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それを見た時、カイドウは自分の目を疑った。まさか、そんな筈がない。動揺する彼の視線の先には、どこまでも広がる青空を悠然と羽ばたく一匹の赤い鳥の姿がある。ソレは、彼の船が進む針路とは反対の南の方に向かって飛んで行った。暫く呆然としていたカイドウだったが、我を取り戻し自身の姿を青龍と変え、ソレを追いかけ始めた。
「カイドウさん、どこに行くんだ!」
部下の声もお構いなしに、カイドウは天高く空へ昇っていく。必死に追いつこうとするのだが一向に距離が縮まらない。この時ばかりは、高速飛行に適していない鈍重な自身の身体を恨めしく思った。もっと速く飛ばなければアレを逃してしまうというのに。その時、カイドウの赤い翼を広げ笑いかける彼女の姿が鮮明に目に浮かんだ。
***************
それはまだカイドウが海賊見習いだった頃、共に海賊見習いとして過ごした女がいた。名は夢主さん。ただの人間にも関わらず、身長が4mに達する程体格に恵まれた女であった。生まれた頃は普通のサイズであったという夢主さんは、成長するにつれて徐々に周囲の人間の数倍も大きくなっていった。それが特異体質なのか、はたまた遠縁に巨人族の血が混ざっているのか理由が分からない。だが、彼女は生みの親、そして同じ村に暮らす住人達に忌避された。夢主さんはこのまま村にしても自身の居場所はないと悟り、村を飛び出した。宛もなく広大な海をボロ船で漂流している所を偶然ロックス達と出会い、船へ誘われたのだという。
「っていう訳だカイドウ、あんた夢主さんの面倒を見てやんな」
「なんでだよ」
「夢主さんとあんたは同い年だろ?見習い同士仲良くしな」
夢主さんがロックス海賊団の見習いとして乗船してから少し経った頃、同い年であることを理由にカイドウは、夢主さんの面倒を見るようにリンリンに命じられた。初めての顔合わせをした時、自分よりも大きな身体のカイドウを見て彼女驚いた。
「はじめまして、夢主さんです…」
「おぅ」
「…」
「なんだよ」
「君、凄く大きいね…」
「あ?」
「リンリンさんや白ひげさんもだけど、私より大きい人は初めて見たよ」
「んなの、この世界にいくらでもいるだろ」
それがカイドウと夢主さんが初めて交わした会話であった。今まで自身の身体の大きさが原因で忌避されてきた夢主さんにとって、自身よりも大きい存在がいること、そしてそれを普通の事として扱われた事で彼女は胸を打たれた。その日から夢主さんはカイドウの後ろをついて回るようになったのだが、それに対して煩わしさも感じつつリンリンから世話役を命じられた為、無下にすることは出来ないのでどうすればよいかと考えていた時、ある出来事が起きた。
「あ、カイドウ君おはよう」
「…てめぇ、何してんだよ」
「あはは…ちょっとお皿割っちゃって」
「んなの、その辺の奴等にやらせればいいだろ」
「駄目だよ、私がしたことだからちゃんと責任持ってやらないと…いたっ!」
「馬鹿かよ、てめぇは…」
夢主さんは、少々注意散漫な部分があるようで1日に何度も皿を割り、何も無い所で転んだりして小さな怪我をいくつも作る女であった。しかし、その度に夢主さんは決まって「大丈夫だから」と助力を断る。最初は呆れていたカイドウだったが、ついに見ていられなくなり手を差し伸べてしまった。そして、いつからか夢主さんが怪我した時に手当をするのがカイドウの役割となった
「いつもごめんね、カイドウ君…」
「悪いと思ってるなら気をつけろ」
「うん…」
