ポケモンまとめ
その日、少女は太陽と出会った。
「はぁ…」
飲食店やアパレルショップを始めとした店
行き交う人々に対して呼び込みの声を張り上げる露天商の店主達
今夜の献立について話しながら歩く親子
次の休みについて楽しそうに話す学生達
多くの人が笑顔を浮かべる中、ただ1人
[#dn=1#]だけは俯きながら大通りを歩いていた。
「帰ったら、またトレーニングか…」
[#dn=1#]はその場に立ち止まり空を見上げた。
青空を漂う雲を見て、[#dn=1#]は雲が心底羨ましく感じた。
何故なら、何者にも囚われることなく自由に空を漂うだけでいいのだから。
自分とは大違いだ、とため息を吐いた。
彼女の家は、ドラゴン使いを始めとしたエリートトレーナー、
そして研究者を多く排出する優秀な家柄であるが、
[#dn=1#]自身はバトルも勉強面の才能もない為、
一族の中では落ちこぼれの部類である。
だからこそ、幼い頃から厳しい修行に取り組み、
セキエイ学園に入学して理論的にポケモンについて学び始めた。
しかし、彼女の懸命な努力は実ることなく気付けば
卒業が目前にまで迫っていた。
卒業するにあたり、[#dn=1#]自身進路を決めていない。
否、やりたいことがないのだ
昔は、ポケモンリーグチャンピオンを夢見ていたが、
不相応な夢だと悟ると同時に挫折し、
いつしか何もかも諦めてしまった。
「こういうの何ていうんだっけ。モラトリアム?」
独り言を呟きながら、[#dn=1#]は視線を地面に落とした。
周囲の喧騒に紛れながら下を向いて歩く自分に対して
情けないと考えていた時に肩に何かとぶつかり、
そのまま尻もちをついてしまった。
「いってぇー!!!!おい、お嬢ちゃんどこ見て歩いてるんだよ!」
「え、あっ…す、すみません!」
「あー、これ肩折れたわ。いてぇもん」
「ガキとぶつかったぐらいで怪我してんじゃねえよ!」
[#dn=1#]がぶつかってしまった相手は、
見るからにタチの悪そうな男2人組であった。
まずいことになりそうだ、と考えた[#dn=1#]はゆっくり後ずさりし、
男達から距離を取ろうとしたが、彼女の思惑は直ぐに男に見抜かれた。
「おい、嬢ちゃんどこに行くんだよ」
「ひぃ!」
「俺、怪我したんだよ。だから嬢ちゃんが弁償してくれや」
「わ、私お金あまりないです…」
「金もいいけどよ、良く見たら嬢ちゃん可愛いじゃねえかよ。
ちょっと俺等と遊ぼうぜ」
「俺、いい場所知ってるぜ。静かで3人きりになるにピッタリな場所をさ」
男達は、[#dn=1#]の肩を無理やり抱き強引にその場から移動し始めた。
恐怖でどうすることも出来ない[#dn=1#]は、
どうにかこの場から逃げようと考えるものの
自分の力では男達を振り払う事は無理だと悟り、
やむなく制服のベルトにポケモンボールに手を伸ばした時だった。
「おい、その手を離してやれ」
背後から勇敢な男の声が聞こえたので、
振り向くとそこには見知らぬ男が立っていた。
雪のように真っ白な白髪に、髪色とは対照的な日に焼けた小麦色の肌、
ドラゴンタイプのポケモンを彷彿させる金色の瞳の端正な顔立ちの男である。
男は、毅然とした佇まいで男達を睨みつけていた。
「あぁ?何だ兄ちゃん俺等とやろうってか?」
「お、いいぜ。相手になってやる」
「おい、こいつ…ポケモン博士のフリードじゃね?めちゃくちゃバトル強いっていう…」
「何だ、俺のこと知ってるのか?照れるな」
「…ちっ、やめだやめ。おい、行くぞ」
男は、自分達の分が悪いと判断し[#dn=1#]を放り出してそそくさとその場から立ち去った。
[#dn=1#]は、その場に座り込んでしまった。
それまでの緊張の糸が切れたのか、腰が抜けてしまった。
そんな[#dn=1#]に、白髪の男が近付き手を指しのべた。
「立てるか?」
「はい…あっ…」
「おっと…大丈夫か?」
「す、すみません!」
白髪の男の手を頼りにし、立ち上がろうとした時
バランスを崩した[#dn=1#]は男の胸元に飛び込む形になった。
初めて触れる男性の身体、そして太陽の光によって照らされた
陽だまりのような匂いに、[#dn=1#]の思考は一瞬停止しかけたが、
直ぐに正気を取り戻し男から離れた
「すみません、失礼します!!」
