幸せを心よりお祈りしています・中編
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「うっ、結構お腹一杯になってきた…」
トッピング全部のせピザと、骨付きチキン、サラダを映画のDVD を見ながら食べる
なぜ、こんな事になっているかと言うと
今夜も津軽さんと過ごすから。
一度 部屋に帰りシャワーを浴びて夕方過ぎに私の部屋に戻って来た津軽さん。
せっかく近づいたような気がする距離を、夢にしたくなくて…遊びに来ると言う津軽さんを突き放せる訳がない
海で素直に ごめん って言ってくれたこと
素の津軽さんに会えたことが嬉しかった
突き放された、裏切られた、捨てられた
そんな気持ちは もう無くなっていて、私はとことん、この人に のめり込んでいるのだと自覚する
「あ、ウサちゃんビールこれが最後だったよね」
「はい、宅配で頼んだ分は飲みましたし、ウチにはストックなくて」
「コンビニ買いに行こ?デザートも買いたいし。消化も促進されるよ」
「あ、良いですね ちょっと歩きたい」
外に出ると、優しい明るさを感じて空を見る
「今夜は満月ですね」
声をかけると隣の津軽さんも空を見上げる
建物の隙間から見える満月が夜道をいつもより青く優しく照らしている
(朝日を一緒に見たり、満月を見たり…)
私の生活の中に まるで津軽さんが当たり前みたいに居る不思議な日だ
こんな中途半端な関係、良くないよ、止めなきゃいけないよ
そう自分を正そうとする私と、
好きな人を一人占めできる この時間が幸せだと酔う私がいる
「あぶなっ…」
ぐっと腰を抱き寄せられ、現実にかえる
「わっ」
「ほら、自転車 ぶつかりそうだったよ」
「…ありがとうございます」
腰を抱いた手がそのまま下にずれて私の右手を握る
(うぅー…ナチュラル過ぎる!そしてドキドキする!)
他愛もない話をしながら、いつものマンションに一番近いコンビニに到着したが
(このまま手を繋いで店内に入ったら、いつもの店員さんに私たちがカップルだと思われるのでは…!?ど、どうする?)
一応 私と津軽さんがよく使うコンビニであり、目立つ行動しないのが鉄則のはず
「つ、津軽さん?その…手…このままで、いいんですか?」
「ん?ん~、月とスッポン?鯨と鰯?」
「はあ?なんですかソレ?どうせ恋人に見えないって言うんですか!」
「 声おっきいな、別にそこまで言ってない。あの店員は ただの善行な市民だよ」
「でも…」
「ウサは見られたい?恋人って。」
「……わたしは──」
「あっスイーツ2つ買うと くじ引きできるって!」
「っ……そ、ですねー なに当たるんだろ」
(言わせる気…ないクセに)
このズルい男に腹立つ気持ちはあるけど、一緒にいたいと選択し続けてるのは自分なわけで。
手を繋いだまま入るいつものコンビニ
よくいる店員さん、私たちが恋人だって思っちゃうかな。思うよね、普通は。
月とスッポンと言われようが、繋いだ手を会計の時 以外は離さない私たちは端からみれば恋人。
照れくさくて、嬉しくて
でも、肩書きの無い私たちはセフレでしかないんでしょう?
帰り道、買い物袋を持ってくれる隣の津軽さんに、上司と部下じゃなくて完全プライベートだと言われてるみたいで。
(津軽さんだって満更じゃないと思うんだけど)
もっと津軽さんのこと知りたいよ
…そうえば…事件で両親を亡くされてるんだよね。刑事になった理由だったりするのかな
行きより、言葉少なに歩く帰り道も悪くない。静かだけど手はしっかりと繋がれてるから
雲で隠れていたお月様が、すーっとまた姿を表し、二人で見上げた
「そーえばさー、天体望遠鏡 買おうかなって思ってて、十五夜にウサちゃん招待しようか?」
「えっ行きたいです!さすが最上階のベランダ…!」
「月に帰らないでね。お友達が月にいても」
「ふふっ…行きませんって。私は地球でやることがあるんですから」
「例えば?地球人の願い事でも叶えてくれるの?」
「あー…」
「ん?」
そうなんだ…いま、気が付いた
わたし…
「月のウサギは願い事を叶えてくれないかも知れないけど、公安課のウサギは津軽さんの願い事を叶えたいって思ってます」
「…優衣は俺のこと大好きだね」
「大事…な津軽さんですから…」
踏み込んだ会話だった
肝心なことは確認しない私たちだけど、近くにいて、また名前を呼ばれて浮かれちゃって。
だから、今夜も この人に抱かれた。
めちゃくちゃに激しく抱かれて、触れあう素肌の温もり、ギュッと抱き締められた時の匂い、ドキドキと伝わる鼓動、しっとりした甘い吐息、見つめ合う切なさ
平行線で交わらないけど、延長線を二人で進み続けていた
私は人のこと言えないズルい子だ。
ーーーーーー ー ー
side津軽
ウサと仲直りし、マスク生活が終わってから暫く経った
あれからウサとは、休みの日の夜に会ったりして おうちデートをしてウチに泊める仲になっている
正直、そんな関係だって浮かれてウサと距離を縮められている
そう思ってた訳だが、世間一般ではコレを…
─居酒屋─
マツオ「で、ウサちゃんとはどうなってんの?」
コースケ「いい感じだったじゃん、付き合ってるの?」
ミカド「なんで高臣ばっかり…」
タクヤ「それは顔面の問題だろ」
マツオ「カレカノになったんでしょ?」
「まあ、ウサは…う~ん...」
コースケ「なんだ、進展ないんじゃん」
「違うって~…ウチで過ごしてるから…」
ミカド「ま、まさか高臣…」
「なんだよ?」
タクヤ「セフレにしてんのかよ」
「そーじゃないし…!ウサをそーゆう扱いにしてないから」
全員「……。」
「んだよ…信じてないって目で見ないで!」
マツオ「ウサちゃんイイ子なのに可哀想…」
あの居酒屋の一件から考えていた。
セフレにしてるつもりはない。本当に。
俺は好きだし…ウサからも好意は感じる…たぶん
特別な女の子だと思ってる
ウサとプライベートな時間をどう過ごしているかと言えば、仕事帰りに二人でラーメン食べたり居酒屋に寄ったり、ウチで何か食べるとか、テレビを見て…あとは泊めてセックスをする
(……都合のいい女になんか……もしかして…してるのか?)
昼休み
ぶぶ漬けカップラーメンを手に、ウサについて悶々としながら給湯室に向かう
「あ、津軽さん!ちょうど良かった」
「なに~ いま色々忙しいから透くんに構ってられないんだけど」
「どーぞ!忙しい津軽さんもリフレッシュは必要。映画のペアチケットです。女の子誘って行ってみては?」
「ん~…いらな……いる!」
透くんからゲットしたチケットは花巻監督の映画チケットだった
なんか朝、誘われたけどキャンセルしよう...
俺としたことが...ウサをデートに連れて行ったことがなかった
ウサと過ごす時間は完全プライベートだ
警察庁内の女や、協力者と違いデートで情報を聞き出したり、機嫌を取る必要が無い
だからか…
完全にウサとデートに出掛けると言う発想が抜けていた
(ウサ…行ってくれるかな?)
「吉川戻りました!」
カップラーメンを食べ始めて少しすると、ウサは息を乱しながら現れ、俺の前にビシっと立った
(なんて切りだそう…)
今さら緊張してくるなんて…デートなんて散々してきたのに、ウサをデートに誘うのが、何故こんなにも照れくさくて躊躇するのか
断られたら…。上司だから合わせてるだけで、ウサにとって俺はなんなのか
面倒に思われるんでは…
言い出せず、どうでもいい話で場を繋いでしまう
(言え、言え、ウサも俺のことを…よしっ)
「そうそう、コレ」
テーブルに映画のペアチケットを置いた
「俺と行こうよ」
…ビックリ顔をしたウサは、次に戸惑いの顔を一瞬見せ、真顔に戻る
「いや…でも…」
「…なに?」
(やっぱ、俺となんかデートに行く仲じゃないとでも思ってる!?)
「……」
「……」
(あ~クソっ、沈黙がキツイ)
落ち着かない気持ちで、ソワソワと視線を泳がせてしまい、こんな自分がいるんだと初めて知る
気持ちを知りたくてウサを見る
(頼むから断らないでよ...)
