脅威の侵略者編
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ヒロト(負けたのに、清々しい気分だ。これが、サッカーなんだね。)
ウルビダ「勝ちたかった。お父様のために。」
ヒロト「円堂くん、仲間ってすごいんだね。」
円堂「そうさ!ヒロトにもこのことが分かってくれて嬉しいよ。」
ヒロトくんが円堂くんと握手を交わす。グランを演じることはもうやめたら
しい。試合前とは異なる穏やかな顔のヒロトくんを見て安堵の息をついた。円
堂くんと話し終えたヒロトくんが私の方に向き直る。口を開きかけたそのとき、
先ほどまで上から試合の様子を窺っていた星二郎さんがやってきた。
星二郎「ヒロト・・・。お前たちを苦しめてすまなかった。瞳子、私はエイリア
石に取憑かれてしまっていた。お前の、いや、お前たちチームのおか
げでようやくそれが分かった。そう、ジェネシス計画そのものが間違
っていたのだ。」
ヒロト「父さん・・・。」
ウルビダ「・・・ふざけるなっ!これほど愛し、尽くしてきた私たちを、よりに
よってあなたが否定するなァッ!!!!」
ウルビダさんが近くにあったサッカーボールを星二郎さんにめがけて蹴る。
特殊な訓練を積んできたウルビダさんの蹴るボールはそれなりのパワーとスピ
ードがついている。しかし、星二郎さんは避けることをせず瞼をを伏せ、ウル
ビダさんの叫びを受けいれることにしたらしい。星二郎さんにボールが当たる、
その間一髪でヒロトくんが自身の身体をすべりこませた。
ウルビダ「何故だ、グラン・・・。なぜ、止めたんだ!ソイツは私たちの存在を
否定したんだぞ。ソイツを信じて戦ってきた、私たちの存在を!私た
ちは全てをかけて戦ってきた。ただ、強くなるために!それを・・・今
さら!『間違っていた』?!そんなことが許されるのか?許せる
のか、グラン!!」
ヒロト「たしかに、ウルビダの言うとおりかもしれない。お前の気持ちも分か
る。でも、それでもこの人は、・・・俺の大事な父さんなんだ!!」
ヒロト「もちろん。本当の父さんじゃないことは分かってる。『ヒロト』って名
前がずっと前にタヒんだ父さんの本当の息子だってことも。・・・それ
でも、かまわなかった。父さんが俺に本当の宙人の姿を重ね合わせる
だけでも。」
雨の日に会ったヒロトくんが言ってたのって・・・。
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ヒロト「完璧な『ヒロト』じゃないのに、ヒロトらしい?」
ヒロト「俺らしいって一体・・・」
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ヒロト「お日さま園で暮らしていて、父さんが来る日が楽しみで仕方なかった。
父さんの喜ぶ顔を見ているだけで嬉しくなった。たとえ、存在が否定
されようと、俺たちのことを必要としなくなったとしても、それで
も。父さんは俺にとってたった一人の父さんなんだ。」
星二郎「ヒロト・・・。こんな私のことをそこまで・・・。私は間違っていた。私には
もうお前たちに『父さん』と呼んでもらえる資格などもうない。さぁ、
撃て。私に向かってシュートを撃て、ウルビダ。こんなことで許して
もらおうなどとは思っていない。だが、少しでもお前の気が収まるの
なら。撃ちなさい、ウルビダ。」
星二郎さんがウルビダさんにボールを渡す。ウルビダさんの瞳が揺れる。そし
て、ウルビダさんは大きく振りかぶったけれど、その脚がボールを捕らえるこ
とはなかった。
ウルビダ「撃てない、撃てるわけない。だって、あなたは私にとっても大切な
『父さん』なんだ・・・!」
ウルビダさんに続いて”ジェネシス”の面々が泣き出す。みんな葛藤しながら
大好きな星二郎さんのために戦ってきたんだ。星二郎さんの行動に思うところ
があるけれど嫌いになるなんてできない。どうすればいいか分からなくなって
涙がこみ上げてきたようだった。”ジェネシス”だけじゃない、多くのお日さま
園の子どもたちが星二郎さんと家族という絆で結ばれている証拠だった。そこ
にはおそるべき敵の面影などみじんもなく、私たちと何も変わらない同年代の
子たちがいるだけだった。
星二郎「私は人として恥ずかしい。こんなにも私を想ってくれている子どもた
ちを、単なる復讐の道具にしようとしていたなんて。」
刑事さんに促され、星二郎さんが自身の過去を語り始めた。
瞳子監督には「宙人」という名の息子がいたらしい。サッカー選手になるこ
とが夢だったごく普通の男の子。ある日、事故に巻き込まれて海外の地で亡く
なってしまったそうだ。事故には政府要人が関わっていたらしく、調査もくわ
しく行なわれないまま、捜査は終了した。その喪失感から生きる気力さえも失
