最後の恋
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一目惚れだった。
『初めまして。俺も長野出身だよ!一緒だね』
からっと笑う、眩しい笑顔が私に向けられた
生まれて初めての経験。息が止まる。
私はこの瞬間、恋に落ちた
桜が咲き始めた4月のことだった
ーーーーーー ー ー
東京の大学を卒業した私は警察学校に入校した
入校式後のオリエンテーションで私は彼と初めての言葉を交わした
簡単な自己紹介をした時、同じグループだった一人の男性と目が合う
『?』
『初めまして。俺も長野出身だよ!一緒だね』
『!!』
『ちなみにどこ辺り?あ、いや ごめんプライバシーがあるよな』
『ううん!○○○の辺りだよ』
『え、じゃあ、お隣じゃん』
なんてことない、会話から始まり私たちは、学校時代の6ヶ月を共に乗り越えることになった
一番仲の良い友達として。
そして──
『せーの、で見るぞ?』
『うん…』
『『 せーの 』』
同時に配属先の通知書を開く
『あっ 私、長野県だ』
『え!?俺もなんだけど…ちょっと見せて…うわ、しかも隣の市だし!』
『えっ ほんとだ!やったぁ!嬉しい』
『…なあ、吉川、俺さ…』
『なに?』
『や、また今度話すわ』
『そう??』
もう、会えなくなるかも知れない
この恋心は、静かに終わっていく
そう覚悟してたのに
まだまだ、この恋を諦めることが、できなくて。
長野に引っ越し、交番勤務も少しだけ慣れてきた頃
『ねえ、今日はどうしたの?なーんか口数少ないよー?』
時間を合わせては二人で食事によく出掛けた
ちょっとくらい、特別かも…って自惚れたい
頑張ってメイクして、服もお洒落して
『……吉川…』
酔い醒ましに、近くの公園に立ち寄った日だった
『ん~?』
『…お前が好きだ。俺が幸せにするから、付き合ってくれ!』
『!!』
『返事は?』
『よ、よろしくお願いします!』
この日、私たちは初めてのキスをした
ーーーーーー ー ー
時はめぐり。現在──
公安課 会議室
会議資料に視線を落とし、集中して話を聞いていると班長から声をかけられる
「ここは女の子がいいから、吉川…いける?」
「はい、問題ありません」
ターゲットの男と接触しGPSを付ける
いよいよ、武器密輸の現場を突き止める最大のチャンスが巡ってきた。だから絶対に ここで取り押さえる
ずっと追っている男なので、クセ、行動パターン、趣味嗜好は熟知している
(……うん、できる。やれる!)
午後、捜査に出るため警察庁のロビーを一人で歩いていた
大石くんと待ち合わせのため 早足だったからか、私からは気づかなかった
「優衣っ?」
「…え」
聞き覚えのある声だった
何年も聞いてないのに すぐに分かってしまう
嫌なほど、私の胸が揺れた
もう、平気だと思ってたのに
彼が、ここにいる?不思議な気持ちだった
ゆっくり振り返る
「……隼人…」
数年前に私の事情で別れた、大好きだった元カレがいた
「…久しぶりだな」
「…そうだね」
「お前、警察庁だったのか?」
「うん」
「え、刑事課?」
その問いに一瞬だけ言葉が詰まる。
「吉川先輩、時間です」
「あ、大石くん」
「え、先輩って…お前」
「ごめん、行かなきゃ」
「優衣」
呼び止められる。昔と同じ声で
「……お前、今どこ所属なんだ」
「じゃあね、白崎くん」
背を向け歩き出す。
あの日も、こうして背を向けて自分勝手に歩き出した…
ーーーーーー ー ー
別れよう。
別れ話を切り出したのは、私だった
『なに言ってんだよ。急に』
隼人の顔から笑みが消える
当たり前だ
最近まで将来の話をしていたのだから
『私、どうしても挑戦したいの』
『挑戦?』
『刑事になりたい』
『……それは前から聞いてる』