「あの…」
「だから、なに」
「私の答え待ってるんですか?」
「はっ?」
どうやらウサは捜査の一環で出掛けると指示されてると思ってたらしい
(バカ…デートだよ、はあ…)
「行くの?行かないの?」
まさか…断ったりしないよな?もし、そうなったらマジでヘコむわ…
「…行きます」
「そ」
「そ…って!」
他にどこに行きたいか聞けば、展望レストランと答える
確かに...ウサとはレストランに行ったことがない。
ちょっとはデートだと思ってくれたのだろうか
…いや、思ってくれてるな
だって今、ウサの顔、ムニュムニュと頬の肉を噛んでニヤけるの我慢してるから。
それからというもの、Xデーに向けて仕事に全力投球していた
捜査が単純に忙しいのもあるけど。なんとか片付けてしまわないと
大事な日がドタキャンなんてことにならないように。
まるでクリスマスを指折り数えて待つ子どもみたいに
ただ弊害もありウサの顔を見られる時間が減ったこと
Xデーまでおうちデートさえ出来なそうだ
そんなことを考えながら公安課の中に入ると、今日はまだ顔を見てないウサの姿を探す
ウサはマグカップを手に席に戻った所だった
(こうして…後ろ姿見てるだけで癒される)
「んー!癒される~」
何かを口に運び、頬っぺたを押さえて悶えるウサの後ろ姿…
イヤな予感がし、いてもたってもいられず ウサの顔を覗き込む
「ウ~サちゃん」
「んぐぅ…!…び、びっくりした…そんな所から顔出さないでくださいよ」
手元にはどら焼…大阪の銘菓だ。ってことは石神班からもらったわけだ
(ふう~~~ん、そうやってすぐ他の男に)
「俺がいない間にまた餌付けされて」
「久しぶりに顔見せたかと思えば…。これめちゃめちゃ美味しいですよ、あんバターなんです」
…俺の心、ウサ知らず。
むかつく。
ウサの手からどら焼を奪い取り、全部食べる
「ああっ、ひどい!まだ一口しか食べてなかったのに…!」
大して味の無い、このどら焼をゴックンと飲み込みウサの味の無い紅茶を飲む
「もう…普通に分けて欲しいって言ってください。あーあ、私のあんバターどら焼…」
…あーあ、なんていう割にはニヤニヤとウサが嬉しそうなのは気のせいなんだろうか
いや、まあ とりあえず
「ふう、ウサにはもっと良いやつ食べさせてあげるよ」
「え??」
ちょうどいい機会だ。石神班も加賀班もいる
ウサの頬を撫でるとビクっと震える身体
「ニヤけちゃって。会いたかった?」
「なっ!?」
「会えない時間が愛を育む…ってね!」
一瞬ウサが何かを推し量るような目で見つめてきた
(うん、こっちもあっちの連中もいい反応)
「あ、愛って」
「次のデート楽しみだね!」
「ちょっ!津軽さん!」
真っ赤になるウサの反応は素直に受け取っていいんだよな…
そして、この日から石神班と加賀班に牽制とマウントを取る日々が数日続いた
ウサはもう俺の子だと言いたいから。
ウサを見つけると、ついデートの話をふってしまう
ワタワタして、頬を赤くするウサが見たいから。
しかし、
捜査の段取りなんて、思うように行くわけなく
(クソっ…!こんな時間じゃん)
捜査に集中しているとウサとの約束の時間は過ぎていた
休日出勤になるのは当たり前でデートのドタキャンなんて日常茶飯事
でもウサとの初デートはキャンセルなんてしたくない
この日のために頑張ってきたのに!
捜査で使っていた車を班員に任せ、映画館に走った
さっきウサに電話したが、今日は中止にしようと切られてしまった
ウサは映画館にまだいる。
確信はないけど直感がそう言ってた
プライベートで俺をこんなに走らせるの、ウサくらいだよ
無事、ウサと映画を見て、展望レストランで食事をした
(あー、なんか今日はめちゃくちゃ良い日…)
映画館でウサを捕まえた時ウサの顔、可愛かったな。
食事もウサは本当にデートなのか警戒してたけど、楽しかった
花束を渡したりツーショット写真…などなど…
かなり全力で口説いたつもりなんだけど
(伝わったのかな~~?)
でも、夜景でキラキラしたウサの瞳は脳裏にしっかり焼き付けた
あんな顔見られたんだから 収穫あり、だよな
ーーーーーー ー ー
side優衣
「はあ、なんか酔ったみたい。眠たくなってきちゃったぁ」
「…あの…女の子みたいなこと言わないでくれます?」
「はぁーなんかダルいかも」
「そ、そうですか」
帰り道、心地よい風がふわりと吹いていたので、歩いて帰ることに。
それはいいんだけど!!
津軽さんにリードされ歩いて来た場所はラブホテル街だった
「あっ」
「な、なんですか!?」
「酔っぱらいに絡まれそうだったから。こっち側歩こ」
「…はい」
繋がれた手に、今日はどこまでもデートモードなんだとドキドキ心臓が煩くなる
(なんでホテル街!きゅ、休憩していきたいってこと?)
いや、でも、近道だから?
(だいたいホテルに入らなくても、いつも津軽さんのウチで…って、何考えてんの!)
ふと落ちた沈黙に手の熱さに意識がいく
(あれ?津軽さん…手汗かいてる)
津軽さんでも手汗かくんだと、新たな発見と同時に、体調でも悪いのかと本当に心配になってくる
仕事で疲れてるだろうに、映画やレストランと付き合ってくれて歩いて帰っている
(え、本当にちょっと休憩した方がいいのかな?それともタクシー捕まえる?でも全然通らないな…)
「あの…津軽さん、疲れてるなら…ちょっとだけ…」
「入りたいの?」
「や、いや、変なことはしないですよ?」
「ウサ、入りたい」
「!!」
「だめ?」
相変わらず手汗はかいてるのに、真っ直ぐに見つめてくる余裕綽々な顔と言葉は、津軽さんのくせに色気があって
ズルい!
結局、私は見つめ返しながら、黙って頷くのだった。
(なんか、まんまと 引っ掛かった気がする)
好きだから...断れない、断らない、断りたくない。それが今の私だ。
(ん…いま…何時なんだろう?)
逞しい腕の中でウトウトしかけて、このまま寝たい気持ちと戦っていると
「眠い?やっぱ泊まって行こっか?」
「…いえいえ…起きます」
「朝は早起きしなきゃだけど、ウサもう動けなそうじゃん」
「だれのせいで…」
「誰のナニのせい?」
「…もういいですっ」
「あははっ 怒っちゃった」
さっきまで、あんなに熱っぽい大人の雰囲気だったのに いつものポンポン会話する二人に戻っていく
それを こんなに寂しく空しく思うのは 初めてだった
(せっかく、恋人みたいなデートできたのに、結局はセフレ…)
抱かれるのが イヤだった訳じゃない
ちゃんと津軽さんの好意は感じ取ってる
付き合えないのは仕事のしがらみ
唇にキスをしないのも、たぶん訳があるんだと思う
分かってる。分かってるんだけど
彼女になりたい!ダメですか?
そう聞いたら、この関係は終わるんだろうか?
「………」
「ウサ?本当に…怒っちゃった?」
黙って大人しいことを不審に思ったんだろう
声色が変わり顔をのぞきこまれ、本当にちょっと気まずそうな瞳とかち合う
「…寧ろ、逆ですよ」
好きだから、この関係をなんとかしたくて、怒れないから困ってる
「それって…」
私の髪を優しく撫でられ、恋人気分にさせられるんだから、たまったもんじゃない
今…好きって言ったらどうなるんだろう。やめときなよって私と、挑戦したい私と。
「津軽さんが──」
「ウサはやっぱMだよね」
口を開いたのはほぼ同時
「はい?」
「だって怒るどころか 喜んでたんでしょう?あんなに激しくされたのが嬉しかったんだ?」
ブチッ
忍耐強く、とことん津軽さんのその笑顔に弱い私でも…
キレるんだと知った
「……津軽さん…」
「ん?」
「…そーじゃない!!私は普通の恋人みたいな初めてのデートが嬉しかったんです!からかう目的だったとしても夢みたいな時間だったから…セフレじゃ嫌だって、私は津軽さんが すっ…」
好きって!
言う直前、はっとして言葉をのみ込んだ
あっけに取られた津軽さんの顔に、私は心底バカなことを言ったと後悔が襲ってくる
「…ごめん、調子に乗った…かも」
「あ、いや…わたし怒ってるとかイヤだったとかじゃなく」
怒鳴っておいて、なにを言ってるのか という感じだが
「でもさぁ、一つ言わせて?」
「は、はい…」
「セフレなんて思ってないよ」
「 !! 」
ポンポンと頭を撫でられる
嬉しかった。
はっきりと、そんなこと言ってくれると思わなかったから
そのあと私たちはタクシーを呼び それぞれの家に帰った
名残惜しかったけど、津軽さんは早朝から会議があるらしい
この日を境に私たちのカンケイは、また違ったものに変化したのだった。
翌日
私と津軽さんのツーショット写真が元教官方に写真立て付きで、配布された…
(も~~! やっぱり マウント!? おちょくるため!?)
写真を回収しながら、津軽さんを睨むがニコニコと笑顔を返される
(くっ……この笑顔に弱いんだからから自分に腹が立つ!)
「あれ、ウサそれ持って帰るの~?」
「しゃ、写真を捨てるなんて縁起悪いですから」
「いや~楽しかったね。デートまた行こうね」
行きません!なんて言うはずもなく、熱くなる頬を隠せない
だって行きたいから。デートに。
そして、起こった変化とは、
私は今後、津軽さんに抱かれることは無くなったのだ
映画と展望レストランのデートをした日から、一週間が経っていた
もう一度デートをしたかった私は、プラネタリウムデートに誘い、夜はレストランで食事をした帰りの駅でのこと
「えぇっ…電気系等の故障ですか…」
「止まったね、電車」
「タクシーつまるかな」
「……よし。取れたよ」
「え?」
「ホテルの部屋」
「……はい?」
あれから何日も経ってないのに、再び津軽さんとホテルに泊まる事になってしまった
(この流れは…念のため可愛い下着で来て良かった…)
そしてまた、今夜も抱かれ───
なかった…。
ただくっついて寝ただけ。
朝、抱き枕状態で眠りに入った身体は離れていて、私はいつの間にか大の字になって寝ていた
ぐっすり寝ている津軽さんの寝顔はびっくりするほど整っている
(……えーっと なんで??)
まあ、疲れていて眠たかったんだよね?きっと…
この時までは、深く考えずに津軽さんの寝顔を堪能したのだった
それからというもの、大きな変化。それは津軽さんとデート?をするようになった
津軽さんのおウチで過ごすのが定番だったのに、カフェでお喋りしたり、バーツバーに連れて行ってもらったり、ペットショップに行ったり、牧場に行ったり、先週はツーリングデート
家以外で過ごすのも、津軽さんなりに関係構築をしてくれてるのかなって、前向きに考えていた矢先…
もう秋になるというのに
暖かい風の吹く夜だった。
残業を終えて、自宅マンションの前に着くと一台のタクシーが止まった
「あ、ウサお疲れ~」
「お疲れさまです」
こうして偶然、好きな人に会ってしまうのは、何かのお導きのようで嬉しい
定時に帰ったと思ったけど どこにいたんだろ
あまり深く考えず、なんとなく聞いても
「俺くらいになると予定がキツキツでさ~、身体がもたないよ」
「はあ…」
「ウサは俺のスケジュール欲しくないの?」
「津軽さんこそ私のスケジュールに空きがないか気になってたりして」
「あははっ、ウサは強気だなぁ」
そんな会話をしながらエレベーターに乗り込んだ時、初めて気がついた
(あ…シャボンソープの香り…)
隣に立つ津軽さんからは、爽やかで少し甘いシャボンの香りが、ふわりと香った
(……本当に…誰かと…そういうコト…してきた?)
