満ちた月が照らす先には
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10、9、8‥
最善は尽くした。刑事として。
でも津軽さんの部下、彼女、婚約者としては
最低、最悪…。
『初めまして 津軽班 班長、津軽高臣です』
…なんで?
今、思い出してるんだろう。
死ぬの…かな
あ、そうだ、初めて会ったあの日、私は津軽さんを見て
"他の人と何かが違う"
って思った。きっとそれは…
2、1‥
大型の棚の後ろで、身体を縮こまらせた
守るように胸にぎゅっとノートパソコンを抱きながら
ドオ――ン!!!
爆風が肌を叩き、部屋の物がグチャグチャに舞い上がって落ちていくのが分かった
火薬の臭いが鼻をつき、バチバチという音で我に返る
「ドア開いた?…壊れてる?…に、逃げなきゃ…」
さっき自動ロックのかかったドアへ向かおうとすると
あれ…?頭打ったかな…フラフラする
「おい!吉川!?」
「百瀬さん…」
壊れたかけたドアを蹴り破ってくれたのは百瀬さんだった
続いて合同捜査をしていた刑事課の刑事が入って来る
「俺らは撤収だ、パソコンよく頑張ったな…歩けるか?」
「え?はい、大丈夫です」
立ち上がると意外と歩けたが、…なんだか頬が生暖かい
「これ、当てとけ…」
「ハンカチ?」
「額、切れてるから」
「駄目ですよ!汚しちゃうんで私は大丈夫ですから」
「いーから当てとけって!」
「スミマ…セン…ありが…」
それは突然で、目の前がブラックアウトした
―――――――――――――
Side津軽
合同捜査中の事故だった
刑事課と容疑者の捜査をしていたモモとウサ
今回、一部の刑事からウサが女という理由で煙たがられてる事は知っていた
ウサと連携を取らなかったある刑事がウサを巻いて単独行動した挙げ句、その刑事は容疑者と鉢合わせ、容疑者を逆上させた。そして試作段階の時限爆破を起動させてしまったのだ
爆弾のある隠し部屋に、ウサが一人で入っているとは知らずに。
なんともお決まりの展開…
よくパソコンと自分の命守ったよ、優衣…。
あとは君が目を覚ましてくれたら…
病室で、まるで寝ているかのように起きない優衣
大きな怪我は無いが、右側の額が3cmほどパックリ切れたこと。
そして頭を強打し現場で意識を失ったままだった
顔にこんな傷まで付けさせて…ごめん
………。
このまま…もし…目が覚めなかったら…?
駄目だ 考えるな
大丈夫、先生も脳波に異常は無いって…
少し青ざめて見える優衣の顔
神様なんてやっぱりいなかったじゃんね
―――――――――――――――――
Side優衣
身体が鉛のように重い…うっすら目を開けるが…また閉じた
あ~疲れすぎてる?なんとかまた瞼を開けるが見たこと無い天井だった
…なに??どういう…
誰かの話し声がしてうっすら開けた目で横を見ると
「申し訳ありませんでした」
!? えっ…
深々頭を下げる津軽さんの前に困惑した顔の
お父さん、お母さん、翔真…
あれ?私、確か結婚を考えてる人と 今度 帰りたいって電話して…日にち…?
え、今日だった??
んん??
父「…娘が刑事になった事は喜びました。本人の夢でしたから。でも、こんな状況なのに詳細を教えてもらえないんですか?」
母「もし…このままなんてことに…」
翔真「…本当に事故…ですか?やましい事があるんじゃ?」
「捜査中の事故です。責任は全て私にあります」
頭を下げたままの津軽さん…何か言わなきゃ!
