脅威の侵略者編
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吹雪Side
あの子がチームメイトに投げかけた「サッカーが好きか」という質問。
一番言いたい言葉はカンタンな2文字のはずなのに僕にはすぐに答えられなかっ
た。そういえば以前にも似たような質問をされたけれどそのときも僕は答えられな
かったっけ。みんながんばって、特訓もして、必殺技の練習もしてレベルアップし
ているのに、僕はずっと止まったまんま。
サッカーは制限時間内にたくさん点数を取った方が勝つ。だからみんなが求める
のは相手のシュートをガンガン奪う攻撃型のストライカーだ。しかし、攻めるばか
りがサッカーではない。相手チームにだってストライカーが存在しゴールを奪いに
来る。そんなときに必要とされるのは、敵の前に立ちはだかる鉄壁のDFだ。
FWのアツヤとDFの僕。2人が揃ったら最強になれる。試合に勝つことができた
らみんなも喜んでくれる。そう、思っていたのに僕の隣からはアツヤはいなくなっ
てしまった。どうして僕だけが残ってしまったんだろう。勝つためには点をとるた
めにはアツヤの力が必要なのに。チームが勝てなくなったのは僕が力不足なせい?
僕はここにいてもいいの・・・?寂しくなってアツヤのよく身につけていたマフラー
を手に取ると、心なしかつい先ほどまで誰かが巻いていたんじゃないかと思う温も
りをマフラーから感じた。アツヤ・・・?そこにいるの?
マフラーを巻いてみるとそれがトリガーになってアツヤのようなプレイができる
ようになった。アツヤならきっとこう動く。アツヤなら僕とは違う視点で相手を追
い詰める。マフラーを巻いている間はアツヤを感じることができたし、僕がスコア
を稼ぐようになるとみんなも喜んでくれるからそれでいいと思っていた。
でも、アツヤはあの雪崩の事故の刻から留ったままで。困ったときにアツヤと僕
とで行なわれる秘密会議にだんだんアツヤは答えてくれなくなっていった。
ー今度学校で職業体験実習があるんだって、どこに行くのがいいかな。
え?サッカー選手なんてリストにあるわけないじゃない・・・アツヤ?
ーねぇ、今日女の子に呼び出されたんだ、アツヤならなんて答える?
・・・・・・。
ーねぇ、教えてよ。
僕は子どものときのアツヤしか知らない。子どものアツヤが答えられない質問に
当然答えなんて返ってくるはずがない。
ーねぇ、アツヤ・・・。エイリア学園っていって、サッカーを使って学校を
壊そうとしている人たちがいるんだって。それで雷門中の円堂くんたちが
今日白恋中に来たんだよ。
ーーしょうがねぇな、力を貸してやるか。
ーアツヤ!
ーーどうしたんだよ、マヌケ面しやがって。
ーなんだかアツヤが久しぶりな気がして・・・。
ーーあァ?そうだっけか?まぁとにかく、俺たちがいればエイリア学園なんて
イチコロだろ。俺たちがいれば完璧なんだから!
ーうん、そうだね!
ーアツヤ・・・。試合、勝てなかった。みんなあんなに傷ついて。僕がも
っとがんばれてたら・・・。
ーーゲームは点を多くとったチームが勝つんだ。俺がもっと点を取れてた
らよかったんだよ。次は俺がもっと試合に出る。
ーうん、みんなアツヤを望んでるよね。どれだけ点を取られてもシュート
を多く決めたチームが勝つんだし、僕よりもアツヤが頑張ったほうがいい
よね・・・。
僕は吹雪士郎なのに。アツヤでいる時間が多くなっていった。普通の学校生活を
過ごしている中ではちゃんと分別がついていたのに。
僕はアツヤより一つ年上のお兄ちゃんで、アツヤは一つ下の学年。家でも、
幼稚園に行くときも、いつも一緒で、チャイムが鳴ってちがう教室に入るとき
はアツヤがちょっとだけいじけてた。そのたびに僕がなだめて、帰ったら一緒
にサッカーをしようと約束のための小指を差し出すと、しょうがねぇなって言
いながらアツヤは目をキラキラさせて、指を絡ませた。
最近はイナズマキャラバンでサッカーをする時間が増えたから、士郎とアツヤの
境界がどんどん混ざってきている。・・・本当に僕は士郎なの?本当は僕がアツヤで、
士郎になる夢を見ているだけなんじゃ?イヤな考えは一度考えてしまうと忘れられ
なくて、目を閉じると悪夢が襲ってくるようになった。アツヤは僕にひどいことを
言わない。ぜんぶ僕の悪い夢だ。
寝不足で参っていたところに、サッカーでも完璧なプレイをできなかったことで、
”イプシロン”のデザームに失望したと言われて。ボールを蹴ることが怖くなった。
みんなの期待に応えられないことが申し訳なくて。アツヤに頼ってしまうのは自分
の弱さのせいなのに、自分が自分でいられなくなるのが怖くて。アツヤは僕に必要
なんだ。アツヤを追い出したくない、アツヤを嫌いになりたくない。
エイリア学園との最終決戦が目の前で繰り広げられている。さっき中庭で瞳子監
督とみんなの会話を聞いて僕もこのチームの一員でありたいと思った。でも僕は未
だにベンチで座って試合を見ていることしかできない。責任重大なこの一戦で立向
居くんはGKを任されたけれど、彼はその役目に対して逃げずにちゃんとボールの
前に立って向き合っている。残念ながら”ジェネシス”のワンサイドゲームになりつ
つあるが、立向居くんの目はまだ諦めていない、挑戦し続ける人のかっこいい瞳だ。
立向居くんを支えるために、ついに浦部さんや豪炎寺くんもDF陣のフォローに
回った。今はFWもDFもどちらも猫の手も借りたいほどなのに。どうして僕はここ
に座っているんだ。完璧になるためにキャプテンたちと戦うことを選んだのに。僕
は戦場にも立っていない。アフロディくんは自分を犠牲にしてまで戦った。染岡く
んも僕にFWを託してくれた。豪炎寺くんも強くなって帰って来た。僕がこのまま
ベンチにいていいワケがない。何もできないのか、あのときの事故と同じように。
完璧じゃないから僕は誰ひとり助けられない。完璧じゃないから・・・それどころか
一人前にもなれないから試合にでる覚悟もない。
でも、僕だって雷門の一員なんだ。
思わず立ち上がった際に豪炎寺くんと目が合った。その瞳は、まるで「来い。」
とでも言うようにまっすぐに僕を見つめていた。
完璧じゃない僕がフィールドに立っても・・・いいですか?