冗談だと思ってたのに、明らかにシャワーを浴びてきた、と分かる匂いに気持ちがズシンと重くなる
(私とは飽きたから、他の女の人と?)
こんなの全部私の想像なんだけど
だけど…
「君の階ついたよ」
じっと見上げ、嫌みの一つでも言ってやりたかったけど、付き合ってないし 好きとも言われてないし
キスだって…してないし
ダレと何をしてきてたって 彼の自由なのだ
「…っ さようなら、お疲れ様でした!」
「え、さようなら…」
おもしろくない気持ちがイライラとなり、語尾がキツくなる
振り返らずにエレベーターから降りた私は今、嫉妬でどんな形相をしてるんだろう
構ってもらって嬉しくて幸せな反面、嫉妬することが許されない関係なんだと、改めて実感した。
ガチャリと部屋の鍵を開ける
(わたし、何やってんだろ…)
「ウサっ、ちょっと待って」
「! え」
まさか過ぎた。 追いかけてくるなんて。普段ならあり得ない津軽さんの行動で、声が喉で詰まる
「なに怒ってんの?このまま返さないよ」
(…笑って…なんでもありません って言わなきゃ…)
「ウサは何を気にしてるの?言ってみな」
「……」
「ねえ、勝手に勘違いして怒んなよ」
だんだん苛立ちもみせるような声に、さすがにヤバいと顔を上げれば、
意外と怒ってる顔じゃない…?
「あのだって…どこ行ってたんですか?」
そのシャワーを浴びたシャボンソープの匂いはなんですか!?
なんて、言えずに細々した声で聞くのが精一杯
真っ直ぐに見つめられるから、意地で見つめ返した
「ふーん、妬いてんの?」
「何がです?別に妬いてません」
ーーーーーー ー ー
side津軽
ウサとセックスをしない
そう決めた。少なくとも いつか恋人になるまでは。
じゃあ、告白して付き合うのか?そう聞かれたら…どうなんだろう
確かに俺は想像はしてみている。女の子の好きなシチュエーションで告白をして、ウサを感激させたい理想はある
展望レストランに行った時みたいにキラキラした瞳をしたウサに花束を渡して、最高の夜景をバックに…
俺のものにしたい。身も心も もらい、恋人に。
大事な物なんて無かった
ただ俺のやるべき事は、銀さんの目的を果たすこと。
俺に大事なものなんて必要ない。あってはいけなかった
そんなもんあったら、俺のも公安刑事としての行動に制限がかかる気がする
それなのに、いつの間にか俺の中に入ってきた唯一の存在がウサだった
突き放すことも出来ず、手を離せない
大事な子…それはもう認めてる。その大事な子を恋人にして曖昧な関係にピリオドを打つという選択は未だにできていない
いつか決心がつくのか。ウサは待っていてくれるのか
カラダを繋げて繋ぎ止めるのは止め、ウサと二人きりの時間を大切にしてみることにした
ウサが自分をセフレなんて言うから…
デートをいくつか重ねる内に、価値観や生きている世界は全く違うのに いつも素の自分で笑ってることに気が付く
秋が近づいてきたと言うのに…
こうしてウサのことばかり考えてる自分。
(悪くない、こーゆーのも)
が、ゾワっと身体に走った虫酸
それはウサを俺の世界に入れちゃいけないと警告なのか
幸せを手にして良いと脱皮していくべきと、どこかで思ってる自分への罪悪感からか
両方か。
もやっとした気分を振り切ろうとモモを誘いジムで汗を流した
なにかと縁のあるウサにうっかり会って、汗臭いと思われたくないと、しっかりシャワーを浴びてタクシーで帰宅するとマンション前でウサの姿
「あ、ウサお疲れ~」
「お疲れ様です」
気のせいなのか、うぬぼれていいのか、ときめきを含んだ目で見られれば 勿論、気分がいい
「捜査に出てたんですか?私も連れて行って欲しかったです」
「ウサは書類に埋もれてたでしょ、俺なら汗かいてきた」
「はい?」
「俺くらいになると予定がキツキツでさ~身体がもたないよ」
「はあ…」
ウサは スンとした顔で はいはい、そうですかと言わんばかりに俺の言ったことなんか信じてない。
ちっとも色っぽい話だと疑わない。
この子は俺が他の子と、どうこうならないと信じてる
信じてくれてる。信頼関係を作れてるのが、心地いい
そう思ったのに。
事件はエレベーターで起きた
「ウサはもっと俺のこと上司として崇拝した方がいいよ」
「ありがたやー、ありがたや」
「ぷっ、なんか違うよ」
エレベーターに乗り込みドアが閉まり、ウサに触れるか触れないかの近さに立つ
ドキドキすればいいのにな~、なんて思いながら
顔を見たくて横を見れば…
斜め下を見ながら唇をぐっと詰むんでいた
(なんか…怒ってる!?)
こんな短時間で!?なにか起きた!?
活火山のように突然噴火した
エレベーターはウサの階に着いたが、この子は固まったままだ。
声をかけると
「…っ さようなら、お疲れ様でした!」
ムッとした顔をこちらに見せた後、プイっと去って行く
(…はっ?)
さっきまで冗談を言ってたのに。
ウサがこんなに感情を顔に出すのは、完全プライベートの時だ
まさか、…そういう事?
狭いエレベーターの密室で感じた自分からするシャンプーやボディーソープの匂い
これってうぬぼれて、いいんだろうか
(…って!逃がすか!)
慌てて閉まりかけたエレベーターの扉を手で押さえ、ウサを追いかけた
自宅のドアを開けてるウサを捕まえる
「なに怒ってんの?このまま帰さないよ」
何も答えず、目もあわせない
(ふぅぅ~ん、やっぱり風呂上がりの匂いを勘違いして妬いてるな)
「ウサは何を気にしてるの?言ってみな」
唇をムニムニさせて眉間にシワを寄せるウサの姿に、もっと気分が良くなる
いつもはウサに振り回されてるのに、今 この子は俺の事で 頭をいっぱいにして嫉妬をしている
きっと俺のことが、好き、だから。
わざと、ちょっとだけキツめに言ってみる
「ねえ、勝手に勘違いして怒るなよ」
その言葉にやっと顔を上げ、困り眉をさせて、目をじっと見てきたウサに
(ヤバい…、カワイイ…ニヤけそう)
「あの、だってどこ行ってたんですか?」
「ふーん、妬いてんの?」
「何がです?別に妬いてません」
「ジム」
「はい?」
「モモとジムに行ったから、シャワー浴びてきた」
(うっかり君に会って汗臭いって言われたくない、それがこんな事になるとは)
「………そ、そですか」
「そですよ?」
「……百瀬さんに明日確認してもいいですか?」
「あははっ、相変わらず疑り深いなー」
「誰のせいですか…」
「え~?知らなーい」
勘違いだと誤解が解けて、雰囲気が柔らかいものに変化する
そうなると、離れがたくなるのはお互い様らしく…
切り出したのはウサからで 家にあがってコーヒーを飲んでから帰ったのだった
(平和だなーウサといると。いつか、ちゃんと付き合えたら同棲したいな…あ、俺らの仕事は一応、同棲禁止だった)
心は振り子のように揺れている。
ウサを俺の棲んでる日常に入れていいのか、迷ってるくせに、呑気にそんなことを考えてた
この時までは。
夕暮れの中で迷子になる、その日までは。
ーーーーーーー ー ー
side優衣
津軽さんのボディーソープの香り事件から暫くして、私と津軽さんとノアで移動遊園地で遊んだ帰り道
遊び疲れて後部座席でノアは眠っていた
「よく寝てるね~」
「おもいっきり、はしゃいでましたもんね」
アレコレ津軽さんと話していると、流れで つい、津軽さんの車の助手席に座る自分が気になる。
「…助手席って、私が座っても大丈夫、でした?」
「どうして?」
「か、彼女とかの場所かな…なんて思って」
(あああっ!これじゃ彼女になりたいって言ってるみたいじゃない!?)
今は彼女いない、とは聞いていたけど つい聞いてしまった
「しばらく彼女いないんだよね」
「そっそうなんですか」
(そうなんだ!しばらく彼女いないんだぁ)
意外と普通のテンションで答えてくれて、嬉しくなり質問を重ねてしまう
「もう作るつもりないんですか…?」
「ん…、あ~…」
(……失敗した)
「ですか。ですよねっ」
「いや、ほら、俺と付き合っても寂しい思いさせちゃうし仕事忙しいからさ」
(私なら、その" 忙しい "中でもたくさん一緒の時間を共有しましたよね?)
思ったけど言わない。津軽さんが公安刑事でいるために切り捨てたものが恋人、恋愛なんだな…
(聞かなきゃ良かった)
虚しさは感じたけど、今まで津軽さんと過ごした日々は楽しかったし、恋人じゃないけど嘘はない時間だった
(言えない、言っちゃいけないんだ。あなたが好きです…なんて)
「………」
「…ウサちゃん…」
「ちょっとだけ、眠っても良いですか?」
「ん、…おやすみ」
ちょっと気まずい雰囲気の中、寝たふりをしてやり過ごしたのだった
この後、移動遊園地に付いて来てくれたのは任務のためだったと知った。
私は自分にとって良い方に色々と考え過ぎているのだろうか?
