女夢主の短編
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「ゆめ、お前は食わなくてもいいと思うぞ…」
「そうだぜ、お前の身に何かあったら俺達があの方に殺されちまうよ!!!」
「…いいえ、私も食べたいんです」
ゆめの目の前にあるそれは、異様な雰囲気を放っていた。
有名な科学者が、研究の末に開発したと言われる
人造の悪魔の実であるSMILE。
食べた者には、能力者に近い能力を得られる反面
ハズレを引けば、命を落とすか、
生き延びても笑顔以外の感情を失ってしまう。
しかも、仮に食べても能力が得られるのはたったの10%だけ
今日は、ウェイターズ達にSMILEが渡された日だ。
実力さえあれば、一般兵から一気に昇進出来る百獣海賊団において、
一度のみ与えられる運命の分かれ道とも言える日である。
成功すれば、大きなチャンスを掴められるが他の仲間を見れば、
SMILEを食べた事によるリスクの方が大きい様に感じられる。
下手をすれば、強い能力を得られたとしても
身体の一部又は大部分が動物のまま
一生を過ごさなければならない。
それを理解している彼らの中には、
リスクを犯したくないと食べる事を拒否する戦闘員もいる。
ゆめは小さく息をのみこんだ。
例え、リスクがあっても強くなれるチャンスだってある。
そうすれば、きっとあの人の役に立てられるはずだ、と考えた。
「いただきます…っ!」
ゆめは、目の前にあるSMILEを手にして、
それを口に含んだ。味は普通のリンゴと同じだった。
甘くて瑞々しい。
普通の悪魔の実は、非常に不味いらしいが。
あくまで偽物のようなものだから美味しいのかな、なんて呑気に考えながら最後まで食べ進めるが、
ゆめの身体にはこれといって変化は見られなかった。
ゆめは小さくため息を吐いた。
自分の先輩の様に、背中にゴリラがいるような状況にならずに良かった、と安堵すると同時に、
能力を得られないハズレを引いてしまったのかと、肩を落とした。
「そうだよね、そんな簡単に強い力を得られるわけないよね…」
仕方ないが、運がなかったと諦めよう。
それに、周りのハズレを引いてしまい、
面白くもないのに笑い続けてしまっている仲間と比べればまだマシな方だ、と
ゆめは自分に言い聞かせた。
やはり、強くなる為には鍛錬をするしかない、と
ゆめは立ち上がり訓練場に向かう事にした。
しかし、その時だった。
「お、おいゆめ!」
「お、お前、背中!」
「え?」
焦りの表情を浮かべる先輩に指をさされた。
背中に、何かあるのかと思い手を回した。
すると、何かフサフサという感触があった。
慌てて、部屋に置いてある鏡の前に立つ。
そこで、ゆめの身に起きている事態の理由が判明した。
「は、生えている…」
ゆめの背中には、小さいながらも黒い両翼が生えていた。
・・・・・・・
ゆめは、長い廊下を全速力で走っていた。
今の自分の姿を、ある人物に見せたいとただそれだけの為に。
今なら、恐らく執務室にいるはずだ。
そして、目的の人物がいる部屋の前に辿り着いた。
「キング様、ゆめです」
「入れ」
障子を開けると、そこには大量に積まれた書類の山と
向き合っているキングの姿があった。
キングは、書類に目線を向けながらゆめに応対する。
二人は、上司と部下という立場であると同時に
恋人同士でもあった。
気配でゆめだと分かったキングは、
それまで張りつめていた神経を緩ませた。
この辺りで一度、小休止でも取るかと顔を上げた先に、
信じがたいものを目にした。
「キング様、私、SMILEの能力者になれました!」
見てください、とゆめは背中に生えた羽を動かせてみた。
キングの背中の翼と比べれば小さいものの、キングの翼と同じ色をしている。
「お前、SMILEを食ったのか…」
「はい、食べました。あの、私!」
「…ふざけるな!」
キングは、椅子を蹴り飛ばしゆめの元へ近づく。
キングの背中で燃えている炎は、キングの感情を表すかのように
大きく揺らめいている。
キングは、その大きな手でゆめで掴む。
ゆめは、酷く怯えていた。
「何故、食べた?いつも、お前は戦わなくていい、と言っていた筈だが。」
「わ、私…キング様の役に立ちたくて!いつも、守られてばかりが嫌で…」
「…」
以前から、ゆめは自分もSMILEを食べたいと話していた。
能力を得て強くなりたい、と。強くなってどうする、と
尋ねるといつだってキングの役に立ちたい、と言った。
リスクを犯してまで、食した彼女の思いと勇気を
称賛するべきなのだろうが、キングには出来なかった
「もし、お前が死んでいたらどうするつもりだった」
「それは…」
「お前は、俺のモノだろう!?俺の居ない所でこんな事をするな!
俺は、お前より強い!」
キングの脳裏に浮かんだのは、かつて多くの同胞達が
命を落としていった時の記憶だった。
目の前で死んでいく者達の慟哭、煙の臭い
目を閉じれば、昨日のことのように思い浮かぶ。
キングは、ゆめの身体に縋るように額を当てた。
ゆめは、黙ってキングの頬に触れた。
「ごめんなさい、キング様…」
「だけど、私キング様と同じ羽が出来て嬉しいんです。こういうの何て言うんでしたっけ…番?」
「…」
「だ、だってほら、私の方が小さいですけど同じ黒色じゃないですか!
それに、自分で飛べるからキング様に前より近づけますし!」
ゆめは、何とかキングを宥めようと必死に思いつく限りの
メリットを言うがキングの眉間の皺は寄せられたままだった。
だが、キング自身「自分の翼と同じ羽」というのは存外悪くはないな、と考え始めていた。
「お前が、この翼で俺から逃げようとしたら地の果てまで追いかけて、
一生籠の中に閉じ込めてやる」
覚えておけ、と伝えるとゆめは顔を青ざめながら頷いた。
それを見て満足げに笑いながら、キングはまるで所有の証だと言わんばかりにゆめにキスをした。