もしも あの時
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「吉川、まだ帰らないのか?」
「えっ?」
急展開で事件は解決し、報、告書に終われていると後藤さんに声を掛けられ はっとPCの時計を見ると日付が変わりそうになっていた
「終電…!帰ります」
「俺も帰る所だ 途中まで一緒に帰ろう」
「はい、すぐ支度します」
―ー―ーー ー ー
後藤さんと穏やかな空気で帰れると思ったのに
( なんでぇ~ !)
駅前でチンピラに絡まれ、追いかけられていた
「心当たりは!?」
「い、いえっ 見覚えはっ 無いんですがっ!」
揉め事は避けようと2人をでダッシュで逃げ回る
(どうして こんな事に!!)
いつの間にか後藤さんに手を取られ引っ張られる様に裏路地に入る
!!!
「いけませんね…浮気ですか?」
(茶円…!釈放されたばかりのはず…)
私を知るはずの無い茶円…数人のチンピラも近づいてきた
サッ
私の前に守る様に出てくれたのは
(後藤さん…)
―ー―ーー ー ー
Side津軽
百瀬「何か食って帰りますか?」
「だね。一段落したし…」
茶円釈放後にモモと並んで歩いていると
ブルッ 震えるスマホ
班員『班長っ すみません…!』
茶円を尾行させていた班員が茶円を見失ったと連絡だった
「分かった 捜せ」
「茶円 見失いましたか?」
「あぁ、自分で動き始めた可能がある」
(赤の徒からの依頼…優衣…)
ぐっと握りしめたスマホ…読みが甘かったか
電話しても彼女は…出ない
(追われてる…)
優衣に持たせた護身用のペンのGPS を確認すると さほど遠くない繁華街の裏路地を示していた
ほどなく仕事用のスマホがなる
「吉川?無事?」
『す、すみませんっ…茶円に…襲われましたが撤退して行きました 今は安全は確保してます』
「すぐ行く 人通りの多い所に…」
『あ、はい。 実は後藤さんと一緒で…私達は大丈夫なので...』
私達…か…
後藤となぜ一緒に居たか?は今はいい、優衣を助けてくれたんだから…
「分かった、報告は明日でいいから家に帰って休みな?戸締まりはしっかりと」
『はい…ありがとうございます』
誠二くんに替わってもらい御礼を言い電話を切った
冷静を保ち班長として行動できる自分に安心と茶円の使い方に迷いも出てくる
赤の徒の依頼…と言うより、優衣を襲う事で俺を揺さぶる気なんだろう
茶円もアジトに戻ったと班員から連絡があり、家路についた
―ーー―ー ー ー
Side優衣
お風呂に入り寝付けずにいた深夜
(眠れない…!アドレナリン~!)
後藤さんに玄関まで送って頂き、ベッドに横になるが眠る事ができない
津軽さんに振られるし、茶円は接触してくるし
踏んだり蹴ったり…
ピンポーン
直接玄関のチャイムが鳴りビクっと身体が震える
「な、な、今度はなに?」
ドアカメラのモニターを見れば...
ガチャ
「不用心に空けちゃ駄目だよ?」
「だって津軽さんだったので」
「怖かったよな、ごめん」
「いえ…!本当なら1人で対処しなければいけなかったのに…でも後藤さんが一緒で助かりました…」
茶円は見てるだけで、茶円が手配したチンピラとやり合った訳で、茶円が加わって来てたら…後藤さんに怪我をさせなくて良かった
「誠二くんと……」
何してたの?
津軽さんが言いたい言葉はたぶん…
「一緒に帰ってただけです。わりと家近いので…それで迷惑をかけてしまいましたが…」
「………」
「わ、私は とりあえず大丈夫です 明日からは気を引き締めていきます!」
「…来る?ウチに」
(クル?ウチニ?)
何のこと???頭が混乱し言葉の意味を脳内が一生懸命に検索するが答えは やはり一つ。
(来る?家に? と言った?)
(えっ!?別れたんでしょ?いや!付き合ってなかったけど)
「眠れないんじゃないかなって」
「まあ、…」
「この部屋も1度荒らされてるし」
「確かに、...」
「今日くらいは警戒した方がいいよ」
「ん~、ですかね?…」
確かにそうだし、多少は気が張って眠れないけど津軽さんが言いたいのは
"自分が心配したから今夜は手元にいて欲しい"
(なんてね…)
「うちにウサが置いていったココアあるじゃん?ブランデー買って来たから入れて飲もうよ。リラックスするよ?」
(あくまで 引き下がらない…それなら…)
そして
また底無し沼のような恋にハマっていく
(…いっか)
「ココアにブランデーって合うんですか?気になるな…」
「じゃあ決まり。ほら行くよ」
―ーーー ー ー
「あ…いい香り…それに落ち着きますね」
「でしょ?」
シャワーを浴びた津軽さんとソファーで並び、ブランデー入りココアを飲む
ホッとする落ち着いた匂い…
でもホッとしてるのは、ココアだけじゃなくて
この部屋の匂いや 風呂上がりの津軽さんの匂い、二人でいるこの空間そのものが落ち着く
(やっぱり私は…津軽さんを諦めきれないよ)
「これ飲んだら寝よっか」
「はい…」
何かが起きる訳じゃない、分かってる。
だけど ほんの数日前までは、お互いに好きと伝え合っていて、二人きりの時は甘酸っぱい空気も流れてた訳で…
隣の横顔を見ても、
班長としてのケアで招き入れたのか?
津軽高臣、個人として私と一緒に居てくれるのか?
「ん?格好いいでしょ。一晩中見てていいんだよ」
「…いえ、寝させて頂きます」
どうして諦めさせてくれないの?
好きが増えていくし、こんな関係になることが結局は彼を不安定にさせる
なのに、私の心はワガママだった
(今は 何も考えず隣に居させて欲しい)
―ー―ーー ー ー
「されると思いました…抱き枕に」
「学習してる 偉い偉い」
ベッドの上で 緩く抱きしめられれば
(…津軽さんだな~)
ぴったりくっついた身体から伝わる体温は、それほど温かくは無い
それが津軽さんで、私の鼓動は早いのにココロの中が安心するのだった
(今は抱き枕でいいや)
「学習はしてますよ?」
仰向けに寝てた身体を くるっと津軽さんに向ける
「…っ! 」
「あれ?津軽さん、ドキっとしちゃいました?」
ふふっと笑うと、津軽さんがふて腐れたような顔をする
そんな顔にも ときめいて また一つ好きが増えてしまった
「イタズラウサギ…」
「なんとでも言ってください。おやすみなさい…」
目の前の鎖骨が妙にセクシーで…
変な気分になるのは女だってあるわけで
(うぅ、色気が…。ふざけてないで、寝よ)
「…おやすみ、優衣」
(!! 名前呼び…絶対仕返しだ)
身体に回された腕や、津軽さんの匂いにやたら 意識がいくが
(不思議だな…ドキドキするのに安心するなんて)
じっとしていると、意識がだんだん遠退き眠りに落ちるのだった
―ーー―ー ー ー
Side津軽
我慢できず優衣の部屋の呼び鈴を鳴らしていた
アレコレ言い訳を付けて俺の部屋に連れ帰る
抱きしめた身体は柔らかく優衣の匂いがした
(この子がもし、誠二くんや昴くんと付き合う事になったら…。あり得ない話じゃない)
先日、昴くんと食事に行く約束をしていた優衣
誠二くんとも仲がいいし昴くんとも…!
恋愛感情じゃないにしろ、キッカケがあれば そんな感情が芽生える…十分に想定される事だった
(俺だけを好きでいなよ?)
眠る優衣の髪をを撫でる
(振ったくせに…)
部屋に連れて来て抱きしめて、それはもちろん部下だから じゃない
特別な子だから。
優衣はどう思ったか?
