ポケモンまとめ
ライジングボルテッカーズに加入してから、早いもので数ヶ月が経っていた。
最初は、クルー達と打ち解けられるか危惧していた[#dn=1#]だが、
その不安は杞憂となっていた。ポケモン達も含めて、
全員が[#dn=1#]を歓迎してくれたからである。
だが、1つだけ問題が起きていた。
それは、あるメンバーとの事である。
「よ、[#dn=1#]おはよう」
「おはようございます、フリードさん」
「[#dn=1#]…そろそろ俺に対して敬語やめねぇか?」
「え、いやいやいやいや!フリードはこの船のリーダーですから!」
「でも、俺以外にはタメ口じゃねぇかよ」
「それは、その…あ!そうだ、そろそろ授業が始まるから行かなきゃ!失礼します!」
「あっ!おい!」
[#dn=1#]は、フリードから逃げるべく全速力で船内の廊下を走り去っていった。
そう、[#dn=1#]にとっての悩みはフリードとの事である。
ブレイブアサギ号に乗船したその日に、
フリードに対する淡い想いを抱き始めてることに気付いた[#dn=1#]は、必死にその想いを打ち消そうと
船での任務や学業に明け暮れると同時に
フリードと距離を置くようにしていた。
何故なら、仲間に対して友好的なフリードは[#dn=1#]に対しても遺憾なく発揮したからだ。
時には、自分の事が好きなのではと
自惚れてしまいかねないぐらい世話を焼いてくれる。
だが、それはチームのリーダーとして円滑な人間関係作りの一環、
そして元来の性格故の好意であることを己に言い聞かせながら、
[#dn=1#]は好意の罠にはハマらないぞと固く心に誓っていた。
何より、フリードがマードックとの会話で
「[#dn=1#]は妹みたいな存在だから目が離せない」と
話している場面に偶然遭遇しまったのだ。
しかし、そんな[#dn=1#]に試練ともいえる出来事が起きた。
「フリードさんと、一緒にお仕事?」
「あぁ、俺の古い知り合いから、この先の森でしか取れない花を取ってきて欲しいと依頼されてな。その森はレベルが高いポケモンが多くてな、そこで[#dn=1#]に協力してもらおうと思ってな」
フリードから呼び出された[#dn=1#]に告げられたのは、
喜びと悲しみが同時に訪れるそんな内容であった。
しかし、断れる訳もなく[#dn=1#]は断腸の思いで首を縦に振った。
「それじゃあ、行くぞ[#dn=1#]!」
「はい、準備はできてます!」
フリードとは、甲板にてポケモンボールを手に取り、それを天高く投げた。
光と共に現れたのリザードンの背中に乗るフリードを見て、
[#dn=1#]も自身のボールを手に取ろうとした時に
フリードがジッとこちらを見ていることに気付いた。
「[#dn=1#]、何してるんだ?」
「え?自分のポケモンに出てきてもらおうとしていました…?」
「あぁ、それならリザードンに乗っていいぞ。万が一逸れたら大変だからな」
「いやいやいやいや!大丈夫です!私のフライゴン、飛ぶの速い子なので!!」
「いいから、ほら早くしないと遅刻しちまうぞ!」
「えー……」
少しの攻防戦を経て、[#dn=1#]はリザードンの背中に乗る事になったのだが、
その溜めには必然的にフリードと密着しないといけない事に気付いた。
「しっかり捕まっておけよ!」
「お、お手柔らかにお願いします…」
自分よりも大きく広い背中
ジャケット越しに感じる体温
日差しに当てられた冒険者の匂い
それらを認識することで、[#dn=1#]の情緒が
崩壊しかねないので冷静さを保つ為に、
[#dn=1#]は空の旅の間は思考を放棄すると決めた。
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「ここだな」
たどり着いたのは深い森であった。
今回の任務内容は、この森でしか採取出来ない花を