『違うの。もっと本気で』
言葉を探しながら俯く
でも内容は話せない
どこへ行くのかも
何をするのかも
いつ帰って来るのかも。
帰って来るのかさえ全部
『隼人は結婚したら家庭に入ってほしいって言ってたよね』
『ああ』
『私は多分、そうなれない』
『そんなの分からないだろ』
『分かるよ』
即答だった
『私、警察官になってからずっと思ってたの。もっと上を目指したいって』
『……』
『仕事を辞めて家庭に入る未来が想像できない』
沈黙が落ちる
夜風が少し冷たい
『だから別れるのか?』
『……うん』
『遠距離になるから?』
『それもある』
『それだけじゃないだろ』
鋭い声だった
昔からこういう時だけ勘がいい
『優衣』
名前を呼ばれる。大好きな人の声がこんなにも切ないのに、
もう、何もしてあげられない
『お前、本当はもう決めてるんだろ』
『……』
『俺じゃなくて仕事を選ぶって』
違う。そうじゃない
隼人より仕事が大切なわけじゃない
でも私は、自分の夢から逃げることもできなかった
胸が痛い
好きじゃなくなったわけじゃない
嫌いになったわけでもない
むしろ今だって好きだった
大好きだった
それでも。
『ごめん』
絞り出した声は震えていた
『謝るなよ』
隼人が苦く笑う。説得はできないって悟ったんだろう
暫くの沈黙を破ったのは隼人だった
『俺さ』
少しだけ視線を逸らして
『ちゃんと優衣と結婚するつもりだった』
息が止まる
『優衣とだから、いいなって思ってた』
涙が滲んだ。知っていたよ
だから苦しかった
『ごめん』
また同じ言葉しか出てこない
『だから謝るなって』
隼人は困ったように笑った
それからまた沈黙が続く
『なあ』
『……うん』
『後悔するなよ』
やっと私は顔を上げる
『お前が選んだ道なんだから』
『……うん』
『絶対、立派な刑事になれ』
その言葉で涙が溢れた
隼人は最後まで優しかった
『じゃあね、隼人…』
背を向けて歩きだす。自分で決めた道を。
だから私は──
最後まで振り返らなかった
ーーーーーー ー ー
大石くんと外から戻りデスクに着くと、すぐに機嫌の悪そうな津軽さんが現れる
「津軽班~、緊急会議だよ。会議室に集合」
会議室
内容は今、私達が追っている反政府団体の中心人物が殺人事件を起こし逃走中とのことだった
「ウチとしては、密輸現場を押さえるまで、泳がせたいんだよねー」
つまり…まだ逮捕させたくない。今団体にメスを入れたら武器の密輸自体がなくなるかも知れない
「捜査一課とは話してきた。不本意だけど合同捜査になったから」
「……優衣、なんで」
「……」
(隼人…)
再び隼人と再会したのは、あのあとすぐに行われた捜査一課との合同会議でのことだった。
会議室の扉を開けた瞬間、息を飲んだ
隼人がいた。
さっきロビーで別れたばかりなのに
こんなにも早く、また向かい合うことになる
なんて
視線が合う。
隼人は驚いたまま固まっていた
私も同じだ。胸の奥が落ち着かない
「吉川、座って」
班長の声に我に返り、空いている席へ腰を下ろした
資料をめくる音が響く
その時だった
「潜入担当は吉川」
班長の声に、
隼人が顔を上げた
「……は?」
小さな声だった
聞こえたのは私だけ
「吉川から現状の調査報告を」
「はい」
私が今まで潜入捜査で得た内容を報告する
隼人の視線が…突き刺さる
「以上です。対象との接触は継続中です」
そう説明すると、隼人の眉が寄る。
「現在も?」
思わず口を挟みそうになって、
隣の刑事に肘で止められていた
会議が終わり、退室しようとすると
「優衣、ちょっと話せるか?」
しっかり右腕を捕まえられる
「ちょっと、白崎くん…」
公私は分けたいが、逃げてばかりもいられず、誰もいなくなった会議室に残った