俺のことを諦めきれない…
そう思ったはず
顔を見れば まだ俺を好きだと顔にデカデカ書いてある
(狡い俺で、ごめん。本当に君が好きなんだ)
―ーー―ー ー ー
Side優衣
朝、部屋に戻り着替えやメイクをする
朝食は津軽さんお手製のトーストと、レモンコーヒーを頂いてきた
(私達、どうなるんだろ。手…繋いで寝たんだ…)
それは今朝の話
目が覚めると手を握られていた
(……繋いでいたいな。本当はずっと。)
部屋に戻ろうと、そっと手を外そうとすると
「…ん?……起きた…?」
「あ、はい。部屋に戻りますね」
「待って」
「え?」
「………」
「え、えっと」
「まだ時間あるし朝食一緒に食べよ?」
「いえ、これ以上 ご迷惑掛けられないので」
「………」
「あ、あの」
「明るい所で、怪我してないか確認させて、上司として」
「昨日、蛍光灯の下で私を見ましたよね?大した怪我はしてませんよ」
「朝日の下で見ると 青アザあるかも」
「青アザくらいあっても大丈夫ですよ。私は平気です 部下として」
「俺が平気じゃないんだけど」
「……すみません」
「君さ、上司をこんな気持ちにさせて、帰るつもり?」
「だって...。」
「だって?朝食誘ったのに俺に恥かかせるの?」
「…パンありますか?イカの塩辛は乗せないでください」
「美味しいのに」
「朝から重いのはちょっと…」
津軽さんとの攻防戦の末、根負けしトーストを頂いてきた
一晩たてば、やはりこんな関係駄目だって思い直したのに…
帰らないでって必死で言う津軽さんが可愛くなってしまったから
―ーー―ー ー ー
Side津軽
「おはよー」
「おはようございます」
賑やかに挨拶を返す優衣は いつも通り一生懸命過ぎるほどに一生懸命、仕事をしている
ウチに泊まったのは一昨日。
(ちょっとは 意識して照れたり無いのかな?)
面白くないが頑張ってる姿にケチを付ける訳にいかず、こっちも距離を取ってしまっていた
そんな理不尽な感情を優衣に向けていた日の夜
捜査が終わり、モモにマンションまで送って貰おうと車を出そうとするとモモのスマホがなる
「いいよ?」
「すみません。じゃあ……」
「ん、出ないの?」
「あー…黒澤からでビデオ通話」
「あははっ嫌な予感しかしないってやつ。出てみなよ~」
苦虫を噛み潰したような顔で通話ボタンを押すモモに笑いが込み上げる
「おいっ クダラナイ用事だったから明日ぶっ殺すぞ」
黒澤『お疲れ様です。いやだなぁ、津軽班の話ですよ』
「店、うるせーな、うちの班になんの用だよ」
黒澤『カラオケでーす★歩さんと優衣さんと来てまして』
聞こえてくる声に黒澤が昼休みに優衣を何かに誘ってた事を思い出す
(相変わらずチヤホヤされちゃって…)
確かにモモのスマホから少し、優衣の元気な歌声が聞こえてくる
「そんな情報知りたくねーから切る」
黒澤『あぁっ 待ってください~実は優衣さん結構酔っぱらっていて迎えに来てほしいんです』
「知るか!大人なんだならタクシーで帰れるだろ」
「あ、モモ代わって」
モモのスマホを借り画面を見ると
黒澤『お疲れ様ですー津軽さんもいらっしゃったんですね』
「透く~ん、分かっててかけてきたでしょ。アラスカ観測船に興味ある?手配しとくよ?って言うか後ろウルサイ」
黒澤『あは★冗談がお好きですね 優衣さーん、こっち、こっち』
少し広めのカラオケルームの奥にいた優衣は くるっと振り返り歌いながらフラフラと黒澤の方に やってきた
(…確かにフラついてるな、そして妙にテンション高い…)
向けられてるスマホを動画を撮られてると勘違いしてるらしい
『意識しちゃうよね♫ご~め~ん♪』
(えっと?なにこの歌)
謎の歌詞に呆然とすると、すかさずフォローが入る
「可愛くてごめん です」
真面目にモモは教えてくれた
『ちゅっ♫ぶりっ子で ごーめん♫虜~にしちゃあって ごーめん♪』
(うん…かわいい)
『ムカついちゃうでしょ♫ざまあ♪』
!! ざまあって
ウインク付きでカメラに向かい "ざまあ" と言われ…
いや歌だけど…胸にズキュンと来た俺は 実はMなのかと心配していると
黒澤『優衣さん最高★カレも見てますよ』
黒澤の言葉を聞いた優衣の顔が強ばる
『あぁっ!?ふえっ!??つ、つ、つぅー』
黒澤『津軽さんに聴かせられて良かったですね 愛の歌』
『すみません!すみません!わ、わ、わざとじゃなく!歌、歌でして』
土下座をする勢いの優衣に笑いそうになる
隣のモモはキレる寸前だけど
「いーよ。大丈夫ウサちゃん、心の声が漏れたんだね…うん。分かったよ」
『っ、違います…!』
「津軽さん、もう相手するの止めましょう。コイツに構うのは時間の無駄です」
黒澤『あっ お迎えは』
「モモ、ごめん 寄り道頼む」
「津軽さんが言うなら問題ありません」
店の場所を聞き、カラオケ店の前に到着すると、歩くんに支えられた優衣がいた
黒澤「お待ちしてました~優衣さん寝る寸前で」
東雲「ちょっと、君さ 俺にヨダレつけないでよ」
黒澤「優衣さん、ほら津軽さん来てくれましたから?」
「ん~…?」
車から降り酔っぱらいの引き渡しを行いに、近くまでいった時だった
フラっと しつつも、歩くんの腕から離れ、真っ直ぐに此方に歩いてくる
正直、気分が良いと思った。
優衣が好きなのは俺だけだ
大好きです って、やっぱり顔に書いてある
ムギュ
(あざと!)
俺の身体に腕を回してムギュ~と抱きしめられた
黒澤「お二人とも完全に恋人同士ですね」
東雲「津軽さんのタイプおかしいですよ。俺には関係ないけど」
「昔の男たちは黙ってな?ウサだってイケメンが好きだったって事だよ」
軽く抱きしめ返しながら、優衣を睨み付けるモモの車に向かい、後部座席に二人で乗り込んだ
「ちっ そんな奴…」
眠る優衣をバックミラー越しに見て吐き捨てる
モモは怒ってるわけじゃない。
距離を置く事にしたのを知っているから俺を心配している
俺が傷つかないかって。
「モモ、大丈夫だって。俺が女で壊れたことある?大丈夫だよ」
「…そうですか」
車が右折し、優衣のフニャっとした身体が肩にもたれ掛かる
「んん…?」
「寝てな?もう少しで着くから」
「…はい……津軽さん」
「なに?」
「また、泊まっても良いですか?」
酒のせいか、赤い頬。上目遣いでの熱っぽく潤んだ瞳。
女のこういう顔はよく知っている
(え、ヤバいでしょ。 このまま連れ帰ったら確実に一線越える こんなエロい顔を前に我慢出来ないって…)
初めて見る優衣の誘ってくる顔に変な汗が出る
「良い子はおウチで寝なさい 」
(頂きたい!食べたい…でも…)
精一杯の大人の対応だった
「だって…」
上目遣いで見上げられれば、ここは二人の世界になってしまう…が、運転をしてくれて、俺たちのやり取りにハンドルに ぐっとに握って、口を出さないでいてくれてるモモを見れば冷静を取り戻す
「今度、ウチで何か食べよう?ねっ?」
「…はぁい…」
駄々っ子を言い聞かせた俺は大人だ と、自分を褒めたい
この日は、なんとか無事に優衣を玄関まで送る事ができ、事なきを得た
―ーー―ー ― ー
Side優衣
(私は記憶喪失になりたい)
カーテンを開け、朝日を浴びながら 羞恥心で脱け殻となった身体をやっと支える
昨日の失態を思い出せば、暫くは禁酒しようかと項垂れる
大変な事をしてしまった。皆さんの前にも関わらず津軽さんに甘えまくり、部屋に泊めてと誘惑したあげくウチの玄関で別れ際、抱きしめて貰ったのだった
(最後に抱きしめてくださいって言ったのは、夢だと思いたい…恥ずかしい きっと夢だ…うん。)
津軽さん出張だといいな…なんて出勤すると、しっかり課に現れる
「おはよ ウサ。二日酔いしてない?」
「! おはようございます。二日酔いは大丈夫ですが ご迷惑お掛けしました」
「いいって。面白かったし。あ、この後 例の事件の捜査ウサも行くよ」
「はい!」
たまに私も津軽さんのお供をさせて貰える貴重な日だ
(よし、今日は良い日になりそう)
この時の私は、津軽さんと "あの件" について知られる事になるとは思っても見なかった
捜査の合間、車でお昼ご飯を各々頬張る
「百瀬さんの牛肉弁当美味しそう…次買うときはそれにしよっかな」
「見るな 減る」
「ウサはおにぎりだけでいいの?」
「はい、眠たくなるので…」
「気合いがたりねぇ」
「え!血糖値に言って下さいよ 不可抗力です」
「ちっ」
「ウサも負けなくなったね~」
少し捜査から離れ、あえて雑談をしてお昼休憩を取っていると ふいに津軽さんが
「そーえばさ、ウサ警察官を目指したきっかけになった刑事、会うこと出来た?」
「…え?会いたいって言いましたっけ」
「ウサなら 貴方は命の恩人です!貴方に憧れて刑事になりました! とか報告しそうじゃん?」
「そー…ですね…」
「調べてあげようか?警視の権限で。たぶんPCルームで検索できるし」
悪意の全くない、ただの優しさだけの笑顔を向けられるが…
頭の中が!
