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津軽さんが刺されてから2ヶ月が経った頃。
夜中に目を覚ますと穏やかな寝息で、こちらに背を向けて眠っている津軽さんに
(…よく寝てる)
ほっと胸を撫で下ろす
…話したことないけど、津軽さんが悪夢にうなされてるのは知っていた
夜、寝る頃になるとスマホがなり「おいでよ」と呼ばれて、抱かれる日もあれば、ただ抱きしめあって眠る日もある
(私の存在が少しでも、傷を癒せていたらいいんだけど)
刺された傷口は良くなってきていたけど、心の傷は正直分からなくて
(一生…背負っていくのかな…)
起こさないように…と思ったけど我慢できずに目の前の背中に抱きついた
(生きてる…あったかいな…)
目を閉じる。一緒に生きていられる安堵に、2ヶ月たった今も、心は支配されていた
ーーーーーーー ー ー
数日後
百瀬さんと県外へ捜査に出ていたため、3日ぶり公安課に戻ると
黒澤「優衣さんお帰りなさい」
「はい!無事戻りました」
颯馬「その様子は良い進展があったようですね」
「そうなんです、もう少しかかると思ったので…順調に進んで良かったです」
黒澤「それは良かった。はあー、やはり優衣さんと言う名のエッセンシャルは公安課に必要ですね」
「え、エッセンシャル?」
黒澤「この男所帯には優衣さんの潤いが必要!」
颯馬「優衣さんは大切な紅一点ですから」
「た、大切なだなんて…!」
後藤「いや、本当だ。吉川ならではの視点は、いつも感心させられる」
「ご、後藤さんっ…」
石神「ふっ、まあ吉川がいないと公安課の空気が暗かったのは確かだな」
「ほ、ほめ殺し…!」
「ちょっと、ちょっと、帰ってそうそう、うちの子に構いすぎじゃない?」
「あ、津軽さんお疲れ様です、只今 戻りました」
課に戻って来た津軽さんは、こちらには来ず自分のデスクに向かう
黒澤「そんなこと言って、津軽さんだって優衣さんがいないと寂しかったんじゃないですか?」
「はっ?ウサの代わりなんていくらでもいるでしょー」
書類に視線を落としながら、こちらを見ることはなかった
「ひどいです!」
皆さんシトっと呆れた目で津軽さんを見てるけど
代わりなんていくらでも…
(なんとなく…津軽さんにしては冷たいかも)
仕事中なんだからイチャイチャは無いにしても気のせいかトゲを感じたのだった
ーーーーーーー ー ー
残業を終えて警察庁の外を出ると時計は21時を回っていた
徹夜や、深夜まで潜入捜査が続いたりする日々に比べたら大して疲れていない
(津軽さんは仕事終わったのかな)
冬の寒さに身を縮こませながら歩いていると
「優衣ー、こっちこっち」
「え、津軽さん」
路肩に車を停めて手招きしているのは、彼氏の津軽さんだった
「ありがとうございます。送って頂いて」
「いーよ。もう遅いんだから、優衣は一人で夜道を歩かないこと」
「えーまだそこまで深夜じゃないですよ」
「…とにかく、ゴリラ並みの体力があろうが、女の子なんだから警戒しなさい」
「大袈裟な気もしますけど、お心遣いは受けとりました」
(なんだ、昼間ちょっと機嫌悪いかもって思ったけど気のせいだったみたい)
その後、同じマンションに到着し手を握られたままのエレベーター
「行き先ウチでいいよね」
私の階のボタンは押されない
「はい」
たった3日間だったけど、離れていたから時間を埋めたくて、私も津軽さんを充電したかった
(同じ気持ちだよね?なんか嬉しいな)
ぎゅっと繋がれた大きな手。上司の津軽さんも好きだけど、彼氏の津軽さんは別格で、生活が充実してるって心が満たされていた
「お湯たまりました。津軽さん入っちゃってください」
「なに言ってんの、女の子が先でしょ」
「家主が先ですよ」
「…じゃ、一緒に入る?」
「…や、だって恥ずかしいですって」
「恥ずかしいんだー、でもさお風呂なんて軽いジャブ、あとで もっと恥ずかしいことするよ?」
「せ、宣言しないでください…」
結局、恋人と入るお風呂の提案は切り捨てられるわけなく…
椅子に座る大きな背中を優しく流す
(傷痕…。 痛かったよね)
右の脇腹にまだ新しい縫い目。臓器が傷つかなかったから回復は早い方だったと思う
もしも、ナイフがもう少し長かったら
もしも、刺された位置がずれていたら
そっと傷痕に手のひらを重ねる
(それにしても津軽さんが素人に刺されるって、そんな事ある?)