「お前、刑事になるんじゃなかったのか?」
「…なったよ、刑事に」
「違う」
即座に否定される
「……」
「そういうことじゃない。なんで公安なんだよ、聞いてない」
「あの時は…話せなかった」
「今だって、危険な連中の所に潜入してるってなんだよ」
「大丈夫だよ、ちゃんとサポートがあるから」
「俺は、お前にそんなことして欲しくない」
「……ごめん」
「なんでそんな危険な仕事してるんだよ」
隼人の声が掠れて聞こえる
「大丈夫だから、本当に」
「…優衣」
昔と同じ呼び方
胸が痛い
「お前は、こんなことするために俺と別れたのか?」
「私は──」
「吉川」
低い声だった。
振り返る
会議室の入口に津軽さんが立っていた
私を見て、そして隼人を見る。
たったそれだけ
なのに空気が変わった気がした。
「戻るよ」
「!! すみません」
返事をした瞬間、隼人が私の腕を離した
津軽さんの後ろを追いながら、ふと背中に視線を感じた
振り返らない
振り返れない
昔もそうだった
そして今も。
最近、私は隼人に背を向けてばかりだ
ーーーーー ー ー
深夜 モニタールーム
「……」
「……」
「…あ、いました」
「あー、駅は使わないわけね」
「ですね」
私と隼人は二人で防犯カメラ映像での捜査をしていた
今、手が空いてるのが私たちだけだったからだが…
(気まずいかなって思ったけど、隼人ちゃんと捜査に集中してる)
また詰め寄られたら…なんて無用な心配だった
暫くして切り出したのは隼人からだった
「そういえば」
「え?」
「お前、昔も夜に強かったよな」
「…警察学校の時?」
「そ、みんな寝ててもお前だけ勉強してた」
「あーそうだったかもね」
「俺が眠たくて死にそうでも平然と勉強してた」
「隼人、寝るの早いんだよ」
仕事中なのに下の名前で呼んでしまい、慌てて横を見ると
隼人は笑っていた
「健康的って言え」
私もつられて笑った
(良かった…隼人、笑ってくれた)
笑顔を見たのは何年ぶりだろう
最後に見た顔は悲しそうな微笑みだったから、ほっとしたのが正直な気持ちだった
また暫く映像解析をしていたが、キリのいい所で声をかけた
「ちょっと休憩しない?さすがに集中力が途切れそう」
「だな。あー、目が痛てぇ」
「あはは、私コーヒー買いに行くけど白崎くんは?ここにいる?」
「いや、一緒に行く」
警察庁内にある自販機で各自、飲み物を買う
どちらともなく、横にある長椅子に腰かけた
「…お前さ、変わったよな」
「そう?」
「うん、昔はもっとテンパってた」
「失礼だなぁ」
「いやマジで」
「もうっ」
「ははっ、優衣が努力家なのは、よく知ってるから」
「…ありがと。隼人もね」
「まーな。お前に振られたからって腐ってらんねーだろ!」
からっと笑う笑顔に懐かしさを感じた
昔と変わらない。私が恋した笑顔
少しだけ肩の力が抜けた、その時だった
「ウサちゃん、ずいぶん楽しそうだね」
聞き慣れた声に、思わず背筋が伸びる
「!!」
振り返ると、そこには津軽さんが立っていた
「つ、津軽さん」
「津軽警視、お疲れ様です」
私と隼人が同時に立ち上がる
津軽さんは私たちの前に立つと、私の缶コーヒー奪い、一口飲んで返してきた
隼人がそれをじっと見る
「休憩?」
「はい。映像確認が一段落したので」
「ふーん」
相変わらず何を考えているか分からない顔
でも少しだけ不機嫌…
「津軽さんこそ、まだ帰ってなかったんですか?」
「ウサの報告待ち」
「え?」
「対象の行動履歴、まとめ終わったら持ってきて」
「あ、はい」
津軽さんはそれだけ言うと踵を返す
数歩歩いて
「そうだ、俺も給湯室でコーヒー飲もうっと」
振り返らないまま口を開いた
歩いて行く背中を見てると、ウズウズした気持ちが我慢できなくなる
追いかけたい!