ゆったりした空気だったが!!
大混乱を起こす!!!
どう言うべき!!!!?
あれは津軽班に配属されて しばらくした頃……
―ーー―ーー ー ー
私の心の中だけにしまっておく宝物
やるべき事をしなければいけない。私はまだまだで隣に立つどころか背中を追いかける事さえ
できない
それは訓練生時代の淡い恋心だった
「ウサちゃん何で公安刑事になったの?」
はぁ?と唐突で、気の抜けた返事をすると呑気の申し子みたいな顔してるからと返される
興味ないくせに…と思っても一応上司。たとえパワハラセクハラをしてきても。
深夜の動きの無い張り込みの眠気覚ましの他愛もない質問だろう
「学生の時に事件に巻き込まれそうになった時に刑事さんが助けてくれたんです。後ろ姿しか見えなかったけど、その背中が凄く大きくて…憧れて刑事さんになりたいと思うようになりました」
「ふぅ〜ん、でもなんで公安?」
「あ、いや、教官からも散々…。でも後藤さんの補佐官になって絶対に公安刑事になるって決意したんです」
助けてくれた刑事さんが後藤さんだった話はしたくなかった
大切な…大切な思い出にチャチャ入れられたくなかったから。
「あ〜ウサちゃん、1年生の時は誠二くんの下にいたんだもんね」
「教官方が叱咤し導いてくださったから今の私がいます。」
「ふぅ〜ん」
お互いに対象のビルからは目を逸らさないで話をする。やっと捜査に出して貰えるようになった今日この頃
距離を縮めたい気持ちもあり、真剣に話したんだけど
「ふぁ〜あ、ウサちゃん一時間たったら起こして。交代で仮眠取ろ」
「はい」
…良かった 正直、話したくない話題だったから
―ーー―ー ー ー
あの時は思い出にチャチャ入れられたく無いからだったけど
今の私は、話そびれた事で自分の首を閉めていた
嘘をつくとややこしくなる
分かってるけど
『誠二くんとお似合いじゃない?運命的(笑)』
って張り付いた笑顔で言われるのかと思うと声が裏返りそうで
今まで黙ってた事を意味深に
「じ、実は」
助けてくれたのは実は後藤さんで、後藤さんが私の教官だった時に知り、お礼を言えた事を話した
さすがに、後藤さんの隣に立ちたかった気持ちがあった なんて言えない
(今まで黙ってたこと…どんな風に受け取っただろう)
津軽さんも百瀬さんも静かに話を聞いてくれて、表情も一切変わらないから感じた事なんて分からない
「そーなんだ ウサの命を救ったのが誠二くんなだったんだ」
(運命だねーとか言わないで!好きだった?とか聞かないで!)
津軽さんから出た言葉は、どれも違うものだった
「今度、班長として誠二くんにお礼言わないと」
(な、なんだ?普通の…感じ?)
私は違和感は感じたものの…
知らなかった、津軽さんの心の中に嵐が吹き荒れてたなんて…
―ーー―ー ー ー
Side津軽
あの日から暫くたったが、優衣とは仕事上の関係に戻っていた
(茶円には釘打っといたから、大きな動きはないはず、気になるのは…)
最近、事件が落ち着いたが優衣の動きは慌ただしかった
周介くんに剣道の稽古をつけてもらったり、誠二くんと射撃訓練に行ったり、挙げ句…秀樹くん兵吾くんの二人に料亭に連れて行かれていた
(俺がいなくても、ぜーんぜん平気そうで!)
(…いや違うか、落ち込む優衣を元気づけたいんだろうな)
本人はいつも通りにしてるつもりでも、もう数年一緒にいるんだ
気持ち切り替えてるようで滲み出るものがある。
俺だって、前みたいに後ろから抱きついたり、手を握ったり出来ない
周りが気づかないわけない。
自分をアピールしないと誰かに取られる…なんて一瞬考え、心の中で苦笑する
(…バカか…俺は)
(とは言え…今日は優衣がソワソワしてる?)
時刻は定時を少し過ぎた頃、
仕事を終わらせた優衣は神妙な顔で窓の外を見ている
外は ぽつぽつと雨が降り始めていた
デスクを片付けた優衣は、仕事が片付いたであろう後藤の元に真っ直ぐ向かう
「後藤さんお疲れ様です。上がり…ですか?」
「あぁ、たまには早く上がるよ」
「あの、行きません?」
「…?」
「肉!」
「…ははっ 吉川は焼き肉好きだな、行こうか」
「はいっ」
「はい!オレも行きたいです★颯馬さんもですよね?」
「えぇ、ご一緒して良いですか?」
イラっ…
(何々?盛り上がっちゃって)
理由は分かる この時期、雨、夜。
誠二くんを気にかけた優衣の行動だ
(でもさー、君 俺が好きなんでしょ?誠二くんは過去なんでしょ?)
このまま優衣と誠二くんが親密にでもなってたら万が一、2人は…
運命の2人。恋愛ゲームならヒロインは優衣、メインキャラクターは誠二くんで決まり
じゃあ俺は…どうなる…?
「オイ!吉川、これ終わらせろ」
バサッ
優衣に押し付けられたのは明日モモがやる予定の調査書の作成だった
(モモ…?なにやって…)
「え?」
「お前な、浮かれてる暇があるんなら やれ」
「あ、…あ、はい」
「百瀬、吉川は浮かれてる訳じゃない。分かってるだろ?今のは目に余ると思うが」
気まずい空気が課内に漂う。モモはわざと悪役を買ってでた。俺のために…
だけど…
「モモ?明日中に出せばいいから、モモも今日は帰りなよ 働きすぎたね」
「いや、ですがっ」
「モモも、ウサも帰りな?」
(いいさ、いいさ、誠二くん達と焼き肉行っておいでよ…)
「…私やります!百瀬さんの愛のムチは私を成長させてくれますから!甘んじて…!」
「さすが津軽班★愛のムチですか~」
「ごめんなさい 後藤さん、誘っておいて」
「無理するなよ また今度行こう」
「はい!」
―ーー―ー ー ー
Side優衣
あれから数時間たち時刻は22時
(よし!終わった 津軽さんも終わるかな?)
パソコンから視線をずらすと、デスクで何か作業をしてる津軽さんがいる
百瀬さんを帰らせて自分は残るのは非常に珍しく
(気まずいって思ってるんだよね。さっきの事)
ぐ~っとイスで伸びをする
(さて、このファイルを資料室に返して…)
「津軽さぁ~ん」
「んー?」
(あれは、津軽さんによく話しかけてる女性の1人。美人だし…胸が…。スタイルいいな)
「残業お疲れ様です。終わるまで待ってるんで、 " また " 飲みに行きましょうよ~ 最近、行ってないし…」
チラっと私を見る目は、確実に私への当て付けで、肩に自然と手を乗せるあたり、意味深に感じる
課内には私と津軽さんだけで、堂々とアプローチ…
(わざわざ また と匂わせて…)
別に私をライバル視してるわけじゃないと思うけど、女1人津軽班に居ることが気に入らないのか?