でも声が出ない…
母「あの…優衣が結婚したい人がいるって言ってたんです。その方を病院に呼んでも良いですか?」
「あ…えと」
父「翔真、姉さんの友人伝いに探せそうか?」
翔真「うん、たぶん出来ると思う」
「………。」
だんだん記憶がしっかりしてきて
腕に繋がれた点滴からも ここが病室、私は大きな怪我をして家族が呼ばれたと理解した
しかし "何か" が抜けていて…
今、言えるのは結婚したい人は、目の前に居ますってこと。
なんとか動いた右手でナースコールを押した
―――――――――――――――
Side津軽
「あ…えと」
言葉に詰まった、恋人は俺です。
なんて言えなくて
優衣はもう24時間以上、意識を失っている
こんな事になった責任は俺にもあり、刑事課と上手くいってない事実を重く考えて配置を変えなければいけなかった
大抵の人間は優衣と接してると打ち解けていたから。甘かった…
でも黙っているのは不誠実だ…言おう…
「あの…」
ガチャ
看護師「吉川さんっ?」
母「はい?」
看護師「良かった目が覚めたのね」
看護師の視線の先には眠っているはずの優衣が…
……えぇ!!!?
優衣の家族に集中して、全く見てなかった優衣を見れば目を開けていた
母「優衣!優衣…良かった」
翔真「姉ちゃん喉乾いてない?俺、何か買ってくるよ」
父「はぁ、心配かけて…どこか痛くないか?」
たぶん、大人になってから、こんなに
心底ホッした事はない
――――――――――――――――
Side優衣
担当の先生が すぐに来てくれて、簡単な検査後、少し家族との時間を貰えた
精密検査はその後に。
ただ分かった事がある
捜査をしていた事は覚えているが、爆発の前後の記憶が綺麗に無い
爆弾の部屋に居たとか…全っ然、記憶に無い…
こういう事ってホントにあるんだな
出なかった声もだんだん話が出来るようになっていた
両親と翔真は明日の精密検査の結果を確認してから長野に帰る事になった
翔真「姉ちゃん、彼氏呼ばないの?会ってみたかったな」
そうだ、津軽さんの話しなきゃ
でも津軽さんに聞いてからが良いよね…病室から出ていっちゃったから、どうしようかな
母「その方は優衣が刑事で危険な目に合う事を知ってるの?」
父「結婚するって言ってたが…仕事は続けるのか?」
「うん、刑事なのは知ってるし、今のまま仕事は続けたいと思ってる。出来る限りは。」
母「……優衣が…そういうなら決心は固いのね」
父「…ふぅ...」
「心配かけてごめんなさい。でも凄くやりがいがあるし…好きなんだ…仕事が」
それに津軽さんの下で働く事は甘くないし、大変だけど、毎日が充実している
翔真「姉ちゃん、警察官…合ってるよね、俺ほんとは格好いいなって思ってるよ」
「 …! 翔真…ありがと」
父「優衣、命があるのが一番だ。もう無茶はするな」
「はい」
良かった…結婚を機に辞めなさいってならなくて
母「あら、そろそろ時間ね、私達はホテルに帰るから、また明日来るわ」
「うん、ごめんね」
お父さんたちが出て少ししてから現れたのは津軽さんだった
「俺とも話せる?」
「はい!もちろんです」
「………」
「あ!バッティングセンターでホームラン打ちましょうか?」
「……はあ…バカ、それより生きて目を覚まして良かったよ。寝すぎだから」
ゆっくりした口調の中に、不安と安堵と、今 私たちにあるべき適切な距離を図っているのが見えた
今は上司と部下…
「私、ほんと生命力強くって!って言うか残業が続いてたから普通に寝てたんじゃないですか?」
「のんきだね~ 皆がどんだけ心配したと思ってんだよ」