私が一番近い女の子だなんてバカみたい
全然、近くなんてなかったんだ。
数日後
捜査を進める上でノアを巻き込み疑似家族を演じ、囮捜査をする事になったのだが…
すぐに津軽さんは用意されたマンションに帰って来なくなった
その後、疑似家族は解散となり、ある噂話を耳にした
知りたかった。津軽さんのことを。
そしたら、あの時…
夕日が差し込む薄暗い部屋の中で、立ち尽くす彼の背中の謎が解けるような気がしたから。
あなたの辛さや悲しみ、笑顔の裏に隠してきたこと
誰より分かりたい、分かち合いたいって私の想いは、あまりにも浅はかだった。
─モニタールーム─
難波「泣くな、その痛みはお前のもんじゃねえ」
「は、い…」
熱くなる目から涙が滲むが必死に抑える
『お兄さんは殺されちゃうからな~』
あの時の言葉の意味がやっと分かった気がした
言葉では言い表せない感情に胸が押し潰されるが、これは私の痛みじゃない。痛いのは津軽さんだから。
理解できたことの一つに、私と津軽さんの関係だ
津軽さんにとって銀室長の存在
親代わりだから絶対的な存在。なんて単純なものじゃなかった
失くしたものを埋めてきてくれたのが、銀室長だったんだと思う。
銀室長が排除しようとした公安学校卒の私の恋心は成就してはいけない
この恋はきっと実らない
実らなくていい。嫌われていい
ただ私が津軽さんにできる数少ないことは
数日後
私は津軽さんの家を訪問していた
「囮捜査続けましょう。銀室長から許可は得ました」
そう言っても煙に巻くようにノラリクラリとかわされる
(ごめんなさいっ 津軽さん…)
立ち尽くす背中に手を伸ばしたい
1日でも早く事件を解決させて、日常に戻してあげたい
私の傲慢かも知れない。だけど気持ちを抑えきれなかった
本当は…
この人と過ごした日々が、私なら許されるのでは?と言う思いがなかったか、と言えば嘘になる
「もう同じ思いをする子どもを出す訳にいかない、だから私情を捨てて、とっとと仕事しろっていってるんですよ!」
叫んだ瞬間、視界が天井になる
ソファーで覆い被さるように押し倒されていた
あまりの速さに息をするのも瞬きするのも忘れるほど
「…役割、夫婦だっけ…なら言ってみろよ、好きだって」
(……津軽さん 怖いんだ。そうだよね、怖いよね)
掴まれた頬がちょっと痛い…けど私が怖がっちゃだめ!今日も明日も、津軽さんが乗り気って、前を見て歩いていけるように
好き
なんて、私 言わないよ?
でも今ならしても いいかも
震える両手を津軽さんの後頭部に持っていく
ぐっと引き寄せキスを──
「!?」
ばっと身体を離したのは津軽さんだった
「…帰れ」
(そう、だよね…キスして何か 変化が起きればと思ったけど...)
立ち上がり彼の顔を見ることなく、下の自分の部屋に戻った
(きっと嫌われた…)
ーーーーーー ー ー
side津軽
(きっと嫌われた…)
いや、きっとじゃない。絶対に...
ウサに好きと言えなんて言って、ウサは好きと言わない代わりにキスをしようとした
ずっと取っておいた その唇が近づいた時、俺の方がウサから逃げた
(ウサ、多分 仕方なしにキスしようとしたんだよな…)
昨日は、その後 緊急で津軽会を開き、行きつけのスナックで過ごした
一人になりたくなかったから
俺の過去、血縁関係をどう思ったんだろう
ウサを恋人にしたいと言う気持ちと、出来ない気持ちには 銀さんに対してどう報告したら…という思いもあるが、俺の棲む世界に入れちゃいけない思いがあったわけだが。
昨日のウサの反応って…そこを気にしてないし、俺をただ単に心配してたような…
(ああ~~わかんねー!)
出勤したはいいが、課に行けず、会議室に逃げ込むと兵吾くんから、あの話を聞いた
『傍にいなくちゃと思ってます。嫌われてでも』
もう、こんなの…今の俺にはどんな愛の告白より、胸に染みる言葉だった
(バカだよ、ウサ。君って子は)
だから、君がずっと好きなんだ。
ウサの言葉に背中を押され、課に向かう途中、銀さんからスマホに連絡が入る
(頭を切り替えろ…!)
捜査の方針は一転し、移動遊園地に潜入捜査中だったウサは毒を摂取してしまい、解毒のため 口移しで解毒剤を飲み込ませた
健康優良児は翌日には元気に出勤
つい、盗み見るウサの唇
キス…といえば、キスだけど感触とか全く覚えてないくらい必死だった
そして、誘った公園デートで盛大に落ちたら大爆弾──とは
「そりゃ…私はカウントできるキスがしたい…ですけど?」
「……えっ!?」
「え?」
(キスが…したい…だと!?)
「俺のこと 上司として、公安刑事として諦めないって、意味じゃ…なかった?」
「えっ?…いや、違い、ますけど?」
「じゃあ…」
「私の気持ちは──」
「ちょっ、待って!そういう…こと?」
「…はい、だって逆に、今までなんだと…」
「流されてるだけ…とか」
「違います!」
「はぁぁぁー」
「ため息!?って、いうか津軽さん顔赤いです…」
「デリカシー!」
「す、すみません」
「あのさ……俺も...だし」
「!津軽さん…」
(はー…なんでこんな公園の駐車場の車の中で…)
さんざん考えていた、告白のシチュエーションは なんだったのか?
自惚れないように、自制してたのに、やっぱり普通に両想いとか!
恥ずいだろ、ウサを振り回すのは俺のはずなのに、振り回されて...
「マジか…」
ニヤケてしまう口元を手で覆い隠す
ウサに言われた通り顔は赤くなって熱い
恥ずかしいが、無かったことになんてしたくなくウサの手をギュッと握る
緊張して、やや力が強かったかも知れない
「津軽さん…あの」
「なんだよ、この展開…っ」
「それ どうゆう意味ですか!?」
「今、知りたくねぇ~」
「??」
(夜景を前にしてとか、想像してた告白プランじゃねえじゃんか…!)
こんなポロっと両想いになるとか、あり得ない。俺としたことが…
とにかく恥ずかしすぎて、目も合わせられないでいるとウサが呟いた
「あ、虹ですよ」
「あ…だね。綺麗に架かってる」
「津軽さん。今日は良い日ですね」
ウサが、日向みたいな温かい笑顔で笑った
「…うん」
確かに...思ってたのと違うけど、今日という日は忘れられない日になったことには違いない
ーーーーーーー ー ー
side優衣
お花が綺麗に咲く公園を後にして津軽さんに車を運転してもらっていた
なんかよく分からない展開で津軽さんが私を好きだと知ったから。
嫌われてなくて、部下としてでなくて、セフレでなくて、一人の女として好きになってくれた
そうだと良いなと思ってきたけど、いざ現実になるとポワワーンと頭がお花畑になってしまい、帰ったら仕事しなきゃなのに、困ったものだ
赤く熱くなった頬の熱もなかなか引かない
隣の津軽さんを盗み見ると黙って真面目な顔で運転している
(格好いい…あぁ、私は完全に恋愛バカになっている…)
恋は人をバカにするとは言うけど、本当なんだなと思う
そんな事を考えていると
「はああぁぁ……」
「なっ!? また、ため息?」
(え、どーゆー心理!?)
縋る気持ちで津軽さんを見ると
一瞬 目が合い、少し笑ったようにみえた
(?)
「…コンビニ寄っていい?」
「え、あ、はあ、…どうぞ…」
少し困った顔の津軽さんに、私も やや間抜けな声で返事をする
(と、とにかく!仕切り直したい…)
コンビニに寄るのはちょうどいい、切り替えになるかと赤い頬を擦ったのだった
「…んー、何買お」
「欲しい物があるから寄ったんですよね?」
「まあねー」
コンビニの中に入ると、何か目的があったのかと思えば曖昧な返答をされる
変な津軽さんから離れ店内を見て回ると、スイーツコーナーで珍味ヨーグルトを見つけた
「津軽さん、角煮ヨーグルトっていうのがありますよ。地域限定だそうです」
ぼーっとしている津軽さんをちょいちょいと手招きで呼ぶ
スイーツコーナーで屈んでいた私に合わせて屈んでくれ
でも、見てるのは角煮ヨーグルトじゃなくて私の目。
「角煮ヨーグルトはこっちです…」
「ウサ、俺の顔どう?」
「? 睫でも刺さりました?」
心配になり、その目をじっと見るが、睫の話じゃないという
「か・ん・そ・う。俺の顔見た感想は?」
(むむっ…?津軽さんの考えてることは、やはり わかりづらい。けど…)
津軽さんは格好いい人で自他共に認めてる事実なのに " 格好いい " と、顔を褒められるのが素で好きなんだと最近気がついたのだ
(ふふっ、仕方ないなぁ)
「ほんと、自分の顔が好きな人ですね、ここでも見ててください」
ショーケースにうっすら映る私たちの姿を指差す
「ウーサー」
笑顔で怒られそうなので、適当に顔の部品一つ、一つを褒めてあげる
ちょっと納得いかない顔をされるから面白い
変な津軽さんだけど、そんな可愛い所も一緒にいて飽きなくて、…好きだったりするから、ほんと私は恋愛バカだ
結局、角煮ヨーグルトを私の分まで買ってもらい飲み物はまともな物を買い外に出た
(なんか…日常に戻っちゃったな…)
二歩前を歩く後ろ姿を見て思う。
コンビニに寄ったり変な事を言ったり?この空気感にするのが目的だったんだろうか
だって...好き…って言ってないし、言われてない。
いつもの私たちに戻されたのかな?
「っ…!」
と、思った直後に突然振り向いた津軽さんに手を握られる
ばっと手を振りほどいて、自分の手を胸で固めて抱いた
「おいっ」
「だ、だってぇ」
恥ずかしくて…。無かった事にしようとしてなかった
津軽さんを男だと強く意識してしまって、恥ずかしかった
(やっぱり津軽さんは私が、す、好きで…)
なんとも言えない空気が流れ、津軽さんも私も立ち尽くす
「…今はそういうの…浮かれちゃうから…」
津軽さんには色々と銀室長のこととかあるの分かるから今はこのままでいいと告げる
それは本当の気持ちだし、嬉しすぎてキャパオーバーして仕事が手に付かないかもという不安もあった
「気持ちは伝わりましたから、これで満足です…」
「…うん」
ほんのり赤い顔の津軽さんと、治まっていた顔の熱が再発した私。
「ウサって男見る目ないよね」
「え゛っ…?」
って!
(どーゆー意味ですかぁ!?)
