私の太子様
「[#dn=1#]様、僕と付き合ってください!」
「えっと…」
困ったなぁ、[#dn=1#]は心の中でため息を吐いた。
朝廷に来てから早数か月。最初の頃は、自分の家柄の事もあり、周囲の人間と
上手く打ち解けられなかった(というより周囲が遠慮していた)
しかし、妹子の協力を得ながらめげずに周囲とコミュニケーションを取ることで、
漸く少しずつ周囲との距離も縮められるようになった。
しかし、それによって別の意味でお近づきになりたいという者も現れた。
それが、今回の様な告白に繋がる。
正直な話、太子との関係を公にしてしまえば、こういったことはなくなるが、
太子と[#dn=1#]は互いに皇族と中央豪族の娘という立場にある為、
簡単に関係を公にすることは出来ない。
そもそも、本来ならば互いの家同士が合意をしなければ許されない関係である。
だから、[#dn=1#]はこれまで太子の実質的側近である妹子と、馬子以外に太子との関係を話してはいなかった。
「ごめんなさい…」
「いえ、お気になさらず。僕と貴女では、身分が違いますから…気持ちを伝えられただけで十分です」
身分、その言葉に[#dn=1#]は身体を震わせた。
身分違いの恋、響きはロマンチックだが現実はそう簡単にはいかない。
こういう時、平民の家に生まれていれば。
例え、貧しくても愛する人と慎ましく生きられたのだろうか、と考えてしまう。
皇族、豪族の生まれというのはどうしてこんなにも窮屈なのか。
そんな風に俯く[#dn=1#]の姿を、木の陰から見つめる一つの影があった。
・・・・・・・・・・・・
その日の午後、朝廷中の人間が一同に集められた。
何でも、太子が全員を集めるように命令したとのこと。
また、太子の馬鹿な思い付きか何かだと皆溜息を吐いたが、今回ばかりは異なるようだ。
中央の上座にて座す太子の雰囲気が違うのだ。
いつもの馬鹿でくたびれたおじさんではなく、
滅多に見せない真剣な顔つきであった。
「太子様、[#dn=1#]様がお出でになられました」
「うむ、入ってくれ」
「失礼いたします、太子様」
そこに、現れたのは普段の仕事着ではなく姫としての正当な着物を身に纏った[#dn=1#]であった。
その姿に、周囲の官吏から女中達は思わず見惚れてしまった。
「[#dn=1#]、私の横に」
「はい」
太子の隣に[#dn=1#]がゆっくりと腰を掛けた。
それを確認した太子は、一瞬[#dn=1#]の方を見て頷いた。
そして、立ち上がりこう宣言した。
「[#dn=1#]は、わ、私の未来のお嫁さんだ!
だから、誰も手を出すなぁああああ!!!」
しんと静まる室内に太子の息を切らす声だけか響く。
[#dn=1#]もまた唖然としていた。
この人は、自分達の立場を分かっているのか。
こんな場所で大々的に宣言してしまえば、否応でも国中に広まる。
そうなれば、あの父は必ずここに来る。
下手をすれば戦にまで発展するかもしれないのに。
それでも、この人は私の為に?
「…た、いし様…」
「…すまない[#dn=1#]。だが、私はお前と本当に夫婦になりたいのだ。[#dn=1#]を愛してるから」
太子の今回の行動は完全に軽率だ。
だから、喜んではいけないと分かっているが、
それでも嬉しくて仕方なかった。
[#dn=1#]の頬に一筋の涙が流れた。