君があふれてる
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優衣が特捜2課所属の女子、菜々子ちゃんと友達になったと聞かされてから数ヶ月が経つ
共通点が多くあっという間に意気投合していた
元交番勤務、男ばかりの課に女1人などなど
一番は同じ課に恋人がいる所なんだろう
とは言え、俺が彼氏とは言っていないから、一方的に、菜々子ちゃんの彼氏との話を聞かせてもらいドキドキワクワクしてると言っていた
何を話してるのか、あまり俺には教えてくれない
優衣的には本人のいない所で、警視の彼氏にあれこれ話すのは違うと真面目だから考えてるんだと思う
まあ、優衣にも同じ課に彼氏がいるのは菜々子ちゃんにはバレバレだろう
それなりに頭がキレるから あの、はみ出し2課でやってきたんだと思う
警察庁の女子の噂話だと婚約してるらしい あの男ならその辺しっかりしてそー
(俺だって優衣に婚姻届を渡してるし!)
(………。)
(ちょっと土俵が違う気がするけど)
そんなこんなで自宅のソファーでグダグダしてると、プライベート用のスマホの着信
もちろん画面には 優衣の文字
ほぼ定時で帰宅した俺は軽く夕食を済ませ優衣待ちをしていた
「おい、グズがっ いつまで俺を待たせる いい度胸してんな」
『えぇっ 加賀さんを憑依させないでくださいよ』
あービックリしましたよ と焦る声に、早く会いに来て欲しくてイタズラは続行する
「あたしをこんなに待たせるなんてアンタ何様!?5分以内よ さっさと会いに来なさい!」
『今度はツンデレ女子っ? えっとコンビニ前なんで5分はちょっと…』
「あははっ ウソ。急いで怪我したら嫌だし」
『はいっ でも急いで行きますね』
通話が終わると自然に頬が緩むのを感じる
本当は2人とも定時で帰り、一緒に夕飯を食べる予定が菜々子ちゃんから連絡があり俺がフラれた
(まだ21時前だし優衣とアレやコレや出来るし、まっいっか)
ピンポーン♪
「ただいまです!」
結局、走ってきた様子で、はあはあ肩を揺らしてる。5分以内…
へらっと笑う笑顔は相変わらず年齢より幼く見える。真っ直ぐ見つめてくる素直な表情はいつでも
(かわいー からのっ かわいい…)
「はあはあって優衣、発情しすぎ さすがに津軽さんも ひくんだけど」
「も~この間から発情って言葉ブームですね 津軽さんとの夕食ドタキャンしちゃったし、それに早く…アレ…じゃないですか…」
顔を赤らめ目をそらす。
「アレとは!!?」
わざとビックリした風に言う
(ほらほらっ 優衣が素直な内に言わせたい)
(俺も早く上司じゃなく恋人として会いたかったよ)
「あっ!彼氏に話して良いよって言ってくれた、とっておきの話がありまして!」
「ぶった切るんかい まーいいけど」
手をひいてソファーに座らせる
「菜々子さん、結婚式の日にちも決まって新婚旅行も日程を調整中だそうです!」
「マジか」
あの2課とは合同捜査や、謎に温泉で鉢合わせしたりしてるため…
あいつらが…感慨深い。
「津軽さんとか上の方なら知ってるのかなと思ったら初耳みたいですね」
「さすがに、警視庁の結婚事情は入ってこないよ。婚約したってだけ噂で聞いたくらい」
「幸せそうでした。あとほらっ、同じ課で働き続ける…そーですよ?」
おずおずと上目遣いで天然あざとくコチラを見上げる
「次は私の番かしら…みたいな?」
優衣の鼻をふがっと言わせて
今は
冗談っぽく終わらせようとする俺は相当
狡い
でも前とは心境は変わってきているし、少し話をする
「もう少し土台を作りたいから。分かるよね?」
「あ、もちろん分かってます。銀室にいたいし私自身が成長しないと いけないので」
「抱きしめていい?」
「お、お願いします」
「シャワーは後でいい?」
「それはっ 走って汗かいたので、すみません」
「じゃあキスしていい?」
「カサついてますが…お願いします!」
素直に目を閉じて顔をこちらに向ける。
恋人関係が安定し 優衣から貰える、ありとあらゆる事に満たされていた
幸せってやつで
自分が前に進んでると、ごく自然に感じる
たしかに少しカサついてるけど ふわっとして温かい
(ほんと 特別な女の子。ずっとこの子といるんだろうな)
(っていうか優衣がそれで良いって言ってくれるなら、死ぬまでずっと…)
そんな風に考えられるようになっていた
無意識に…あれこれ言い訳を頭で考えず思った言葉
「優衣が好きだよ。ちゃんと真剣に考えてる。一緒に段階を踏んで行ってくれる?」
「はい。ありがとうございます。幸せです」
夜は、まだまだ長い。優衣の期待に満ちた顔さが誘ってくる
________ __ __
数日後
大きな事件を抱えていないため 定時で帰れると踏み 優衣が前から行きたがっていた信州料理の店に予約を入れた
前日に伝えたため優衣は持ってきた私服に着替えたいと言い時間差で店に向かう事に。
警察庁にわりと近い、その店の前に着くとlineがなる『あと5分くらいで着きます』
こーゆう待ち合わせも恋人っぽくていいな~。
優衣、なに着てくるかな~なんて考えてると
よく見知った顔が現れる
!!