(…はぁ、ファイル返してこよう、戻って来たら2人はもう…いないかも)
一冊のファイルを手に持ち立ち上がり課を出ようとすると
「あ、ウサ待って俺も用あるから行く」
何やらボソボソ話しては2人の会話は終わったようで私の後ろをついてくる
「…??必要な資料なら私が持ってきまー」
スルッと手を繋がれ、ドキっと言うかギョっとする
「いいの、行くから」
(さっきの女性まだ見てるし!ほんと、よく分からないよ…)
ひと気のない警察庁の廊下
何故か手を繋いで歩く
「っていう深夜のドラマに芹香が出るんだって。見てって言われたけど俺忙しいんだよね。ウサ好きそう」
「はい。たぶん。でも推理ものだし、津軽さんもハマるかも?」
「まあね」
他愛もない話をしながら繋いだ手は離さず資料室に到着
「んー…ここだ 津軽さんの探し物見つかりましたか?一緒にさが…」
津軽さんがいた方向に振り向くと大接近で顔がある
「うわぁっ、ちかっ!」
普通に驚き、思わず後退りすると呆れたように笑われる
「なんで、この顔が間近にあって、その反応?」
「振り向いて人の顔が目の前なんて…津軽さんくらいですからね?止めた方がいいですよ」
「実は嬉しいんでしょ~?」
「嬉しいというかビックリするんですって…」
「ウサにだけ特別サービス」
「…さっきの女性いいんですか?」
「行った方が良かった?」
「………」
良くないです。とは言えない
私生活に私は口を出せないし、男なら性欲だって…
「性欲発散させないのかな?みたいな目で見ないで。デリカシー」
「あ、いや…ははっ…って言うか津軽さん何しに資料室に来たんですか?」
「え?ウサに芹香が出るドラマを教えてあげようかと思っただけ」
「…それは…どうも」
あの女性から逃げるための口実だったのかも知れないし、気まぐれかも知れないし、私を選んでくれたのかもしれないし、津軽さんの本心なんて私には分からない
近づいては突き放される…その繰り返しだったから。
「ウサ、帰るの?」
「はい。終わったので帰ります」
「じゃ、一緒に帰ろっと。今なら電車間に合うし」
「もしかして待っててくれたんですか?」
「自惚れないで俺、忙しいって言ったじゃん」
「…自惚れますって…」
資料室の扉に歩きだしながら。小声で言う
「ん?なに?」
「いえ、では帰りましょうか」
警察庁を出ると、小降りだった雨はやんでいた
―ーー―ー ー ー
マンションの最寄駅に到着し、歩き出せば再び握られる手
「え!?な、なんですか?」
「はあ?そんな反応ある?もっと普通は喜ぶでしょ。ウサくらいだよ、えっ とか言うの」
「…上司と部下が…手を繋ないんじゃ」
「ふむふむ、誠二くんだったら喜んでたの?」
「後藤さんは意味なく突然、手を握ったりしないので」
「離そうか?」
「べ、べつに!」
好きだったから。
手を繋ぐのが、あなただからこそで。離したくない
結局、繋がれた手を意識しつつ、家路を歩く
(津軽さんの世界は銀室長を中心に回っている。
私はその世界を崩しそうになり、選べないと言われ切り離されたはず、はずなのに特別扱いは変わらないなら…)
繋いだ手を軽く揺らす…
(ならならっ…私たちって)
「あっ」
「ひゃいっ?」
「ねぇ、コンビニ寄って帰ろ」
「あ、そうですね。お腹すいたし」
いつものコンビニに入り、雑誌コーナーにある
芹香さんが表紙のファッション誌が目に入る
「そうえば芹香さんのドラマいつなんですか?」
「今夜」
「じゃあ帰ったら見れますね。何時か分かりますか?」
「23時半。だから間に合わないでしょ」
「えぇっ 確かに、…難しいか…」
腕時計を見るとドラマを見るにはキツイ時間だったら
「でしょ。どうせ無理だから」
どうせ…無理……無理?
2人で生きていきたい そう思っていた日々は
『好きになってごめん』
あの日の海で終わったと思っていた
でも!
もしも、無理を可能にしたら?
諦めの悪さは私のセールスポイント
だったら
やるしかないでしょ!
雑誌コーナーからドリンクコーナーへ進みドリンクケースを開けようとした津軽さんの手を引っ張る
「ウサ?」
「走りましょう。間に合います」
幸いまだ、何も持っていなかった私達はコンビニを出た
私が津軽さんを引っ張って
「ちょ、ちょっとウサどーしたの?」
「全力でっ!走りますよ」
絶対に間に合わす!
私は全力だけど津軽さんは余裕があるはず、なのに私の少し後ろを手をひかれながら付いてくる
「君の何にスイッチ入ったの?」
「もしっ 間にあっ あったら、言わせてくださいっ」
「文句?」
「ちっがう!はぁっ、もうっいちど 」
「うん?」
「好きですって!!告白!」
一瞬、ガクっと後ろの津軽さんが転びそうになる
(出来る!絶対告白するんだ)
―ーー―ー ー ー
Side津軽
なんの流れでこうなってるのか
薄暗い夜道
月明かりもないのに 眩しい君は、俺の手を引き走っていた
ふわふわ揺れる優衣の毛先から目を離せない
走る後ろ姿がたくましいってより、
それは、うん そう。
女の子だった
別に追い付けるし、俺の方が早いけど
引っ張って欲しい…
この恋する女の子に。
そんな気がしてて
(俺、こんな女々しかった?優衣だから…か)
マンションのエントランス
最上階まではエレベーターが すぐに来たとしても間に合わない
いつだって、全力で頑張る優衣
見てたい これから先も。
「はあーっ、はあっ、」
完全に息が上がり、 限界突破している優衣には非常階段で上に行く何て無理だ
(惜しかったね…うん、これで良かったんだよな)
こんな時に限ってエレベーターは…こない
「こっち…」
「え、マジ?」
諦めない
その事で伝えたいのは、告白だけじゃなくて 諦めなければ、思い描いた道じゃなくても、違う道を見つけられる。君からのメッセージな気がする
「えぇ、非常階段で、最上階まで行く気ぃ~?」
「はぁっ、はぁっ、ち、ちが、こっち」
向かったのは優衣の部屋のドアの前、ガチャガチャと鍵を開け、二人で乱雑に靴を脱ぎ
ソファーの前に座らされた
ピッとリモコンでテレビをつければ、画面にはCMからパッと芹香と俳優の男が映し出される
「はぁっ、はぁっ、はあー、ピッタリ!」
満面の笑みは、あの日 君との関係を区切りをつけた泣きそうな顔とは正反対なものだったから
「…負けたよ」
「えっ? しょ、勝負してました?」
「お腹空いた」
「あ、あぁ ですよね、簡単なものしか…」
優衣は息を整えながらキッチンに向かった
「ご馳走さま」
「スミマセン…簡素な物で」
「十分だよ ウサは良い奥さんになるね」
「………。」
「ドラマごめん、途中からしか見られなかったよね」
「…いえ、録画したので後でゆっくり見ます」
「………」
「………」
二人に落ちた沈黙
考えてる事は一緒だと思う
―ーー―ーー ー ー
Side優衣
(なんて…切りだそう)
あの勢いのまま告白出来れば良かったけど、ご飯を作ってテレビを見ながら食べて普通に過ごしてしまった
普通…かぁ
尊いんだな
「好きです」
顔を見ながら言うと穏やかな津軽さんの表情があった
「…うん」
「私…笑ってる顔が好きなんです 津軽さんの。くしゃっていうか、へらっとした感じの」
「なにそれ…ダサいやつじゃん」
「ダサくないですよ。私はそれが好きです。津軽さんが津軽さんのまま笑ってくれてたら、できたら隣で一緒に笑っていたいです」
「優衣…」
「好きって言わなくていいって言われましたが言います。津軽さんの全てが好きです」
「………」
「どうしたら不安にならないか、二人で考えながら進んでいきませんか?」
「じゃあ…」
「はい」
「結婚しよ」
「……?けっ、?」
「不安にならない関係になってよ。俺と結婚するでしょ。 文句ある?」
「あ...う、文句とかないですが」
嫌じゃない。勿論。付き合えるかどうかの瀬戸際で、まさかの結婚という言葉に上手く考えがまとまらない
(冗談?本気?ためされてる?)
「俺とずっと一緒に居たいなら、そういう肩書き持った存在になってよ」
(今すぐ…ではないなら…うん。 結婚…嬉しい)
「はい。私でいいのなら」
前に進めたみたいで…嬉しくてニコニコ答えると
「優衣がいいんだよ。って言うか真面目に言ってんのに な~んか軽く返してきた」
「そ、そんなこと」
ないです。とは言えなかった。結婚はどこか現実味のない話で、今の私は恋に浮かれているだけだから
「俺の気持ち弄んでる?」
「断じてありません…が、あのお付き合いしてくれるんですよね??まずそこから…」
「う~ん」
「やっぱり悩みます!?」
腕組みして考え込む津軽さんはやはり手強い
下を見ていた長い睫毛が、急に強い視線でこちらを見た
? 引き寄せられた…そう思った時には
(…キス、い、息が)
「もう違わなくないでしょ?」
「は、はい…」
「なんでそんなビックリした顔するの?」
「だって…まさか…津軽さん瞼にキスする人だと思ってたので...」
「…あのな、彼女でしょ?口にするでしょーよ」
「彼女…!」
「違う?」
「彼女…彼女、えへへ…はい」
じゃあ津軽さんが彼氏って事で
諦めなくて良かった。しつこいかも…とか曖昧な関係が私達にはいいのか…なんて考えたりしたけど私は、隣で手を握って笑っていられる恋人になりたかった。特別な存在に...
「もいっかい、しよ」
触れた唇は、さっきより長い時間で
(どう言ったら…津軽さん泊まっていってくれるかな?)