「津軽さんより長生きする!が、人生の目標ですから心配無用です」
「俺って、そんな心配されてる?」
「私は年下なので、達成できそうですね。安心してください」
いつものように軽く言い合っていると、
「死なないでよ、辞めさせるよ?刑事」
「………辞める気ないので。精一杯、頑張ります」
突然真剣な顔でピシャッと言い放たれた言葉には色んな感情があった事が読み取れる
「分かったよ、せいぜい班長のためにしっかり働きなさい」
笑ってるようで泣きそうな津軽さんは、凄く耐えている…
自分、個人の感情を抑えている。
これは私がまだまだ弱いばかりに。
そして、強くなり優秀な公安刑事になったとしても…
私たちにも付きまとうものだ。
家族を亡くした津軽さんには私に、もしも…があったら
…ダメになるかも知れない。
せめて今、できることは…
「あの、前に津軽さん私が記憶喪失になったら…って仮想空間で想像しましたよね?私、どんな反応だったんですか?」
「え~ それ今知りたいの?」
「はい、抜け落ちてる記憶のヒントになるかもですし」
「まあ いいけど。君の部屋に仕事が終わると様子を見に行ってーーー」
聞いた話は...本当に不可思議であり、でも津軽さんと私の出会いから恋人になるまでを考えたら、非常に納得のいくものだった
「ーーーって感じ」
「…その仮定は、今までの私を見てきて 分析した私の反応ですよ…ね?」
「そうそう」
「た、大概にしてくださいよ…!」
「はぁっ!?責められてる?」
「だって、めちゃめちゃ津軽さんを意識しちゃってるじゃないですか」
「…そう?」
「はい。ヘアミストの香りでドキっとして隣に座った津軽さんから つい離れちゃったとか」
「指輪を見てると何か思い出しそうで、あのタイミングで敢えて津軽さんに聞いて反応を見たとか」
「惚れちゃう?って言われて、焦って必死で否定したりとか」
「すぐに駆けつけた自分が恋人だったりしてって言われて、そうだったら良いな…って思ってしまったり」
「記憶喪失で心もとない時に、津軽さんとの会話が楽しくて津軽さんがいて…良かったって思ったり」
「そう…なの??」
「はい。だから記憶を無くしたとしても、一緒にいると絶対好きになる。そう思ってました。だから近くで見守っててくださいね?」
「優衣…」
ベッドで座っていた私を津軽さんが抱き締めたのは一瞬のことだった
労るように緩く回された腕の中にいる
熱くて、悲しそうな腕の中。
涙が滲んでくる けど私は泣いたりしない
だって怖くて泣きたくて張り裂けそうだったのは津軽さんだから
ぐっと息を止めて我慢をする
暫く抱き合って、やっと生きてるんだ、まだ津軽さんといられる
そう思った。
ーーーーーーーーー
翌日
検査結果に異常は無かったが、額の傷と抜け落ちた記憶のこともあり、あと3日入院となった
翔真「結局、姉ちゃんの彼氏に会えなかったね~」
母「落ち着いたら、改めて二人でウチにいっしゃいね」
父「お相手も今回の事は驚いただろう?」
「…うん、それなんだけどね」
昨日は津軽さんに確認し忘れてしまい、恋人は上司の津軽さんだ、と言うに言えない
勝手に言えないしな…
トントン
ガチャッ
「お話中に すみません」
「津軽さん!え、仕事は…」
「少し時間作った。こっちも大事だから」
話そう?
津軽さんの強い視線で、私たちの事を話に来てくれたんだと分かった。
ベッドから降りて立つと、隣に津軽さんが来る
「申し訳ありません。黙っていた事があります」
母「は…はい??」
目を丸くするうちの家族に、津軽さんは静かに伝える
何か…!こういう時も頼もしい…!!