「…あれ~?なんで兵吾くんと秀樹くんが一緒にいんの っていうか、2人ともこの店?」
二人して眉間にシワを寄せる
(どーゆー偶然よ。てか偶然?黒澤が何かやった?)
(やばっ優衣来ちゃうじゃん)
「少し任務の話をするだけだ」
「俺は戸穏の酒があるから来てやっただけだ」
「あのさぁ、別の店に行ってくれな-----」
「つーがーるーさあ~ん」
よりによってアホ可愛い声で小走りで手を振りやってくる優衣
ご丁寧に薬指にはペアリングをつけて
お気に入りのワンピースがふわふわ揺れてスーツ姿とは全く印象が変わる
看板で死角なのか俺しか見えてないのか兵吾くん、秀樹くんに気が付かない
「はあっ…はあっ…また走って来ちゃいま…んっ!?あ、れ?」
三人揃ってる俺たちを見て、説明を求めるような目を俺に向ける
うちのかわいい斑の子だからご褒美と、でも言って店に入ればいいのだが…
(咄嗟の時にどう切り抜けるか 訓練 もいいかな)
(さあ! どうする? 公安刑事、吉川優衣!)
あえて何も言わずニッコリしてみる
「え、えっ?あの…」
俺たちの顔を順番に見て困惑している
秀樹くんは真っ直ぐ優衣を見て観察し、兵吾くんは遠い目をしながら、面倒に巻き込まれたって顔
(ははっ オモシロ)
キョロキョロしてから、じっと俺を見つめてくる
もう降参?ま、助けてあげるかっ
「津軽さん、そーゆーイベント発生中…ですか?」
眉を八の字に下げ顔は赤くなっていた
「ウサちゃん…?」
「嬉しいです!…ありがとうございます 嬉しいっ!」
両手を頬に持っていき涙を浮かべて今にも一粒こぼれそうになっていた…
どうしよう~嬉しい~と嬉し泣きしながら、悶える優衣…
(いや、どうしようは こっちだよ?)
男三人は《どうしよう》と、息をのんでるのに興奮した優衣は気付きもしない
(てか…そんなに泣くほど嬉しいんだ)
訓練しようとした罪悪感と、恋人の勘違いの可愛さに胸が苦しくなる
(優衣の言うイベントってあれだよね)
銀室、班長に交際の報告
菜々子ちゃんの話や、先日の俺の話で勘違いしたのであろう
「吉川、ここは出入り口前だ。邪魔になるから中に入ろう」
「クソホクロの奢りだ、たんまり食うか」
えーーー??二人が乗った…
―ーーーー ー ー
なに、このナゾ空間
和室に4人でテーブルを囲む
一応、俺の隣に優衣を座らせ、おのおの好きな酒を呑む
!!
(んっ??おいおい…優衣が長野りんごの果実酒、一気飲みしちゃったじゃん!あ~あ~警察官が一気飲みとかやめろよ…)
「石神さん!加賀さん!」
「……」
「……」
二人は黙ってグラスをテーブルに置く
「ウサちゃん、あんまり興奮しないで、もうすぐ信州サーモンとステーキくるからね。よしよし」
「もうっ 津軽さんが言いにくいなら私がっ」
「グラス空だよ、杏酒にする?」
スッっと向けられた優衣の鋭い目は 少し怒った様子で…
もう酔ったのか?とか考えてたら
「酔ってしまう前に、ここは是非 私に言わせてください」
「ウサ、どしたの。まあまあ、次の酒くるまでウサギはサラダでも食べてなよ」
石神「津軽」
加賀「うるせぇ」
「なにさ、二人して仲良く」
「津軽さん、ちょっと黙っててもらえますか?」
「……。」
優衣が座布団からずれて、畳に座り直し、いきなり土下座をした
! ! !
「申し訳ありません!直属の上司を好きになってしまい気持ちを押さえられませんでした!お付き合いが始まってからも 私は公私混同せずやっててきたつもりです!」
頭をあげた優衣は続けた 真っ直ぐ目の前の二人を見て
「私が責任を持って津軽さんを大事にします。どうか私たちの交際を見守ってください」
「……」
「……」
「……。」
こんな…さ、
ドッキリでした~
で、終わらそうとか考えてた自分が狡すぎて、ダサすぎて…
(こんなの、こんな…)
自分の言葉で真摯に話してくれた、俺への愛。
(ほんっっと、、、俺を泣かそうとするの、得意だよね…?)
ここで感情を出せず ポーカーフェイスで いるしかないのは
目の前には 意外と真剣に話を聞いている二人の班長がいるから
いつもの公安刑事 津軽高臣をこんな時でも捨てきれないでいる
石神「吉川が、日々精進している姿は元教官として誇らしい。お前たち二人の事をとやかく言う理由はない」
加賀「テメェらが今更なにやってよーが関係ねーよ。好きなだけセック…うぐ!」
兵吾くんらしい洗礼を受けそうになるが隣の秀樹くんが、脇腹をどついてくれ難を逃れる
「お二人とも…ありがとうございます!」
満面の笑みは俺にも向けられる。良かったです!と顔に書いてあった
もともと、この二人は俺たちが付き合ってるのを気付いていた
優衣も特に話題にした事は無かったが、知られてる事は分かっていた
わざわざ報告する意味なくない?それこそ、ちゃんと婚約した時だろ
それが俺の考えだったわけだが…
ド直球で向けられる優衣の愛情をこんな形で再確認することになった
(ほ~んと この子は…眩しくて。良いのかな、俺で…)
一人確信に迫ることを言わず、優衣にだけ話させた自分のダサさだけが浮き彫りになった今。
三人さんは和気あいあいと運ばれてきた料理をつまみ始めていた
「サーモン美味し~い お酒が進む~ あれ津軽さん、その八幡の七味かけないんですか?