そんな恋人だからこそ言える、優衣考えていた。
「えっ?」
急展開で事件は解決し、報、告書に終われていると後藤さんに声を掛けられ はっとPCの時計を見ると日付が変わりそうになっていた
「終電…!帰ります」
「俺も帰る所だ 途中まで一緒に帰ろう」
「はい、すぐ支度します」
―ー―ーー ー ー
後藤さんと穏やかな空気で帰れると思ったのに
( なんでぇ~ !)
駅前でチンピラに絡まれ、追いかけられていた
「心当たりは!?」
「い、いえっ 見覚えはっ 無いんですがっ!」
揉め事は避けようと2人をでダッシュで逃げ回る
(どうして こんな事に!!)
いつの間にか後藤さんに手を取られ引っ張られる様に裏路地に入る
!!!
「いけませんね…浮気ですか?」
(茶円…!釈放されたばかりのはず…)
私を知るはずの無い茶円…数人のチンピラも近づいてきた
サッ
私の前に守る様に出てくれたのは
(後藤さん…)
―ー―ーー ー ー
Side津軽
百瀬「何か食って帰りますか?」
「だね。一段落したし…」
茶円釈放後にモモと並んで歩いていると
ブルッ 震えるスマホ
班員『班長っ すみません…!』
茶円を尾行させていた班員が茶円を見失ったと連絡だった
「分かった 捜せ」
「茶円 見失いましたか?」
「あぁ、自分で動き始めた可能がある」
(赤の徒からの依頼…優衣…)
ぐっと握りしめたスマホ…読みが甘かったか
電話しても彼女は…出ない
(追われてる…)
優衣に持たせた護身用のペンのGPS を確認すると さほど遠くない繁華街の裏路地を示していた
ほどなく仕事用のスマホがなる
「吉川?無事?」
『す、すみませんっ…茶円に…襲われましたが撤退して行きました 今は安全は確保してます』
「すぐ行く 人通りの多い所に…」
『あ、はい。 実は後藤さんと一緒で…私達は大丈夫なので...』
私達…か…
後藤となぜ一緒に居たか?は今はいい、優衣を助けてくれたんだから…
「分かった、報告は明日でいいから家に帰って休みな?戸締まりはしっかりと」
『はい…ありがとうございます』
誠二くんに替わってもらい御礼を言い電話を切った
冷静を保ち班長として行動できる自分に安心と茶円の使い方に迷いも出てくる
赤の徒の依頼…と言うより、優衣を襲う事で俺を揺さぶる気なんだろう
茶円もアジトに戻ったと班員から連絡があり、家路についた
―ーー―ー ー ー
Side優衣
お風呂に入り寝付けずにいた深夜
(眠れない…!アドレナリン~!)
後藤さんに玄関まで送って頂き、ベッドに横になるが眠る事ができない
津軽さんに振られるし、茶円は接触してくるし
踏んだり蹴ったり…
ピンポーン
直接玄関のチャイムが鳴りビクっと身体が震える
「な、な、今度はなに?」
ドアカメラのモニターを見れば...
ガチャ
「不用心に空けちゃ駄目だよ?」
「だって津軽さんだったので」
「怖かったよな、ごめん」
「いえ…!本当なら1人で対処しなければいけなかったのに…でも後藤さんが一緒で助かりました…」
茶円は見てるだけで、茶円が手配したチンピラとやり合った訳で、茶円が加わって来てたら…後藤さんに怪我をさせなくて良かった
「誠二くんと……」
何してたの?
津軽さんが言いたい言葉はたぶん…
「一緒に帰ってただけです。わりと家近いので…それで迷惑をかけてしまいましたが…」
「………」
「わ、私は とりあえず大丈夫です 明日からは気を引き締めていきます!」
「…来る?ウチに」
(クル?ウチニ?)
何のこと???頭が混乱し言葉の意味を脳内が一生懸命に検索するが答えは やはり一つ。
(来る?家に? と言った?)
(えっ!?別れたんでしょ?いや!付き合ってなかったけど)
「眠れないんじゃないかなって」
「まあ、…」
「この部屋も1度荒らされてるし」
「確かに、...」
「今日くらいは警戒した方がいいよ」
「ん~、ですかね?…」
確かにそうだし、多少は気が張って眠れないけど津軽さんが言いたいのは
"自分が心配したから今夜は手元にいて欲しい"
(なんてね…)
「うちにウサが置いていったココアあるじゃん?ブランデー買って来たから入れて飲もうよ。リラックスするよ?」
(あくまで 引き下がらない…それなら…)
そして
また底無し沼のような恋にハマっていく
(…いっか)
「ココアにブランデーって合うんですか?気になるな…」
「じゃあ決まり。ほら行くよ」
―ーーー ー ー
「あ…いい香り…それに落ち着きますね」
「でしょ?」
シャワーを浴びた津軽さんとソファーで並び、ブランデー入りココアを飲む
ホッとする落ち着いた匂い…
でもホッとしてるのは、ココアだけじゃなくて
この部屋の匂いや 風呂上がりの津軽さんの匂い、二人でいるこの空間そのものが落ち着く
(やっぱり私は…津軽さんを諦めきれないよ)
「これ飲んだら寝よっか」
「はい…」
何かが起きる訳じゃない、分かってる。
だけど ほんの数日前までは、お互いに好きと伝え合っていて、二人きりの時は甘酸っぱい空気も流れてた訳で…
隣の横顔を見ても、
班長としてのケアで招き入れたのか?
津軽高臣、個人として私と一緒に居てくれるのか?
「ん?格好いいでしょ。一晩中見てていいんだよ」
「…いえ、寝させて頂きます」
どうして諦めさせてくれないの?
好きが増えていくし、こんな関係になることが結局は彼を不安定にさせる
なのに、私の心はワガママだった
(今は 何も考えず隣に居させて欲しい)
―ー―ーー ー ー
「されると思いました…抱き枕に」
「学習してる 偉い偉い」
ベッドの上で 緩く抱きしめられれば
(…津軽さんだな~)
ぴったりくっついた身体から伝わる体温は、それほど温かくは無い
それが津軽さんで、私の鼓動は早いのにココロの中が安心するのだった
(今は抱き枕でいいや)
「学習はしてますよ?」
仰向けに寝てた身体を くるっと津軽さんに向ける
「…っ! 」
「あれ?津軽さん、ドキっとしちゃいました?」
ふふっと笑うと、津軽さんがふて腐れたような顔をする
そんな顔にも ときめいて また一つ好きが増えてしまった
「イタズラウサギ…」
「なんとでも言ってください。おやすみなさい…」
目の前の鎖骨が妙にセクシーで…
変な気分になるのは女だってあるわけで
(うぅ、色気が…。ふざけてないで、寝よ)
「…おやすみ、優衣」
(!! 名前呼び…絶対仕返しだ)
身体に回された腕や、津軽さんの匂いにやたら 意識がいくが
(不思議だな…ドキドキするのに安心するなんて)
じっとしていると、意識がだんだん遠退き眠りに落ちるのだった
―ーー―ー ー ー
Side津軽
我慢できず優衣の部屋の呼び鈴を鳴らしていた
アレコレ言い訳を付けて俺の部屋に連れ帰る
抱きしめた身体は柔らかく優衣の匂いがした
(この子がもし、誠二くんや昴くんと付き合う事になったら…。あり得ない話じゃない)
先日、昴くんと食事に行く約束をしていた優衣
誠二くんとも仲がいいし昴くんとも…!
恋愛感情じゃないにしろ、キッカケがあれば そんな感情が芽生える…十分に想定される事だった
(俺だけを好きでいなよ?)
眠る優衣の髪をを撫でる
(振ったくせに…)
部屋に連れて来て抱きしめて、それはもちろん部下だから じゃない
特別な子だから。
優衣はどう思ったか?