疑問に思った事を考え出すと、すぐに声をかけられた
「優衣?気になる?」
「あ、ごめんなさい」
ぱっと手を離そうとすると津軽さんの手に止められる
「触ってて、なんか癒されていく気がするから」
「ふふっ、じゃあ 気を送ります。痛くないように、って」
「大丈夫、痛くはないし。それに公安やってれば勲章みたいなもんでしょ」
「でも心配ですよ」
「結果オーライだって。俺はこれで良かったと思ってるから、良いんだって」
「え?そうですか?全然良くないですけど」
「はいっ!次は優衣の背中流す番だよ」
交代だよと立ち上がる津軽さんに傷痕は見えなくなる
(たくさん、癒したいな。愛おしいこの人を。私にできることは精一杯したい!)
髪を乾かし終えた頃。
ソファで隣に座った津軽さんが、 何でもない顔でスマホを見ながら、
「明日の朝、現地集合でしょ、何時に出るの」
「7時くらいには出ようかと」
「送って行ってあげる」
「えっ、大丈夫ですよ?」
「……じゃあ駅まで」
「津軽さん過保護です」
「今さら?」
軽く笑う津軽さんは、世に言う溺愛彼氏かのよう
(大切にしてくれるのは嬉しいけど!嬉しくて困る!)
スマホを閉じ、不意に肩を抱き寄せられ、髪に顔を埋めるように抱きしめられる
「……津軽さん?」
「んー……充電」
「ふふっ、もう十分一緒にいますよ?」
「足りない」
その声が、 少しだけ掠れている
あの事件の影響が尾を引いてるのは間違いない
甘えたな津軽さんも可愛いけど、今は何より津軽さんの心と身体のキズを癒したいから
抱き締められてる体温が心地良い
(こうやって、少しでも気を休められる時間を共有したいな)
その日の深夜。
(いたっ…)
寝ていると違和感を感じて目が覚めた
(えっ…!?)
くっついて眠る津軽さんに抱き締められながら、彼の手が私の腕をぎゅうっと掴んでいた
(ね、寝てる?よね…どうして)
「優衣…」
「つが──」
「良かった…君じゃ…なくて…」
「………。」
(…寝ぼけて…る?)
ふっと私の腕を掴む手が弛む
でも、津軽さんの額には汗が滲み、眉間に皺をよせていた
(うなされてるのを見るのは 初めてじゃないけど、今のって…)
ーーーーーー ー ー
数日後。
午前中から始まった重要参考人の取り調べは休憩を挟み午後を回っていた
取調室には百瀬さんと私
百瀬さんのあのオーラに対して、私が穏やかに話をする。
これが相性よく作用し、落とすには最適なことが多々ある
「しかたねーだろ、金が必要だったんだから」
午後になり、めんどくせーなーと悪態をつきながら自供を始める
「俺を逮捕したからって終わりじゃねーぞ、おい!お前…」
「何ですか?」
被疑者となったこの男の強い視線は、百瀬さんの横に立っていた私に向けられた
「俺に何かあれば、お前の家族がどうなるか分かってんのか?」
ジッと鋭い目付き
(…あの時)
そうだ。あの時もこんな目で見られた
あれは…
戸軽春巳『考えても見ろよ!津軽、お前が同じ目に合ったらどうする!?』
その視線が一瞬だけ私を捕らえた
戸軽さんの家族が理不尽に殺された時、苛立ちを津軽さんに向け食って掛かっていた
あの時、あの視線の意味は…
津軽、お前の大切な人が殺されたらどうする?
バサバサッ
手に力が入らず、捜査資料が滑り落ちる
(戸軽さんのターゲットは…私だった?)