「お話するのが遅くなりました。優衣さんとお付き合いをしている津軽高臣と申します」
父「……」
母「……」
翔真「……」
「今回は優衣さんに このような怪我をさせてしまい申し訳ありませんでした」
昨日と同じく頭を深く下げた
別に津軽さんが悪いわけじゃない
事故だし、どちらかと言えば私の判断能力も問われる案件で…
父「頭を上げてください、仕事中に起きた事故だったなら…仕方ないです。昨日 優衣から聞きましたから。それにしても……。」
じ~っと、お父さんもお母さんも翔真も、目が釘付けになっているのは、ゆっくり顔を上げた津軽さんの顔。
そう顔をガン見している
…私が予想していた言葉が飛び交う
母「えぇっ、こんなモデルみたいな人が…優衣の?」
翔真「姉ちゃん、これはドッキリだよね?」
父「まさか優衣の相手がこんな…。しかも警視?いや、そんな訳…」
「ドッキリじゃないしっ!私に失礼だよ」
母「だって、こんな格好いい人と結婚?優衣が?」
「だから私に失礼じゃない!顔は関係ないでしょ!」
「あははっ… なんて言ったらいいのか」
珍しく謙遜する津軽さんと私の家族と、暫く雑談をし、日を改めて実家に挨拶に行くと話は纏まりお父さん達は長野を帰って行った
「来てくれてありがとうございました…」
ペコリと頭を下げれば津軽さんは意外な事を言う
「あーー緊張したぁ」
「津軽さんでも緊張するんですね」
「いやいや…するでしょ。こんな怪我させて反対されるかもって思うよ」
そっと触れた額の傷。医療用のテープは張られたままで、綺麗に治るにはかなり時間がかかると言われていた
さっきは私も少し動揺していて津軽さんの緊張に気づけなかったけど、確かに頬が緊張で固まってたかな…
そうやって私たち二人の事に真剣に向き合ってくれている
本当に生きていて良かった、もっともっと津軽さんと生きていたいから。
「そうそう、優衣に確認しなきゃいけない事があって」
仕事モードに切り替わった津軽さんに こちらも身構える
「はい?」
「君が死守したパソコン、パスワードが切り替えられてて どうやら優衣が書き換えたんだよね」
「あぁ…そうなんですか…。」
「まあ、記憶が飛んでるから分からないと思うけど」
「パスワードは✕✕✕✕✕✕✕✕です」
「はあ?記憶戻ったの?」
「全然ですが、頭に浮かんだ数字です」
「君と俺の誕生日をランダムにした8桁ねぇ」
私の事件の記憶は一切戻ってなくて、それでもパスワードを問われて浮かんだ数字はそれだった。
根拠とかないけど、私、なら時間の無い中でパスワードを書き換えたなら同じ数字だと思うから。
「間違いないと…思うんですけど」
「…たぶんさ、優衣はパソコン抱えながら俺のこと、考えてたんだろうね」
「ですね、そう思い………あ、…痛っ…!」
「優衣!?」
津軽さんに身体を支えられて激しい頭痛と吐き気に襲われる
頭の中に色んな映像と爆薬の臭いと恐怖心が…甦ってきたのは一瞬の出来事で、意識が遠退きそうになる意識を保つのが精一杯だった
ーー 退院日 ーー
「どうなる事やらと思ってたけど、食らいついてくるよね~」
午後休を取ってくれた津軽さんに 車で迎えに来てもらっていた
「笑い事じゃないですよ!私の部署移動の話が出てたなんて…身の毛のよだつ思いです…」
実は私が記憶を一部無くした事で 公安の素質を上層部から問われ移動の話が出てたそうだ
銀室長が庇ってくれてたらしい…。
本当に情けない…
そして無事に記憶は戻り、パソコンのパスワードも合っていたため捜査が進んでいる!
「ほんと、転んでも立ち上がる子だよね」
「申し訳ありませんでした…色々と津軽さんには心労を与えてしまいましたよね」
「だから、今夜は優衣が癒すんでしょ?」
「えっ…あ、はい…」
「昼飯、食べなかったんでしょ?お寿司食べて帰ろっか?」
「お寿司!食べたいです!病院は生もの出ないので 実は凄く食べたくて。あ、回転する方にしましょうよ。 結構美味しいんですよ、あ~楽しみ」
「さっきは照れてたくせに、お寿司に夢中過ぎない?お寿司の方が興奮するなんて…そういうフェチだったんだ」
「そ、そんな、お寿司フェチって日本人は お寿司好きだから皆がフェチですよ」
「あははっ やっぱ優衣がいると楽しいよ」
(あ…私の好きな顔!こうして…笑っていて欲しいな)
日常に津軽さんがいる。
それが重なって過去と今と未来ができていく
「いつかの未来に、思い出して笑えたら良いですよね」
「ん?…うん、だね」
2人の薬指のペアリングが光っている
手を伸ばせば届く距離
『初めまして 津軽班 班長 津軽高臣です』
初めて会ったあの日、他の人と何か違うと思った
運命で結ばれていた人。
な~んてロマンチックすぎる。恥ずかしくって口には出せなかった。
最善は尽くした。刑事として。
でも津軽さんの部下、彼女、婚約者としては
最低、最悪…。
『初めまして 津軽班 班長、津軽高臣です』
…なんで?