」
「あー、うん。かけるとこ」
色々 呆気にとられてしまい、いつもの調子が戻らない
「お前、クソホクロみてーな根性のない男のどこがいーんだ?」
「同意だな、てっきり後藤と…と思ってたが」
「はぁ~?お気に入りを俺に取られたからって妬かないでよね あと誠二くんじゃウサの手綱取れないって~」
「あの!!」
おかわりしたリンゴ酒を空にしテーブルにドンとグラスを置いた優衣の目は…据わっていた
「つがぁるさんは、男らしいです!!」
(なんの宣言よ…ははっ…)
「信頼できるし~、強いし~、頭がいいし~優しいし~、努力家だし~、センスがいいし~、面白いし~、思慮深くて~、ねちっこくて可愛いいんでつよぉ~」
この酔っぱらいさんは、すでにカラになってるグラスをグイっとあおり
「想いを形にするやり方って 人それぞれじゃないれすかぁ?」
「俺は絡まれてるのか…」
「うぜぇ…」
「ウーサー?酔っぱらってるよ?今日はアルコールおしまい。ウーロン茶たのむから」
「えー…楽しく…呑んで……」
って言いながら目を閉じてるし!
「津軽、ほら座布団だ 寝かせてやれ」
秀樹くんの温もりで優衣を寝かせたくないが身体が痛くなっては可哀想だし受けとる
「このグズはプライベートとなると酒弱ぇ~からな これはお前に対しての貸しだ」
兵吾くんまで座布団をくれる
…色々言いたい事はあるが 俺の横に座布団を4枚並べ
「ほら、ウサ ここに」
手でポンポンと座布団を示せば
「ふぁぁ~ぁ…」
無防備なあくびをひとつ
ゴロンっ
「…おやすみなさ…」
目を閉じれば眠りの世界に落ちていくのが分かる
その後は 特に俺たちの事を話題にすることなくお開きとなり 精算し個室に戻ると
事件は また起きていた
ガラっ
「ですからー津軽さんを尊敬してるんです。それでいて 命懸けで私を助けてくれたので、今度は私が命懸けで助けたいと思ってます!」
覚醒した優衣は二人の間にちょこんと座り饒舌に喋っている
「…心がけ "だけ" なら評価しよう」
「テメェに出来るか こんなプニプニで」
優衣の二の腕を揉む兵吾くんに殺意が…
「っ…! ウサ帰るよ~」
「はいっ 今日はお二人とも、お時間頂きありがとうございました!」
いつまでも深々と頭を下げる優衣を引っ張っり、店を出てタクシーに乗り込んだ
―ーーーー ー ー
忘れ物をした。と、一旦 自分の部屋に寄った優衣は俺の部屋にやって来た
順番にシャワーを浴びると リビングにも、真っ暗な寝室にも優衣の姿は無かった
「かくれんぼ~?優衣~?」
「ここでーす」
ベランダに小さな影を見つけ窓を開けようとすると何故か窓を押さえて開けさせない
「どしたの?窓開けさせて。津軽さんが抱き締めてあげるから」
……儚い表情に
心臓がドクドク激しくなる
何かが起きる予感
(今日の事…呆れた?私にだけ言わせてカッコ悪いって?ダサいって?)
すぐにでも抱きしめたい
風呂上がりのスッピンの彼女は
美しかった
「このまま聞いてください」
「…うん、」
右手のひらを 窓ガラスにあてられれば あの日の事を自然に思い出し ガラス越しに手のひらを重ねた
「今日は ありがとうございました。でも…後悔してるように感じました。私たちの話するの」
「思ってないって。優衣任せにして、ごめん」
「隠さないでください。あと私も喋りすぎてしまってごめんなさい」
「後悔はしてないから。ねっ?」
「今日の事があったからでなく…いえ、正確には後押しされました」
「ん?」
「もう諦めてください」
「……な、にを?」
何を諦めれば…?
「私は絶対に津軽さんの手を離しません。隣にいて離れません。幸せになっていいんですよ。だから、諦めて…」
真っ直ぐ俺を見据えてくる彼女は、夜なの朝陽が眩しいみたいに…
「私と結婚してください」
! ! ! !
「ちょっ…!!ええっ…?」
(うそだろ!プロポーズ…された)
(し、心臓がっ 止まる! やばい!)
(そんな綺麗な瞳でこっちを見ないでくれっ…)
ガラっ
ベランダの窓ガラスが開けられ、優衣が左手で持っていた紙を差し出した
「寝室の天井にでも飾ってください」
ってことは
! ! ! !