百瀬「…ボサッとしてんな!部屋から出ろ、邪魔だ」
「…はい」
逃げ出したかった。どこかに。
早足で屋上に向かう
(違う)
(違う、違う、だ、だってそんなわけ…)
(いくら津軽さんだって、わざと?そんなこと…)
(まさか、違うって)
重い扉を開けると幸い誰もいない
なるべく人目に付かない場所で柵に背を預けしゃがみこむ
激しい動悸と酸欠になりそうな胸を手で押える
「………」
しかし
どんなに否定しても、頭の中の記憶たちが 点と点で結ばれて、一つの答えを導きだす
『………いいよ、この案、採用』
『だから、安心しなね』
ノア『たかおみは、こわがりなのに、かっこつけじゃん』
『ごめん、待たせて』
『痛いくらい握ってて』
『俺より先に死なないで。3、2、1で死ぬその時まで』
『ずっと、ひっついててよ』
『あの夜、勝手に刺されて心配かけて、ごめん』
『津軽さんが謝ることじゃないですよ。被害者なんですから』
『……でも』
『でも?』
『……』
「…あはは、ははっ…バカだ...私は…」
津軽さんが退院したあと
抱き締められた温もりが、生きていてくれる幸せが嬉しくて
『…二人でいれば、あったかいですね』
そう私は言ったけど、じゃあ あの時…
『結果オーライだって、俺はこれで良かったと思ってる』
『良かった...君じゃ…なくて』
「……っ、……ぁ…」
うまく呼吸が出来ない
仕事中に泣かない。そう決めてるから込み上げてくるものをぐっと堪える
あったかい、だなんて
津軽さんが命を張って、血を流して守ってくれた
あったかさ、だったんだ。
私が変えさせた捜査方針
あの時、津軽さんは もう気付いてたんだ
戸軽さんの怒りが 私たちに向いていること
だから
私を標的から外すために
自分が、代わりになった
(……無理、なのかな?一緒にいちゃ、いけないのかな…)
別れ。
その言葉は一生私からは出ないと思ってたのに
私は津軽さんをいつか間接的に
殺してしまうかもしれない
「吉川、ここにいたのか…」
「後藤さん…」
「百瀬が探してた」
「す、すみっ、ません…」
慌てて呼吸を整えて、立ち上がる
「いや、急ぎでないから もう暫くここにいるといい」
目の前に差し出されたミルク入り缶コーヒー
もう…見透かされてしまったようで…
黙って缶コーヒーを受けとると、温かかった
「……津軽さんのことか」
「……っ」
「アンタ、全部 気付いた顔してる」
「…私のせい、なんです……」
「そう思うなら、公安は続けられん」
「……え」
後藤さんは柵にもたれ、 缶コーヒーを一口飲む
「俺も昔、相棒を死なせた」
「…………」
「何年経っても、“あの時 別の判断をしてれば”って考える」
静かな声だった
責めるでもなく、 慰めるでもなく
ただ、 事実を置いていくみたいに
「だがな」
「……」
「津軽さんは、自分で選んだ」
「!」
「アンタを守ると決めて、動いた。だから、一人で背負うな」
ずっと
堪えてた涙がポロポロと溢れ出た
「ゔっ……ぅ……っ…」
唇を噛んでも、喉の奥から震えた息が漏れた
自分の無力さに打ちのめされても、悔しくて、苦しくても...
立ち止まっちゃいけないんだ
私の嗚咽しか響かない静寂の中で、前を向くために涙を流し続けたのだった
ーーーーーー ー ー
公安課
さっきトイレの鏡を見たら最悪な顔だった。
泣き腫らした以外にない顔
これから立ち入る公安課には公安刑事たち…
(迷ってても仕方ない。入ろう…)
ドアを開けて百瀬さんを探すがいなくて、
代わりにいたのは
(津軽さん…。ふー…取り調べでのこと報告しないと)
取り調べで被疑者に睨まれて逃げ出したこと。実際は思い出したから、なんだけど…
色んな意味で重い足取りで班長の前に立つ
「津軽さん…宜しいですか?」
「んー…、ウサは取りあえず今回の事件から外すから」
こっちを見ることなくパソコンを操作し、淡々と話す
「…はい。申し訳ありませんでした」
「ウサ、今日は定時で上がって、ゆっくり休むこと」
「でもっ…いえ…すみません」
そう返事をした瞬間、
カタン
津軽さんはキーボードの手を止めた
「……」
顔は上げないまま、
「……謝らなくていいから」
ボソッと低い声だけが落ちる
(津軽さん……)
涙はもう、たくさん流してきたから、込み上げてくるものをぐっと抑えられるけど
胸がギュウと締め付けられたのは、津軽さんが優しいから
自分のデスクに戻り、パソコンを立ち上げ、別の案件の 途中になっていた捜査資料を開く
正直、仕事に集中できなくて
(優しくされる資格なんてないのに)
今はその声がどうしようもなく苦しかった
ーーーーー ー ー
定時で上がらせてもらい、自宅のソファーに寝転んでいた
初めてじゃない。津軽さんが身体を張って私を守ってくれたのは
でも、今回のことは、私はずっと気が付かなくて…
(ううん、気が付かせなかった。私に罪悪感を持たせないために)
昼間に一度考えたこと。
(別れた方がいいのかな…そうじゃなきゃいつか津軽さんは…)
この仕事は危険と隣り合わせで、だからこそ、しっかり全員で計画は練って行動している
それでも、私は何度も助けられてきた
このままだったら…いつか…
(恋人、守る、上司、部下、大切、信じる、愛)
(……共倒れする、未来…?)
