1章
すれ違った生徒達が二度見してくるのが視界に入ってきて顔を顰めた。
最悪の気分だ。
激しい頭痛のせいで、一歩踏み出すたびに脳を直接揺さぶられているような錯覚に陥る。
視界が妙にチカチカして、まっすぐ歩けているのかすら怪しい。とにかく、早く誰もいない生徒会室か、寮の自室に戻らなければ。
そう思って角を曲がった、その時だった。
「――おい、竜胆。お前その格好、一体どうし……」
前方から歩いてきた聞き慣れた低い声が、途中でぴたりと止まった。
最悪というのは重なる。
やはりというか、不運なことにクソ風紀・桐生隼人と、副委員長の相川の二人組だった。
「え、ちょ、えええっ!? 会長、何その姿!? やばいやばいやばい、透けてるってレベルじゃないよ!?」
隣の相川が目を見開いて大騒ぎし始める。
無理もない。
俺の白い制服のシャツは、完全に肌に張り付いて透けきっていた。赤黒い髪の毛先から滴る水が、鎖骨のラインを伝って胸元へと流れていくのが、自分でもはっきりと分かる。
桐生はというと、いつもならすぐに飛んでくる嫌味が落ちてこない。
あいつはただ、俺の濡れそぼった上半身を射抜くような鋭い視線で見つめている。
「……どけ、クソ風紀」
こんな姿をこれ以上誰にも見られたくなかった。
睨み返して通り過ぎようとしたが、すれ違いざま手首が強い力で掴まれた。
「っ、放せ」
「放すわけないだろ。お前、自分が今どんな格好してるか分かってんのか」
桐生の声は地を這うように低く、呆れと少しの怒りを含んでいた。
「食堂で転入生と少し事故があっただけだ。大したことない、早く仕事に戻らせろ」
手首を振り払おうとしたが、寝不足と冷えのせいで、全く力が入らない。それどころか、急に強い力で引っ張られたせいで、視界がぐらりと大きく歪んだ。
「おっとっと、会長、ふらふらじゃん! 隼人、これ冗談抜きでやばいって、早く保健室連れてこ!」
「ああ。こんな顔色の悪い状態で仕事なんかさせられるか。おい相川、こいつを支えるぞ」
「はいはーい。会長、ちょっとごめんね」
相川が素早く反対側に回り込み、俺の肩を支えようとする。
結局、俺は桐生と相川に挟まれるような形で、強引に歩かされ始めた。
「待ち、やがれ……誰が、保健室に行くなんて……っ」
「黙って歩け。それとも、ここで俺に抱えられて移動したいか? 余計に目立つぞ」
「お前……っ!」
悔しい。腹が立つ。情けない。
頭の中はぐちゃぐちゃで、唇を血が出そうなほど強く噛む。
それでも、今の俺にはあいつらの拘束を解く力は残っていなかった。