春の陽気に誘われるがままに、目を瞑り
微睡みの世界の入口をくぐろうとした時、
誰かが自分の名を呼ぶ声が聞こえたので
夢主さんが目を開くと、そこには
十代、覇王、超融合後の十代と３人の十代がいた。

「夢主さん、どうしたんだよ変な顔して」
「我が后よ、何を呆けている」
「夢主さん、大丈夫か？」

目の前に並ぶ3つの顔が夢主さんの顔を覗き込むという
文字通り夢のような出来事に夢主さんの思考は停止した。

「…私ったら疲れてるんだな〜、よし、もう一回寝よう！」

思考停止した脳を強制的に再起動した夢主さんは
目の前に広がる光景は、疲れから見る夢なのだと
判断し再び目を瞑ろうとした。

「おい夢主さん、まだ寝るんかよ！暇なら俺とデュエルしようぜ！」
「我が元へ来い夢主さん」
「眠いなら、俺と一緒に寝ようぜ夢主さん」　

だが、それを彼らは許さなかった。
満面の笑みを見せながら夢主さんの手を引く十代
鋭い視線を向けながらも夢主さんの名を呼ぶ覇王
夢主さんの肩を抱きながら、頬にキスをする二十代
三者三様の誘い文句を浴びせられた夢主さんは、処理能力が限界を迎えた事で、
とうとう頭から煙を出し始めた。
この学園では不思議な出来事に遭遇し易い為、
夢主さん自身ある程度の耐性は身に付けているつもりだった。
だが、流石の夢主さんも恋人が3人に分裂し、
その全員から口説かれる事に対する耐性は身に付いていなかった。

混乱する一方で、密かにこの奇妙な状況を楽しむ夢主さんもいる。
何故なら、今までの闇のデュエル、三幻魔、白の結社、異世界での出来事と比べれば
こんなの怖くも何ともないからだ。
何よりこれは夢なのだから、少しぐらい楽しんでもバチは当たらないだろう。
夢主さんは、そう考えてから改めて3人の十代達を見比べた。

昔の十代は、何事にも真っ直ぐで可愛さもある
その為か、夢主さんの母性本能がくすぐってくる
覇王十代は、言葉こそ少ないが、その冷たい氷の様な瞳から夢主さんに対する確かな愛を感じる。
二十代は、超融合後は以前よりも男として頼り甲斐が増したし、かっこよさが増した。

どの十代も甲乙つけ難い等と邪な考えをする夢主さんを他所に、
3人の十代達は、小競り合いを始めた。

「おい、お前ら夢主さんは俺とデュエルするんだよ！」
「我が后は、俺と共に過ごす。邪魔をする奴は誰であろうと許さん」　
「まぁまぁ落ち着けって、夢主さんは俺と昼寝するんだからよ」

３人共どこからか持ってきたのか、デュエルディスクを構え、
今にもデュエルを始めかねない雰囲気を醸し出し始めた。
それに気付いた夢主さんは、慌てて３人を制止し始めた。

「ちょっと待って、３人共落ち着いて！」

鶴の一声ならぬ夢主さんの一声により、
３人はそれぞれデュエルディスクを下ろす。
その姿を見て夢主さんは安堵するものの、
不意に視線を感じたので顔を上げると、
6つの瞳が夢主さんを映していることに気付く。

「…なぁ、俺良いこと思いついたんだけど」
「お、奇遇だな俺もだぜ！」
「…フン」

二十代が、静かに溢すとそれに同調するかのように
十代は笑みを浮かべ、覇王は鼻を鳴らした。
その様子に、夢主さんは想い出した。
こういう時の十代は、99%ろくでもない事を言い出すことを。
そして、夢主さんの予想は見事的中する。

「「「お前は、どの俺がいいんだ？」」」

3人の十代は、夢主さんにどの自分がいいか、という禁断の問いを投げかけてきた。
それぞれの魅力がある３人の中から、ただ１人を選ぶ。
そんな事簡単に決められるわけがなく、夢主さんは途方に暮れる。
自分は、どの十代を選べば良いのか、と。
そんな夢主さんに3人は、徐々に距離を詰める。

「「「勿論、俺（我）を選ぶよな？」」」