相変わらず、振り回されそうだけど
ちゃんと恋愛的な意味で好きでいてくれてれる。言葉はなくても伝わったから。
その事実が私に大きな自信をくれたのだった
トッピング全部のせピザと、骨付きチキン、サラダを映画のDVD を見ながら食べる
なぜ、こんな事になっているかと言うと
今夜も津軽さんと過ごすから。
一度 部屋に帰りシャワーを浴びて夕方過ぎに私の部屋に戻って来た津軽さん。
せっかく近づいたような気がする距離を、夢にしたくなくて…遊びに来ると言う津軽さんを突き放せる訳がない
海で素直に ごめん って言ってくれたこと
素の津軽さんに会えたことが嬉しかった
突き放された、裏切られた、捨てられた
そんな気持ちは もう無くなっていて、私はとことん、この人に のめり込んでいるのだと自覚する
「あ、ウサちゃんビールこれが最後だったよね」
「はい、宅配で頼んだ分は飲みましたし、ウチにはストックなくて」
「コンビニ買いに行こ?デザートも買いたいし。消化も促進されるよ」
「あ、良いですね ちょっと歩きたい」
外に出ると、優しい明るさを感じて空を見る
「今夜は満月ですね」
声をかけると隣の津軽さんも空を見上げる
建物の隙間から見える満月が夜道をいつもより青く優しく照らしている
(朝日を一緒に見たり、満月を見たり…)
私の生活の中に まるで津軽さんが当たり前みたいに居る不思議な日だ
こんな中途半端な関係、良くないよ、止めなきゃいけないよ
そう自分を正そうとする私と、
好きな人を一人占めできる この時間が幸せだと酔う私がいる
「あぶなっ…」
ぐっと腰を抱き寄せられ、現実にかえる
「わっ」
「ほら、自転車 ぶつかりそうだったよ」
「…ありがとうございます」
腰を抱いた手がそのまま下にずれて私の右手を握る
(うぅー…ナチュラル過ぎる!そしてドキドキする!)
他愛もない話をしながら、いつものマンションに一番近いコンビニに到着したが
(このまま手を繋いで店内に入ったら、いつもの店員さんに私たちがカップルだと思われるのでは…!?ど、どうする?)
一応 私と津軽さんがよく使うコンビニであり、目立つ行動しないのが鉄則のはず
「つ、津軽さん?その…手…このままで、いいんですか?」
「ん?ん~、月とスッポン?鯨と鰯?」
「はあ?なんですかソレ?どうせ恋人に見えないって言うんですか!」
「 声おっきいな、別にそこまで言ってない。あの店員は ただの善行な市民だよ」
「でも…」
「ウサは見られたい?恋人って。」
「……わたしは──」
「あっスイーツ2つ買うと くじ引きできるって!」
「っ……そ、ですねー なに当たるんだろ」
(言わせる気…ないクセに)
このズルい男に腹立つ気持ちはあるけど、一緒にいたいと選択し続けてるのは自分なわけで。
手を繋いだまま入るいつものコンビニ
よくいる店員さん、私たちが恋人だって思っちゃうかな。思うよね、普通は。
月とスッポンと言われようが、繋いだ手を会計の時 以外は離さない私たちは端からみれば恋人。
照れくさくて、嬉しくて
でも、肩書きの無い私たちはセフレでしかないんでしょう?
帰り道、買い物袋を持ってくれる隣の津軽さんに、上司と部下じゃなくて完全プライベートだと言われてるみたいで。
(津軽さんだって満更じゃないと思うんだけど)
もっと津軽さんのこと知りたいよ
…そうえば…事件で両親を亡くされてるんだよね。刑事になった理由だったりするのかな
行きより、言葉少なに歩く帰り道も悪くない。静かだけど手はしっかりと繋がれてるから
雲で隠れていたお月様が、すーっとまた姿を表し、二人で見上げた
「そーえばさー、天体望遠鏡 買おうかなって思ってて、十五夜にウサちゃん招待しようか?」
「えっ行きたいです!さすが最上階のベランダ…!」
「月に帰らないでね。お友達が月にいても」
「ふふっ…行きませんって。私は地球でやることがあるんですから」
「例えば?地球人の願い事でも叶えてくれるの?」
「あー…」
「ん?」
そうなんだ…いま、気が付いた
わたし…
「月のウサギは願い事を叶えてくれないかも知れないけど、公安課のウサギは津軽さんの願い事を叶えたいって思ってます」
「…優衣は俺のこと大好きだね」
「大事…な津軽さんですから…」
踏み込んだ会話だった
肝心なことは確認しない私たちだけど、近くにいて、また名前を呼ばれて浮かれちゃって。
だから、今夜も この人に抱かれた。
めちゃくちゃに激しく抱かれて、触れあう素肌の温もり、ギュッと抱き締められた時の匂い、ドキドキと伝わる鼓動、しっとりした甘い吐息、見つめ合う切なさ
平行線で交わらないけど、延長線を二人で進み続けていた
私は人のこと言えないズルい子だ。
ーーーーーー ー ー
side津軽
ウサと仲直りし、マスク生活が終わってから暫く経った
あれからウサとは、休みの日の夜に会ったりして おうちデートをしてウチに泊める仲になっている
正直、そんな関係だって浮かれてウサと距離を縮められている
そう思ってた訳だが、世間一般ではコレを…
─居酒屋─
マツオ「で、ウサちゃんとはどうなってんの?」
コースケ「いい感じだったじゃん、付き合ってるの?」
ミカド「なんで高臣ばっかり…」
タクヤ「それは顔面の問題だろ」
マツオ「カレカノになったんでしょ?」
「まあ、ウサは…う~ん...」
コースケ「なんだ、進展ないんじゃん」
「違うって~…ウチで過ごしてるから…」
ミカド「ま、まさか高臣…」
「なんだよ?」
タクヤ「セフレにしてんのかよ」
「そーじゃないし…!ウサをそーゆう扱いにしてないから」
全員「……。」
「んだよ…信じてないって目で見ないで!」
マツオ「ウサちゃんイイ子なのに可哀想…」
あの居酒屋の一件から考えていた。
セフレにしてるつもりはない。本当に。
俺は好きだし…ウサからも好意は感じる…たぶん
特別な女の子だと思ってる
ウサとプライベートな時間をどう過ごしているかと言えば、仕事帰りに二人でラーメン食べたり居酒屋に寄ったり、ウチで何か食べるとか、テレビを見て…あとは泊めてセックスをする
(……都合のいい女になんか……もしかして…してるのか?)
昼休み
ぶぶ漬けカップラーメンを手に、ウサについて悶々としながら給湯室に向かう
「あ、津軽さん!ちょうど良かった」
「なに~ いま色々忙しいから透くんに構ってられないんだけど」
「どーぞ!忙しい津軽さんもリフレッシュは必要。映画のペアチケットです。女の子誘って行ってみては?」
「ん~…いらな……いる!」
透くんからゲットしたチケットは花巻監督の映画チケットだった
なんか朝、誘われたけどキャンセルしよう...
俺としたことが...ウサをデートに連れて行ったことがなかった
ウサと過ごす時間は完全プライベートだ
警察庁内の女や、協力者と違いデートで情報を聞き出したり、機嫌を取る必要が無い
だからか…
完全にウサとデートに出掛けると言う発想が抜けていた
(ウサ…行ってくれるかな?)
「吉川戻りました!」
カップラーメンを食べ始めて少しすると、ウサは息を乱しながら現れ、俺の前にビシっと立った
(なんて切りだそう…)
今さら緊張してくるなんて…デートなんて散々してきたのに、ウサをデートに誘うのが、何故こんなにも照れくさくて躊躇するのか
断られたら…。上司だから合わせてるだけで、ウサにとって俺はなんなのか
面倒に思われるんでは…
言い出せず、どうでもいい話で場を繋いでしまう
(言え、言え、ウサも俺のことを…よしっ)
「そうそう、コレ」
テーブルに映画のペアチケットを置いた
「俺と行こうよ」
…ビックリ顔をしたウサは、次に戸惑いの顔を一瞬見せ、真顔に戻る
「いや…でも…」
「…なに?」
(やっぱ、俺となんかデートに行く仲じゃないとでも思ってる!?)
「……」
「……」
(あ~クソっ、沈黙がキツイ)
落ち着かない気持ちで、ソワソワと視線を泳がせてしまい、こんな自分がいるんだと初めて知る
気持ちを知りたくてウサを見る
(頼むから断らないでよ...)
「あの…」
「だから、なに」
「私の答え待ってるんですか?」
「はっ?」
どうやらウサは捜査の一環で出掛けると指示されてると思ってたらしい
(バカ…デートだよ、はあ…)
「行くの?行かないの?」
まさか…断ったりしないよな?もし、そうなったらマジでヘコむわ…
「…行きます」
「そ」
「そ…って!」
他にどこに行きたいか聞けば、展望レストランと答える
確かに...ウサとはレストランに行ったことがない。
ちょっとはデートだと思ってくれたのだろうか
…いや、思ってくれてるな
だって今、ウサの顔、ムニュムニュと頬の肉を噛んでニヤけるの我慢してるから。
それからというもの、Xデーに向けて仕事に全力投球していた
捜査が単純に忙しいのもあるけど。なんとか片付けてしまわないと
大事な日がドタキャンなんてことにならないように。
まるでクリスマスを指折り数えて待つ子どもみたいに
ただ弊害もありウサの顔を見られる時間が減ったこと
Xデーまでおうちデートさえ出来なそうだ
そんなことを考えながら公安課の中に入ると、今日はまだ顔を見てないウサの姿を探す
ウサはマグカップを手に席に戻った所だった
(こうして…後ろ姿見てるだけで癒される)
「んー!癒される~」
何かを口に運び、頬っぺたを押さえて悶えるウサの後ろ姿…
イヤな予感がし、いてもたってもいられず ウサの顔を覗き込む
「ウ~サちゃん」
「んぐぅ…!…び、びっくりした…そんな所から顔出さないでくださいよ」
手元にはどら焼…大阪の銘菓だ。ってことは石神班からもらったわけだ
(ふう~~~ん、そうやってすぐ他の男に)
「俺がいない間にまた餌付けされて」
「久しぶりに顔見せたかと思えば…。これめちゃめちゃ美味しいですよ、あんバターなんです」
…俺の心、ウサ知らず。
むかつく。
ウサの手からどら焼を奪い取り、全部食べる
「ああっ、ひどい!まだ一口しか食べてなかったのに…!」
大して味の無い、このどら焼をゴックンと飲み込みウサの味の無い紅茶を飲む
「もう…普通に分けて欲しいって言ってください。あーあ、私のあんバターどら焼…」
…あーあ、なんていう割にはニヤニヤとウサが嬉しそうなのは気のせいなんだろうか
いや、まあ とりあえず
「ふう、ウサにはもっと良いやつ食べさせてあげるよ」
「え??」
ちょうどいい機会だ。石神班も加賀班もいる
ウサの頬を撫でるとビクっと震える身体
「ニヤけちゃって。会いたかった?」
「なっ!?」
「会えない時間が愛を育む…ってね!」
一瞬ウサが何かを推し量るような目で見つめてきた
(うん、こっちもあっちの連中もいい反応)
「あ、愛って」
「次のデート楽しみだね!」
「ちょっ!津軽さん!」
真っ赤になるウサの反応は素直に受け取っていいんだよな…
そして、この日から石神班と加賀班に牽制とマウントを取る日々が数日続いた
ウサはもう俺の子だと言いたいから。
ウサを見つけると、ついデートの話をふってしまう
ワタワタして、頬を赤くするウサが見たいから。
しかし、
捜査の段取りなんて、思うように行くわけなく
(クソっ…!こんな時間じゃん)
捜査に集中しているとウサとの約束の時間は過ぎていた
休日出勤になるのは当たり前でデートのドタキャンなんて日常茶飯事
でもウサとの初デートはキャンセルなんてしたくない
この日のために頑張ってきたのに!