最初はお世辞にも綺麗とは言えない包帯の巻き方が、船医に褒められるようになった頃カイドウの中である感情が芽生え始めていた。その名を知らぬカイドウは眉を顰めることしかできなかった。それは、いつもきまって夢主さんを見ている時にカイドウの中で渦巻く。初めて出会った頃より夢主さんは自然な笑みを浮かべるようになった。また、カイドウやリンリン以外のクルーに対してコミュニケーションを取れるまでに成長した。それ自体は良い事はあるのだが、一つ問題があった。それは夢主さんは白ひげを兄の様に慕い始めた事である。
「ニューゲートさんって、何かお兄ちゃんみたい」
「グラララ!何馬鹿な事を言ってるんだ、おめえは」
白ひげは、夢主さんの言葉を笑いながらも満更でもないといった表情を浮かべる。夢主さんも白ひげも互いに恋愛としての好意は抱いていなかったが、その事をカイドウは知る由もない。何故、自分でないのか。いつしか彼の中で渦巻く黒い感情は夢主さんに対する怒りへと変わっていった。
「カイドウ君、どこに行くの?」
「てめぇには関係ねぇだろ」
「私、もしかして何か怒らせる様な事しちゃった?」
「…」
「カイドウ君…、ごめんね」
それが、夢主さんと交わした最後の会話となった。
ゴッドバレー事件での混乱に乗じてカイドウは夢主さんの前から姿を消す事にした。彼女から離れればこの胸の痛みからも解放されるだろうと考えた。しかし、カイドウの目論見通りにいかなかった。夢主さんの事を忘れようとするほどに、逆にその存在が大きくなっていった。
・・・・・・・・・・・
夢主さんとの別れから数十年の月日が経ったある日
ワノ国にてオロチから招かれて赴いた遊郭に偶然その女がいた。出で立ちや声色が、夢主さんにそっくりの遊女であった。その顔を見た時、カイドウの中に燻っていた鬱屈とした想いが爆発した。その日の夜、酒に酔った勢いで抱いた。夢主さんに似た女を抱く事で自分の気持ちを少しでも慰めたかったのかもしれない。
しかし、顔が似ていたとしてもそれは所詮まがい物であり、情事後はひたすらに虚無であった。
その後、カイドウはあの日の夜以降遊女の元へ赴く事はなかった。自身の愚行を忘れ始めていた頃、何とあの遊女がカイドウの子どもを身ごもった、と鬼ヶ島を訪ねてきた。女を助ける義理も道理もないが、夢主さんに似た顔を無下にする事が出来なかった。やむを得ずカイドウは、彼女を迎える事にした。何も知らない部下達は宴会だと大いに盛り上がった。しかしカイドウ自身は退屈であった。そこで、カイドウは一人その場を抜け出すことにした。そして、自室で今夜の酒はマズい、と一人月を見上げているカイドウの元に女が訪ねてきた。
「何の用だ」
「カイドウ様とお話がしとうて」
「帰れ、てめぇと話す事なんざねぇ」
「やっぱりカイドウ様はあちきを見てござりんせんのでありんすね」
「…」
「あちきに似た女がいたんでありんすね」
「…黙れ」
「カイドウ様程の方を捨てるなんて、凄い人でありんすね」
「黙れって言ってるだろうがぁ!」
「失礼いたしんした、口が過ぎんしたね」
カイドウの心の内を見透かした様な物言いと誂う様な視線に対して、不快感を感じたのでその日から女を自身の側に近付かないように部下に命じた。それから、暫くしてその女は元々ヤマトを生んでから直ぐに亡くなった。女に対して想い入れ等ない筈なのに、葬式の日カイドウを涙を流した。女が死んだ事を悲しんでではない。夢主さんと同じ顔の女が死んだことで、彼女の存在そのものがカイドウの中で消えた様に感じたからだ。最後に会ったのは何十年も前で今どこにいるのか、そもそもまだ生きてるのかさえ分からない女に対して未だに未練を抱いてる自分が情けないことこの上なかった。
**************
「夢主さん…」
無意識にカイドウの口からその名が零れた。あの太陽のように紅い翼を悠然と羽ばたかせる鳥が本当に彼女かはわからない。しかし、あの姿は彼女が食べた悪魔の実の能力で変化した時の姿であるからこそ期待してしまう。あの赤い鳥が、かつて自身が想いを寄せていた女であるのか否かを。
「おい、そこのお前止まれぇ!」