[#dn=1#]は、羞恥と申し訳なさの2つの感情に苛まれた結果、
逃げるようにその場から立ち去ってしまったのだ。
「…絶対、私嫌な奴って思われたよね」
その日、帰宅した[#dn=1#]は学園の寮内にある自室のベッドに寝転がりながら
ぼんやりと今日の出来事について思い出していた。
折角助けてくれた親切な人に対して、何て無礼な態度だろうかと。
もし、明日あの人に会えたらきちんとお礼を伝えねば。
そう決めた[#dn=1#]は、部屋の電気を消し目を閉じた。
**************
次の日、[#dn=1#]は昨日の記憶を頼りに
白髪の男を探すことにした。
だが、そう簡単に見つけられない。
もしかしたら、もうこの街にはいないのかと諦めかけたその時、
少し離れた場所で、あの白髪の男を見付けた。
「あの、待って!」
咄嗟に声をかけようとしたが、相手と距離があったことから
男は人混みに紛れてしまい、[#dn=1#]の声は届かなかった。
そこで、[#dn=1#]は白髪の男の後を追うことにした。
すれ違う人と身体がぶつかる程の人混みの中を、
懸命に掻き分けながら追いかけていると、
やがて街の外に男は向かって行くのが分かった。
ここならば、街の中よりも
人の数は少ないからイケる筈だと考えた[#dn=1#]は、
大きく息を吸い込み、そして
「あの、すみませーん!」
男に向かって大きな声で呼びかけた。
そこで、漸く男は[#dn=1#]の存在に気づいたのかゆっくりと振り返った。
そして、昨日の様な軽やかな笑みを浮かべながら、手を上げた。
気付いてもらえた喜びで、[#dn=1#]は表情を明るくさせた。
「昨日の子じゃねぇか!どうかしたのか?」
「あの、昨日はありがとうございました!
折角助けて頂いたのに、ちゃんとお礼を言えなかったので…」
「わざわざありがとな」
「いえ、あ、じゃあ私はこれで…」
「あ、ちょっと待ってくれ」
お礼を告げてから、[#dn=1#]は一礼して男に背を向けようとした時、
男が[#dn=1#]を呼び止めた。何かあるのかと思い、
振り向くと男は笑みを浮かべていた。
「良かったら、俺達の船で茶でも飲んでいかねぇか?」
それは、男からの思わぬ誘いであった。
助けてもらったからと言っても、昨日会ったばかりの男について行っても良いのか。
一瞬、考えたものの昨日の男達が
目の前の彼が著名なポケモン博士である事を
話していたのを思い出した[#dn=1#]は、
思い切って誘いを受けることにした。
「ようこそ、ブレイブアサギ号へ」
初めて目にする巨大な飛行船に、[#dn=1#]は圧倒された。
そんな[#dn=1#]を他所に、男は、船内へ招いた。
外から見るより中は意外にも広く、
多くのポケモン達の姿もあることにまたしても[#dn=1#]は驚かされた。
「凄い、この船で冒険をしているんですね」
「あぁ、まだ見ぬポケモンを見つけたいと思ってな。大変な事もあるが、それ以上に楽しいんだぜ?」
「冒険か…いいなぁ、楽しそう!」
「君は、何かやりたい事とかあるのか?」
何気ない男の質問が、[#dn=1#]の胸に深く刺さった。
夢の為に、安定した生活を捨てて冒険家という道を選んだ男が眩しく見える。
「私は…ないです。家族の皆みたいに強いトレーナーにならなきゃって
頑張ってるんですけど、全然だめで…私には才能もやりたいこともないんてす」
改めて言葉にすると、如何に自分が
情けない発言をしているかが嫌でも分かった。
夢も目標もなく、ただ周りに流されるだけの
主体性のない自分であることを突き付けられたような気がした。
目の前の男もきっと呆れているだろうと思い、
恐る恐る視線を向けると、男は何やら考え込んでいるようだ。
そして、徐ろに男は開口した。
「やりたい事がないなら、それを見つければ良いんじゃないか?」
「それはそうですけど、簡単な事じゃないですよ」
「なら、俺達についてくるか?」
「え?」
「俺達と一緒に冒険をしていれば、きっと何かを見つけられると思うぜ」
そう言って、男は手を差し出してきた。
突然の事態に[#dn=1#]は戸惑ったが、
今、このチャンスを逃したら自分はいつまでも変われないと考えて、
男の手を取ることにした。
「これから、よろしくな!」
その日、[#dn=1#]は太陽の様に眩しく照らし出してくれる男と出会った。