俺のことを諦めきれない…
そう思ったはず
顔を見れば まだ俺を好きだと顔にデカデカ書いてある
(狡い俺で、ごめん。本当に君が好きなんだ)
―ーー―ー ー ー
Side優衣
朝、部屋に戻り着替えやメイクをする
朝食は津軽さんお手製のトーストと、レモンコーヒーを頂いてきた
(私達、どうなるんだろ。手…繋いで寝たんだ…)
それは今朝の話
目が覚めると手を握られていた
(……繋いでいたいな。本当はずっと。)
部屋に戻ろうと、そっと手を外そうとすると
「…ん?……起きた…?」
「あ、はい。部屋に戻りますね」
「待って」
「え?」
「………」
「え、えっと」
「まだ時間あるし朝食一緒に食べよ?」
「いえ、これ以上 ご迷惑掛けられないので」
「………」
「あ、あの」
「明るい所で、怪我してないか確認させて、上司として」
「昨日、蛍光灯の下で私を見ましたよね?大した怪我はしてませんよ」
「朝日の下で見ると 青アザあるかも」
「青アザくらいあっても大丈夫ですよ。私は平気です 部下として」
「俺が平気じゃないんだけど」
「……すみません」
「君さ、上司をこんな気持ちにさせて、帰るつもり?」
「だって...。」
「だって?朝食誘ったのに俺に恥かかせるの?」
「…パンありますか?イカの塩辛は乗せないでください」
「美味しいのに」
「朝から重いのはちょっと…」
津軽さんとの攻防戦の末、根負けしトーストを頂いてきた
一晩たてば、やはりこんな関係駄目だって思い直したのに…
帰らないでって必死で言う津軽さんが可愛くなってしまったから
―ーー―ー ー ー
Side津軽
「おはよー」
「おはようございます」
賑やかに挨拶を返す優衣は いつも通り一生懸命過ぎるほどに一生懸命、仕事をしている
ウチに泊まったのは一昨日。
(ちょっとは 意識して照れたり無いのかな?)
面白くないが頑張ってる姿にケチを付ける訳にいかず、こっちも距離を取ってしまっていた
そんな理不尽な感情を優衣に向けていた日の夜
捜査が終わり、モモにマンションまで送って貰おうと車を出そうとするとモモのスマホがなる
「いいよ?」
「すみません。じゃあ……」
「ん、出ないの?」
「あー…黒澤からでビデオ通話」
「あははっ嫌な予感しかしないってやつ。出てみなよ~」
苦虫を噛み潰したような顔で通話ボタンを押すモモに笑いが込み上げる
「おいっ クダラナイ用事だったから明日ぶっ殺すぞ」
黒澤『お疲れ様です。いやだなぁ、津軽班の話ですよ』
「店、うるせーな、うちの班になんの用だよ」
黒澤『カラオケでーす★歩さんと優衣さんと来てまして』
聞こえてくる声に黒澤が昼休みに優衣を何かに誘ってた事を思い出す
(相変わらずチヤホヤされちゃって…)
確かにモモのスマホから少し、優衣の元気な歌声が聞こえてくる
「そんな情報知りたくねーから切る」
黒澤『あぁっ 待ってください~実は優衣さん結構酔っぱらっていて迎えに来てほしいんです』
「知るか!大人なんだならタクシーで帰れるだろ」
「あ、モモ代わって」
モモのスマホを借り画面を見ると
黒澤『お疲れ様ですー津軽さんもいらっしゃったんですね』
「透く~ん、分かっててかけてきたでしょ。アラスカ観測船に興味ある?手配しとくよ?って言うか後ろウルサイ」
黒澤『あは★冗談がお好きですね 優衣さーん、こっち、こっち』
少し広めのカラオケルームの奥にいた優衣は くるっと振り返り歌いながらフラフラと黒澤の方に やってきた
(…確かにフラついてるな、そして妙にテンション高い…)
向けられてるスマホを動画を撮られてると勘違いしてるらしい
『意識しちゃうよね♫ご~め~ん♪』
(えっと?なにこの歌)
謎の歌詞に呆然とすると、すかさずフォローが入る
「可愛くてごめん です」
真面目にモモは教えてくれた
『ちゅっ♫ぶりっ子で ごーめん♫虜~にしちゃあって ごーめん♪』
(うん…かわいい)
『ムカついちゃうでしょ♫ざまあ♪』
!! ざまあって
ウインク付きでカメラに向かい "ざまあ" と言われ…
いや歌だけど…胸にズキュンと来た俺は 実はMなのかと心配していると
黒澤『優衣さん最高★カレも見てますよ』
黒澤の言葉を聞いた優衣の顔が強ばる
『あぁっ!?ふえっ!??つ、つ、つぅー』
黒澤『津軽さんに聴かせられて良かったですね 愛の歌』
『すみません!すみません!わ、わ、わざとじゃなく!歌、歌でして』
土下座をする勢いの優衣に笑いそうになる
隣のモモはキレる寸前だけど
「いーよ。大丈夫ウサちゃん、心の声が漏れたんだね…うん。分かったよ」
『っ、違います…!』
「津軽さん、もう相手するの止めましょう。コイツに構うのは時間の無駄です」
黒澤『あっ お迎えは』
「モモ、ごめん 寄り道頼む」
「津軽さんが言うなら問題ありません」
店の場所を聞き、カラオケ店の前に到着すると、歩くんに支えられた優衣がいた
黒澤「お待ちしてました~優衣さん寝る寸前で」
東雲「ちょっと、君さ 俺にヨダレつけないでよ」
黒澤「優衣さん、ほら津軽さん来てくれましたから?」
「ん~…?」
車から降り酔っぱらいの引き渡しを行いに、近くまでいった時だった
フラっと しつつも、歩くんの腕から離れ、真っ直ぐに此方に歩いてくる
正直、気分が良いと思った。
優衣が好きなのは俺だけだ
大好きです って、やっぱり顔に書いてある
ムギュ
(あざと!)
俺の身体に腕を回してムギュ~と抱きしめられた
黒澤「お二人とも完全に恋人同士ですね」
東雲「津軽さんのタイプおかしいですよ。俺には関係ないけど」
「昔の男たちは黙ってな?ウサだってイケメンが好きだったって事だよ」
軽く抱きしめ返しながら、優衣を睨み付けるモモの車に向かい、後部座席に二人で乗り込んだ
「ちっ そんな奴…」
眠る優衣をバックミラー越しに見て吐き捨てる
モモは怒ってるわけじゃない。
距離を置く事にしたのを知っているから俺を心配している
俺が傷つかないかって。
「モモ、大丈夫だって。俺が女で壊れたことある?大丈夫だよ」
「…そうですか」
車が右折し、優衣のフニャっとした身体が肩にもたれ掛かる
「んん…?」
「寝てな?もう少しで着くから」
「…はい……津軽さん」
「なに?」
「また、泊まっても良いですか?」
酒のせいか、赤い頬。上目遣いでの熱っぽく潤んだ瞳。
女のこういう顔はよく知っている
(え、ヤバいでしょ。 このまま連れ帰ったら確実に一線越える こんなエロい顔を前に我慢出来ないって…)
初めて見る優衣の誘ってくる顔に変な汗が出る
「良い子はおウチで寝なさい 」
(頂きたい!食べたい…でも…)
精一杯の大人の対応だった
「だって…」
上目遣いで見上げられれば、ここは二人の世界になってしまう…が、運転をしてくれて、俺たちのやり取りにハンドルに ぐっとに握って、口を出さないでいてくれてるモモを見れば冷静を取り戻す
「今度、ウチで何か食べよう?ねっ?」
「…はぁい…」
駄々っ子を言い聞かせた俺は大人だ と、自分を褒めたい
この日は、なんとか無事に優衣を玄関まで送る事ができ、事なきを得た
―ーー―ー ― ー
Side優衣
(私は記憶喪失になりたい)
カーテンを開け、朝日を浴びながら 羞恥心で脱け殻となった身体をやっと支える
昨日の失態を思い出せば、暫くは禁酒しようかと項垂れる
大変な事をしてしまった。皆さんの前にも関わらず津軽さんに甘えまくり、部屋に泊めてと誘惑したあげくウチの玄関で別れ際、抱きしめて貰ったのだった
(最後に抱きしめてくださいって言ったのは、夢だと思いたい…恥ずかしい きっと夢だ…うん。)
津軽さん出張だといいな…なんて出勤すると、しっかり課に現れる
「おはよ ウサ。二日酔いしてない?」
「! おはようございます。二日酔いは大丈夫ですが ご迷惑お掛けしました」
「いいって。面白かったし。あ、この後 例の事件の捜査ウサも行くよ」
「はい!」
たまに私も津軽さんのお供をさせて貰える貴重な日だ
(よし、今日は良い日になりそう)
この時の私は、津軽さんと "あの件" について知られる事になるとは思っても見なかった
捜査の合間、車でお昼ご飯を各々頬張る
「百瀬さんの牛肉弁当美味しそう…次買うときはそれにしよっかな」
「見るな 減る」
「ウサはおにぎりだけでいいの?」
「はい、眠たくなるので…」
「気合いがたりねぇ」
「え!血糖値に言って下さいよ 不可抗力です」
「ちっ」
「ウサも負けなくなったね~」
少し捜査から離れ、あえて雑談をしてお昼休憩を取っていると ふいに津軽さんが
「そーえばさ、ウサ警察官を目指したきっかけになった刑事、会うこと出来た?」
「…え?会いたいって言いましたっけ」
「ウサなら 貴方は命の恩人です!貴方に憧れて刑事になりました! とか報告しそうじゃん?」
「そー…ですね…」
「調べてあげようか?警視の権限で。たぶんPCルームで検索できるし」
悪意の全くない、ただの優しさだけの笑顔を向けられるが…
頭の中が!