捜査で使っていた車を班員に任せ、映画館に走った
さっきウサに電話したが、今日は中止にしようと切られてしまった
ウサは映画館にまだいる。
確信はないけど直感がそう言ってた
プライベートで俺をこんなに走らせるの、ウサくらいだよ
無事、ウサと映画を見て、展望レストランで食事をした
(あー、なんか今日はめちゃくちゃ良い日…)
映画館でウサを捕まえた時ウサの顔、可愛かったな。
食事もウサは本当にデートなのか警戒してたけど、楽しかった
花束を渡したりツーショット写真…などなど…
かなり全力で口説いたつもりなんだけど
(伝わったのかな~~?)
でも、夜景でキラキラしたウサの瞳は脳裏にしっかり焼き付けた
あんな顔見られたんだから 収穫あり、だよな
ーーーーーー ー ー
side優衣
「はあ、なんか酔ったみたい。眠たくなってきちゃったぁ」
「…あの…女の子みたいなこと言わないでくれます?」
「はぁーなんかダルいかも」
「そ、そうですか」
帰り道、心地よい風がふわりと吹いていたので、歩いて帰ることに。
それはいいんだけど!!
津軽さんにリードされ歩いて来た場所はラブホテル街だった
「あっ」
「な、なんですか!?」
「酔っぱらいに絡まれそうだったから。こっち側歩こ」
「…はい」
繋がれた手に、今日はどこまでもデートモードなんだとドキドキ心臓が煩くなる
(なんでホテル街!きゅ、休憩していきたいってこと?)
いや、でも、近道だから?
(だいたいホテルに入らなくても、いつも津軽さんのウチで…って、何考えてんの!)
ふと落ちた沈黙に手の熱さに意識がいく
(あれ?津軽さん…手汗かいてる)
津軽さんでも手汗かくんだと、新たな発見と同時に、体調でも悪いのかと本当に心配になってくる
仕事で疲れてるだろうに、映画やレストランと付き合ってくれて歩いて帰っている
(え、本当にちょっと休憩した方がいいのかな?それともタクシー捕まえる?でも全然通らないな…)
「あの…津軽さん、疲れてるなら…ちょっとだけ…」
「入りたいの?」
「や、いや、変なことはしないですよ?」
「ウサ、入りたい」
「!!」
「だめ?」
相変わらず手汗はかいてるのに、真っ直ぐに見つめてくる余裕綽々な顔と言葉は、津軽さんのくせに色気があって
ズルい!
結局、私は見つめ返しながら、黙って頷くのだった。
(なんか、まんまと 引っ掛かった気がする)
好きだから...断れない、断らない、断りたくない。それが今の私だ。
(ん…いま…何時なんだろう?)
逞しい腕の中でウトウトしかけて、このまま寝たい気持ちと戦っていると
「眠い?やっぱ泊まって行こっか?」
「…いえいえ…起きます」
「朝は早起きしなきゃだけど、ウサもう動けなそうじゃん」
「だれのせいで…」
「誰のナニのせい?」
「…もういいですっ」
「あははっ 怒っちゃった」
さっきまで、あんなに熱っぽい大人の雰囲気だったのに いつものポンポン会話する二人に戻っていく
それを こんなに寂しく空しく思うのは 初めてだった
(せっかく、恋人みたいなデートできたのに、結局はセフレ…)
抱かれるのが イヤだった訳じゃない
ちゃんと津軽さんの好意は感じ取ってる
付き合えないのは仕事のしがらみ
唇にキスをしないのも、たぶん訳があるんだと思う
分かってる。分かってるんだけど
彼女になりたい!ダメですか?
そう聞いたら、この関係は終わるんだろうか?
「………」
「ウサ?本当に…怒っちゃった?」
黙って大人しいことを不審に思ったんだろう
声色が変わり顔をのぞきこまれ、本当にちょっと気まずそうな瞳とかち合う
「…寧ろ、逆ですよ」
好きだから、この関係をなんとかしたくて、怒れないから困ってる
「それって…」
私の髪を優しく撫でられ、恋人気分にさせられるんだから、たまったもんじゃない
今…好きって言ったらどうなるんだろう。やめときなよって私と、挑戦したい私と。
「津軽さんが──」
「ウサはやっぱMだよね」
口を開いたのはほぼ同時
「はい?」
「だって怒るどころか 喜んでたんでしょう?あんなに激しくされたのが嬉しかったんだ?」
ブチッ
忍耐強く、とことん津軽さんのその笑顔に弱い私でも…
キレるんだと知った
「……津軽さん…」
「ん?」
「…そーじゃない!!私は普通の恋人みたいな初めてのデートが嬉しかったんです!からかう目的だったとしても夢みたいな時間だったから…セフレじゃ嫌だって、私は津軽さんが すっ…」
好きって!
言う直前、はっとして言葉をのみ込んだ
あっけに取られた津軽さんの顔に、私は心底バカなことを言ったと後悔が襲ってくる
「…ごめん、調子に乗った…かも」
「あ、いや…わたし怒ってるとかイヤだったとかじゃなく」
怒鳴っておいて、なにを言ってるのか という感じだが
「でもさぁ、一つ言わせて?」
「は、はい…」
「セフレなんて思ってないよ」
「 !! 」
ポンポンと頭を撫でられる
嬉しかった。
はっきりと、そんなこと言ってくれると思わなかったから
そのあと私たちはタクシーを呼び それぞれの家に帰った
名残惜しかったけど、津軽さんは早朝から会議があるらしい
この日を境に私たちのカンケイは、また違ったものに変化したのだった。
翌日
私と津軽さんのツーショット写真が元教官方に写真立て付きで、配布された…
(も~~! やっぱり マウント!? おちょくるため!?)
写真を回収しながら、津軽さんを睨むがニコニコと笑顔を返される
(くっ……この笑顔に弱いんだからから自分に腹が立つ!)
「あれ、ウサそれ持って帰るの~?」
「しゃ、写真を捨てるなんて縁起悪いですから」
「いや~楽しかったね。デートまた行こうね」
行きません!なんて言うはずもなく、熱くなる頬を隠せない
だって行きたいから。デートに。
そして、起こった変化とは、
私は今後、津軽さんに抱かれることは無くなったのだ
映画と展望レストランのデートをした日から、一週間が経っていた
もう一度デートをしたかった私は、プラネタリウムデートに誘い、夜はレストランで食事をした帰りの駅でのこと
「えぇっ…電気系等の故障ですか…」
「止まったね、電車」
「タクシーつまるかな」
「……よし。取れたよ」
「え?」
「ホテルの部屋」
「……はい?」
あれから何日も経ってないのに、再び津軽さんとホテルに泊まる事になってしまった
(この流れは…念のため可愛い下着で来て良かった…)
そしてまた、今夜も抱かれ───
なかった…。
ただくっついて寝ただけ。
朝、抱き枕状態で眠りに入った身体は離れていて、私はいつの間にか大の字になって寝ていた
ぐっすり寝ている津軽さんの寝顔はびっくりするほど整っている
(……えーっと なんで??)
まあ、疲れていて眠たかったんだよね?きっと…
この時までは、深く考えずに津軽さんの寝顔を堪能したのだった
それからというもの、大きな変化。それは津軽さんとデート?をするようになった
津軽さんのおウチで過ごすのが定番だったのに、カフェでお喋りしたり、バーツバーに連れて行ってもらったり、ペットショップに行ったり、牧場に行ったり、先週はツーリングデート
家以外で過ごすのも、津軽さんなりに関係構築をしてくれてるのかなって、前向きに考えていた矢先…
もう秋になるというのに
暖かい風の吹く夜だった。
残業を終えて、自宅マンションの前に着くと一台のタクシーが止まった
「あ、ウサお疲れ~」
「お疲れさまです」
こうして偶然、好きな人に会ってしまうのは、何かのお導きのようで嬉しい
定時に帰ったと思ったけど どこにいたんだろ
あまり深く考えず、なんとなく聞いても
「俺くらいになると予定がキツキツでさ~、身体がもたないよ」
「はあ…」
「ウサは俺のスケジュール欲しくないの?」
「津軽さんこそ私のスケジュールに空きがないか気になってたりして」
「あははっ、ウサは強気だなぁ」
そんな会話をしながらエレベーターに乗り込んだ時、初めて気がついた
(あ…シャボンソープの香り…)
隣に立つ津軽さんからは、爽やかで少し甘いシャボンの香りが、ふわりと香った
(……本当に…誰かと…そういうコト…してきた?)
