ポケモンまとめ


ブレイブアサギ号のミーティングルームに
重たい空気が漂っている。
その理由は、[#dn=1#]である。
いつも、早く起きて朝食の準備を手伝ってくれる[#dn=1#]が、
今日に限って起きてこなかったので、
マードックが[#dn=1#]の部屋まで起こしに行くと、
既に中はもぬけの殻で、代わりに1枚の手紙があった。

誰にも何も言わず、一人で何処かへ消えた
[#dn=1#]の事を思うとクルー達の胸が締め付けられる。
何か悩んでいたのかもしれない、
自分達にできる事はなかったのだろうか、と

「何でだよ、[#dn=1#]…何も言わず出て行っちまうなんてよ…」
「ねぇ、今から皆で探しに行こうよ!まだそう遠くには行ってないはずだしさ!」
「待って、[#dn=1#]にはフライゴンがいるから、今からだともう間に合わない可能性がある」
「じゃあこのまま放っておけってこと!?
「そんな訳ないだろ!ただ、探しに行くなら何かしら手がかりを探すべきだ!」

[#dn=1#]を探しに行くべきだと主張するオリオとマードック
熱さで冷静さを失いかけている2人とは対照的に冷静に思考するべきだというモリー
そんな3人を前にして、フリードは1人昨夜の出来事を思い出していた。
[#dn=1#]から告白を受けて、それを断った。十中八九それが原因だろう。

あの時の[#dn=1#]の表情が、脳裏に浮かぶ。
気丈にも、返事をくれた事に対する感謝を告げ、
部屋に戻って行った。
だが、それはただの強がりに過ぎなかった。
[#dn=1#]を傷付けたのが自分ならば、責任を取らなければいけない前に
フリードは1人で、[#dn=1#]を探しに行く事を決める

「ドット、[#dn=1#]の場所を探れないか?」
「無茶振りするなぁ…まぁ、出来なくもないけど
アプリを使えば、ある程度の位置情報は割り出せる…うん、[#dn=1#]はこの先の街にいるらしいよ」
「流石だな!ありがとう、ドット」
「あ、ちょ、おいフリード!」
「皆は、ここで待っていてくれ!俺が[#dn=1#]を探してくる!」

フリードは、そう言い残してミーティングルームを出ていった。

**********
[#dn=1#]がいるという街までは、幸いそう遠く離れてはいなかった。
中都市程の規模の街で、道行く人々で街の中は溢れかえっている。

ドットのお陰で、[#dn=1#]がここにいる事は分かったが、
具体的な場所までは特定出来ない。
そんな状況で[#dn=1#]を探し出すことは、
至難の業であるがやるしかない。

フリードは、[#dn=1#]の写真を見せながら
「この女の子を知りませんか?」と住民に聴き込んでいくことにした。
その内の1人が似たような女の子を見かけたと
教えてくれる婦人に出会った。
彼女曰く、この先のカフェで食事をしていた。と
フリードは、婦人にお礼を伝えてから、
急いでそのカフェに向かうことにした。

「[#dn=1#]っ!」
「あ、…」

教えてもらったカフェの前に到着すると、
丁度店から出てきた[#dn=1#]を見つけた。
駆け寄って、彼女の腕を握ると[#dn=1#]は
怯えた表情を浮かべる。

「な、なんで…!」
「ドットに探してもらった」
「っ…!離してください!私は、もう!」
「[#dn=1#]、話を聞いてくれ!俺は、」
「嫌だ!帰ってください!」

[#dn=1#]の悲痛な叫びに呼応するかのように、
彼女のモンスターボールから、
ヘルガーとフライゴンが飛び出してきた。
2匹は、フリードに対して敵意を露わにしながら、
彼女の前に立ちはだかる。

「これは、話を聞いてもらえる感じじゃなそうだな…」

フリードは、ベルトからモンスターボールを手に取る。
[#dn=1#]と冷静に話し合いをする為には、
まずバトルをする事が必要だと、
如何にもポケモントレーナーらしい発想に至る。
気付けば、周囲には2人のバトル観戦目当ての野次馬達が集まり始めていた。

「頼むぜ、リザードン!」
「ヘルガー、お願い!」

互いのポケモンが相対する。
そういえば、こうして[#dn=1#]とバトルをするのは初めてだな、と考えた。
バトルはあまり得意ではないと語っていた[#dn=1#]だが、
目の前にいる彼女の顔は、トレーナーそのものだ
それを見て、[#dn=1#]もそんな顔をするのだと、
フリードは酷く驚いた。

「ヘルガー、えんまく!」

考え事をしていた一瞬の隙を突かれて、フリードは遅れを取った。
ヘルガーのえんまくにより視界が悪くなり、
どこから攻撃が繰り出されるのか予想しづらくなった。

「ヘルガー、あくのはどう!」
「っ、そこか!リザードン、かえんほうしゃ!」

どこからか現れたヘルガーは、身体に漆黒のオーラを纏い、そして、それをリザードンに放出した。
フリードは、攻撃を打ち消そうとリザードンにかえんほうしゃを指示した。
互いの攻撃同士はぶつかり少しの間均衡を保っていたが、
微かにリザードンの攻撃力が上回り、ヘルガーに攻撃が命中した。
ダメージを与えられたかと思った時、フリードはある事を思い出した。

「そうだ、ヘルガーの特性の1つ…もらい火!」

ヘルガーは、リザードンのかえんほうしゃを受けて尚
無傷で直ぐに立ち上がって見せた。

「ヘルガー、さっきのお返しをしてあげて、オーバーヒート!!」
「リザードン、よけろ!」

ヘルガーの全力のオーバーヒートは、リザードンに命中した。しかし、リザードンはダメージを受けながらも何とか堪えてみせたものの状況は、フリードの劣勢である。

「[#dn=1#]、強いな。ここまで追い込まれるとは思っていなかった」
「もう、帰ってください…このバトルに意味はありません」
「いいや、ある。お前に戻ってきてもらわないといけないからな」
「…昨日の事なら気にしないでください。私はもう納得しているので」

[#dn=1#]は、俯いた。隣りにいるフライゴンは、そんな彼女を励ますように
[#dn=1#]の頬に自身の顔を擦り付ける。

「確かに、お前の気持ちに対して俺は応えてあげられない」
「っ、そんなの分かって…」
「だけど、お前の気持ちに俺は向き合いたい」
「…何ですかそれ?」
「1人の女の子としての[#dn=1#]を知りたい。そして、その先でお前を好きになったら俺から改めて気持ちを伝えさせてくれ」
「…都合良すぎじゃないですか、それ?」
「だけど、これが俺の本心だ」

[#dn=1#]は分からなくなった。
初め、フリードが来たのはライジングボルテッカーズのリーダーとして
責任を感じて来たのだと思ったが、とんでもない事を言い始めたので
流石の[#dn=1#]も呆れざるをえない。

自分の気持ちに向き合って好きになったら告白するというのは、都合よく捉えれば、今後チャンスがあるということだ。
しかし、そのチャンスが果たして本当に来るのだろうか、
来るかも分からない不確かなものを信じ続けなければいけなくなる。
それならば、いっそのこと傷の浅い内に
忘れてしまう方が楽なのではないだろうかと。

「[#dn=1#]、戻ってきてくれないか」

フリードの力強いその目に、言葉に
捨てたはずの想いが再び燃え上がる。
[#dn=1#]はまたしても、目の前の男に簡単に堕とされた。
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