ゆったりした空気だったが!!
大混乱を起こす!!!
どう言うべき!!!!?
あれは津軽班に配属されて しばらくした頃……
―ーー―ーー ー ー
私の心の中だけにしまっておく宝物
やるべき事をしなければいけない。私はまだまだで隣に立つどころか背中を追いかける事さえ
できない
それは訓練生時代の淡い恋心だった
「ウサちゃん何で公安刑事になったの?」
はぁ?と唐突で、気の抜けた返事をすると呑気の申し子みたいな顔してるからと返される
興味ないくせに…と思っても一応上司。たとえパワハラセクハラをしてきても。
深夜の動きの無い張り込みの眠気覚ましの他愛もない質問だろう
「学生の時に事件に巻き込まれそうになった時に刑事さんが助けてくれたんです。後ろ姿しか見えなかったけど、その背中が凄く大きくて…憧れて刑事さんになりたいと思うようになりました」
「ふぅ〜ん、でもなんで公安?」
「あ、いや、教官からも散々…。でも後藤さんの補佐官になって絶対に公安刑事になるって決意したんです」
助けてくれた刑事さんが後藤さんだった話はしたくなかった
大切な…大切な思い出にチャチャ入れられたくなかったから。
「あ〜ウサちゃん、1年生の時は誠二くんの下にいたんだもんね」
「教官方が叱咤し導いてくださったから今の私がいます。」
「ふぅ〜ん」
お互いに対象のビルからは目を逸らさないで話をする。やっと捜査に出して貰えるようになった今日この頃
距離を縮めたい気持ちもあり、真剣に話したんだけど
「ふぁ〜あ、ウサちゃん一時間たったら起こして。交代で仮眠取ろ」
「はい」
…良かった 正直、話したくない話題だったから
―ーー―ー ー ー
あの時は思い出にチャチャ入れられたく無いからだったけど
今の私は、話そびれた事で自分の首を閉めていた
嘘をつくとややこしくなる
分かってるけど
『誠二くんとお似合いじゃない?運命的(笑)』
って張り付いた笑顔で言われるのかと思うと声が裏返りそうで
今まで黙ってた事を意味深に
「じ、実は」
助けてくれたのは実は後藤さんで、後藤さんが私の教官だった時に知り、お礼を言えた事を話した
さすがに、後藤さんの隣に立ちたかった気持ちがあった なんて言えない
(今まで黙ってたこと…どんな風に受け取っただろう)
津軽さんも百瀬さんも静かに話を聞いてくれて、表情も一切変わらないから感じた事なんて分からない
「そーなんだ ウサの命を救ったのが誠二くんなだったんだ」
(運命だねーとか言わないで!好きだった?とか聞かないで!)
津軽さんから出た言葉は、どれも違うものだった
「今度、班長として誠二くんにお礼言わないと」
(な、なんだ?普通の…感じ?)
私は違和感は感じたものの…
知らなかった、津軽さんの心の中に嵐が吹き荒れてたなんて…
―ーー―ー ー ー
Side津軽
あの日から暫くたったが、優衣とは仕事上の関係に戻っていた
(茶円には釘打っといたから、大きな動きはないはず、気になるのは…)
最近、事件が落ち着いたが優衣の動きは慌ただしかった
周介くんに剣道の稽古をつけてもらったり、誠二くんと射撃訓練に行ったり、挙げ句…秀樹くん兵吾くんの二人に料亭に連れて行かれていた
(俺がいなくても、ぜーんぜん平気そうで!)
(…いや違うか、落ち込む優衣を元気づけたいんだろうな)
本人はいつも通りにしてるつもりでも、もう数年一緒にいるんだ
気持ち切り替えてるようで滲み出るものがある。
俺だって、前みたいに後ろから抱きついたり、手を握ったり出来ない
周りが気づかないわけない。
自分をアピールしないと誰かに取られる…なんて一瞬考え、心の中で苦笑する
(…バカか…俺は)
(とは言え…今日は優衣がソワソワしてる?)
時刻は定時を少し過ぎた頃、
仕事を終わらせた優衣は神妙な顔で窓の外を見ている
外は ぽつぽつと雨が降り始めていた
デスクを片付けた優衣は、仕事が片付いたであろう後藤の元に真っ直ぐ向かう
「後藤さんお疲れ様です。上がり…ですか?」
「あぁ、たまには早く上がるよ」
「あの、行きません?」
「…?」
「肉!」
「…ははっ 吉川は焼き肉好きだな、行こうか」
「はいっ」
「はい!オレも行きたいです★颯馬さんもですよね?」
「えぇ、ご一緒して良いですか?」
イラっ…
(何々?盛り上がっちゃって)
理由は分かる この時期、雨、夜。
誠二くんを気にかけた優衣の行動だ
(でもさー、君 俺が好きなんでしょ?誠二くんは過去なんでしょ?)
このまま優衣と誠二くんが親密にでもなってたら万が一、2人は…
運命の2人。恋愛ゲームならヒロインは優衣、メインキャラクターは誠二くんで決まり
じゃあ俺は…どうなる…?
「オイ!吉川、これ終わらせろ」
バサッ
優衣に押し付けられたのは明日モモがやる予定の調査書の作成だった
(モモ…?なにやって…)
「え?」
「お前な、浮かれてる暇があるんなら やれ」
「あ、…あ、はい」
「百瀬、吉川は浮かれてる訳じゃない。分かってるだろ?今のは目に余ると思うが」
気まずい空気が課内に漂う。モモはわざと悪役を買ってでた。俺のために…
だけど…
「モモ?明日中に出せばいいから、モモも今日は帰りなよ 働きすぎたね」
「いや、ですがっ」
「モモも、ウサも帰りな?」
(いいさ、いいさ、誠二くん達と焼き肉行っておいでよ…)
「…私やります!百瀬さんの愛のムチは私を成長させてくれますから!甘んじて…!」
「さすが津軽班★愛のムチですか~」
「ごめんなさい 後藤さん、誘っておいて」
「無理するなよ また今度行こう」
「はい!」
―ーー―ー ー ー
Side優衣
あれから数時間たち時刻は22時
(よし!終わった 津軽さんも終わるかな?)
パソコンから視線をずらすと、デスクで何か作業をしてる津軽さんがいる
百瀬さんを帰らせて自分は残るのは非常に珍しく
(気まずいって思ってるんだよね。さっきの事)
ぐ~っとイスで伸びをする
(さて、このファイルを資料室に返して…)
「津軽さぁ~ん」
「んー?」
(あれは、津軽さんによく話しかけてる女性の1人。美人だし…胸が…。スタイルいいな)
「残業お疲れ様です。終わるまで待ってるんで、 " また " 飲みに行きましょうよ~ 最近、行ってないし…」
チラっと私を見る目は、確実に私への当て付けで、肩に自然と手を乗せるあたり、意味深に感じる
課内には私と津軽さんだけで、堂々とアプローチ…
(わざわざ また と匂わせて…)
別に私をライバル視してるわけじゃないと思うけど、女1人津軽班に居ることが気に入らないのか?