こんなこと、私たちは 望んでない
天井を見上げる。最上階には津軽さんの部屋
私は大切な人を…いつか…殺して…しまうかもしれない
大切だから…覚悟を決めなきゃいけない
それが どんなに修羅の道だとしても…
ピンポーン
ドアのインターフォンが鳴る
(津軽さん…)
「お疲れ~、 ほら ウチに帰ろ」
いつもみたいに仕事終わりに迎えに来てくれる
なんでもない彼氏の顔で。
「お疲れ様です、じゃあ、ちょっとだけ」
「そんなこと言わずに広いベッドで寝ていけばいいじゃん」
「……」
ちゃんと話し合わなくちゃ…私たちのこと。
逃げ出したい。私も津軽さんみたいに、何も無かったことにして、いつもみたいにイチャイチャ出来たら幸せなのかも知れない
けど、大切なことだから、覚悟を決めなきゃいけないんだ…
「ん?」
「……」
緊張から固まってる私にスッと手が伸びてきて瞼を優しく撫でる
「ひどい顔してる、あとでマッサージしてあげるから、今夜はゆっくり休もう?」
あたたかい。そう津軽さんはあたたかい人。
本当に心配してくる、そう伝わってきて、このまま甘えて絆されそうになる
「今日は俺がコーヒー淹れるね、ソファーで待ってて」
津軽さんの自宅にお邪魔してリビングに入り、大きな背中を後ろから見ている
いつも通りにしようとしてる。でも、それじゃ駄目だ
(言わなきゃ…!)
「…っ…」
(あぁっ、もう!)
また私は感情で動いてしまうんだ
目の前の背中に抱きついていた
「…え?」
「ごめんなさい...」
何も気が付かなくて
「ごめんなさい...」
一人で背負わせて
「ごめんなさい...」
──愛してしまって。
背中越しに、津軽さんの呼吸が止まった気がした
……違う。
こんなの、言いたいんじゃない。
「わ、私……」
喉が詰まる。
離れた方がいい。
そう思った。
思ったのに。
「……嫌、なんです…」
自分でも、驚くくらい弱い声だった
「ははっ、え、なに…?どうしたの。寂しかった?優衣は寂しがり屋さんだからね」
「私、今日…ずっと考えてて…津軽さんは私を庇って…。」
「……」
「一歩間違えば、刺されて…そのまま…」
「はっ?…だから何?」
「なにって…。だって…怖いんです。私といたら津軽さんがまた…」
「……優衣」
低い声。抱きついた腕に力が入る。津軽さんが震えてる気がしたから。
だらん、と下に垂らしたままの手は、ぐっ…と白くなるまで握られていた
「それ、誰のために言ってるの」
「……え…」
「俺のため?」
「っ……」
「自分が楽になるために別れるとか言うつもり?」
図星を突かれて、息が止まる。
津軽さんは振り返らない。
「ふざけんなよ…」
余裕のない声。でも、静かな声。
「優衣さ、“俺を危険に巻き込みたくないから別れる”って言えば、正しいこと言ってる気になれるでしょ」
「!!」
「でもさ、それ俺が決めることだから」
「…だって」
「俺に…優衣を守る覚悟がない男だと思ってる?」
「…っ! 私は津軽さんに傷ついて欲しくない!だからっ!」
「別れないっ つってんだろ!…やっと隣に置けたのに…」
シン─と静まり返る部屋
荒い息遣いだけが近かった
初めて怒鳴られた…
考えてみると津軽さんに怒鳴られた事ってない
ハッと冷静になる自分がいて、津軽さんが怯えてるのが分かる
「あ、あの、別れたいんじゃ、なくて…」
「えっ?」
「覚悟を決めます。私も津軽さんを守ります。」
「優衣…」
「もっと強くなります。守られるだけじゃなくて、ちゃんと隣に立てるようになります」
ぐにゃんと抱きついていた身体が、床に しゃがみ込んで腕を離してしまった
「……んだよ…! 紛らわしい言い方するなよな」
「ごめんなさい」
はあーーと長いタメ息をつく背中は丸まっていて大きいのに小さく見えた
(津軽さん…好き。やっぱり大好きだな)
しゃがみ込む津軽さんの隣に座り手を握った
「怖いです。でも、この仕事も津軽さんの隣も逃げたくない」
「…ほんと、君強いよ。俺さ…」
「はい?」
そして小さく本音を零してくれる
「刺された時より、優衣に離れるとか言われる方が普通に無理だった」
「津軽さん…」
鼻の奥がツンとして込み上げてくるものを抑えた
「言いませんよ、逃げません。絶対に」
「……逃がさないし」
「!! …あの今夜は一緒に寝ても良いですか?」
「最初からそのつもりだったけど?」
見つめ合い、笑い合う。
空気が柔らかいものになった
ーーーーーー ー ー
夜中、ふと目を覚ますと津軽さんの腕の中にいた
静かな寝息と安心した寝顔
(もうっ…憎たらしいくらいカッコいい)
(でも、それより…)
(あったかいな)
一緒にいるとあたたかい。
これは紛れもない事実だから
額を津軽さんの胸に当て、また眠りにつく
