呪術のまとめ
「好きです、日車さん」
机を挟んで向かい合う2人の男女がいる。
目の前の男に思いを告げる少女と
スーツを身に纏った男。
男は、突然の出来事に、平静を装いながら
内心では、何て返すべきか足り過ぎてる脳を
フル回転させていた。
「突然、何を言ってるんだ」
「好きですって言いました」
「そういうことではなくてな…」
「あの日から、ずっと好きです」
少女の言うあの日、というのは
2人が出会った半年前のことを指す。
しかし、その出来事というのほ至極単純なものだ。
電車の中で痴漢に遭っていた少女を、男が助けたというだけのことだ。
スーツの男こと日車は、弁護士だ。
弱きを助け強きを挫くという正義感を持った今時珍しい男であるから、当然目の前で犯罪行為が行われていれば見逃せる訳ない。
その後、痴漢男を無事に駅員に引き渡した後、
日車はその場を立ち去ろうとしたが、被害者である[#dn=1#]が震えているのを見て、彼女が落ち着くまで隣に座った。
「何か、困ったことがあればいつでも来い」
別れ際、自分の名刺を渡した。
[#dn=1#]は、その日以来日車の法律事務所に通い詰めようになった。最初は、何か法律的な相談かと思い対応していた。
だが、次第にそういった目的ではない、と分かった。
今更追い出すのも面倒なので、適当に雑務を頼み始めたのが間違いだった。
結果的に、2人の距離が縮まるようになってしまった。
だが、ここで1つの問題がある。
「君は、まだ高校生だろう。
俺みたいなおじさんではなく、若い子と遊べ」
「日車さんじゃなきゃ嫌です」
この2人には年齢差があった。
かたや現役の女子高校生
かたやアラフォーの中年男性
法曹界に生きる人間として、善良な大人として
未成年に手を出すなんて絶対に許されない。
背後から、ジャッジマンの気配を感じた日車は、個人的に抱いてる感情からは目を背ける事にした。
「君の抱いてる感情は、恋愛ではない」
「恋愛です。」
「吊り橋効果のようなものだ」
「違います。本物です」
[#dn=1#]は、淡々と自身の思いを否定してくる日車を睨みつける。
しかし、その程度の睨みは日車に効く訳なかった。
だから、[#dn=1#]は最終手段を使うことにした
「日車さん、」
「まだ、何かあるの…か……っ!」
「今がダメなら、来年、私が卒業してからまた言いにきますから!約束ですよ!」
顔を赤くしながら、脅し文句の様な言葉を吐き捨てながら[#dn=1#]は、まるで逃げるように事務所を後にした。
残された日車は、その場で頭を抱えた。