今、思い出してるんだろう。
死ぬの…かな
あ、そうだ、初めて会ったあの日、私は津軽さんを見て
"他の人と何かが違う"
って思った。きっとそれは…
2、1‥
大型の棚の後ろで、身体を縮こまらせた
守るように胸にぎゅっとノートパソコンを抱きながら
ドオ――ン!!!
爆風が肌を叩き、部屋の物がグチャグチャに舞い上がって落ちていくのが分かった
火薬の臭いが鼻をつき、バチバチという音で我に返る
「ドア開いた?…壊れてる?…に、逃げなきゃ…」
さっき自動ロックのかかったドアへ向かおうとすると
あれ…?頭打ったかな…フラフラする
「おい!吉川!?」
「百瀬さん…」
壊れたかけたドアを蹴り破ってくれたのは百瀬さんだった
続いて合同捜査をしていた刑事課の刑事が入って来る
「俺らは撤収だ、パソコンよく頑張ったな…歩けるか?」
「え?はい、大丈夫です」
立ち上がると意外と歩けたが、…なんだか頬が生暖かい
「これ、当てとけ…」
「ハンカチ?」
「額、切れてるから」
「駄目ですよ!汚しちゃうんで私は大丈夫ですから」
「いーから当てとけって!」
「スミマ…セン…ありが…」
それは突然で、目の前がブラックアウトした
―――――――――――――
Side津軽
合同捜査中の事故だった
刑事課と容疑者の捜査をしていたモモとウサ
今回、一部の刑事からウサが女という理由で煙たがられてる事は知っていた
ウサと連携を取らなかったある刑事がウサを巻いて単独行動した挙げ句、その刑事は容疑者と鉢合わせ、容疑者を逆上させた。そして試作段階の時限爆破を起動させてしまったのだ
爆弾のある隠し部屋に、ウサが一人で入っているとは知らずに。
なんともお決まりの展開…
よくパソコンと自分の命守ったよ、優衣…。
あとは君が目を覚ましてくれたら…
病室で、まるで寝ているかのように起きない優衣
大きな怪我は無いが、右側の額が3cmほどパックリ切れたこと。
そして頭を強打し現場で意識を失ったままだった
顔にこんな傷まで付けさせて…ごめん
………。
このまま…もし…目が覚めなかったら…?
駄目だ 考えるな
大丈夫、先生も脳波に異常は無いって…
少し青ざめて見える優衣の顔
神様なんてやっぱりいなかったじゃんね
―――――――――――――――――
Side優衣
身体が鉛のように重い…うっすら目を開けるが…また閉じた
あ~疲れすぎてる?なんとかまた瞼を開けるが見たこと無い天井だった
…なに??どういう…
誰かの話し声がしてうっすら開けた目で横を見ると
「申し訳ありませんでした」
!? えっ…
深々頭を下げる津軽さんの前に困惑した顔の
お父さん、お母さん、翔真…
あれ?私、確か結婚を考えてる人と 今度 帰りたいって電話して…日にち…?
え、今日だった??
んん??
父「…娘が刑事になった事は喜びました。本人の夢でしたから。でも、こんな状況なのに詳細を教えてもらえないんですか?」
母「もし…このままなんてことに…」
翔真「…本当に事故…ですか?やましい事があるんじゃ?」
「捜査中の事故です。責任は全て私にあります」
頭を下げたままの津軽さん…何か言わなきゃ!