妻になる人 吉川優衣
「き、君ね…俺の事、コロス気?」
もう立っていられず、その場にしゃがみこむ
「そういう訳じゃ…。今すぐじゃなくても…って意味の天井ですよ」
視線を合わせるようにしゃがみこんだ優衣は、ふふっと嬉しそうに笑った
悪い話ではなく ホッとした気持ちもあり 少し心臓も 落ち着きを取り戻し出す
「婚姻届、またこの部屋に戻ってきたわけか」
「サプライズ、成功です!」
「あ~ 明日 モモにウサに殺されかけたって報告しよ…」
「ズルイ! 堪忍してください~」
ぎゅっ…と抱きつかれれば、今日はバグすらしてなかったと思い出す
「はぁぁ、とりあえずベッドいこ。立ち上がらせてっ」
「もー、子どもみたいですね、もしかして びっくりして腰が抜けました?」
手をひっぱられ立ち上がり、ベッドに座った
(確かに半分抜けたけど…)
「君には いつも負けてるけど」
「そうですかね??」
そっと小さな身体を押し倒し、覆い被されば優衣の瞳は、期待で揺れた
「ここでは負けない」
「た、たまには…私が勝ってる時も」
「あれは~優位に立たせてあげてんの」
「う、悔しい…津軽さんの手のひらって事ですね…」
太ももの内側を撫でれば、ピクッと反応する身体
「する?勝負?」
「………」
赤い顔はプイッと横を向いてしまい
「…?あれ、し、したくないなら いいんだけど、寝る?」
「勝負…とかでなくて…早くしたいです」
控えめに手を回してくる優衣の潤んだ瞳にぐっとくるものがある
「…いーよ、可愛がってあげる」
なけなしの余裕を見せて 触れるだけのキスをする
顔が赤いのは酒が抜けないからか、この先の展開に恥ずかしさと興奮があるからか
正直すぎる君に誘われるように濃密な時間はいつもより…
―ーーー ― ー
朝
深夜まで優衣を抱いてしまい、ゆっくりと8時に目を覚ます
今日は二人とも午後から出勤で夜は歌舞伎町を巡回となっていた
以前よりも少なめに入れるレモンが入ったレモンコーヒーをキッチンで作っていると
『ひぃやああああああああ~~~!!!』
『な、な、な、なあっんで!?げほっげほっ…』
ドタバタ、
(寝起きが元気すぎんだろ…あ、走ってくる)
バタンッ
「これっ!!」
左手をこっちに付き出してくる
キッチンまでバタバタ来た彼女は俺のTシャツをぶかっと一枚着ただけの無防備さ
「おはよ」
「…おは、おはようございます…こ、この左手の指輪が…昨日と…ち…」
「え?違う指輪だね。朝食はパン?ご飯ならチンするけど?」
「…パンで」
じぃ~~~っとダイヤ付き指輪を見つめる優衣の唇がむにょむにょと色々言いたげに動く
「とりあえず、レモンコーヒー出来たし向こうで飲もう」
ソファーに くっついて座りコーヒーはテーブルに。
「何か言いたげだね?不満だった?」
「そんな!不満だなんて だってこれ…」
震える右手でダイヤに触れ ひゃあっと小さく声をあげる
「嫌なら返して」
あっ! と慌てる優衣の左手からスッと指輪を取ってしまえば腕にすがり付いてくる
「津軽さん、宝石店って…早朝あいてませんよね?」
「…かもね」
「じゃあ…この部屋に用意されてた…と思っていいのでしょうか?」
「………」
「無言は肯定…ですよ?私にくれたんですよね?」
「もしかして…欲しいの?」
「はい!是非!今すぐに!」
即答で返ってきて優衣らしい
「ふぅん、どうしようかな」
「…津軽さんっ…欲しいです!お願いします!」
懇願し上目遣いで見てくるのは、優衣流の無意識あざと技
(ほんっとうに、この子は…)
立ち上がり優衣の前で跪く
顔をみると見開かれた目と目が合う
「優衣、これからも大切にするから。結婚しよ」
「……はい!」
指輪をはめるのに少し震えてしまい苦笑し優衣をみれば赤く染まった頬の君が微笑み返してくれる
たぶん、いや絶対 俺だって赤い
" 未来 " 君が初めて教えてくれた
色んな事があったし、これからも色んな事があるんだろう
君と俺の未来は交わらないと諦めていたのに君はいつだって
大丈夫!と、隣で手を握り続けてくれた
夕暮れが怖くない…と言えば嘘になる
俺が幸せになるなんて あり得ない話だと、思い続けた呪縛は重いものだ
それでも優衣の存在は俺の世界を変えてくれた
あの日『優衣の事フツウに幸せにしたい』
そう思った気持ちに最近は自信を持てたから、いつでも渡せるように買って置いた婚約指輪だった
いつ渡すか?
初めて好きになった特別な女の子とまだ恋人を楽しみたい気持ち
公安刑事として優衣を自分の下で…育てたい気持ち
優衣が俺たち二人の子どもが欲しいと言ってくれた気持ち
足踏みしてる内に優衣の勘違いと、プロポーズだった
(…先にやられるとはね~)
「パンツ見えるけどいいの?」
「くっ、…余韻に浸るって概念は無いんですかね、津軽さんには」
モゾモゾとTシャツで隠しながらも着替えに行くより一緒に居たいのだろうと思うと…
からかいつつ、嬉しい
「津軽優衣になるのに、いつまで津軽さんって呼ぶの?」
「津軽…優衣!」
「えっ? 吉川高臣になろうか?いいよ」
「いえいえっ、破壊力に圧倒されただけでして、つ、津軽優衣になる憧れがあったので!お嫁に行かせて下さい!」
「………」
お嫁さん…!!