冗談だと思ってたのに、明らかにシャワーを浴びてきた、と分かる匂いに気持ちがズシンと重くなる
(私とは飽きたから、他の女の人と?)
こんなの全部私の想像なんだけど
だけど…
「君の階ついたよ」
じっと見上げ、嫌みの一つでも言ってやりたかったけど、付き合ってないし 好きとも言われてないし
キスだって…してないし
ダレと何をしてきてたって 彼の自由なのだ
「…っ さようなら、お疲れ様でした!」
「え、さようなら…」
おもしろくない気持ちがイライラとなり、語尾がキツくなる
振り返らずにエレベーターから降りた私は今、嫉妬でどんな形相をしてるんだろう
構ってもらって嬉しくて幸せな反面、嫉妬することが許されない関係なんだと、改めて実感した。
ガチャリと部屋の鍵を開ける
(わたし、何やってんだろ…)
「ウサっ、ちょっと待って」
「! え」
まさか過ぎた。 追いかけてくるなんて。普段ならあり得ない津軽さんの行動で、声が喉で詰まる
「なに怒ってんの?このまま返さないよ」
(…笑って…なんでもありません って言わなきゃ…)
「ウサは何を気にしてるの?言ってみな」
「……」
「ねえ、勝手に勘違いして怒んなよ」
だんだん苛立ちもみせるような声に、さすがにヤバいと顔を上げれば、
意外と怒ってる顔じゃない…?
「あのだって…どこ行ってたんですか?」
そのシャワーを浴びたシャボンソープの匂いはなんですか!?
なんて、言えずに細々した声で聞くのが精一杯
真っ直ぐに見つめられるから、意地で見つめ返した
「ふーん、妬いてんの?」
「何がです?別に妬いてません」
ーーーーーー ー ー
side津軽
ウサとセックスをしない
そう決めた。少なくとも いつか恋人になるまでは。
じゃあ、告白して付き合うのか?そう聞かれたら…どうなんだろう
確かに俺は想像はしてみている。女の子の好きなシチュエーションで告白をして、ウサを感激させたい理想はある
展望レストランに行った時みたいにキラキラした瞳をしたウサに花束を渡して、最高の夜景をバックに…
俺のものにしたい。身も心も もらい、恋人に。
大事な物なんて無かった
ただ俺のやるべき事は、銀さんの目的を果たすこと。
俺に大事なものなんて必要ない。あってはいけなかった
そんなもんあったら、俺のも公安刑事としての行動に制限がかかる気がする
それなのに、いつの間にか俺の中に入ってきた唯一の存在がウサだった
突き放すことも出来ず、手を離せない
大事な子…それはもう認めてる。その大事な子を恋人にして曖昧な関係にピリオドを打つという選択は未だにできていない
いつか決心がつくのか。ウサは待っていてくれるのか
カラダを繋げて繋ぎ止めるのは止め、ウサと二人きりの時間を大切にしてみることにした
ウサが自分をセフレなんて言うから…
デートをいくつか重ねる内に、価値観や生きている世界は全く違うのに いつも素の自分で笑ってることに気が付く
秋が近づいてきたと言うのに…
こうしてウサのことばかり考えてる自分。
(悪くない、こーゆーのも)
が、ゾワっと身体に走った虫酸
それはウサを俺の世界に入れちゃいけないと警告なのか
幸せを手にして良いと脱皮していくべきと、どこかで思ってる自分への罪悪感からか
両方か。
もやっとした気分を振り切ろうとモモを誘いジムで汗を流した
なにかと縁のあるウサにうっかり会って、汗臭いと思われたくないと、しっかりシャワーを浴びてタクシーで帰宅するとマンション前でウサの姿
「あ、ウサお疲れ~」
「お疲れ様です」
気のせいなのか、うぬぼれていいのか、ときめきを含んだ目で見られれば 勿論、気分がいい
「捜査に出てたんですか?私も連れて行って欲しかったです」
「ウサは書類に埋もれてたでしょ、俺なら汗かいてきた」
「はい?」
「俺くらいになると予定がキツキツでさ~身体がもたないよ」
「はあ…」
ウサは スンとした顔で はいはい、そうですかと言わんばかりに俺の言ったことなんか信じてない。
ちっとも色っぽい話だと疑わない。
この子は俺が他の子と、どうこうならないと信じてる
信じてくれてる。信頼関係を作れてるのが、心地いい
そう思ったのに。
事件はエレベーターで起きた
「ウサはもっと俺のこと上司として崇拝した方がいいよ」
「ありがたやー、ありがたや」
「ぷっ、なんか違うよ」
エレベーターに乗り込みドアが閉まり、ウサに触れるか触れないかの近さに立つ
ドキドキすればいいのにな~、なんて思いながら
顔を見たくて横を見れば…
斜め下を見ながら唇をぐっと詰むんでいた
(なんか…怒ってる!?)
こんな短時間で!?なにか起きた!?
活火山のように突然噴火した
エレベーターはウサの階に着いたが、この子は固まったままだ。
声をかけると
「…っ さようなら、お疲れ様でした!」
ムッとした顔をこちらに見せた後、プイっと去って行く
(…はっ?)
さっきまで冗談を言ってたのに。
ウサがこんなに感情を顔に出すのは、完全プライベートの時だ
まさか、…そういう事?
狭いエレベーターの密室で感じた自分からするシャンプーやボディーソープの匂い
これってうぬぼれて、いいんだろうか
(…って!逃がすか!)
慌てて閉まりかけたエレベーターの扉を手で押さえ、ウサを追いかけた
自宅のドアを開けてるウサを捕まえる
「なに怒ってんの?このまま帰さないよ」
何も答えず、目もあわせない
(ふぅぅ~ん、やっぱり風呂上がりの匂いを勘違いして妬いてるな)
「ウサは何を気にしてるの?言ってみな」
唇をムニムニさせて眉間にシワを寄せるウサの姿に、もっと気分が良くなる
いつもはウサに振り回されてるのに、今 この子は俺の事で 頭をいっぱいにして嫉妬をしている
きっと俺のことが、好き、だから。
わざと、ちょっとだけキツめに言ってみる
「ねえ、勝手に勘違いして怒るなよ」
その言葉にやっと顔を上げ、困り眉をさせて、目をじっと見てきたウサに
(ヤバい…、カワイイ…ニヤけそう)
「あの、だってどこ行ってたんですか?」
「ふーん、妬いてんの?」
「何がです?別に妬いてません」
「ジム」
「はい?」
「モモとジムに行ったから、シャワー浴びてきた」
(うっかり君に会って汗臭いって言われたくない、それがこんな事になるとは)
「………そ、そですか」
「そですよ?」
「……百瀬さんに明日確認してもいいですか?」
「あははっ、相変わらず疑り深いなー」
「誰のせいですか…」
「え~?知らなーい」
勘違いだと誤解が解けて、雰囲気が柔らかいものに変化する
そうなると、離れがたくなるのはお互い様らしく…
切り出したのはウサからで 家にあがってコーヒーを飲んでから帰ったのだった
(平和だなーウサといると。いつか、ちゃんと付き合えたら同棲したいな…あ、俺らの仕事は一応、同棲禁止だった)
心は振り子のように揺れている。
ウサを俺の棲んでる日常に入れていいのか、迷ってるくせに、呑気にそんなことを考えてた
この時までは。
夕暮れの中で迷子になる、その日までは。
ーーーーーーー ー ー
side優衣
津軽さんのボディーソープの香り事件から暫くして、私と津軽さんとノアで移動遊園地で遊んだ帰り道
遊び疲れて後部座席でノアは眠っていた
「よく寝てるね~」
「おもいっきり、はしゃいでましたもんね」
アレコレ津軽さんと話していると、流れで つい、津軽さんの車の助手席に座る自分が気になる。
「…助手席って、私が座っても大丈夫、でした?」
「どうして?」
「か、彼女とかの場所かな…なんて思って」
(あああっ!これじゃ彼女になりたいって言ってるみたいじゃない!?)
今は彼女いない、とは聞いていたけど つい聞いてしまった
「しばらく彼女いないんだよね」
「そっそうなんですか」
(そうなんだ!しばらく彼女いないんだぁ)
意外と普通のテンションで答えてくれて、嬉しくなり質問を重ねてしまう
「もう作るつもりないんですか…?」
「ん…、あ~…」
(……失敗した)
「ですか。ですよねっ」
「いや、ほら、俺と付き合っても寂しい思いさせちゃうし仕事忙しいからさ」
(私なら、その" 忙しい "中でもたくさん一緒の時間を共有しましたよね?)
思ったけど言わない。津軽さんが公安刑事でいるために切り捨てたものが恋人、恋愛なんだな…
(聞かなきゃ良かった)
虚しさは感じたけど、今まで津軽さんと過ごした日々は楽しかったし、恋人じゃないけど嘘はない時間だった
(言えない、言っちゃいけないんだ。あなたが好きです…なんて)
「………」
「…ウサちゃん…」
「ちょっとだけ、眠っても良いですか?」
「ん、…おやすみ」
ちょっと気まずい雰囲気の中、寝たふりをしてやり過ごしたのだった
この後、移動遊園地に付いて来てくれたのは任務のためだったと知った。
私は自分にとって良い方に色々と考え過ぎているのだろうか?