「はぁ…」
飲食店やアパレルショップを始めとした店
行き交う人々に対して呼び込みの声を張り上げる露天商の店主達
今夜の献立について話しながら歩く親子
次の休みについて楽しそうに話す学生達
多くの人が笑顔を浮かべる中、ただ1人
[#dn=1#]だけは俯きながら大通りを歩いていた。
「帰ったら、またトレーニングか…」
[#dn=1#]はその場に立ち止まり空を見上げた。
青空を漂う雲を見て、[#dn=1#]は雲が心底羨ましく感じた。
何故なら、何者にも囚われることなく自由に空を漂うだけでいいのだから。
自分とは大違いだ、とため息を吐いた。
彼女の家は、ドラゴン使いを始めとしたエリートトレーナー、
そして研究者を多く排出する優秀な家柄であるが、
[#dn=1#]自身はバトルも勉強面の才能もない為、
一族の中では落ちこぼれの部類である。
だからこそ、幼い頃から厳しい修行に取り組み、
セキエイ学園に入学して理論的にポケモンについて学び始めた。
しかし、彼女の懸命な努力は実ることなく気付けば
卒業が目前にまで迫っていた。
卒業するにあたり、[#dn=1#]自身進路を決めていない。
否、やりたいことがないのだ
昔は、ポケモンリーグチャンピオンを夢見ていたが、
不相応な夢だと悟ると同時に挫折し、
いつしか何もかも諦めてしまった。
「こういうの何ていうんだっけ。モラトリアム?」
独り言を呟きながら、[#dn=1#]は視線を地面に落とした。
周囲の喧騒に紛れながら下を向いて歩く自分に対して
情けないと考えていた時に肩に何かとぶつかり、
そのまま尻もちをついてしまった。
「いってぇー!!!!おい、お嬢ちゃんどこ見て歩いてるんだよ!」
「え、あっ…す、すみません!」
「あー、これ肩折れたわ。いてぇもん」
「ガキとぶつかったぐらいで怪我してんじゃねえよ!」
[#dn=1#]がぶつかってしまった相手は、
見るからにタチの悪そうな男2人組であった。
まずいことになりそうだ、と考えた[#dn=1#]はゆっくり後ずさりし、
男達から距離を取ろうとしたが、彼女の思惑は直ぐに男に見抜かれた。
「おい、嬢ちゃんどこに行くんだよ」
「ひぃ!」
「俺、怪我したんだよ。だから嬢ちゃんが弁償してくれや」
「わ、私お金あまりないです…」
「金もいいけどよ、良く見たら嬢ちゃん可愛いじゃねえかよ。
ちょっと俺等と遊ぼうぜ」
「俺、いい場所知ってるぜ。静かで3人きりになるにピッタリな場所をさ」
男達は、[#dn=1#]の肩を無理やり抱き強引にその場から移動し始めた。
恐怖でどうすることも出来ない[#dn=1#]は、
どうにかこの場から逃げようと考えるものの
自分の力では男達を振り払う事は無理だと悟り、
やむなく制服のベルトにポケモンボールに手を伸ばした時だった。
「おい、その手を離してやれ」
背後から勇敢な男の声が聞こえたので、
振り向くとそこには見知らぬ男が立っていた。
雪のように真っ白な白髪に、髪色とは対照的な日に焼けた小麦色の肌、
ドラゴンタイプのポケモンを彷彿させる金色の瞳の端正な顔立ちの男である。
男は、毅然とした佇まいで男達を睨みつけていた。
「あぁ?何だ兄ちゃん俺等とやろうってか?」
「お、いいぜ。相手になってやる」
「おい、こいつ…ポケモン博士のフリードじゃね?めちゃくちゃバトル強いっていう…」
「何だ、俺のこと知ってるのか?照れるな」
「…ちっ、やめだやめ。おい、行くぞ」
男は、自分達の分が悪いと判断し[#dn=1#]を放り出してそそくさとその場から立ち去った。
[#dn=1#]は、その場に座り込んでしまった。
それまでの緊張の糸が切れたのか、腰が抜けてしまった。
そんな[#dn=1#]に、白髪の男が近付き手を指しのべた。
「立てるか?」
「はい…あっ…」
「おっと…大丈夫か?」
「す、すみません!」
白髪の男の手を頼りにし、立ち上がろうとした時
バランスを崩した[#dn=1#]は男の胸元に飛び込む形になった。
初めて触れる男性の身体、そして太陽の光によって照らされた
陽だまりのような匂いに、[#dn=1#]の思考は一瞬停止しかけたが、
直ぐに正気を取り戻し男から離れた
「すみません、失礼します!!」
[#dn=1#]は、羞恥と申し訳なさの2つの感情に苛まれた結果、