幸せな夢を見ると思う。この人の腕の中で。
ーーーーーー ー ー
津軽さんに早朝会議が入ったため、玄関まで送る
「いってきます」
微笑み返してキスを交わす
「いってらっしゃい」
また私のもとに帰ってきてね。
怖くても一緒に生きていく
そう心に決めながら、 大切な人の背中を見送る
ドアが閉まり静かになった部屋に津軽さんのお日さまフローラルの香りだけ僅かに残っていた
夜中に目を覚ますと穏やかな寝息で、こちらに背を向けて眠っている津軽さんに
(…よく寝てる)
ほっと胸を撫で下ろす
…話したことないけど、津軽さんが悪夢にうなされてるのは知っていた
夜、寝る頃になるとスマホがなり「おいでよ」と呼ばれて、抱かれる日もあれば、ただ抱きしめあって眠る日もある
(私の存在が少しでも、傷を癒せていたらいいんだけど)
刺された傷口は良くなってきていたけど、心の傷は正直分からなくて
(一生…背負っていくのかな…)
起こさないように…と思ったけど我慢できずに目の前の背中に抱きついた
(生きてる…あったかいな…)
目を閉じる。一緒に生きていられる安堵に、2ヶ月たった今も、心は支配されていた
ーーーーーーー ー ー
数日後
百瀬さんと県外へ捜査に出ていたため、3日ぶり公安課に戻ると
黒澤「優衣さんお帰りなさい」
「はい!無事戻りました」
颯馬「その様子は良い進展があったようですね」
「そうなんです、もう少しかかると思ったので…順調に進んで良かったです」
黒澤「それは良かった。はあー、やはり優衣さんと言う名のエッセンシャルは公安課に必要ですね」
「え、エッセンシャル?」
黒澤「この男所帯には優衣さんの潤いが必要!」
颯馬「優衣さんは大切な紅一点ですから」
「た、大切なだなんて…!」
後藤「いや、本当だ。吉川ならではの視点は、いつも感心させられる」
「ご、後藤さんっ…」
石神「ふっ、まあ吉川がいないと公安課の空気が暗かったのは確かだな」
「ほ、ほめ殺し…!」
「ちょっと、ちょっと、帰ってそうそう、うちの子に構いすぎじゃない?」
「あ、津軽さんお疲れ様です、只今 戻りました」
課に戻って来た津軽さんは、こちらには来ず自分のデスクに向かう
黒澤「そんなこと言って、津軽さんだって優衣さんがいないと寂しかったんじゃないですか?」
「はっ?ウサの代わりなんていくらでもいるでしょー」
書類に視線を落としながら、こちらを見ることはなかった
「ひどいです!」
皆さんシトっと呆れた目で津軽さんを見てるけど
代わりなんていくらでも…
(なんとなく…津軽さんにしては冷たいかも)
仕事中なんだからイチャイチャは無いにしても気のせいかトゲを感じたのだった
ーーーーーーー ー ー
残業を終えて警察庁の外を出ると時計は21時を回っていた
徹夜や、深夜まで潜入捜査が続いたりする日々に比べたら大して疲れていない
(津軽さんは仕事終わったのかな)
冬の寒さに身を縮こませながら歩いていると
「優衣ー、こっちこっち」
「え、津軽さん」
路肩に車を停めて手招きしているのは、彼氏の津軽さんだった
「ありがとうございます。送って頂いて」
「いーよ。もう遅いんだから、優衣は一人で夜道を歩かないこと」
「えーまだそこまで深夜じゃないですよ」
「…とにかく、ゴリラ並みの体力があろうが、女の子なんだから警戒しなさい」
「大袈裟な気もしますけど、お心遣いは受けとりました」
(なんだ、昼間ちょっと機嫌悪いかもって思ったけど気のせいだったみたい)
その後、同じマンションに到着し手を握られたままのエレベーター
「行き先ウチでいいよね」
私の階のボタンは押されない
「はい」
たった3日間だったけど、離れていたから時間を埋めたくて、私も津軽さんを充電したかった
(同じ気持ちだよね?なんか嬉しいな)
ぎゅっと繋がれた大きな手。上司の津軽さんも好きだけど、彼氏の津軽さんは別格で、生活が充実してるって心が満たされていた
「お湯たまりました。津軽さん入っちゃってください」
「なに言ってんの、女の子が先でしょ」
「家主が先ですよ」
「…じゃ、一緒に入る?」
「…や、だって恥ずかしいですって」
「恥ずかしいんだー、でもさお風呂なんて軽いジャブ、あとで もっと恥ずかしいことするよ?」
「せ、宣言しないでください…」
結局、恋人と入るお風呂の提案は切り捨てられるわけなく…
椅子に座る大きな背中を優しく流す
(傷痕…。 痛かったよね)
右の脇腹にまだ新しい縫い目。臓器が傷つかなかったから回復は早い方だったと思う
もしも、ナイフがもう少し長かったら
もしも、刺された位置がずれていたら
そっと傷痕に手のひらを重ねる
(それにしても津軽さんが素人に刺されるって、そんな事ある?)