私が一番近い女の子だなんてバカみたい
全然、近くなんてなかったんだ。
数日後
捜査を進める上でノアを巻き込み疑似家族を演じ、囮捜査をする事になったのだが…
すぐに津軽さんは用意されたマンションに帰って来なくなった
その後、疑似家族は解散となり、ある噂話を耳にした
知りたかった。津軽さんのことを。
そしたら、あの時…
夕日が差し込む薄暗い部屋の中で、立ち尽くす彼の背中の謎が解けるような気がしたから。
あなたの辛さや悲しみ、笑顔の裏に隠してきたこと
誰より分かりたい、分かち合いたいって私の想いは、あまりにも浅はかだった。
─モニタールーム─
難波「泣くな、その痛みはお前のもんじゃねえ」
「は、い…」
熱くなる目から涙が滲むが必死に抑える
『お兄さんは殺されちゃうからな~』
あの時の言葉の意味がやっと分かった気がした
言葉では言い表せない感情に胸が押し潰されるが、これは私の痛みじゃない。痛いのは津軽さんだから。
理解できたことの一つに、私と津軽さんの関係だ
津軽さんにとって銀室長の存在
親代わりだから絶対的な存在。なんて単純なものじゃなかった
失くしたものを埋めてきてくれたのが、銀室長だったんだと思う。
銀室長が排除しようとした公安学校卒の私の恋心は成就してはいけない
この恋はきっと実らない
実らなくていい。嫌われていい
ただ私が津軽さんにできる数少ないことは
数日後
私は津軽さんの家を訪問していた
「囮捜査続けましょう。銀室長から許可は得ました」
そう言っても煙に巻くようにノラリクラリとかわされる
(ごめんなさいっ 津軽さん…)
立ち尽くす背中に手を伸ばしたい
1日でも早く事件を解決させて、日常に戻してあげたい
私の傲慢かも知れない。だけど気持ちを抑えきれなかった
本当は…
この人と過ごした日々が、私なら許されるのでは?と言う思いがなかったか、と言えば嘘になる
「もう同じ思いをする子どもを出す訳にいかない、だから私情を捨てて、とっとと仕事しろっていってるんですよ!」
叫んだ瞬間、視界が天井になる
ソファーで覆い被さるように押し倒されていた
あまりの速さに息をするのも瞬きするのも忘れるほど
「…役割、夫婦だっけ…なら言ってみろよ、好きだって」
(……津軽さん 怖いんだ。そうだよね、怖いよね)
掴まれた頬がちょっと痛い…けど私が怖がっちゃだめ!今日も明日も、津軽さんが乗り気って、前を見て歩いていけるように
好き
なんて、私 言わないよ?
でも今ならしても いいかも
震える両手を津軽さんの後頭部に持っていく
ぐっと引き寄せキスを──
「!?」
ばっと身体を離したのは津軽さんだった
「…帰れ」
(そう、だよね…キスして何か 変化が起きればと思ったけど...)
立ち上がり彼の顔を見ることなく、下の自分の部屋に戻った
(きっと嫌われた…)
ーーーーーー ー ー
side津軽
(きっと嫌われた…)
いや、きっとじゃない。絶対に...
ウサに好きと言えなんて言って、ウサは好きと言わない代わりにキスをしようとした
ずっと取っておいた その唇が近づいた時、俺の方がウサから逃げた
(ウサ、多分 仕方なしにキスしようとしたんだよな…)
昨日は、その後 緊急で津軽会を開き、行きつけのスナックで過ごした
一人になりたくなかったから
俺の過去、血縁関係をどう思ったんだろう
ウサを恋人にしたいと言う気持ちと、出来ない気持ちには 銀さんに対してどう報告したら…という思いもあるが、俺の棲む世界に入れちゃいけない思いがあったわけだが。
昨日のウサの反応って…そこを気にしてないし、俺をただ単に心配してたような…
(ああ~~わかんねー!)
出勤したはいいが、課に行けず、会議室に逃げ込むと兵吾くんから、あの話を聞いた
『傍にいなくちゃと思ってます。嫌われてでも』
もう、こんなの…今の俺にはどんな愛の告白より、胸に染みる言葉だった
(バカだよ、ウサ。君って子は)
だから、君がずっと好きなんだ。
ウサの言葉に背中を押され、課に向かう途中、銀さんからスマホに連絡が入る
(頭を切り替えろ…!)
捜査の方針は一転し、移動遊園地に潜入捜査中だったウサは毒を摂取してしまい、解毒のため 口移しで解毒剤を飲み込ませた
健康優良児は翌日には元気に出勤
つい、盗み見るウサの唇
キス…といえば、キスだけど感触とか全く覚えてないくらい必死だった
そして、誘った公園デートで盛大に落ちたら大爆弾──とは
「そりゃ…私はカウントできるキスがしたい…ですけど?」
「……えっ!?」
「え?」
(キスが…したい…だと!?)
「俺のこと 上司として、公安刑事として諦めないって、意味じゃ…なかった?」
「えっ?…いや、違い、ますけど?」
「じゃあ…」
「私の気持ちは──」
「ちょっ、待って!そういう…こと?」
「…はい、だって逆に、今までなんだと…」
「流されてるだけ…とか」
「違います!」
「はぁぁぁー」
「ため息!?って、いうか津軽さん顔赤いです…」
「デリカシー!」
「す、すみません」
「あのさ……俺も...だし」
「!津軽さん…」
(はー…なんでこんな公園の駐車場の車の中で…)
さんざん考えていた、告白のシチュエーションは なんだったのか?
自惚れないように、自制してたのに、やっぱり普通に両想いとか!
恥ずいだろ、ウサを振り回すのは俺のはずなのに、振り回されて...
「マジか…」
ニヤケてしまう口元を手で覆い隠す
ウサに言われた通り顔は赤くなって熱い
恥ずかしいが、無かったことになんてしたくなくウサの手をギュッと握る
緊張して、やや力が強かったかも知れない
「津軽さん…あの」
「なんだよ、この展開…っ」
「それ どうゆう意味ですか!?」
「今、知りたくねぇ~」
「??」
(夜景を前にしてとか、想像してた告白プランじゃねえじゃんか…!)
こんなポロっと両想いになるとか、あり得ない。俺としたことが…
とにかく恥ずかしすぎて、目も合わせられないでいるとウサが呟いた
「あ、虹ですよ」
「あ…だね。綺麗に架かってる」
「津軽さん。今日は良い日ですね」
ウサが、日向みたいな温かい笑顔で笑った
「…うん」
確かに...思ってたのと違うけど、今日という日は忘れられない日になったことには違いない
ーーーーーーー ー ー
side優衣
お花が綺麗に咲く公園を後にして津軽さんに車を運転してもらっていた
なんかよく分からない展開で津軽さんが私を好きだと知ったから。
嫌われてなくて、部下としてでなくて、セフレでなくて、一人の女として好きになってくれた
そうだと良いなと思ってきたけど、いざ現実になるとポワワーンと頭がお花畑になってしまい、帰ったら仕事しなきゃなのに、困ったものだ
赤く熱くなった頬の熱もなかなか引かない
隣の津軽さんを盗み見ると黙って真面目な顔で運転している
(格好いい…あぁ、私は完全に恋愛バカになっている…)
恋は人をバカにするとは言うけど、本当なんだなと思う
そんな事を考えていると
「はああぁぁ……」
「なっ!? また、ため息?」
(え、どーゆー心理!?)
縋る気持ちで津軽さんを見ると
一瞬 目が合い、少し笑ったようにみえた
(?)
「…コンビニ寄っていい?」
「え、あ、はあ、…どうぞ…」
少し困った顔の津軽さんに、私も やや間抜けな声で返事をする
(と、とにかく!仕切り直したい…)
コンビニに寄るのはちょうどいい、切り替えになるかと赤い頬を擦ったのだった
「…んー、何買お」
「欲しい物があるから寄ったんですよね?」
「まあねー」
コンビニの中に入ると、何か目的があったのかと思えば曖昧な返答をされる
変な津軽さんから離れ店内を見て回ると、スイーツコーナーで珍味ヨーグルトを見つけた
「津軽さん、角煮ヨーグルトっていうのがありますよ。地域限定だそうです」
ぼーっとしている津軽さんをちょいちょいと手招きで呼ぶ
スイーツコーナーで屈んでいた私に合わせて屈んでくれ
でも、見てるのは角煮ヨーグルトじゃなくて私の目。
「角煮ヨーグルトはこっちです…」
「ウサ、俺の顔どう?」
「? 睫でも刺さりました?」
心配になり、その目をじっと見るが、睫の話じゃないという
「か・ん・そ・う。俺の顔見た感想は?」
(むむっ…?津軽さんの考えてることは、やはり わかりづらい。けど…)
津軽さんは格好いい人で自他共に認めてる事実なのに " 格好いい " と、顔を褒められるのが素で好きなんだと最近気がついたのだ
(ふふっ、仕方ないなぁ)
「ほんと、自分の顔が好きな人ですね、ここでも見ててください」
ショーケースにうっすら映る私たちの姿を指差す
「ウーサー」
笑顔で怒られそうなので、適当に顔の部品一つ、一つを褒めてあげる
ちょっと納得いかない顔をされるから面白い
変な津軽さんだけど、そんな可愛い所も一緒にいて飽きなくて、…好きだったりするから、ほんと私は恋愛バカだ
結局、角煮ヨーグルトを私の分まで買ってもらい飲み物はまともな物を買い外に出た
(なんか…日常に戻っちゃったな…)
二歩前を歩く後ろ姿を見て思う。
コンビニに寄ったり変な事を言ったり?この空気感にするのが目的だったんだろうか
だって...好き…って言ってないし、言われてない。
いつもの私たちに戻されたのかな?
「っ…!」
と、思った直後に突然振り向いた津軽さんに手を握られる
ばっと手を振りほどいて、自分の手を胸で固めて抱いた
「おいっ」
「だ、だってぇ」
恥ずかしくて…。無かった事にしようとしてなかった
津軽さんを男だと強く意識してしまって、恥ずかしかった
(やっぱり津軽さんは私が、す、好きで…)
なんとも言えない空気が流れ、津軽さんも私も立ち尽くす
「…今はそういうの…浮かれちゃうから…」
津軽さんには色々と銀室長のこととかあるの分かるから今はこのままでいいと告げる
それは本当の気持ちだし、嬉しすぎてキャパオーバーして仕事が手に付かないかもという不安もあった
「気持ちは伝わりましたから、これで満足です…」
「…うん」
ほんのり赤い顔の津軽さんと、治まっていた顔の熱が再発した私。
「ウサって男見る目ないよね」
「え゛っ…?」
って!
(どーゆー意味ですかぁ!?)
相変わらず、振り回されそうだけど
ちゃんと恋愛的な意味で好きでいてくれてれる。言葉はなくても伝わったから。
その事実が私に大きな自信をくれたのだった
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