でも声が出ない…
母「あの…優衣が結婚したい人がいるって言ってたんです。その方を病院に呼んでも良いですか?」
「あ…えと」
父「翔真、姉さんの友人伝いに探せそうか?」
翔真「うん、たぶん出来ると思う」
「………。」
だんだん記憶がしっかりしてきて
腕に繋がれた点滴からも ここが病室、私は大きな怪我をして家族が呼ばれたと理解した
しかし "何か" が抜けていて…
今、言えるのは結婚したい人は、目の前に居ますってこと。
なんとか動いた右手でナースコールを押した
―――――――――――――――
Side津軽
「あ…えと」
言葉に詰まった、恋人は俺です。
なんて言えなくて
優衣はもう24時間以上、意識を失っている
こんな事になった責任は俺にもあり、刑事課と上手くいってない事実を重く考えて配置を変えなければいけなかった
大抵の人間は優衣と接してると打ち解けていたから。甘かった…
でも黙っているのは不誠実だ…言おう…
「あの…」
ガチャ
看護師「吉川さんっ?」
母「はい?」
看護師「良かった目が覚めたのね」
看護師の視線の先には眠っているはずの優衣が…
……えぇ!!!?
優衣の家族に集中して、全く見てなかった優衣を見れば目を開けていた
母「優衣!優衣…良かった」
翔真「姉ちゃん喉乾いてない?俺、何か買ってくるよ」
父「はぁ、心配かけて…どこか痛くないか?」
たぶん、大人になってから、こんなに
心底ホッした事はない
――――――――――――――――
Side優衣
担当の先生が すぐに来てくれて、簡単な検査後、少し家族との時間を貰えた
精密検査はその後に。
ただ分かった事がある
捜査をしていた事は覚えているが、爆発の前後の記憶が綺麗に無い
爆弾の部屋に居たとか…全っ然、記憶に無い…
こういう事ってホントにあるんだな
出なかった声もだんだん話が出来るようになっていた
両親と翔真は明日の精密検査の結果を確認してから長野に帰る事になった
翔真「姉ちゃん、彼氏呼ばないの?会ってみたかったな」
そうだ、津軽さんの話しなきゃ
でも津軽さんに聞いてからが良いよね…病室から出ていっちゃったから、どうしようかな
母「その方は優衣が刑事で危険な目に合う事を知ってるの?」
父「結婚するって言ってたが…仕事は続けるのか?」
「うん、刑事なのは知ってるし、今のまま仕事は続けたいと思ってる。出来る限りは。」
母「……優衣が…そういうなら決心は固いのね」
父「…ふぅ...」
「心配かけてごめんなさい。でも凄くやりがいがあるし…好きなんだ…仕事が」
それに津軽さんの下で働く事は甘くないし、大変だけど、毎日が充実している
翔真「姉ちゃん、警察官…合ってるよね、俺ほんとは格好いいなって思ってるよ」
「 …! 翔真…ありがと」
父「優衣、命があるのが一番だ。もう無茶はするな」
「はい」
良かった…結婚を機に辞めなさいってならなくて
母「あら、そろそろ時間ね、私達はホテルに帰るから、また明日来るわ」
「うん、ごめんね」
お父さんたちが出て少ししてから現れたのは津軽さんだった
「俺とも話せる?」
「はい!もちろんです」
「………」
「あ!バッティングセンターでホームラン打ちましょうか?」
「……はあ…バカ、それより生きて目を覚まして良かったよ。寝すぎだから」
ゆっくりした口調の中に、不安と安堵と、今 私たちにあるべき適切な距離を図っているのが見えた
今は上司と部下…
「私、ほんと生命力強くって!って言うか残業が続いてたから普通に寝てたんじゃないですか?」
「のんきだね~ 皆がどんだけ心配したと思ってんだよ」