逃げるようにその場から立ち去ってしまったのだ。
「…絶対、私嫌な奴って思われたよね」
その日、帰宅した[#dn=1#]は学園の寮内にある自室のベッドに寝転がりながら
ぼんやりと今日の出来事について思い出していた。
折角助けてくれた親切な人に対して、何て無礼な態度だろうかと。
もし、明日あの人に会えたらきちんとお礼を伝えねば。
そう決めた[#dn=1#]は、部屋の電気を消し目を閉じた。
**************
次の日、[#dn=1#]は昨日の記憶を頼りに
白髪の男を探すことにした。
だが、そう簡単に見つけられない。
もしかしたら、もうこの街にはいないのかと諦めかけたその時、
少し離れた場所で、あの白髪の男を見付けた。
「あの、待って!」
咄嗟に声をかけようとしたが、相手と距離があったことから
男は人混みに紛れてしまい、[#dn=1#]の声は届かなかった。
そこで、[#dn=1#]は白髪の男の後を追うことにした。
すれ違う人と身体がぶつかる程の人混みの中を、
懸命に掻き分けながら追いかけていると、
やがて街の外に男は向かって行くのが分かった。
ここならば、街の中よりも
人の数は少ないからイケる筈だと考えた[#dn=1#]は、
大きく息を吸い込み、そして
「あの、すみませーん!」
男に向かって大きな声で呼びかけた。
そこで、漸く男は[#dn=1#]の存在に気づいたのかゆっくりと振り返った。
そして、昨日の様な軽やかな笑みを浮かべながら、手を上げた。
気付いてもらえた喜びで、[#dn=1#]は表情を明るくさせた。
「昨日の子じゃねぇか!どうかしたのか?」
「あの、昨日はありがとうございました!
折角助けて頂いたのに、ちゃんとお礼を言えなかったので…」
「わざわざありがとな」
「いえ、あ、じゃあ私はこれで…」
「あ、ちょっと待ってくれ」
お礼を告げてから、[#dn=1#]は一礼して男に背を向けようとした時、
男が[#dn=1#]を呼び止めた。何かあるのかと思い、
振り向くと男は笑みを浮かべていた。
「良かったら、俺達の船で茶でも飲んでいかねぇか?」
それは、男からの思わぬ誘いであった。
助けてもらったからと言っても、昨日会ったばかりの男について行っても良いのか。
一瞬、考えたものの昨日の男達が
目の前の彼が著名なポケモン博士である事を
話していたのを思い出した[#dn=1#]は、
思い切って誘いを受けることにした。
「ようこそ、ブレイブアサギ号へ」
初めて目にする巨大な飛行船に、[#dn=1#]は圧倒された。
そんな[#dn=1#]を他所に、男は、船内へ招いた。
外から見るより中は意外にも広く、
多くのポケモン達の姿もあることにまたしても[#dn=1#]は驚かされた。
「凄い、この船で冒険をしているんですね」
「あぁ、まだ見ぬポケモンを見つけたいと思ってな。大変な事もあるが、それ以上に楽しいんだぜ?」
「冒険か…いいなぁ、楽しそう!」
「君は、何かやりたい事とかあるのか?」
何気ない男の質問が、[#dn=1#]の胸に深く刺さった。
夢の為に、安定した生活を捨てて冒険家という道を選んだ男が眩しく見える。
「私は…ないです。家族の皆みたいに強いトレーナーにならなきゃって
頑張ってるんですけど、全然だめで…私には才能もやりたいこともないんてす」
改めて言葉にすると、如何に自分が
情けない発言をしているかが嫌でも分かった。
夢も目標もなく、ただ周りに流されるだけの
主体性のない自分であることを突き付けられたような気がした。
目の前の男もきっと呆れているだろうと思い、
恐る恐る視線を向けると、男は何やら考え込んでいるようだ。
そして、徐ろに男は開口した。
「やりたい事がないなら、それを見つければ良いんじゃないか?」
「それはそうですけど、簡単な事じゃないですよ」
「なら、俺達についてくるか?」
「え?」
「俺達と一緒に冒険をしていれば、きっと何かを見つけられると思うぜ」
そう言って、男は手を差し出してきた。
突然の事態に[#dn=1#]は戸惑ったが、
今、このチャンスを逃したら自分はいつまでも変われないと考えて、
男の手を取ることにした。
「これから、よろしくな!」
その日、[#dn=1#]は太陽の様に眩しく照らし出してくれる男と出会った。