「……白崎くん、私ちょっと、班長に話があるから行ってくる、すぐ戻るからごめん」
「へぇー?」
「なに…?」
「別に」
「違うから!」
「俺、何も言ってねぇじゃん」
「と、とにかく、ごめん!」
慌てて足がもつれ転びそうになると、隼人が声を上げて笑った
ーーーーー ー ー
給湯室
「津軽さん、コーヒー淹れます」
追い付いた背中に話しかける
「ん、ありがと」
「こんな時間なんで優しい味にしましょう」
ずっとバタバタだったから、ゆっくりした時間が流れる
「さっきさー」
「はい?」
「楽しそうだったねー、俺 お邪魔虫だった?」
「そんな訳ないじゃないですか」
津軽さんが気付いてるのは間違いなくて
「笑ってたね。久しぶりに会った感じ?」
「…はい、元カレです。長野にいた時の」
誤魔化すのも違うし正直に話す。良い気はしないと思う
けど。
私たちの絆なら、こんなハプニングに揺れたりしないって自然に思えた
「うん、元カレくん、会議で優衣のことガン見してたからね」
「気付いてたんですか」
「見える位置だったし」
「驚きました。向こうも私が公安にいること知らなかったみたいで」
「ふーん、運命感じちゃった?」
からかうみたいに、軽く言うけど
どことなく寂しそうで
「…運命なら。私は津軽さんの運命の人だと思ってるんですけど?」
「そーだっけ?」
「そうですよ」
「じゃあ証明してよ、今すぐ」
「えっ」
「運命の人なんでしょ」
うん、こういう時の答えはたぶん。
隣にずっといたから、分かるようになったんだと思う
津軽さんの目の前に立ち、手を首に回した
深夜の休憩時間だから、ちょっとだけ許して欲しい
踵を上げて、津軽さんの身体も少し引き寄せ唇に──
ブルッ
スマホの震える音に身体が止まる
ぱっとスマホを確認した津軽さんの顔つきが班長のものに変わる
「GPSが動いた、対象が動く」
「!!」
「急いで緊急招集かけろ!」
「え、え、今1時ですよ!」
「関係ない 迷うな!動け!」
「 は、はい~!!」
ーーーーー ー ー
とある港 空き倉庫
取引現場に突入となったが私は、一部の反政府団体のメンバーに顔がバレているため、車で待機、インカムでのフォローとなった。
この後、犯人グループが逮捕されてから倉庫内の後処理にまわることになっていた
ソワソワもどかしい気持ちで状況をインカム越しに見守ると
『犯人1名逃走!B入り口から西に向かった』
(えっ!すぐそこじゃない!?)
車から外を凝視すると、写真で確認したことのある男が走っていた
『こちら吉川、発見しました!追います』
車を飛び降り全速力で走る
私に気づいた男は立ち止まる
(落ち着いて。うん、出来る)
女だと甘くみられるから隙ができる。私にとってはそこを武器にできるのだ
男に掴みかかられそうになり、確信する
武術に関しては素人だ。
(よし、大丈夫、投げ飛ばせる!)
投げの形に入ろうとした時、男が片方の手をポケットに入れた
「優衣!!」
「!?」
私と犯人の間に入ってきたのは
隼人だった
無理な体制から割ってきたので、男と隼人は少しもみあった末、手錠をかける
津軽班が集まり犯人を連行していった後…
「隼人…なんで、なんで飛び出してきたの!」
「お前が危なかっただろ」
「そんなこと…あ、左手、擦りむけてるよ」
「こんなの大したこと無いから」
「よくない!」
「ウサー、なに怒鳴ってんの、助けられたんだって?」
「津軽さん…」
「津軽警視、すみません。女に怪我とかさせたくなく俺が手錠をかけました」
「ふーん。別にいいけど、でもさ」
真っ直ぐに私を見る、その瞳は、暗がりでも分かるくらいに澄みきっていた
「ウサなら対処できたでしょ」
嬉しかった。信じてくれてることを。
「はい!」
横を見ると
隼人は少しだけ驚いた顔をしていた
私が喜んでいる理由が分からないみたいに。
ーーーーーー ー ー
朝7時、徹夜の仮眠無しだろうと、てきぱきと今日中に必要な処理をこなしていく
刑事課から公安課に戻る途中、後ろから隼人に声をかけられた
「なあ」
「?」
「津軽警視って、お前の彼氏?」
言っても良いものか、一瞬迷うが隼人は信頼出来る人だ。
「うん」
「あははっ マジか」
「ちょっと何で笑うの」
「そっか、そっか」
「そーなの」
「安心した」
安心したと言った隼人が遠い目をした
「え…?」
「…幸せなんだな!」
隼人は笑っていた
でも。
本当に安心した人の顔じゃないことくらい、
今の私には分かってしまった
あの頃の私たちは
もういない
ほんの数年。だけど その数年で私たちは、走って走って、ここまで来たんだ
今は別の道を、走っていて
大好きだった人は、今は仲間となった
…ほんとはね、
隼人…
ちょっとだけ、今も隼人が私を
大切にしてくれる気持ち
嬉しかったよ。ありがとう。
ーーーーーー ー ー
給湯室
「あ~~死ぬ~…目が、目が死ぬ」
誰もいないので、せめて心の声を口に出して、お茶を淹れる
お茶を口にして、ふぅーと息を吐く
(お昼も過ぎたし、もうひと頑張り!)