「津軽さんより長生きする!が、人生の目標ですから心配無用です」
「俺って、そんな心配されてる?」
「私は年下なので、達成できそうですね。安心してください」
いつものように軽く言い合っていると、
「死なないでよ、辞めさせるよ?刑事」
「………辞める気ないので。精一杯、頑張ります」
突然真剣な顔でピシャッと言い放たれた言葉には色んな感情があった事が読み取れる
「分かったよ、せいぜい班長のためにしっかり働きなさい」
笑ってるようで泣きそうな津軽さんは、凄く耐えている…
自分、個人の感情を抑えている。
これは私がまだまだ弱いばかりに。
そして、強くなり優秀な公安刑事になったとしても…
私たちにも付きまとうものだ。
家族を亡くした津軽さんには私に、もしも…があったら
…ダメになるかも知れない。
せめて今、できることは…
「あの、前に津軽さん私が記憶喪失になったら…って仮想空間で想像しましたよね?私、どんな反応だったんですか?」
「え~ それ今知りたいの?」
「はい、抜け落ちてる記憶のヒントになるかもですし」
「まあ いいけど。君の部屋に仕事が終わると様子を見に行ってーーー」
聞いた話は...本当に不可思議であり、でも津軽さんと私の出会いから恋人になるまでを考えたら、非常に納得のいくものだった
「ーーーって感じ」
「…その仮定は、今までの私を見てきて 分析した私の反応ですよ…ね?」
「そうそう」
「た、大概にしてくださいよ…!」
「はぁっ!?責められてる?」
「だって、めちゃめちゃ津軽さんを意識しちゃってるじゃないですか」
「…そう?」
「はい。ヘアミストの香りでドキっとして隣に座った津軽さんから つい離れちゃったとか」
「指輪を見てると何か思い出しそうで、あのタイミングで敢えて津軽さんに聞いて反応を見たとか」
「惚れちゃう?って言われて、焦って必死で否定したりとか」
「すぐに駆けつけた自分が恋人だったりしてって言われて、そうだったら良いな…って思ってしまったり」
「記憶喪失で心もとない時に、津軽さんとの会話が楽しくて津軽さんがいて…良かったって思ったり」
「そう…なの??」
「はい。だから記憶を無くしたとしても、一緒にいると絶対好きになる。そう思ってました。だから近くで見守っててくださいね?」
「優衣…」
ベッドで座っていた私を津軽さんが抱き締めたのは一瞬のことだった
労るように緩く回された腕の中にいる
熱くて、悲しそうな腕の中。
涙が滲んでくる けど私は泣いたりしない
だって怖くて泣きたくて張り裂けそうだったのは津軽さんだから
ぐっと息を止めて我慢をする
暫く抱き合って、やっと生きてるんだ、まだ津軽さんといられる
そう思った。
ーーーーーーーーー
翌日
検査結果に異常は無かったが、額の傷と抜け落ちた記憶のこともあり、あと3日入院となった
翔真「結局、姉ちゃんの彼氏に会えなかったね~」
母「落ち着いたら、改めて二人でウチにいっしゃいね」
父「お相手も今回の事は驚いただろう?」
「…うん、それなんだけどね」
昨日は津軽さんに確認し忘れてしまい、恋人は上司の津軽さんだ、と言うに言えない
勝手に言えないしな…
トントン
ガチャッ
「お話中に すみません」
「津軽さん!え、仕事は…」
「少し時間作った。こっちも大事だから」
話そう?
津軽さんの強い視線で、私たちの事を話に来てくれたんだと分かった。
ベッドから降りて立つと、隣に津軽さんが来る
「申し訳ありません。黙っていた事があります」
母「は…はい??」
目を丸くするうちの家族に、津軽さんは静かに伝える
何か…!こういう時も頼もしい…!!