見つけるというものである。
「ここでは、絶対に俺の側を離れるなよ」
「はい、分かりました」
「よし、じゃあ行くぞ」
2人は、森の中へ進み始めた。
まだ明るい時間帯の筈なのに森の中は
不気味な程静かで、そして暗く一寸先の闇が広がっている。
時折、茂みの中から野生ポケモンと思わしきものの視線を感じる。
恐らくこちらが一瞬でも隙を見せた時に、襲いかかってくるつもりだろう、
フリードがいるとはいえ、[#dn=1#]自身危険を察知し、
慌てて腰のベルトからボールを取り外しボタンを押した。
「ヘルガー、お願い」
中から現れたのはヘルガーであった。
ヘルガーは、周囲を少し見渡してから
天に向かって遠吠えを上げ始める。
「地獄から死神を呼ぶ声」と称される程
不気味で恐ろしいヘルガーの遠吠えにより、
フリードと[#dn=1#]の周囲にいた野生ポケモン達の気配は消えた。
「ヘルガーの遠吠えとは、考えたな」
「っ、ありがとうございます!」
「ガウッ!」
「ごめんごめん、ヘルガーのお陰だよね」
何気ないフリードの言葉と笑顔に[#dn=1#]は、頬を赤らめた。
そんな[#dn=1#]に気付いたのかヘルガーは、
自分の事ももっと褒めろと言わんばかりに[#dn=1#]の服の裾を甘咬みし引っ張った。
そんな1人と一匹の微笑ましい光景を眺めていたフリードだが、
ふとある事に気付いた。
「雨だ…」
「っ![#dn=1#]、コレ使え!」
「え、でも…!?」
「俺は大丈夫だから!急ぐぞ!」
ポツポツと小雨が降り始めたと思った次の瞬間、大雨に変わり始めた。
フリードは躊躇することなく自身が羽織っていたジャケットを[#dn=1#]に被せ、
戸惑う[#dn=1#]の肩を掴み走り始めた。
雨宿り出来る場所を探す2人の前に、今は使われていないであろう古びた小屋が現れた。
中に入ると埃にまみれてる上に散らかっているが、
背に腹は代えられないということで
2人は小屋で山宿りすることにした。
「止むまで、暫くここで雨宿りだな」
今日1日中だけで何回この複雑な思いと対峙しなければいけないのか、と[#dn=1#]は目眩を覚えた。
フリードと二人きりの任務で、その背中に触れ、ジャケットを被らされ、小屋で雨宿り。
これが少女漫画なら、二人の間に、特別な出来事となるのだろうが
残念ながらコレは現実。都合の良い事なんて起きるわけがない。
[#dn=1#]は、窓の外で降り続ける雨に対して恨めしさを抱きながら睨み付けた。
「[#dn=1#]、リザードンの炎で温まれ、濡れたままだと風邪引くぞ」
「あ、はい!」
[#dn=1#]は、フリードの隣に座りリザードンの火に向けて手をかざした。
当然ながら尻尾の火ぐらいでは雨に濡れた身体を温める事は叶わない。
だが、今日1日の出来事を思い出すだけで[#dn=1#]の体は熱を帯びた。むしろ、そのまま身体を温められるのでは、と思うぐらいだ。
「なぁ、ずっと気になってたんだけどさ」
「はい?」
「[#dn=1#]は、俺の事嫌いなのか?」
「え、なんで…?」
「お前、俺の事避けるだろ?だから、てっきり嫌われたのかと思ってな」
「な、そ、そんなことないですよ!むしろ、す…」
「す?」
「す、…凄く尊敬してます!私を冒険に誘ってくれたし!!」
危うく告白してしまいそうになり、慌てて別の言葉に変換した[#dn=1#]。
フリードは、そんな彼女の言葉を聞いて安心したように笑った。
「そっか、それなら良かった。これからもよろしくな!
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「あ、後俺に対しての敬語もなしな!」
フリードへの想いを忘れたいのに、
逆に深く沼の奥底へ落とされた気持ちになり、
[#dn=1#]は尚一層頭を抱えることになった。