「…?着替えたら朝食作りますね」
「優衣の両親と弟くんに結婚の挨拶に行きたいし、予定合わせよう?連絡しておいてもらえる?」
「!!…え、え、ほんとにですか?」
「なにその反応…もうマリッジブルー?プロポーズしたの誰よ?」
「津軽さん?かな」
「優衣かな~」
「じゃあ、両方って事にしましょう」
「ん。さて、余韻に浸りたいんだっけ?」
「今!?」
「おーいで」
両手を広げれば抱きついてくる 強くて柔らかくて温かい存在
今度は夫婦として歩いて行こうか。
共通点が多くあっという間に意気投合していた
元交番勤務、男ばかりの課に女1人などなど
一番は同じ課に恋人がいる所なんだろう
とは言え、俺が彼氏とは言っていないから、一方的に、菜々子ちゃんの彼氏との話を聞かせてもらいドキドキワクワクしてると言っていた
何を話してるのか、あまり俺には教えてくれない
優衣的には本人のいない所で、警視の彼氏にあれこれ話すのは違うと真面目だから考えてるんだと思う
まあ、優衣にも同じ課に彼氏がいるのは菜々子ちゃんにはバレバレだろう
それなりに頭がキレるから あの、はみ出し2課でやってきたんだと思う
警察庁の女子の噂話だと婚約してるらしい あの男ならその辺しっかりしてそー
(俺だって優衣に婚姻届を渡してるし!)
(………。)
(ちょっと土俵が違う気がするけど)
そんなこんなで自宅のソファーでグダグダしてると、プライベート用のスマホの着信
もちろん画面には 優衣の文字
ほぼ定時で帰宅した俺は軽く夕食を済ませ優衣待ちをしていた
「おい、グズがっ いつまで俺を待たせる いい度胸してんな」
『えぇっ 加賀さんを憑依させないでくださいよ』
あービックリしましたよ と焦る声に、早く会いに来て欲しくてイタズラは続行する
「あたしをこんなに待たせるなんてアンタ何様!?5分以内よ さっさと会いに来なさい!」
『今度はツンデレ女子っ? えっとコンビニ前なんで5分はちょっと…』
「あははっ ウソ。急いで怪我したら嫌だし」
『はいっ でも急いで行きますね』
通話が終わると自然に頬が緩むのを感じる
本当は2人とも定時で帰り、一緒に夕飯を食べる予定が菜々子ちゃんから連絡があり俺がフラれた
(まだ21時前だし優衣とアレやコレや出来るし、まっいっか)
ピンポーン♪
「ただいまです!」
結局、走ってきた様子で、はあはあ肩を揺らしてる。5分以内…
へらっと笑う笑顔は相変わらず年齢より幼く見える。真っ直ぐ見つめてくる素直な表情はいつでも
(かわいー からのっ かわいい…)
「はあはあって優衣、発情しすぎ さすがに津軽さんも ひくんだけど」
「も~この間から発情って言葉ブームですね 津軽さんとの夕食ドタキャンしちゃったし、それに早く…アレ…じゃないですか…」
顔を赤らめ目をそらす。
「アレとは!!?」
わざとビックリした風に言う
(ほらほらっ 優衣が素直な内に言わせたい)
(俺も早く上司じゃなく恋人として会いたかったよ)
「あっ!彼氏に話して良いよって言ってくれた、とっておきの話がありまして!」
「ぶった切るんかい まーいいけど」
手をひいてソファーに座らせる
「菜々子さん、結婚式の日にちも決まって新婚旅行も日程を調整中だそうです!」
「マジか」
あの2課とは合同捜査や、謎に温泉で鉢合わせしたりしてるため…
あいつらが…感慨深い。
「津軽さんとか上の方なら知ってるのかなと思ったら初耳みたいですね」
「さすがに、警視庁の結婚事情は入ってこないよ。婚約したってだけ噂で聞いたくらい」
「幸せそうでした。あとほらっ、同じ課で働き続ける…そーですよ?」
おずおずと上目遣いで天然あざとくコチラを見上げる
「次は私の番かしら…みたいな?」
優衣の鼻をふがっと言わせて
今は
冗談っぽく終わらせようとする俺は相当
狡い
でも前とは心境は変わってきているし、少し話をする
「もう少し土台を作りたいから。分かるよね?」
「あ、もちろん分かってます。銀室にいたいし私自身が成長しないと いけないので」
「抱きしめていい?」
「お、お願いします」
「シャワーは後でいい?」
「それはっ 走って汗かいたので、すみません」
「じゃあキスしていい?」
「カサついてますが…お願いします!」
素直に目を閉じて顔をこちらに向ける。
恋人関係が安定し 優衣から貰える、ありとあらゆる事に満たされていた
幸せってやつで
自分が前に進んでると、ごく自然に感じる
たしかに少しカサついてるけど ふわっとして温かい
(ほんと 特別な女の子。ずっとこの子といるんだろうな)
(っていうか優衣がそれで良いって言ってくれるなら、死ぬまでずっと…)
そんな風に考えられるようになっていた
無意識に…あれこれ言い訳を頭で考えず思った言葉
「優衣が好きだよ。ちゃんと真剣に考えてる。一緒に段階を踏んで行ってくれる?」
「はい。ありがとうございます。幸せです」
夜は、まだまだ長い。優衣の期待に満ちた顔さが誘ってくる
________ __ __
数日後
大きな事件を抱えていないため 定時で帰れると踏み 優衣が前から行きたがっていた信州料理の店に予約を入れた
前日に伝えたため優衣は持ってきた私服に着替えたいと言い時間差で店に向かう事に。
警察庁にわりと近い、その店の前に着くとlineがなる『あと5分くらいで着きます』
こーゆう待ち合わせも恋人っぽくていいな~。
優衣、なに着てくるかな~なんて考えてると
よく見知った顔が現れる
!!
「…あれ~?なんで兵吾くんと秀樹くんが一緒にいんの っていうか、2人ともこの店?」
二人して眉間にシワを寄せる
(どーゆー偶然よ。てか偶然?黒澤が何かやった?)