「お話するのが遅くなりました。優衣さんとお付き合いをしている津軽高臣と申します」
父「……」
母「……」
翔真「……」
「今回は優衣さんに このような怪我をさせてしまい申し訳ありませんでした」
昨日と同じく頭を深く下げた
別に津軽さんが悪いわけじゃない
事故だし、どちらかと言えば私の判断能力も問われる案件で…
父「頭を上げてください、仕事中に起きた事故だったなら…仕方ないです。昨日 優衣から聞きましたから。それにしても……。」
じ~っと、お父さんもお母さんも翔真も、目が釘付けになっているのは、ゆっくり顔を上げた津軽さんの顔。
そう顔をガン見している
…私が予想していた言葉が飛び交う
母「えぇっ、こんなモデルみたいな人が…優衣の?」
翔真「姉ちゃん、これはドッキリだよね?」
父「まさか優衣の相手がこんな…。しかも警視?いや、そんな訳…」
「ドッキリじゃないしっ!私に失礼だよ」
母「だって、こんな格好いい人と結婚?優衣が?」
「だから私に失礼じゃない!顔は関係ないでしょ!」
「あははっ… なんて言ったらいいのか」
珍しく謙遜する津軽さんと私の家族と、暫く雑談をし、日を改めて実家に挨拶に行くと話は纏まりお父さん達は長野を帰って行った
「来てくれてありがとうございました…」
ペコリと頭を下げれば津軽さんは意外な事を言う
「あーー緊張したぁ」
「津軽さんでも緊張するんですね」
「いやいや…するでしょ。こんな怪我させて反対されるかもって思うよ」
そっと触れた額の傷。医療用のテープは張られたままで、綺麗に治るにはかなり時間がかかると言われていた
さっきは私も少し動揺していて津軽さんの緊張に気づけなかったけど、確かに頬が緊張で固まってたかな…
そうやって私たち二人の事に真剣に向き合ってくれている
本当に生きていて良かった、もっともっと津軽さんと生きていたいから。
「そうそう、優衣に確認しなきゃいけない事があって」
仕事モードに切り替わった津軽さんに こちらも身構える
「はい?」
「君が死守したパソコン、パスワードが切り替えられてて どうやら優衣が書き換えたんだよね」
「あぁ…そうなんですか…。」
「まあ、記憶が飛んでるから分からないと思うけど」
「パスワードは✕✕✕✕✕✕✕✕です」
「はあ?記憶戻ったの?」
「全然ですが、頭に浮かんだ数字です」
「君と俺の誕生日をランダムにした8桁ねぇ」
私の事件の記憶は一切戻ってなくて、それでもパスワードを問われて浮かんだ数字はそれだった。
根拠とかないけど、私、なら時間の無い中でパスワードを書き換えたなら同じ数字だと思うから。
「間違いないと…思うんですけど」
「…たぶんさ、優衣はパソコン抱えながら俺のこと、考えてたんだろうね」
「ですね、そう思い………あ、…痛っ…!」
「優衣!?」
津軽さんに身体を支えられて激しい頭痛と吐き気に襲われる
頭の中に色んな映像と爆薬の臭いと恐怖心が…甦ってきたのは一瞬の出来事で、意識が遠退きそうになる意識を保つのが精一杯だった
ーー 退院日 ーー
「どうなる事やらと思ってたけど、食らいついてくるよね~」
午後休を取ってくれた津軽さんに 車で迎えに来てもらっていた
「笑い事じゃないですよ!私の部署移動の話が出てたなんて…身の毛のよだつ思いです…」
実は私が記憶を一部無くした事で 公安の素質を上層部から問われ移動の話が出てたそうだ
銀室長が庇ってくれてたらしい…。
本当に情けない…
そして無事に記憶は戻り、パソコンのパスワードも合っていたため捜査が進んでいる!
「ほんと、転んでも立ち上がる子だよね」
「申し訳ありませんでした…色々と津軽さんには心労を与えてしまいましたよね」
「だから、今夜は優衣が癒すんでしょ?」
「えっ…あ、はい…」
「昼飯、食べなかったんでしょ?お寿司食べて帰ろっか?」
「お寿司!食べたいです!病院は生もの出ないので 実は凄く食べたくて。あ、回転する方にしましょうよ。 結構美味しいんですよ、あ~楽しみ」
「さっきは照れてたくせに、お寿司に夢中過ぎない?お寿司の方が興奮するなんて…そういうフェチだったんだ」
「そ、そんな、お寿司フェチって日本人は お寿司好きだから皆がフェチですよ」
「あははっ やっぱ優衣がいると楽しいよ」
(あ…私の好きな顔!こうして…笑っていて欲しいな)
日常に津軽さんがいる。
それが重なって過去と今と未来ができていく
「いつかの未来に、思い出して笑えたら良いですよね」
「ん?…うん、だね」
2人の薬指のペアリングが光っている
手を伸ばせば届く距離
『初めまして 津軽班 班長 津軽高臣です』
初めて会ったあの日、他の人と何か違うと思った
運命で結ばれていた人。
な~んてロマンチックすぎる。恥ずかしくって口には出せなかった。
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