「俺にもお茶ちょうだい」
「あっ」
私から湯呑みを取ると、お茶を口にした
「で、元カレくんは何て?」
「え、いつの話ですか?」
「朝、二人でじゃれてたからさぁ、話し掛けそびれたんだよねー」
「あー…見てたんですね」
「壁に耳あり障子に目ありって、前に教えたでしょ」
「津軽さんのこと、彼氏かって聞かれて」
「へぇ… で?」
「うんって、答えました」
「ふぅーん」
津軽さんはそれだけ言って、また湯呑みに口をつける
けれど少しだけ
本当に少しだけ口元が緩んでいた。
(あ、嬉しいんだ)
長い付き合いだから分かる
津軽さんは嬉しい時ほど平気な顔をするから
「マズかったですか?」
「やるじゃん」
「はい!」
思わず胸を張ると、
津軽さんが小さく笑った
「なにそれ」
「だって褒められました」
「小学生?」
「津軽さんが褒めるの珍しいからです」
「はいはい」
津軽さんから、湯呑みを受け取り私もお茶に口を付ける
「今日は17時ちょうどで上がりだからさ」
「はい、目がしばしばです…」
「ウチに帰るの止めなよ」
「え、仮眠室で寝ろと!?ひどっ」
「おバカさん」
呆れたように笑ったあと、
津軽さんは少しだけ視線を逸らした
「今日くらい俺が回収する」
「え?」
「元カレくんに優衣取られたら困るし」
「……!」
心臓が跳ねる。
けれど津軽さんは何でもない顔で続けた
「俺んち来なよ。徹夜組の俺らは明日休みだから」
「……」
「二人で爆睡して、そのあとゆっくりしよ?」
「大賛成です!」
彼氏100%の成分が、あと数時間の勤務時間を完全にエネルギーチャージしてくれたのだった
ーーーーーーー ー ー
翌日
意識が覚醒し目が覚める
時間が気になりスマホを見ると、10時を過ぎていた
たっぷり寝て、まさに爆睡していたようだ
隣を見れば
(よく寝てる…)
小さな寝息で、津軽さんはまだ眠っている
ふと、昔のこと
を思い出した
『じゃあね、隼人』
背を向けて歩き出す
最後まで振り返らなかった
そして今
隣に津軽さんがいる
少し寝癖がついてる
少し口が開いてる
いつもみたいに完璧さはない
でも。
軽く、その髪の毛を撫でる
(…あぁ、私は今、この人の隣にいる)
愛おしい感情が溢れる
つい、頬を撫でると
ぱっと開く瞼
「……何してるの」
「すみません、可愛いから、つい」
「男に可愛いとか言う?さて、寝顔は満喫した?」
「はい。お陰さまで」
「あー、喉乾いた。寝すぎだし」
気だるそうにベッドから立ち上がり、キッチンへ向かう背中を見つめる
無意識に声をかけていた
「津軽さん」
不思議そうに振り向いたその顔を見た瞬間
胸の奥が温かくなった
「んー?」
「少しだけ」
「?」
津軽さんが目を瞬く
気付けば、
無意識に服の裾を掴んで、背中にピトッとくっついた
「少しだけ、このままでいてください」
昔、
手を離したのは私だった。
背を向けたのも私だった。
でも今は違う
離したくないと思う
この人となら、
同じ方向を向いて、歩いていきたいと思う。
「優衣は甘えんぼさんだね」
津軽さんが嬉しそうに笑う
大丈夫、私たちなら。
離れて、そっと手を離した
「ほら行こう」
「……はい。あ、待って」
「ん?どうしたの」
「……好きです」
「急だね」
「言いたくなったので」
津軽さんは目を細めて少しだけ笑った。
「知ってる」
「それでも言いたかったんです」
そして今度は、その背中を追いかけた。
1/1ページ