(やばっ優衣来ちゃうじゃん)
「少し任務の話をするだけだ」
「俺は戸穏の酒があるから来てやっただけだ」
「あのさぁ、別の店に行ってくれな-----」
「つーがーるーさあ~ん」
よりによってアホ可愛い声で小走りで手を振りやってくる優衣
ご丁寧に薬指にはペアリングをつけて
お気に入りのワンピースがふわふわ揺れてスーツ姿とは全く印象が変わる
看板で死角なのか俺しか見えてないのか兵吾くん、秀樹くんに気が付かない
「はあっ…はあっ…また走って来ちゃいま…んっ!?あ、れ?」
三人揃ってる俺たちを見て、説明を求めるような目を俺に向ける
うちのかわいい斑の子だからご褒美と、でも言って店に入ればいいのだが…
(咄嗟の時にどう切り抜けるか 訓練 もいいかな)
(さあ! どうする? 公安刑事、吉川優衣!)
あえて何も言わずニッコリしてみる
「え、えっ?あの…」
俺たちの顔を順番に見て困惑している
秀樹くんは真っ直ぐ優衣を見て観察し、兵吾くんは遠い目をしながら、面倒に巻き込まれたって顔
(ははっ オモシロ)
キョロキョロしてから、じっと俺を見つめてくる
もう降参?ま、助けてあげるかっ
「津軽さん、そーゆーイベント発生中…ですか?」
眉を八の字に下げ顔は赤くなっていた
「ウサちゃん…?」
「嬉しいです!…ありがとうございます 嬉しいっ!」
両手を頬に持っていき涙を浮かべて今にも一粒こぼれそうになっていた…
どうしよう~嬉しい~と嬉し泣きしながら、悶える優衣…
(いや、どうしようは こっちだよ?)
男三人は《どうしよう》と、息をのんでるのに興奮した優衣は気付きもしない
(てか…そんなに泣くほど嬉しいんだ)
訓練しようとした罪悪感と、恋人の勘違いの可愛さに胸が苦しくなる
(優衣の言うイベントってあれだよね)
銀室、班長に交際の報告
菜々子ちゃんの話や、先日の俺の話で勘違いしたのであろう
「吉川、ここは出入り口前だ。邪魔になるから中に入ろう」
「クソホクロの奢りだ、たんまり食うか」
えーーー??二人が乗った…
―ーーーー ー ー
なに、このナゾ空間
和室に4人でテーブルを囲む
一応、俺の隣に優衣を座らせ、おのおの好きな酒を呑む
!!
(んっ??おいおい…優衣が長野りんごの果実酒、一気飲みしちゃったじゃん!あ~あ~警察官が一気飲みとかやめろよ…)
「石神さん!加賀さん!」
「……」
「……」
二人は黙ってグラスをテーブルに置く
「ウサちゃん、あんまり興奮しないで、もうすぐ信州サーモンとステーキくるからね。よしよし」
「もうっ 津軽さんが言いにくいなら私がっ」
「グラス空だよ、杏酒にする?」
スッっと向けられた優衣の鋭い目は 少し怒った様子で…
もう酔ったのか?とか考えてたら
「酔ってしまう前に、ここは是非 私に言わせてください」
「ウサ、どしたの。まあまあ、次の酒くるまでウサギはサラダでも食べてなよ」
石神「津軽」
加賀「うるせぇ」
「なにさ、二人して仲良く」
「津軽さん、ちょっと黙っててもらえますか?」
「……。」
優衣が座布団からずれて、畳に座り直し、いきなり土下座をした
! ! !
「申し訳ありません!直属の上司を好きになってしまい気持ちを押さえられませんでした!お付き合いが始まってからも 私は公私混同せずやっててきたつもりです!」
頭をあげた優衣は続けた 真っ直ぐ目の前の二人を見て
「私が責任を持って津軽さんを大事にします。どうか私たちの交際を見守ってください」
「……」
「……」
「……。」
こんな…さ、
ドッキリでした~
で、終わらそうとか考えてた自分が狡すぎて、ダサすぎて…
(こんなの、こんな…)
自分の言葉で真摯に話してくれた、俺への愛。
(ほんっっと、、、俺を泣かそうとするの、得意だよね…?)
ここで感情を出せず ポーカーフェイスで いるしかないのは
目の前には 意外と真剣に話を聞いている二人の班長がいるから
いつもの公安刑事 津軽高臣をこんな時でも捨てきれないでいる
石神「吉川が、日々精進している姿は元教官として誇らしい。お前たち二人の事をとやかく言う理由はない」
加賀「テメェらが今更なにやってよーが関係ねーよ。好きなだけセック…うぐ!」
兵吾くんらしい洗礼を受けそうになるが隣の秀樹くんが、脇腹をどついてくれ難を逃れる
「お二人とも…ありがとうございます!」
満面の笑みは俺にも向けられる。良かったです!と顔に書いてあった
もともと、この二人は俺たちが付き合ってるのを気付いていた
優衣も特に話題にした事は無かったが、知られてる事は分かっていた
わざわざ報告する意味なくない?それこそ、ちゃんと婚約した時だろ
それが俺の考えだったわけだが…
ド直球で向けられる優衣の愛情をこんな形で再確認することになった
(ほ~んと この子は…眩しくて。良いのかな、俺で…)
一人確信に迫ることを言わず、優衣にだけ話させた自分のダサさだけが浮き彫りになった今。
三人さんは和気あいあいと運ばれてきた料理をつまみ始めていた
「サーモン美味し~い お酒が進む~ あれ津軽さん、その八幡の七味かけないんですか?
