その日は別になんて事ない１日になる筈だった。道順さんから食べ物の買い出しを命じられた僕はいつも通り近所のスーパーに買い物に向かい適当に買うものを見繕い、近所の家の塀の上で鳴き声を上げる三毛猫を眺めてから公園で遊ぶ子どもたちの声をBGMに今夜の晩御飯は何にするかと考えながら健碁さんの待つマンションに帰宅するといういつも通りの1日の筈なのに何故僕はワンちゃん用の首輪とリードをつけられたて床に正座をさせられているのだろうか。

「健碁さん、これは何ですか？あ、もしかしてそういうプレイですか？」
「黙れ、口を開いていいと誰が言った？」
「ﾓｳｼﾜｹｺﾞｻﾞｲﾏｾﾝﾃﾞｼﾀ」

分からない、この状況もそうだけど何故健碁さんが怒ってるのかも分からない。いや、しかし考えなければならない。何故なら健碁さんは究極の「察しろ」マンだから。妹のエマさんに対しては不器用ながらも優しいお兄さんなのに何故か僕に対しては好きという言葉も中々言ってくれない上に当たりが強いツンデレさんだから。いや、まぁ確かにツンデレは古き良き文化であるし結局ツンデレしか勝たん！な所はあるが、それにしてもツンの成分が多すぎる。むしろ、デレなんてありましたっけ？レベルだ…ん？それは最早ツンデレではなくただのツンなのでは？

「おい、全部言葉として出ているぞ馬鹿犬め」
「まじすか！？」
「くだらんことを考えていないで、その足りない思考を巡らせて俺が考えていることを当ててみろ」
「そんな無茶な…」

健碁さんに考えろと言われたので、僕は大人しく考えることにしたのだが思い当たる節が全く思い付かない。買い出しの材料は指定された物を買ってきたしある種の門限もきちんと守った。エマさんに何かしらちょっかいをかけたつもりもない…駄目だ本当に分からない。完全にお手上げ状態なので静かに健碁さんの方を向いて頭を下げることにした。それに対して返ってきたのは静かな溜息。や、それ本気で呆れてる時の反応じゃないですか。

「まさか、お前がここまで馬鹿だとはな」
「…その馬鹿に抱かれてるくせに」
「殺されたいのかお前は？」
「ﾒｯｿｳﾓｺﾞｻﾞｲﾏｾﾝ」
「まぁいい。お前のような馬鹿には分かりやすく示す方がいいというのは分かった」

そう言って健碁さんは得意の指パッチンをしたのだが、それによりパソコンの画面に映し出されたのは僕と1人の女性であった。端から見れば仲睦まじいカップルか何かに見えるであろう写真であるが何故こんなものを見せるのか、そもそも何故この時の写真を持っているのかについて聞きたいがそこに触れるのは止めよう。どうせサラッと「監視カメラをハッキングした」とか言うんだろうし。この人のITスキル何なんだよ、化け物かよ。

「これは何だ」
「僕の写真、ですね…」
「そうだ、ここに映っているマヌケ面は間違いなくお前だ、ではこの女は誰だ？」

健碁さんは、一見すると冷静に見えるがよく見るとその額には青筋が浮かび上がっているのが分かる。めちゃくちゃお怒りになられている！！その姿に震え上がりながらも僕は必死に言葉を絞り出した。

「その人、は…俺の姉です…」
「…は？」
「普段海外にいる人なので滅多に会わないんですけど、仕事のついでに、俺に恋人が出来たと母親から聞いて茶化しに来ただけです。当然追い返しましたけど」
「…」

身の潔白を証明する為に、僕はスマホから姉ちゃんと撮った写真を見せると少しバツの悪そうな健碁さんと目が合った。

「健碁さんもヤキモチ妬いてくれるんですね」
「…この話は終わりだ」
「待ってくださいよ、浮気を疑われて僕めちゃくちゃ傷付きました。お詫びに一発ヤラせてください」
「黙れ、俺は仕事があって忙しいんだ」
「え！？ここは詫びセックスする流れなんじゃないですか！？ちょっと、健碁さん！！」

その後何とか粘ってみたけど残念ながら詫びセックスは出来なかったのだが、ヤキモチを妬く健碁さんという激レアな姿を見れたから良しとするか。あ、そういえばこの首輪とリード外してもらわないとだ。