私の太子様
「[#dn=1#]の好きな男のタイプについて教えてくれないか?」
青いジャージに身を包んだ少しくたびれた雰囲気の男性こと聖徳太子は、
自分が着ているジャージと同じ青の着物の少女こと[#dn=1#]に恐る恐る訊ねた。
[#dn=1#]は、中央政権を支える有力豪族の娘で
今日は彼女の父親が朝廷に伺う予定があるので、同行してきた。
太子とは、一応顔なじみという関係である。
「私の好みの殿方について、太子様が聞いてどうするんですか?」
「そ、それは!!摂政として幅広い意見を聞かなければいけないからだ!私、摂政だから!」
当然、そんな理由ではない。
単純な話、太子が[#dn=1#]を女性として好いているからだ。
少しでも[#dn=1#]の理想の男性像に近付きアプローチしようという魂胆である。
まぁ、その様な回りくどいことをしなくてもいざという時は、自分の権限を使えば
[#dn=1#]を妻に迎える事は容易だが、それだけはしないと太子は誓っていた。
変な所で生真面目ですね、と妹子に突っ込まれる程根は真面目なのだとか。
「ふーん…じゃあ、特別に教えて上げますね」
「本当か!?」
[#dn=1#]の返答に太子は満面の笑みを浮かべた。
あからさまな態度に、[#dn=1#]は吹き出しそうになるが
何とか堪え、ゴホンと咳払いをしてから、
手にしていた扇子で自分の口元を隠しながら1つずつ答え始めた。
「まず、身長が高い人が良いです」
「私より年上で…」
「頭が良くて」
「時々、可笑しな事を言って」
「青いお召し物がお似合いの人です」
「ふ、む…?」
太子の脳裏に「ソレって私のことではないか?」という考えが過ぎった。
いや、しかしそれは流石にムシが良すぎる。じゃあ、私以外だというなら誰なんだ、と
太子は軽くパニックに陥りかけていた。
「太子様」
そんな太子に[#dn=1#]が抱きついてきた。
[#dn=1#]から甘い香油の匂いが漂ってくる。
[#dn=1#]の身体は小さく柔らかい。
何なんだ、この生き物は、抱きしめたい。今すぐ、力いっぱい
[#dn=1#]の背中に回した腕が、行き場なく宙を彷徨っていると、
[#dn=1#]と目があった。彼女の潤んだ瞳に吸い込まれる。
「私の好きな殿方が、誰かわかりましたか?」
こんな都合の良い事が起きるのなら、
摂政になって良かったと太子は目から滝のような涙を流した。
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