」
「あー、うん。かけるとこ」
色々 呆気にとられてしまい、いつもの調子が戻らない
「お前、クソホクロみてーな根性のない男のどこがいーんだ?」
「同意だな、てっきり後藤と…と思ってたが」
「はぁ~?お気に入りを俺に取られたからって妬かないでよね あと誠二くんじゃウサの手綱取れないって~」
「あの!!」
おかわりしたリンゴ酒を空にしテーブルにドンとグラスを置いた優衣の目は…据わっていた
「つがぁるさんは、男らしいです!!」
(なんの宣言よ…ははっ…)
「信頼できるし~、強いし~、頭がいいし~優しいし~、努力家だし~、センスがいいし~、面白いし~、思慮深くて~、ねちっこくて可愛いいんでつよぉ~」
この酔っぱらいさんは、すでにカラになってるグラスをグイっとあおり
「想いを形にするやり方って 人それぞれじゃないれすかぁ?」
「俺は絡まれてるのか…」
「うぜぇ…」
「ウーサー?酔っぱらってるよ?今日はアルコールおしまい。ウーロン茶たのむから」
「えー…楽しく…呑んで……」
って言いながら目を閉じてるし!
「津軽、ほら座布団だ 寝かせてやれ」
秀樹くんの温もりで優衣を寝かせたくないが身体が痛くなっては可哀想だし受けとる
「このグズはプライベートとなると酒弱ぇ~からな これはお前に対しての貸しだ」
兵吾くんまで座布団をくれる
…色々言いたい事はあるが 俺の横に座布団を4枚並べ
「ほら、ウサ ここに」
手でポンポンと座布団を示せば
「ふぁぁ~ぁ…」
無防備なあくびをひとつ
ゴロンっ
「…おやすみなさ…」
目を閉じれば眠りの世界に落ちていくのが分かる
その後は 特に俺たちの事を話題にすることなくお開きとなり 精算し個室に戻ると
事件は また起きていた
ガラっ
「ですからー津軽さんを尊敬してるんです。それでいて 命懸けで私を助けてくれたので、今度は私が命懸けで助けたいと思ってます!」
覚醒した優衣は二人の間にちょこんと座り饒舌に喋っている
「…心がけ "だけ" なら評価しよう」
「テメェに出来るか こんなプニプニで」
優衣の二の腕を揉む兵吾くんに殺意が…
「っ…! ウサ帰るよ~」
「はいっ 今日はお二人とも、お時間頂きありがとうございました!」
いつまでも深々と頭を下げる優衣を引っ張っり、店を出てタクシーに乗り込んだ
―ーーーー ー ー
忘れ物をした。と、一旦 自分の部屋に寄った優衣は俺の部屋にやって来た
順番にシャワーを浴びると リビングにも、真っ暗な寝室にも優衣の姿は無かった
「かくれんぼ~?優衣~?」
「ここでーす」
ベランダに小さな影を見つけ窓を開けようとすると何故か窓を押さえて開けさせない
「どしたの?窓開けさせて。津軽さんが抱き締めてあげるから」
……儚い表情に
心臓がドクドク激しくなる
何かが起きる予感
(今日の事…呆れた?私にだけ言わせてカッコ悪いって?ダサいって?)
すぐにでも抱きしめたい
風呂上がりのスッピンの彼女は
美しかった
「このまま聞いてください」
「…うん、」
右手のひらを 窓ガラスにあてられれば あの日の事を自然に思い出し ガラス越しに手のひらを重ねた
「今日は ありがとうございました。でも…後悔してるように感じました。私たちの話するの」
「思ってないって。優衣任せにして、ごめん」
「隠さないでください。あと私も喋りすぎてしまってごめんなさい」
「後悔はしてないから。ねっ?」
「今日の事があったからでなく…いえ、正確には後押しされました」
「ん?」
「もう諦めてください」
「……な、にを?」
何を諦めれば…?
「私は絶対に津軽さんの手を離しません。隣にいて離れません。幸せになっていいんですよ。だから、諦めて…」
真っ直ぐ俺を見据えてくる彼女は、夜なの朝陽が眩しいみたいに…
「私と結婚してください」
! ! ! !
「ちょっ…!!ええっ…?」
(うそだろ!プロポーズ…された)
(し、心臓がっ 止まる! やばい!)
(そんな綺麗な瞳でこっちを見ないでくれっ…)
ガラっ
ベランダの窓ガラスが開けられ、優衣が左手で持っていた紙を差し出した
「寝室の天井にでも飾ってください」
ってことは
! ! ! !