(…はぁ、ファイル返してこよう、戻って来たら2人はもう…いないかも)
一冊のファイルを手に持ち立ち上がり課を出ようとすると
「あ、ウサ待って俺も用あるから行く」
何やらボソボソ話しては2人の会話は終わったようで私の後ろをついてくる
「…??必要な資料なら私が持ってきまー」
スルッと手を繋がれ、ドキっと言うかギョっとする
「いいの、行くから」
(さっきの女性まだ見てるし!ほんと、よく分からないよ…)
ひと気のない警察庁の廊下
何故か手を繋いで歩く
「っていう深夜のドラマに芹香が出るんだって。見てって言われたけど俺忙しいんだよね。ウサ好きそう」
「はい。たぶん。でも推理ものだし、津軽さんもハマるかも?」
「まあね」
他愛もない話をしながら繋いだ手は離さず資料室に到着
「んー…ここだ 津軽さんの探し物見つかりましたか?一緒にさが…」
津軽さんがいた方向に振り向くと大接近で顔がある
「うわぁっ、ちかっ!」
普通に驚き、思わず後退りすると呆れたように笑われる
「なんで、この顔が間近にあって、その反応?」
「振り向いて人の顔が目の前なんて…津軽さんくらいですからね?止めた方がいいですよ」
「実は嬉しいんでしょ~?」
「嬉しいというかビックリするんですって…」
「ウサにだけ特別サービス」
「…さっきの女性いいんですか?」
「行った方が良かった?」
「………」
良くないです。とは言えない
私生活に私は口を出せないし、男なら性欲だって…
「性欲発散させないのかな?みたいな目で見ないで。デリカシー」
「あ、いや…ははっ…って言うか津軽さん何しに資料室に来たんですか?」
「え?ウサに芹香が出るドラマを教えてあげようかと思っただけ」
「…それは…どうも」
あの女性から逃げるための口実だったのかも知れないし、気まぐれかも知れないし、私を選んでくれたのかもしれないし、津軽さんの本心なんて私には分からない
近づいては突き放される…その繰り返しだったから。
「ウサ、帰るの?」
「はい。終わったので帰ります」
「じゃ、一緒に帰ろっと。今なら電車間に合うし」
「もしかして待っててくれたんですか?」
「自惚れないで俺、忙しいって言ったじゃん」
「…自惚れますって…」
資料室の扉に歩きだしながら。小声で言う
「ん?なに?」
「いえ、では帰りましょうか」
警察庁を出ると、小降りだった雨はやんでいた
―ーー―ー ー ー
マンションの最寄駅に到着し、歩き出せば再び握られる手
「え!?な、なんですか?」
「はあ?そんな反応ある?もっと普通は喜ぶでしょ。ウサくらいだよ、えっ とか言うの」
「…上司と部下が…手を繋ないんじゃ」
「ふむふむ、誠二くんだったら喜んでたの?」
「後藤さんは意味なく突然、手を握ったりしないので」
「離そうか?」
「べ、べつに!」
好きだったから。
手を繋ぐのが、あなただからこそで。離したくない
結局、繋がれた手を意識しつつ、家路を歩く
(津軽さんの世界は銀室長を中心に回っている。
私はその世界を崩しそうになり、選べないと言われ切り離されたはず、はずなのに特別扱いは変わらないなら…)
繋いだ手を軽く揺らす…
(ならならっ…私たちって)
「あっ」
「ひゃいっ?」
「ねぇ、コンビニ寄って帰ろ」
「あ、そうですね。お腹すいたし」
いつものコンビニに入り、雑誌コーナーにある
芹香さんが表紙のファッション誌が目に入る
「そうえば芹香さんのドラマいつなんですか?」
「今夜」
「じゃあ帰ったら見れますね。何時か分かりますか?」
「23時半。だから間に合わないでしょ」
「えぇっ 確かに、…難しいか…」
腕時計を見るとドラマを見るにはキツイ時間だったら
「でしょ。どうせ無理だから」
どうせ…無理……無理?
2人で生きていきたい そう思っていた日々は
『好きになってごめん』
あの日の海で終わったと思っていた
でも!
もしも、無理を可能にしたら?
諦めの悪さは私のセールスポイント
だったら
やるしかないでしょ!
雑誌コーナーからドリンクコーナーへ進みドリンクケースを開けようとした津軽さんの手を引っ張る
「ウサ?」
「走りましょう。間に合います」
幸いまだ、何も持っていなかった私達はコンビニを出た
私が津軽さんを引っ張って
「ちょ、ちょっとウサどーしたの?」
「全力でっ!走りますよ」
絶対に間に合わす!
私は全力だけど津軽さんは余裕があるはず、なのに私の少し後ろを手をひかれながら付いてくる
「君の何にスイッチ入ったの?」
「もしっ 間にあっ あったら、言わせてくださいっ」
「文句?」
「ちっがう!はぁっ、もうっいちど 」
「うん?」
「好きですって!!告白!」
一瞬、ガクっと後ろの津軽さんが転びそうになる
(出来る!絶対告白するんだ)
―ーー―ー ー ー
Side津軽
なんの流れでこうなってるのか
薄暗い夜道
月明かりもないのに 眩しい君は、俺の手を引き走っていた
ふわふわ揺れる優衣の毛先から目を離せない
走る後ろ姿がたくましいってより、
それは、うん そう。
女の子だった
別に追い付けるし、俺の方が早いけど
引っ張って欲しい…
この恋する女の子に。
そんな気がしてて
(俺、こんな女々しかった?優衣だから…か)
マンションのエントランス
最上階まではエレベーターが すぐに来たとしても間に合わない
いつだって、全力で頑張る優衣
見てたい これから先も。
「はあーっ、はあっ、」
完全に息が上がり、 限界突破している優衣には非常階段で上に行く何て無理だ
(惜しかったね…うん、これで良かったんだよな)
こんな時に限ってエレベーターは…こない
「こっち…」
「え、マジ?」
諦めない
その事で伝えたいのは、告白だけじゃなくて 諦めなければ、思い描いた道じゃなくても、違う道を見つけられる。君からのメッセージな気がする
「えぇ、非常階段で、最上階まで行く気ぃ~?」
「はぁっ、はぁっ、ち、ちが、こっち」
向かったのは優衣の部屋のドアの前、ガチャガチャと鍵を開け、二人で乱雑に靴を脱ぎ
ソファーの前に座らされた
ピッとリモコンでテレビをつければ、画面にはCMからパッと芹香と俳優の男が映し出される
「はぁっ、はぁっ、はあー、ピッタリ!」
満面の笑みは、あの日 君との関係を区切りをつけた泣きそうな顔とは正反対なものだったから
「…負けたよ」
「えっ? しょ、勝負してました?」
「お腹空いた」
「あ、あぁ ですよね、簡単なものしか…」
優衣は息を整えながらキッチンに向かった
「ご馳走さま」
「スミマセン…簡素な物で」
「十分だよ ウサは良い奥さんになるね」
「………。」
「ドラマごめん、途中からしか見られなかったよね」
「…いえ、録画したので後でゆっくり見ます」
「………」
「………」
二人に落ちた沈黙
考えてる事は一緒だと思う
―ーー―ーー ー ー
Side優衣
(なんて…切りだそう)
あの勢いのまま告白出来れば良かったけど、ご飯を作ってテレビを見ながら食べて普通に過ごしてしまった
普通…かぁ
尊いんだな
「好きです」
顔を見ながら言うと穏やかな津軽さんの表情があった
「…うん」
「私…笑ってる顔が好きなんです 津軽さんの。くしゃっていうか、へらっとした感じの」
「なにそれ…ダサいやつじゃん」
「ダサくないですよ。私はそれが好きです。津軽さんが津軽さんのまま笑ってくれてたら、できたら隣で一緒に笑っていたいです」
「優衣…」
「好きって言わなくていいって言われましたが言います。津軽さんの全てが好きです」
「………」
「どうしたら不安にならないか、二人で考えながら進んでいきませんか?」
「じゃあ…」
「はい」
「結婚しよ」
「……?けっ、?」
「不安にならない関係になってよ。俺と結婚するでしょ。 文句ある?」
「あ...う、文句とかないですが」
嫌じゃない。勿論。付き合えるかどうかの瀬戸際で、まさかの結婚という言葉に上手く考えがまとまらない
(冗談?本気?ためされてる?)
「俺とずっと一緒に居たいなら、そういう肩書き持った存在になってよ」
(今すぐ…ではないなら…うん。 結婚…嬉しい)
「はい。私でいいのなら」
前に進めたみたいで…嬉しくてニコニコ答えると
「優衣がいいんだよ。って言うか真面目に言ってんのに な~んか軽く返してきた」
「そ、そんなこと」
ないです。とは言えなかった。結婚はどこか現実味のない話で、今の私は恋に浮かれているだけだから
「俺の気持ち弄んでる?」
「断じてありません…が、あのお付き合いしてくれるんですよね??まずそこから…」
「う~ん」
「やっぱり悩みます!?」
腕組みして考え込む津軽さんはやはり手強い
下を見ていた長い睫毛が、急に強い視線でこちらを見た
? 引き寄せられた…そう思った時には
(…キス、い、息が)
「もう違わなくないでしょ?」
「は、はい…」
「なんでそんなビックリした顔するの?」
「だって…まさか…津軽さん瞼にキスする人だと思ってたので...」
「…あのな、彼女でしょ?口にするでしょーよ」
「彼女…!」
「違う?」
「彼女…彼女、えへへ…はい」
じゃあ津軽さんが彼氏って事で
諦めなくて良かった。しつこいかも…とか曖昧な関係が私達にはいいのか…なんて考えたりしたけど私は、隣で手を握って笑っていられる恋人になりたかった。特別な存在に...
「もいっかい、しよ」
触れた唇は、さっきより長い時間で
(どう言ったら…津軽さん泊まっていってくれるかな?)
そんな恋人だからこそ言える、優衣考えていた。
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