疑問に思った事を考え出すと、すぐに声をかけられた
「優衣?気になる?」
「あ、ごめんなさい」
ぱっと手を離そうとすると津軽さんの手に止められる
「触ってて、なんか癒されていく気がするから」
「ふふっ、じゃあ 気を送ります。痛くないように、って」
「大丈夫、痛くはないし。それに公安やってれば勲章みたいなもんでしょ」
「でも心配ですよ」
「結果オーライだって。俺はこれで良かったと思ってるから、良いんだって」
「え?そうですか?全然良くないですけど」
「はいっ!次は優衣の背中流す番だよ」
交代だよと立ち上がる津軽さんに傷痕は見えなくなる
(たくさん、癒したいな。愛おしいこの人を。私にできることは精一杯したい!)
髪を乾かし終えた頃。
ソファで隣に座った津軽さんが、 何でもない顔でスマホを見ながら、
「明日の朝、現地集合でしょ、何時に出るの」
「7時くらいには出ようかと」
「送って行ってあげる」
「えっ、大丈夫ですよ?」
「……じゃあ駅まで」
「津軽さん過保護です」
「今さら?」
軽く笑う津軽さんは、世に言う溺愛彼氏かのよう
(大切にしてくれるのは嬉しいけど!嬉しくて困る!)
スマホを閉じ、不意に肩を抱き寄せられ、髪に顔を埋めるように抱きしめられる
「……津軽さん?」
「んー……充電」
「ふふっ、もう十分一緒にいますよ?」
「足りない」
その声が、 少しだけ掠れている
あの事件の影響が尾を引いてるのは間違いない
甘えたな津軽さんも可愛いけど、今は何より津軽さんの心と身体のキズを癒したいから
抱き締められてる体温が心地良い
(こうやって、少しでも気を休められる時間を共有したいな)
その日の深夜。
(いたっ…)
寝ていると違和感を感じて目が覚めた
(えっ…!?)
くっついて眠る津軽さんに抱き締められながら、彼の手が私の腕をぎゅうっと掴んでいた
(ね、寝てる?よね…どうして)
「優衣…」
「つが──」
「良かった…君じゃ…なくて…」
「………。」
(…寝ぼけて…る?)
ふっと私の腕を掴む手が弛む
でも、津軽さんの額には汗が滲み、眉間に皺をよせていた
(うなされてるのを見るのは 初めてじゃないけど、今のって…)
ーーーーーー ー ー
数日後。
午前中から始まった重要参考人の取り調べは休憩を挟み午後を回っていた
取調室には百瀬さんと私
百瀬さんのあのオーラに対して、私が穏やかに話をする。
これが相性よく作用し、落とすには最適なことが多々ある
「しかたねーだろ、金が必要だったんだから」
午後になり、めんどくせーなーと悪態をつきながら自供を始める
「俺を逮捕したからって終わりじゃねーぞ、おい!お前…」
「何ですか?」
被疑者となったこの男の強い視線は、百瀬さんの横に立っていた私に向けられた
「俺に何かあれば、お前の家族がどうなるか分かってんのか?」
ジッと鋭い目付き
(…あの時)
そうだ。あの時もこんな目で見られた
あれは…
戸軽春巳『考えても見ろよ!津軽、お前が同じ目に合ったらどうする!?』
その視線が一瞬だけ私を捕らえた
戸軽さんの家族が理不尽に殺された時、苛立ちを津軽さんに向け食って掛かっていた
あの時、あの視線の意味は…
津軽、お前の大切な人が殺されたらどうする?
バサバサッ
手に力が入らず、捜査資料が滑り落ちる
(戸軽さんのターゲットは…私だった?)
百瀬「…ボサッとしてんな!部屋から出ろ、邪魔だ」
「…はい」
逃げ出したかった。どこかに。
早足で屋上に向かう
(違う)
(違う、違う、だ、だってそんなわけ…)
(いくら津軽さんだって、わざと?そんなこと…)
(まさか、違うって)
重い扉を開けると幸い誰もいない
なるべく人目に付かない場所で柵に背を預けしゃがみこむ
激しい動悸と酸欠になりそうな胸を手で押える
「………」
しかし
どんなに否定しても、頭の中の記憶たちが 点と点で結ばれて、一つの答えを導きだす
『………いいよ、この案、採用』
『だから、安心しなね』
ノア『たかおみは、こわがりなのに、かっこつけじゃん』
『ごめん、待たせて』
『痛いくらい握ってて』
『俺より先に死なないで。3、2、1で死ぬその時まで』
『ずっと、ひっついててよ』
『あの夜、勝手に刺されて心配かけて、ごめん』
『津軽さんが謝ることじゃないですよ。被害者なんですから』