った星二郎さんにお日さま園の建設を勧めたのが瞳子監督だった。お日さま園
の子どもたちと交流するうちに心の傷が癒やされていったのは確かだが、5年
前に発見されたエイリア石の奇妙な光を見て、再び復讐心に取り込まれてしま
った、とのことだった。
星二郎「・・・すまない。私は本当に愚かだった。」
ヒロト「父さん・・・。」
星二郎「ヒロト、ありがとう。こんな不甲斐ない私のことを想ってくれて、庇
ってくれて。どうして私は復讐などと何も生まないことを。・・・宙人を
亡くしたことはたしかに悲しい。いっそのこと忘れられたらどんなに
ラクになれるだろうかとも考えたことがあります。でも、忘れてはい
けない。宙人が存在したという事実はなくならない。宙人にもらった
幸せな時間は私のなかに大切な想い出として確かに存在する。それを
私が否定しては宙人があまりにも・・・。ヒロト、あなたも同じです。
私の大切な家族です。ヒロトとの思い出は誰にも譲れない私の宝物な
のです。・・・あなたがあまりにも優しい声で私のことを呼んでくれる
から、それに甘えてきちんと言葉で伝えるのが遅くなってしまいまし
た。あなたの『宙翔』という名前はご両親がつけたものなのですよ。
・・・私のことを気遣って、あなたを『タツヤ』と名付け育ててはどう
かと提案してくれた者もいました。でも、そんなことできるわけがあ
りません。『宙翔』という名前はあなたが初めてご両親からもらった
宝物なのですから。あなたは血の繋がった家族のことは覚えていない、
と言いましたが、あなたが愛されていた証拠は、ご両親が名前として
残してくれていたのです。宙翔、あなたは宙人とは違います。あなたは
あなたのままでいいんです。わたしの大切な息子にかわりありません。」
ヒロト「・・・俺も『ヒロト』なの?俺が『宙翔』でも、父さんは俺のことを息
子と言ってくれるの?」
星二郎「ずっと前から、お前は、わたしの自慢の息子ですよ。」
ヒロト「・・・っ!そっかぁ。」
ヒロトくんの顔がパッと晴れる。瞳には涙が浮かんでいたけれど、それと同
時に清々しい笑みも浮かんでいた。長い間、イナズマキャラバンで旅をしてき
たがその目的も遂げ、ようやく事件が解決した。試合も頑張ったし、大手を振
ってスイーツ食べに行けちゃうね!一件落着、と思ったところで施設が大きな
音とともに揺れ、建物の決壊が始まった。何事?!とにかくここにいたままだ
と瓦礫の下敷きになることは明らかだ。刑事さんの指示に従い、みんながイナ
ズマキャラバンに乗り込んだ。しかし、みんなの走る方向とは別の方を向いた
人物が目に入る。星二郎さんは覚悟を決めたようにその場に鎮座した。もしか
して、責任を取ってここに残る気?
星二郎さんに気づいたヒロトくんが慌てて戻ってくる。
ヒロト「父さん、逃げるんだ。早く!」
星二郎「私のことはいい。私はここでエイリア石の最後を見届ける。それがお
前たちに向けてのせめてもの、償い。」
湊川「・・・そんなの、最後まで自分勝手すぎるよ!みんな星二郎さんのことが
好きで、あなたのそばに居たのに。この場に残って償いをするなんて自
己満足にしかならない。残された側の気持ち、あなたなら分かるでしょ。
時間が経つにつれ色あせていく記憶を忘れたくなくて、でも、思い出す
度に手の触れられるところにいないのが悲しくて、一生大切な人を引き
ずって生きていくんだッ。」
星二郎「残された気持ち・・・。」
こんな話をしている間にも容赦なく建物の決壊は進んでいく。細かな破片が
頬をかすめたが、痛さなんて気にならない。それよりも星二郎さんをこんなと
ころに置いていくわけにはいかない。星二郎さんはまだ生きている。生きてい
れば、なんとかなる。
湊川「たしかに星二郎さんのやってきたことは悪いことだよ、だったらそれよ
りも多くの善いことをすればいい。過去になってしまったらもう戻れな
い、変えられない。でも生きてさえいれば、いくらでも幸せな未来は作
れるんだよ。それには自分だけじゃなくってほかの誰かが必要で。みんな
もがきながら、誰かに支えられながら生きてる。お日さま園の子たちに
は間違いなく星二郎さんが、お父さんが必要なんだよ。」
ヒロト「アンリちゃん・・・。
・・・ねぇ、父さん、俺、この前テストでいい点とったんだ。帰ったら
ちゃんと見せるね。で、また『よく頑張ったね』って褒めてよ。それか
ら今度授業参観もあるし。理科の先生が面白いんだ。ね、父さん、行こう?」
星二郎「・・・。こんなひどいことをした私を、情けない私を、ヒロト、お前は許
してくれるのですか・・・?」
ヒロトくんは目に涙を溜めて静かにうなずいた。
星二郎さんはヒロトくんが差し出した手を取り立ち上がった。
湊川「一緒に帰ろうっ!」