カイドウの声に気付いたのか赤い鳥は、動きを止めてゆっくりと振り返る。燃え盛る焔の様に真っ赤な翼には美しい金色の装飾が施されている。その悪魔の実は、トリトリの実モデル朱雀。かつて白ひげが夢主さんに食べさせた悪魔の実である。
「てめぇ、何者だ」
「…」
「おい、俺の話を聞いてんのか?」
「か…カイドウ…君?」
それまで鋭い眼光でカイドウを睨みつけていた朱雀だったが、徐々にその視線が柔らかくなっていく。それに連れて朱雀自身の姿も鳥獣の姿から人間の姿へと変わっていった。背中に生えた大きな翼を除いて。その姿は、かつて共に釜の飯を喰らい、そして恋をした当時の彼女姿のままであった。
「夢主さん、おめぇ…」
カイドウが彼女に対して言葉をかけようとし時、彼の腹部に強い衝撃を感じた。視線を下に向けると自身の腹部に#dn=1#]が抱き着いてきのだと分かった。
「うわぁー!!本当にカイドウ君だぁあああ!!生きてたんだね!!いつ振り!?何十年ぶり!?」
「喧しい!人の腹で騒ぐんじゃねえ!」
「いたたたた!!あはっ!この感じ、やっぱりカイドウ君だ!」
「はぁ…てめぇは相変わらずだな…」
自身の腹に抱き着く夢主さんに対して呆れた様にため息を吐くカイドウであるが、その表情が昔と同じである事に対して懐かしく感じた為思わず頬が緩みそうになったので軽く咳払いをしてから夢主さんの近況を尋ねることにした。
「おい、夢主さん。てめぇこの三十年の間何してた」
「私?私はね、情報屋をしているよ」
「あン?てめぇ、白ひげの所にいたんじゃねえのかよ」
「少しだけいたけど直ぐに抜けたんだ。それからはずっと1人だよ」
「…じゃあ、てめぇは白ひげとは何の関係もねぇのか?」
尋ねるその声が微かに震えた気がした。四皇なんて持ち上げられている自分が、1人の女を相手に情けないと内心自嘲するカイドウに対して夢主さんはゆっくりと口を開いた。
「白ひげは…私にとってお兄ちゃんみたいな人だよ。カイドウ君が考えてる様な事はないよ」
「…そうかよ」
まるで、カイドウの心を見透かしたかのような夢主さんの物言いを聞き死んだあの女を思い出した。彼女に対しては、自身の心を見透かされることが不快でしかなかったのに夢主さんに対してはそれを許してしまう。やはり、夢主さんは特別なのだと思い知ると同時に、今この瞬間目の前の女を手に入れる好機だと直感した。
「なら、俺が攫っても問題ねぇよな?」
「攫うってどこに?」
「ワノ国だ」
「わ、ワノ国〜!?え、何で急にそんな…」
「んなの、てめぇを俺の女にする為に決まってるだろ」
「俺の、女?」
カイドウの口から発せられた「俺の女」という単語に夢主さんが首を傾げる夢主さんに対して、カイドウはこの海に君臨する皇帝の名に相応しい笑みを浮かべてみせた。夢主さんは顔を引き攣らせながら、カイドウから距離を取ろうとしたとものの呆気なく阻まれる。
「カ、カイドウ君…?」
「夢主さん、一度しか言わねぇからよく聞け」
「う、うん…」
「俺は、てめぇを好いている。ロックスの時代からずっと」
「え…」
「だから、俺と来い」
カイドウの鋭い視線が夢主さんへ注がれる。夢主さんは龍の姿のカイドウを見上げた。そして、静かに近づきその頬に触れた。
「私、あの頃よりおばあちゃんになっちゃったけど、いいの?」
「当たり前だろ」
「そっか…ありがとう、カイドウ君」
カイドウは夢主さんの返答を聞いてから、その大きな腕で夢主さんの身体を掴み上げた。そして、自分が来た道を辿るように空をかけ始めた。
「カイドウ君、私自分で飛べるよ?」
「うるせぇ、黙って捕まえられていろ」
そうして、夢主さんはカイドウと共にワノ国へカイドウの嫁として迎え入れられることになった。
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