『……でも』
『でも?』
『……』
「…あはは、ははっ…バカだ...私は…」
津軽さんが退院したあと
抱き締められた温もりが、生きていてくれる幸せが嬉しくて
『…二人でいれば、あったかいですね』
そう私は言ったけど、じゃあ あの時…
『結果オーライだって、俺はこれで良かったと思ってる』
『良かった...君じゃ…なくて』
「……っ、……ぁ…」
うまく呼吸が出来ない
仕事中に泣かない。そう決めてるから込み上げてくるものをぐっと堪える
あったかい、だなんて
津軽さんが命を張って、血を流して守ってくれた
あったかさ、だったんだ。
私が変えさせた捜査方針
あの時、津軽さんは もう気付いてたんだ
戸軽さんの怒りが 私たちに向いていること
だから
私を標的から外すために
自分が、代わりになった
(……無理、なのかな?一緒にいちゃ、いけないのかな…)
別れ。
その言葉は一生私からは出ないと思ってたのに
私は津軽さんをいつか間接的に
殺してしまうかもしれない
「吉川、ここにいたのか…」
「後藤さん…」
「百瀬が探してた」
「す、すみっ、ません…」
慌てて呼吸を整えて、立ち上がる
「いや、急ぎでないから もう暫くここにいるといい」
目の前に差し出されたミルク入り缶コーヒー
もう…見透かされてしまったようで…
黙って缶コーヒーを受けとると、温かかった
「……津軽さんのことか」
「……っ」
「アンタ、全部 気付いた顔してる」
「…私のせい、なんです……」
「そう思うなら、公安は続けられん」
「……え」
後藤さんは柵にもたれ、 缶コーヒーを一口飲む
「俺も昔、相棒を死なせた」
「…………」
「何年経っても、“あの時 別の判断をしてれば”って考える」
静かな声だった
責めるでもなく、 慰めるでもなく
ただ、 事実を置いていくみたいに
「だがな」
「……」
「津軽さんは、自分で選んだ」
「!」
「アンタを守ると決めて、動いた。だから、一人で背負うな」
ずっと
堪えてた涙がポロポロと溢れ出た
「ゔっ……ぅ……っ…」
唇を噛んでも、喉の奥から震えた息が漏れた
自分の無力さに打ちのめされても、悔しくて、苦しくても...
立ち止まっちゃいけないんだ
私の嗚咽しか響かない静寂の中で、前を向くために涙を流し続けたのだった
ーーーーーー ー ー
公安課
さっきトイレの鏡を見たら最悪な顔だった。
泣き腫らした以外にない顔
これから立ち入る公安課には公安刑事たち…
(迷ってても仕方ない。入ろう…)
ドアを開けて百瀬さんを探すがいなくて、
代わりにいたのは
(津軽さん…。ふー…取り調べでのこと報告しないと)
取り調べで被疑者に睨まれて逃げ出したこと。実際は思い出したから、なんだけど…
色んな意味で重い足取りで班長の前に立つ
「津軽さん…宜しいですか?」
「んー…、ウサは取りあえず今回の事件から外すから」
こっちを見ることなくパソコンを操作し、淡々と話す
「…はい。申し訳ありませんでした」
「ウサ、今日は定時で上がって、ゆっくり休むこと」
「でもっ…いえ…すみません」
そう返事をした瞬間、
カタン
津軽さんはキーボードの手を止めた
「……」
顔は上げないまま、
「……謝らなくていいから」
ボソッと低い声だけが落ちる
(津軽さん……)
涙はもう、たくさん流してきたから、込み上げてくるものをぐっと抑えられるけど
胸がギュウと締め付けられたのは、津軽さんが優しいから
自分のデスクに戻り、パソコンを立ち上げ、別の案件の 途中になっていた捜査資料を開く
正直、仕事に集中できなくて
(優しくされる資格なんてないのに)
今はその声がどうしようもなく苦しかった
ーーーーー ー ー
定時で上がらせてもらい、自宅のソファーに寝転んでいた
初めてじゃない。津軽さんが身体を張って私を守ってくれたのは
でも、今回のことは、私はずっと気が付かなくて…
(ううん、気が付かせなかった。私に罪悪感を持たせないために)
昼間に一度考えたこと。
(別れた方がいいのかな…そうじゃなきゃいつか津軽さんは…)
この仕事は危険と隣り合わせで、だからこそ、しっかり全員で計画は練って行動している
それでも、私は何度も助けられてきた
このままだったら…いつか…
(恋人、守る、上司、部下、大切、信じる、愛)
(……共倒れする、未来…?)