妻になる人 吉川優衣
「き、君ね…俺の事、コロス気?」
もう立っていられず、その場にしゃがみこむ
「そういう訳じゃ…。今すぐじゃなくても…って意味の天井ですよ」
視線を合わせるようにしゃがみこんだ優衣は、ふふっと嬉しそうに笑った
悪い話ではなく ホッとした気持ちもあり 少し心臓も 落ち着きを取り戻し出す
「婚姻届、またこの部屋に戻ってきたわけか」
「サプライズ、成功です!」
「あ~ 明日 モモにウサに殺されかけたって報告しよ…」
「ズルイ! 堪忍してください~」
ぎゅっ…と抱きつかれれば、今日はバグすらしてなかったと思い出す
「はぁぁ、とりあえずベッドいこ。立ち上がらせてっ」
「もー、子どもみたいですね、もしかして びっくりして腰が抜けました?」
手をひっぱられ立ち上がり、ベッドに座った
(確かに半分抜けたけど…)
「君には いつも負けてるけど」
「そうですかね??」
そっと小さな身体を押し倒し、覆い被されば優衣の瞳は、期待で揺れた
「ここでは負けない」
「た、たまには…私が勝ってる時も」
「あれは~優位に立たせてあげてんの」
「う、悔しい…津軽さんの手のひらって事ですね…」
太ももの内側を撫でれば、ピクッと反応する身体
「する?勝負?」
「………」
赤い顔はプイッと横を向いてしまい
「…?あれ、し、したくないなら いいんだけど、寝る?」
「勝負…とかでなくて…早くしたいです」
控えめに手を回してくる優衣の潤んだ瞳にぐっとくるものがある
「…いーよ、可愛がってあげる」
なけなしの余裕を見せて 触れるだけのキスをする
顔が赤いのは酒が抜けないからか、この先の展開に恥ずかしさと興奮があるからか
正直すぎる君に誘われるように濃密な時間はいつもより…
―ーーー ― ー
朝
深夜まで優衣を抱いてしまい、ゆっくりと8時に目を覚ます
今日は二人とも午後から出勤で夜は歌舞伎町を巡回となっていた
以前よりも少なめに入れるレモンが入ったレモンコーヒーをキッチンで作っていると
『ひぃやああああああああ~~~!!!』
『な、な、な、なあっんで!?げほっげほっ…』
ドタバタ、
(寝起きが元気すぎんだろ…あ、走ってくる)
バタンッ
「これっ!!」
左手をこっちに付き出してくる
キッチンまでバタバタ来た彼女は俺のTシャツをぶかっと一枚着ただけの無防備さ
「おはよ」
「…おは、おはようございます…こ、この左手の指輪が…昨日と…ち…」
「え?違う指輪だね。朝食はパン?ご飯ならチンするけど?」
「…パンで」
じぃ~~~っとダイヤ付き指輪を見つめる優衣の唇がむにょむにょと色々言いたげに動く
「とりあえず、レモンコーヒー出来たし向こうで飲もう」
ソファーに くっついて座りコーヒーはテーブルに。
「何か言いたげだね?不満だった?」
「そんな!不満だなんて だってこれ…」
震える右手でダイヤに触れ ひゃあっと小さく声をあげる
「嫌なら返して」
あっ! と慌てる優衣の左手からスッと指輪を取ってしまえば腕にすがり付いてくる
「津軽さん、宝石店って…早朝あいてませんよね?」
「…かもね」
「じゃあ…この部屋に用意されてた…と思っていいのでしょうか?」
「………」
「無言は肯定…ですよ?私にくれたんですよね?」
「もしかして…欲しいの?」
「はい!是非!今すぐに!」
即答で返ってきて優衣らしい
「ふぅん、どうしようかな」
「…津軽さんっ…欲しいです!お願いします!」
懇願し上目遣いで見てくるのは、優衣流の無意識あざと技
(ほんっとうに、この子は…)
立ち上がり優衣の前で跪く
顔をみると見開かれた目と目が合う
「優衣、これからも大切にするから。結婚しよ」
「……はい!」
指輪をはめるのに少し震えてしまい苦笑し優衣をみれば赤く染まった頬の君が微笑み返してくれる
たぶん、いや絶対 俺だって赤い
" 未来 " 君が初めて教えてくれた
色んな事があったし、これからも色んな事があるんだろう
君と俺の未来は交わらないと諦めていたのに君はいつだって
大丈夫!と、隣で手を握り続けてくれた
夕暮れが怖くない…と言えば嘘になる
俺が幸せになるなんて あり得ない話だと、思い続けた呪縛は重いものだ
それでも優衣の存在は俺の世界を変えてくれた
あの日『優衣の事フツウに幸せにしたい』
そう思った気持ちに最近は自信を持てたから、いつでも渡せるように買って置いた婚約指輪だった
いつ渡すか?
初めて好きになった特別な女の子とまだ恋人を楽しみたい気持ち
公安刑事として優衣を自分の下で…育てたい気持ち
優衣が俺たち二人の子どもが欲しいと言ってくれた気持ち
足踏みしてる内に優衣の勘違いと、プロポーズだった
(…先にやられるとはね~)
「パンツ見えるけどいいの?」
「くっ、…余韻に浸るって概念は無いんですかね、津軽さんには」
モゾモゾとTシャツで隠しながらも着替えに行くより一緒に居たいのだろうと思うと…
からかいつつ、嬉しい
「津軽優衣になるのに、いつまで津軽さんって呼ぶの?」
「津軽…優衣!」
「えっ? 吉川高臣になろうか?いいよ」
「いえいえっ、破壊力に圧倒されただけでして、つ、津軽優衣になる憧れがあったので!お嫁に行かせて下さい!」
「………」
お嫁さん…!!
「…?着替えたら朝食作りますね」
「優衣の両親と弟くんに結婚の挨拶に行きたいし、予定合わせよう?連絡しておいてもらえる?」
「!!…え、え、ほんとにですか?」
「なにその反応…もうマリッジブルー?プロポーズしたの誰よ?」
「津軽さん?かな」
「優衣かな~」
「じゃあ、両方って事にしましょう」
「ん。さて、余韻に浸りたいんだっけ?」
「今!?」
「おーいで」
両手を広げれば抱きついてくる 強くて柔らかくて温かい存在
今度は夫婦として歩いて行こうか。
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