが、職場恋愛に対する私たちの配慮だったはず
こ、このバックハグはなに!?
ぎゅーっと一度強く抱き締められたあと、スッと身体が離される
黒澤「愛あるコミュニケーションですね」
東雲「はあ、俺らいったい何を見せられてんの」
「…つ、津軽さん、早いですね。近くのカフェに行ってたんですよね」
話題を変えようと話をふる。この人は彼女の私を差し置いて女性職員たちと昼食に行ってしまったのだ
私は食堂で食べたのに。ヤキモチってほどじゃないけど。でも…
「はい、コレ」
「え、この紙袋は」
「今、話してたじゃん、生ドーナツ」
「えぇ!買えたんですか」
「うん、店員さんに声かけたら、できたて出してくれたよ」
東雲「へぇー、この昼時に津軽さんが並んだんですか?」
「並んだよ?」
東雲「すご」
黒澤「でも、津軽さん」
「ん?」
黒澤「昨日もそのパン屋の前で見ましたよ」
「……。」
東雲「昨日も?」
黒澤「開店前からいました」
「え?あの…そうなんですか?」
黒澤「しかも、定休日でした」
東雲「っ!」
津軽「透く~ん?歩くんも何笑ってんの。まとめてサハラ砂漠に冒険に行く?」
東雲・黒澤「結構でーす」
やんやじゃれ合う(?)三人を見ながら
もしかして、昨日から私のために…??
津軽さんは面倒そうに肩を竦めているけれど
ちらっと見えた耳が少し赤い
昔からそうだ
本当に照れている時だけ、耳に出る
渡された生ドーナツの袋を胸に抱きながら
胸の中が温かくなっていく
更に次の日
捜査は落ち着き、今日は定時で帰れる
警察庁のエントランスを抜け、外に出るとLINEがなる
『デートしない?』
「お疲れ様です。津軽さんも定時だったんですね」
前に何度か待ち合わせしたことのある駅で、津軽さんと合流した
「お疲れ~ちょっとだけ歩ける?」
待ち合わせ場所にいた津軽さんは 前髪を上げていてデートスタイルの髪型になっていた
(か、格好いい…デコ出しの津軽さんも好きなんだよね)
「はい、もちろん」
連れていかれた先は
「美味しいっ」
「ねっ」
「味、分かります?」
味覚障害の津軽さんには高級レストランは、調味料を掛けられないから、つまらなくないかと心配すると
「んー、ちょっと分かるから大丈夫」
「良かった」
ここは昔 津軽さんと初めてデートした展望レストラン
あの時みたいに、お互いのお皿をシェアしながら食事と会話を楽しんだ
テラス席に出ると煌めく夜景が広がる
「綺麗…」
初めてここに来た時のドキドキソワソワした気持ちを思い出しながら、無意識に呟いていた
「優衣…」
「はい?」
ぱっと目の前に突然だされたのは
カスミソウを基調とした白い花束だった
「わあ!カワイイ…。でも、ど、どうしたんですか?」
「俺を誰だと思ってるの。津軽高臣だよ」
「えぇっ?」
少し照れたように視線を逸らす津軽さんは、また少し耳が赤い
「……ほら、夜景見よ」
後ろから抱きしめてくる大きな身体に、身を任せる
よく分からない津軽さんだけど
私を楽しませたり、喜ぶことをしたい
そう思ってくれてることは しっかり伝わった
タクシーでマンション近くまで移動した
ここは昔からよく津軽さんと寄り道して、コンビニで買った物を食べたりした公園
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ベンチに座り、半分こした生ドーナツを津軽さんに渡した
「この公園に寄るの久しぶりですね」
「大抵、通りすぎてどちらかの家に帰っちゃってたからね」
高級レストランもいいんだけど
ただの公園のベンチも幸せなデートだ
二人でいられたら
ただ、それだけで…。
「津軽さん」
「うん?」
「私、勘違いしてました」
「え、何が?」
「マンネリじゃなかったです」
津軽さんの顔を見て微笑む
「安心しすぎてるだけでした」
「安心かぁ……」
「?」
「俺、昔はそういうの無かったから」
「三年前は、この子と付き合えたらいいなって思ってた」
「…津軽さん」
「まだまだ好きになるって」
「!!」
「飽きたことなんかないよ」
本当に?嬉しい…
黙り込む私に津軽さんは続ける
「明日も、来週も、来年も、優衣が隣にいるって、そう思った」
ふーっ息を吐き、真っ直ぐに私を見る
「油断したって言うか…心配させてごめん」
「そんな!わ、私もです」
同じ物を食べて、同じ空間を共有して、同じことを思い、笑い合う
マンネリじゃなくて、ただの幸せだった。
「じゃあマンネリ認定は却下で」
「まだ言います?」
「言う。実はさ…」
「?」
「モモに相談した」
「えぇっ!?」
「" 初心に帰れ "って言われた」
「あぁ、だから…」
「そ。……付き合う前のこと、全部やり直してみた」
「全部?」
「付き合う前さ」
「はい」
「一緒にいるだけで楽しかったじゃん」
「確かに…」
「くっついたり、レストランも、公園も、花も」
「……。」
「正直、何が正解か分かんなかった」
「…あの、大丈夫です…全部、私に刺さりましたから」
「えっ?マジ?」
「はい、ドキドキする時間も、安心する時間も津軽さんとだから」
「…うん。今日、ウチくる?」
「お邪魔します…」
手を繋いでベンチから立ち上がる
なんだか、今日は離れられそうもない
マンネリじゃなかった
恋が終わったわけでもない
ときめきが消えたわけでもない
当たり前になった毎日が、
少しだけ近すぎて見えなくなっていただけ
初心に帰る必要なんてなかった
私たちは今日も
また恋を更新していく。
そして翌日
パソコンに向かい、会議用に資料を作成していると、視線を感じた
津軽さんと目が合い、柔らかく微笑まれた
し、仕事中!ドキドキしないの!
自分の心臓に言い聞かせる
「ウサ、お茶飲みたい」
「…かしこまりました」
更に感じた視線に、横を見れば
「……。」
「あ、百瀬さんもいかがですか?」
「おい、お前…」
「?」
「…命拾いしたな」
「!?!?」
低い声は本気だ
「つ、津軽さん!助けてください」
「あははっ、仲良しさんだね」
津軽さんが楽しそうに笑えば、百瀬さんはそっぽを向いた
こうして、私の毎日は
刺激的に
でも、たくさんの愛に包まれながら続いて行くのです
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