こんなこと、私たちは 望んでない
天井を見上げる。最上階には津軽さんの部屋
私は大切な人を…いつか…殺して…しまうかもしれない
大切だから…覚悟を決めなきゃいけない
それが どんなに修羅の道だとしても…
ピンポーン
ドアのインターフォンが鳴る
(津軽さん…)
「お疲れ~、 ほら ウチに帰ろ」
いつもみたいに仕事終わりに迎えに来てくれる
なんでもない彼氏の顔で。
「お疲れ様です、じゃあ、ちょっとだけ」
「そんなこと言わずに広いベッドで寝ていけばいいじゃん」
「……」
ちゃんと話し合わなくちゃ…私たちのこと。
逃げ出したい。私も津軽さんみたいに、何も無かったことにして、いつもみたいにイチャイチャ出来たら幸せなのかも知れない
けど、大切なことだから、覚悟を決めなきゃいけないんだ…
「ん?」
「……」
緊張から固まってる私にスッと手が伸びてきて瞼を優しく撫でる
「ひどい顔してる、あとでマッサージしてあげるから、今夜はゆっくり休もう?」
あたたかい。そう津軽さんはあたたかい人。
本当に心配してくる、そう伝わってきて、このまま甘えて絆されそうになる
「今日は俺がコーヒー淹れるね、ソファーで待ってて」
津軽さんの自宅にお邪魔してリビングに入り、大きな背中を後ろから見ている
いつも通りにしようとしてる。でも、それじゃ駄目だ
(言わなきゃ…!)
「…っ…」
(あぁっ、もう!)
また私は感情で動いてしまうんだ
目の前の背中に抱きついていた
「…え?」
「ごめんなさい...」
何も気が付かなくて
「ごめんなさい...」
一人で背負わせて
「ごめんなさい...」
──愛してしまって。
背中越しに、津軽さんの呼吸が止まった気がした
……違う。
こんなの、言いたいんじゃない。
「わ、私……」
喉が詰まる。
離れた方がいい。
そう思った。
思ったのに。
「……嫌、なんです…」
自分でも、驚くくらい弱い声だった
「ははっ、え、なに…?どうしたの。寂しかった?優衣は寂しがり屋さんだからね」
「私、今日…ずっと考えてて…津軽さんは私を庇って…。」
「……」
「一歩間違えば、刺されて…そのまま…」
「はっ?…だから何?」
「なにって…。だって…怖いんです。私といたら津軽さんがまた…」
「……優衣」
低い声。抱きついた腕に力が入る。津軽さんが震えてる気がしたから。
だらん、と下に垂らしたままの手は、ぐっ…と白くなるまで握られていた
「それ、誰のために言ってるの」
「……え…」
「俺のため?」
「っ……」
「自分が楽になるために別れるとか言うつもり?」
図星を突かれて、息が止まる。
津軽さんは振り返らない。
「ふざけんなよ…」
余裕のない声。でも、静かな声。
「優衣さ、“俺を危険に巻き込みたくないから別れる”って言えば、正しいこと言ってる気になれるでしょ」
「!!」
「でもさ、それ俺が決めることだから」
「…だって」
「俺に…優衣を守る覚悟がない男だと思ってる?」
「…っ! 私は津軽さんに傷ついて欲しくない!だからっ!」
「別れないっ つってんだろ!…やっと隣に置けたのに…」
シン─と静まり返る部屋
荒い息遣いだけが近かった
初めて怒鳴られた…
考えてみると津軽さんに怒鳴られた事ってない
ハッと冷静になる自分がいて、津軽さんが怯えてるのが分かる
「あ、あの、別れたいんじゃ、なくて…」
「えっ?」
「覚悟を決めます。私も津軽さんを守ります。」
「優衣…」
「もっと強くなります。守られるだけじゃなくて、ちゃんと隣に立てるようになります」
ぐにゃんと抱きついていた身体が、床に しゃがみ込んで腕を離してしまった
「……んだよ…! 紛らわしい言い方するなよな」
「ごめんなさい」
はあーーと長いタメ息をつく背中は丸まっていて大きいのに小さく見えた
(津軽さん…好き。やっぱり大好きだな)
しゃがみ込む津軽さんの隣に座り手を握った
「怖いです。でも、この仕事も津軽さんの隣も逃げたくない」
「…ほんと、君強いよ。俺さ…」
「はい?」
そして小さく本音を零してくれる
「刺された時より、優衣に離れるとか言われる方が普通に無理だった」
「津軽さん…」
鼻の奥がツンとして込み上げてくるものを抑えた
「言いませんよ、逃げません。絶対に」
「……逃がさないし」
「!! …あの今夜は一緒に寝ても良いですか?」
「最初からそのつもりだったけど?」
見つめ合い、笑い合う。
空気が柔らかいものになった
ーーーーーー ー ー
夜中、ふと目を覚ますと津軽さんの腕の中にいた
静かな寝息と安心した寝顔
(もうっ…憎たらしいくらいカッコいい)
(でも、それより…)
(あったかいな)
一緒にいるとあたたかい。
これは紛れもない事実だから
額を津軽さんの胸に当て、また眠りにつく
幸せな夢を見ると思う。この人の腕の中で。
ーーーーーー ー ー
津軽さんに早朝会議が入ったため、玄関まで送る
「いってきます」
微笑み返してキスを交わす
「いってらっしゃい」
また私のもとに帰ってきてね。
怖くても一緒に生きていく
そう心に決めながら、 大切な人の背中を見送る
ドアが閉まり静かになった部屋に津軽さんのお日さまフローラルの香りだけ僅かに残っていた
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